灰色の旅人

ふたあい

文字の大きさ
46 / 62

10ー1

しおりを挟む
「これと…いや、待って。こっちの方が…」
 ブツブツと呟きながら、ユルの手が空を切る。ただ空を切っただけなのに、その手にはなんとも形容し難い蔓草が。

 え?なにソレ、毒草?

 紫色と…沼色?の、マーブル模様な…多分薬草。
 再びその手が空を切る。今度は乳鉢と乳棒のセットが手の中に。それから反対の手で、机に散乱していた薬瓶を無造作に払い除けた。除けられたソレらは机から落ちることなく、端から消えてく。忽然と。存在そのものが失くなったかの如く。
 もちろん、失くなったわけではない。元あった保管場所へ戻されたのだ。これがユルの持つ技能、『整理整頓』である。
 家である自分の中に収納されている道具を、自在に出し入れ且つ整頓できる能力だ。

「こうなっちまうと、もう駄目だな」
 イーディスが呆れたように言う。
「そうですね」
 苦笑して返した。

 ユルが居間のテーブルを占拠して、『調合』を始めた。そして、ブツブツと独り言が聞こえ始めたら、もう周りの声は届かない。一段落するまでは、放っておくしかないのだがーー

 気をつけないと暴走するんだよな~。

 『調合』は、薬と魔法を掛け合わせる技能である。つまり、魔法技能と必ずセット。ちなみに、『魔法陣作成』や『結晶化』もこれと同じだ。
 ユルの凄いところは同時に『結晶化』の技能がある上に、持っている魔法属性の多いところ。普通は持っていても、一つか二つの属性であるらしい。地、水、火、風、光と、五属性も持っているなど、『大賢者』の適性があってもおかしくないのだそう。ここで『家事全般』という適性なのが、いかにも私の眷属らしいというか、なんというかだ。
 そんな出来の良いウチのゆるキャラは、疑ってはいたが、やはりマッド気質だった。
 前に呟いた「性別転換薬」に始まり、「三日間馬車馬のように働ける滋養強壮剤(後瀕死)」、「蛙やら蛞蝓になる薬」など、思いつく代物がどこかおかしい。そして本気で作ろうとする、というか、本人曰く作成可能というのが恐ろしい。今日は普通にポーションーー所謂治癒薬を作っているから、まあ止めないが。

「あの草、なんです?毒々しい。あれでポーションができるんですか?」
「俺に訊くな。門外なところに、三百年前の知識しかねえ」
「あー、さすがに、聖剣の前で調合談義する人なんていませんでしたか」
「まあな」

 イーディスは三百年、聖剣としてファシオの広場に突き刺さっていた。その間、人の集まるあの場所で、聖剣サマは様々な情報を耳にしていた。それこそ人目を忍ぶ、クレマチス商会の要人の話も。魔王を討ったとされる聖剣サマの御前には、魔族をお嫌いな人たちが集まって来ていたようで。
 でもさすがに、薬師は集まらなかったようだ。そりゃそうか。

 なんとも複雑な顔をして、私とイーディスはユルを見ていた。

 ゆるキャラは、もうずっと張り切っている。魔女の占い代を稼ぐため、そして占い結果を聞いた今は、助言通り「備える」ために。
 ベルクラの町に出回っている高品質の魔結晶は、ユルが作成したものだ。大変良い価格で売れている。お陰で魔女への支払いも滞りなく行えた。今度はなにがあっても大丈夫なよう、高品質のポーション作りに挑んでいる。

「さて、どうするよ?主サマ」
 しばらくユルを無言で見つめていたが、イーディスがこちらを向いた。ケイウォーク商店で会った、魔女との一切は話した。これから対策を練らないとならない。
「どうと言われても…困ったな」
「ベルクラで事が起これば、被害はホルルカの比じゃねえぞ。なにせ人の数が違う」
「その分、常駐している傭兵や騎士の数も違いますが…推定千ほどでしたっけ?ホルルカに出た魔物の数は」
「ああ。それも蟻種ばかり」
「蟻って…実はかなり高難易度の討伐に部類されますよね?」
「そうだ。ホルルカでも、討伐で命を落とした輩がいる。…それがリズでは蜂だった」
「しかも、十匹程度しか出なかったんですよね?」
「ああ」
 この違いはなんだろう?ホルルカは千匹の蟻。リズでは十匹の蜂。
「……ホルルカとリズ、犯人は別々とは思えないけど…」
「それに亀のこともある。情報が圧倒的に不足している」
「本当に困りましたね。やっぱり、エイデンさんに協力を頼むしかーー」
「できれば役人には、関わりたくないがな」
「そうですね…」

 私たちに後ろ暗いところはない。断じて。だけど。だけどなのだ。

 どうやらホルルカの魔物発生に一枚噛んでそうなフランチェスカと、消えたとされる聖剣イーディス。人には言えない秘密が多すぎる。
「…眼鏡は他になにか言ってなかったのか?」
 あ、眼鏡って、キルギスさんのことね。せめて魔女と言ってあげたら?
「それが、どうにも。自分にも関係してくるとかで、はっきり分からないって…」
 結局、あれ以上の話は聞けなかった。なにか言いたそうな顔はしていたのだけど。
「チッ。当てが外れたか。そういえば眼鏡の母親がいた、つってたな?」
「ああ、はい。私、魔族は初めて見たのでびっくりでしたよ。まさかあんな可愛らしいーー」
「可愛い?」
「そう!なんかすごく可愛い人だったんですよ!白からパステルブルーのグラデーションの髪が波打つ、小柄な女の子にしか見えないんです。そのくせ足癖が悪くってーー」
「足癖が、悪い?」
 ん?イーディス?
「はい。飛び蹴り、踵落としと。私がいた短い時間でそれだけ見たのだから、普段からあの調子だとーー」
「…お前、眼鏡の顔見たか?」
「タレ目、睫毛バサバサ、泣きぼくろ。妖艶そのもの」
「…名前は?」
「キルギスさん。名前、言いませんでした?」
「わりい。訊いたのは母親のほうだ」
「ああ、そっちは言ってませんね。確か…ローレッタさんです」
「ローレッタ…」
 なんだ?イーディスがなにやら思案げにーー

 ドンドンドンッ。

 前よりも広い、リビング付きの借り部屋の扉が突如叩かれた。人が訪ねて来たのは初めてだ。ピンポン欲しいな。うるさいわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...