灰色の旅人

ふたあい

文字の大きさ
55 / 62

12ー2

しおりを挟む
「ティルミットは、職人の町でなーー」
「ちるみっと…?」
「ティルミット、だ」
 クスリと笑い、訂正してくる。分かっていても舌がまわらない、それを承知しているくせに。要は、面白がっているのだ。

 初めて枕を並べた夜のことだった。
 
 イーディスは、唐突にそんな話を始めた。前日の夜に『擬人化』を解き、姿を剣に戻して寝たところ、やれ《テメエだけぬくぬくと》やら、《添い寝させやがれ、ついでに触らせろ》などと、まあ文句を言うわ言うわ。エロ聖剣の声が頭に直接響くのだから、たまったものではない。仕方なくその日から私が『庇護』で縮んで、一つしかないベッドで共に寝ることにしたのだがーー

 いきなりなんの抵抗もなく、ぐーすか眠れるはずもなく。

 いくら幼児化しているとはいえ、美人すぎる男との同衾。緊張するなと言うのが、無理な話。眠れなくて何度も寝返りをうっている、そんな時だった。
「それはせいけんとして、いーですがうまれたまちですか?」
 うつ伏せになり、枕に肘をつきながら問いかけた。
「そうだ。当時の王がクソババアの神託を受けていてな。鬱陶しいことにお偉い共が、そこで聖剣である俺の誕生を待ち構えていた」
 横になったままこちらを向き、答えるイーディス。灯りは落としていたが、目はすでに暗さに慣れた状態だ。顔が近くてドキドキしているのを、必死で悟られないよう話を続けた。
「しんたく?しろいかみが?」
「ああーー加護を与える。ティルミットで新たに生み出された剣は、魔王を討つ勇者を選ぶだろうーーってな内容だ」
「うげ」
「ってなことで、俺が目覚めた時にはそれはもう大勢の勇者候補が列をなしていてな。ウンザリした」
「…それで?」
「誰か一人を勇者として選ばなければ、延々人が押し寄せる。ったく、やってらんねえっての」
「だから、ふあしおさんをえらんだ?」
「ファシオ、な。来た中で一番やる気のない奴を選んでやった。ヒヒヒ」
 あー、また顔に合わない下品な笑い方して。だけどなんでかな?似合わないのに、らしく思えるのって。
「ふあしおさんって、どんなひとでした?」
「一言で言うなら『お人好し』だな。腕の立つ傭兵で、期待されて仕方なく列に並んでいた」
「れつにならんで…」
 なんだか、白い神に釣られたあの世でのことを思い出す。
「鞘から俺を抜いた者が勇者なわけだが、誰にも俺は抜かせなかった。ファシオの野郎は抜けないとなると、他の奴らと違い再チャレンジする気もなく、嬉々として帰ろうとした。だから俺は跳んで行ってやった、アイツの元へ」
「とんで?」
「いざという時、聖剣は主と定めた勇者の元へ跳ぶことができる。どんなに離れていてもだ。お前も俺からは逃げられん。そこは諦めろよ、主サマ?」
「…にげるきは、ないです。むしろ、わたしがきせいしてる?」
「……違いねえ」
 その時。それはもう、眩いばかりにイーディスは笑った。「灯り落としてあったよね!?」と、思うくらいに。その後、直視できなくて眠くなった振りをしたのは内緒である。
 それからだ。眠る前の時間にいろいろと、この世界について話をしてもらうようになったのは。
 勇者ファシオについても、いくらか聞いた。魔王が実は、討たれてなどいないという事実を知った後ではあったけど。
 傭兵なんてしていたが、争いごとを好まない穏やかな人であったとか。魔族に対しても特に偏見などなかったらしく、そんなだから魔王討伐の旅に出て、逆に親しくなってしまったとか。
「クソババアが。ザマアみやがれ」
 イーディスはこの話をしてくれた時、そう言って破顔した。

 そうだ。イーディスはそういう人なのだ。魔族を滅ぼす気なんて更々ない。わざと勇者を希望していなかったファシオさんを選ぶような、そんなーー

 聖剣イーディスが選ぶ勇者は、争いは望まない。故に魔族は滅ぼさない。それが勇者と聖剣の真実。
 だけど、魔族を滅ぼすための存在として生み出されたこともまた、事実であって。だからーー



「俺たちは魔族との戦争も辞さない。アンタの協力者なんだよ」
 目の前の男は当然のように、こんなことを言うのだ。

 連れ去られ閉じ込められた、貴族の屋敷の一室。足元で倒れているお姉さんーーアマリアの薬師としての仕事部屋。そこに突然現れた、ラズロというこの男。そうであると決めつけて、「勇者は魔族を滅ぼす者」だと口にした。

 違うのに。
 
「…そのために、人里に魔物を発生させたの?」
「大事の前の小事ってやつだ。ヌルいんだよ、今の王侯貴族は。犠牲が出なけりゃ動かねえ」

 人と魔族を争わせるため。そんな理由で人が死んでいいはずがない。

「それは、クレマチス商会の差し金?」
「そうだ…だが、待てよ。勇者が新たに現れた、ということは…まさか魔王も?」

 魔王は元より討たれていない。この三百年間、ずっと存在していた。

「魔王と私の存在は関係ありません」
「そうなのか?なら、なぜこのタイミングで勇者がーー」

 知るか。神にでも訊け。

 ギリギリと歯ぎしりが止まらない。巫山戯るなっての。こんな理由で、ガラさんは家族を失くしたというのか?争いを生みたくない、イーディスの意思は無視されるのか?

 絶対にこの男、叩きのめしてやる。だけどその前にーー

 勝手に私たちが味方だと勘違いをしている内に、話を聞いておきたい。今後のためにも、クレマチス商会の実態を知っておきたい。
「商会はどこまでのことを、考えているんですか?国を巻き込んで、本当に魔族と戦争を?」
「さあな。俺は空間魔法を買われた、しがない傭兵だからな。詳しくは知らねえよ」
「え?貴方は商会の者ではない?」
「ああ。まあ、技術者としてスカウトされはしたがな。性に合わねえから、それは断った。だが、やろうとしていることは気に入った。だから依頼は受けてやったんだ。まさかそれで、勇者とご対面できるとはな」
 向けられる下卑た笑いが、ものすごく不快だ。だけどそうか。納得した。この男は、フランチェスカを知らないようだったから。
 視線を落とす。アマリアという、狂気の薬師が伏している。ラズロは彼女の協力者として雇われ、彼女としか接触していない。
 そしてフランチェスカもまたーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...