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移住できなかったアマリアに代わり、ホルルカ島へ移り住んだ。そして『調合』に必要な材料を調達していた。
それがフランチェスカの役割。
クレマチス商会は、亀のメグたんを北大陸に投下するというアマリアの計画を後押しした。そのためにフランチェスカを派遣した。
そのうちに気付いたのだろう。
アマリアの作る薬を使えば、魔族との間に、再び争いを起こすことができるかもしれない、と。
そしてラズロが雇われた。
ここまでの話で、おおよその流れを推測する。ホルルカに来る以前のフランチェスカがどうであったか、それは分からない。分からないが、行き場を失くした彼女は商会に拾われ、利用された挙げ句に命を落とした。それは確かだ。
やっぱりクレマチス商会は、このまま放ってはおけない。
「それで?貴方が島とリズの町に、魔物を持ち込んだんですか?」
再びラズロに問いかける。
「ああ、そうだ。そこに壺があるだろう?その中に虫が巣ごと入ってる。魔素を抜く薬を垂らして現地に運び、あとは割るだけだってんだから、易い仕事だ。けどよ…」
部屋に置かれた壺だか瓶だかを、顎をしゃくって指し示すラズロ。予想通りの話である。
「けど?」
「そこのアマリア…」
ラズロの視線を追って足元を見る。アマリアさんが目覚める気配はない。
「彼女になにか問題が?」
「いや、問題しかねえだろ。薬師としては優秀だけどよ、それ以外はイカれてやがる。適当な調合薬で適当に動きを封じて適当に巣を採取しやがるから、壺の中で生じた魔物の状態が滅茶苦茶だ」
「滅茶苦茶?」
「魔物に転じる以前に、大半が死滅してたりした。博打と同じだぜ。開けてみるまで分からないってな。お陰でリズでは最小限の被害だ。話にならねえ」
ホルルカとリズ、魔物発生の規模にバラつきがあったのはそのためか。酷い話だが、助かったとも言える。
「それでリズには、召喚陣が残されていなかったんですか?」
「お、分かってんねえ、勇者様。そうさ。俺の仕事はそっちがメインだ。あの召喚陣はかなり面倒でな。魔力をごっそり持っていかれて、しばらく魔法が使えなくなる。だからリズではやめて、次だーーと、思ったんだけどよ…」
反応のいい私に笑顔を向けたのも束の間、ラズロが渋い顔でアマリアを再びチラ見した。なに?まだなにかあるの?
「アマリアの奴、パタリと必要な『調合』を止めて、別の薬作りに没頭し始めやがった」
頭を掻きつつ、ぶつくさと零されたラズロの言葉を反芻する。別の薬…。
ん?それって、まさか私のせいか?
「まあ、ソイツのイカれ具合の原因は子供だからな。同情しなくもないけどよ…」
続く言葉に確信を得る。問わずにいられない。
「彼女が洗脳薬を作って、余所の子を自分の子供にしようとしたことは知ってます。なにが彼女にあったんですか?」
「さあな。俺も詳しくは知らねえ。けど、腹の中にいた子供が魔物と遭遇したことで死んじまって、おかしくなったってのは商会で聞いてる。あと、もう産めないってよ。それは本人の言だ」
「……」
「で、アンタの言う通り洗脳の薬を作り始めて、商会の仕事をしなくなった。参ったぜ。商会にはせっつかれるしよ。やっと今日、重い腰を上げやがったんだぜ?」
ラズロの後半の声は遠く感じた。
アマリアーーお姉さんのあの優しさは、偽物ではなかった。ほんの少し、救われた気がした。同時にやるせなくもなったが。
「…なあ、勇者様よ。亀を狩ったのアンタだろ?」
唐突な問に、我に返る。そして、嫌な事実に気付いてしまった。コイツは「壺云々」とケチをつけながらこの部屋に入ってきた。つまり、壺の中身が気に入らなかったわけで、それは壺を割ったことを意味するーーって、どこで割った?
決まってる!ベルクラで、だ。拙い。さっさと聞くべきことを聞いてしまわねば。
「……そうだとしたら?」
「困るんだよな。せっかく、効果的な場所に召喚陣を残したってのに」
「効果的?」
「討伐部隊に散々な被害が出た直後の方が、上も動こうって気になるだろ?」
「ーーっ!そこまで考えて…」
後にやって来る討伐部隊にまで、あの亀を使って多大な被害を及ぼそうとしていたのか。
「あの亀、良いよなあ。俺的にはアマリアの計画の方を押したかったくらいだぜ。それを商会が横やり入れやがってよ。もう一人いたっていう薬師も、邪魔しようとしたってんじゃねえか。まったく、上手くいかねえもんだ」
ピクリと肩が跳ねたのが、自分で分かった。
この男、フランチェスカの存在も認識していた。おそらくーー亀を討とうとして死んだことも。まるで心を痛めていない様に、憎悪に近い感情が湧き上がる。
「何故…そこまでのことを…する必要が?」
声が若干震えている。怒りのため。
「必要ならあるだろ?勇者がなにを言ってる?魔族は敵だ。国をあげて討つ必要がある」
魔族は敵ーーそもそも、そこが間違っている。盲目的にそれを信じて非道な真似をする。この男が、一番狂っている。
「こんなやり方、間違ってます」
「おいおい、まさか?アンタの使命を手助けしてやってるってのに、邪魔しようってのか?」
「お互い行き違いがあると言ってましたが、そんなものありません。私は貴方たちを否定する!」
「おい…」
ラズロがこちらに手を伸ばした。
《コイツに触るな》
「ーーっ!?」
なんの前触れもなく響いたイーディスの声に、ラズロの動きが止まる。主である私以外とも会話が可能なのは、ローレッタさんが証明していた。初めて目の当たりにしたが、驚きはしない。
「イーディス…」
聖剣の名を呟いた。
「なっ!?聖剣の声…なのか?」
ラズロの方は驚愕の顔。まあ、そうだな。
《クソが。テメエはここで終わりだ。おい、フラー!分かってんな?》
分かってますよ。全力で目の前の男を叩き潰す!そのためにまずはーー
『性別反転』。
それがフランチェスカの役割。
クレマチス商会は、亀のメグたんを北大陸に投下するというアマリアの計画を後押しした。そのためにフランチェスカを派遣した。
そのうちに気付いたのだろう。
アマリアの作る薬を使えば、魔族との間に、再び争いを起こすことができるかもしれない、と。
そしてラズロが雇われた。
ここまでの話で、おおよその流れを推測する。ホルルカに来る以前のフランチェスカがどうであったか、それは分からない。分からないが、行き場を失くした彼女は商会に拾われ、利用された挙げ句に命を落とした。それは確かだ。
やっぱりクレマチス商会は、このまま放ってはおけない。
「それで?貴方が島とリズの町に、魔物を持ち込んだんですか?」
再びラズロに問いかける。
「ああ、そうだ。そこに壺があるだろう?その中に虫が巣ごと入ってる。魔素を抜く薬を垂らして現地に運び、あとは割るだけだってんだから、易い仕事だ。けどよ…」
部屋に置かれた壺だか瓶だかを、顎をしゃくって指し示すラズロ。予想通りの話である。
「けど?」
「そこのアマリア…」
ラズロの視線を追って足元を見る。アマリアさんが目覚める気配はない。
「彼女になにか問題が?」
「いや、問題しかねえだろ。薬師としては優秀だけどよ、それ以外はイカれてやがる。適当な調合薬で適当に動きを封じて適当に巣を採取しやがるから、壺の中で生じた魔物の状態が滅茶苦茶だ」
「滅茶苦茶?」
「魔物に転じる以前に、大半が死滅してたりした。博打と同じだぜ。開けてみるまで分からないってな。お陰でリズでは最小限の被害だ。話にならねえ」
ホルルカとリズ、魔物発生の規模にバラつきがあったのはそのためか。酷い話だが、助かったとも言える。
「それでリズには、召喚陣が残されていなかったんですか?」
「お、分かってんねえ、勇者様。そうさ。俺の仕事はそっちがメインだ。あの召喚陣はかなり面倒でな。魔力をごっそり持っていかれて、しばらく魔法が使えなくなる。だからリズではやめて、次だーーと、思ったんだけどよ…」
反応のいい私に笑顔を向けたのも束の間、ラズロが渋い顔でアマリアを再びチラ見した。なに?まだなにかあるの?
「アマリアの奴、パタリと必要な『調合』を止めて、別の薬作りに没頭し始めやがった」
頭を掻きつつ、ぶつくさと零されたラズロの言葉を反芻する。別の薬…。
ん?それって、まさか私のせいか?
「まあ、ソイツのイカれ具合の原因は子供だからな。同情しなくもないけどよ…」
続く言葉に確信を得る。問わずにいられない。
「彼女が洗脳薬を作って、余所の子を自分の子供にしようとしたことは知ってます。なにが彼女にあったんですか?」
「さあな。俺も詳しくは知らねえ。けど、腹の中にいた子供が魔物と遭遇したことで死んじまって、おかしくなったってのは商会で聞いてる。あと、もう産めないってよ。それは本人の言だ」
「……」
「で、アンタの言う通り洗脳の薬を作り始めて、商会の仕事をしなくなった。参ったぜ。商会にはせっつかれるしよ。やっと今日、重い腰を上げやがったんだぜ?」
ラズロの後半の声は遠く感じた。
アマリアーーお姉さんのあの優しさは、偽物ではなかった。ほんの少し、救われた気がした。同時にやるせなくもなったが。
「…なあ、勇者様よ。亀を狩ったのアンタだろ?」
唐突な問に、我に返る。そして、嫌な事実に気付いてしまった。コイツは「壺云々」とケチをつけながらこの部屋に入ってきた。つまり、壺の中身が気に入らなかったわけで、それは壺を割ったことを意味するーーって、どこで割った?
決まってる!ベルクラで、だ。拙い。さっさと聞くべきことを聞いてしまわねば。
「……そうだとしたら?」
「困るんだよな。せっかく、効果的な場所に召喚陣を残したってのに」
「効果的?」
「討伐部隊に散々な被害が出た直後の方が、上も動こうって気になるだろ?」
「ーーっ!そこまで考えて…」
後にやって来る討伐部隊にまで、あの亀を使って多大な被害を及ぼそうとしていたのか。
「あの亀、良いよなあ。俺的にはアマリアの計画の方を押したかったくらいだぜ。それを商会が横やり入れやがってよ。もう一人いたっていう薬師も、邪魔しようとしたってんじゃねえか。まったく、上手くいかねえもんだ」
ピクリと肩が跳ねたのが、自分で分かった。
この男、フランチェスカの存在も認識していた。おそらくーー亀を討とうとして死んだことも。まるで心を痛めていない様に、憎悪に近い感情が湧き上がる。
「何故…そこまでのことを…する必要が?」
声が若干震えている。怒りのため。
「必要ならあるだろ?勇者がなにを言ってる?魔族は敵だ。国をあげて討つ必要がある」
魔族は敵ーーそもそも、そこが間違っている。盲目的にそれを信じて非道な真似をする。この男が、一番狂っている。
「こんなやり方、間違ってます」
「おいおい、まさか?アンタの使命を手助けしてやってるってのに、邪魔しようってのか?」
「お互い行き違いがあると言ってましたが、そんなものありません。私は貴方たちを否定する!」
「おい…」
ラズロがこちらに手を伸ばした。
《コイツに触るな》
「ーーっ!?」
なんの前触れもなく響いたイーディスの声に、ラズロの動きが止まる。主である私以外とも会話が可能なのは、ローレッタさんが証明していた。初めて目の当たりにしたが、驚きはしない。
「イーディス…」
聖剣の名を呟いた。
「なっ!?聖剣の声…なのか?」
ラズロの方は驚愕の顔。まあ、そうだな。
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