57 / 62
12ー4
しおりを挟む
『庇護』にしろ『性別反転』にしろ。着ている物は、そのまま姿に合わせて伸び縮みする。ここしばらく、スカート姿をやめておいたのは正解だった。
いくら爽やか王子でも、それはいただけない。ましてやローレッタさんが『ラチェ』にとくれた、彼女のお下がりのゴスロリなどもってのほかーー
「ありえねえっ。ありえねえっ!」
ラズロが喚きながら、短剣を繰り出してくる。
「いや、これが現実」
軽くあしらいながら、しれっと返した。
「いいやっ!ありえねえっ!どストライクの女だと思ってたのによっ。男だと!?」
…そんなことを思っていたのか。不審者として、すぐに殺そうとしたくせに。
女の身としては非常に悔しい話なのだが、『性別反転』して男となった方が実力が数段上がる。だから私はこの男を叩くにあたり、『フランチェスカ』ではなく『フランツ』の姿をとった。なんかすっごく、不評を買ってるけれど。そんなモン、知ったこっちゃない。
「テメエはゼッテーぶっ殺す!」
「…」
殺気を放ち、おそらく渾身の力で向けられたであろう攻撃を、なんなく止めてやった。もう力負けすることもない。それにしても…
男に姿を変えたからといって、本当に男であるとは限らないだろうに。
やはり勇者イコール、男のイメージなのだろう。まあいいけど。
「くそっ、なんなんだよ、お前は!」
ラズロが私の反撃を受けて、距離を取る。さすっているところをみると、腕に痺れがきたようだ。
「なにって?勇者。分かっていて何故訊く?」
鼻で笑ってやる。実力はこっちが上。但し、魔法がなければ。
「イヤミかよ」
ラズロが視界から消えた。
《右後ろ》
響く声の通りに瞬時に振り向き、刀を構える。同時にキィンと刃を弾く音。
「くっ!」
歯噛みする声とともに、滑りながら後退る姿をラズロが晒した。
「空間を跳んでも無駄ですよ。イーディスには魔力の流れが見えている」
「うるせえっ」
ラズロが顔を歪めるが、同様に私の方も顔が険しくなった。
ああ、腹立たしい。本来なら、イーディスがこんな奴に傷を負わされることなどないはずなのに。
イーディスは私の危機を感じて、あの瞬間遮るようにラズロとの間に立った。私の落ち度だ。私は私に腹が立って、仕様がない。
だというのにーー
「お前が勇者だってんなら、何故俺たちの邪魔をする!?」
右に左に。瞬間移動して短剣が襲う。
「容認できるわけないだろう!どれだけの人がそのために、命を落としたと思っている!?」
既で攻撃をすべて受け止めた。
「必要な犠牲だ」
「必要な犠牲なんてない!」
「あるね!魔族がいる限り、魔物は消えねえ。放っておいても人は死ぬ。だったらそれを利用して、なにが悪い」
「そもそもそれが!」
「ーーっ!」
受けた攻撃の反動を利用して、そのまま刀を返す。ラズロの手から、短剣が飛んだ。
「間違っている。魔物が生まれる原因は、魔族だけではなく人にもある」
「なんだと?」
「自分だって魔法を使うくせに、そんなことも分からないのか?」
切っ先を向かい合う男の鼻先に向けた。
「テメエ…勇者のくせに、魔族の肩を持とうってのか?」
「勇者は…聖剣イーディスは、誰の味方でもない。ただ、自分の正しいと思うことを成すだけだ。そして私たちは、お前の行いを認めない!」
背中を汗が伝うのが分かる。この男は見過ごせない。叩かなければならない。分かっているのに、これほどまでに怒っているというのにーー私は躊躇っている。
いや、本当は分かっている。私に人は斬れない。
「くそっ!仕方ねえ」
悪態をついたラズロの足元に魔法陣が光った。逡巡は僅かの間。だけどその僅かで転移魔法を完成させたらしい。
《クソが逃げんぞ!》
「え?いや、待て!それは駄目ーー」
焦るイーディスと私。
「アッタマにくるが、プライドなんて持ち合わせてないんでな!逃げさせてもらう」
勝ち誇った笑顔を、ラズロがこちらに向けた。
「ーー待て!」
咄嗟に叫ぶ。
「あばよ!」
ありきたりな捨て台詞。そしてーー
魔法陣が消えた。
「……」
「……」
ラズロはそのまま、そこにいた。目を剥いて無言。
私の方も絶句した。あれ?失敗してくれた?
《…魔法が打ち消された?》
イーディスの声。打ち消された?
「なっ?おいっ?どうなってんだ!?魔法が使えねえっ」
ラズロが足を踏み鳴らす。どうやら再度試みるも、失敗したらしい。
そこでなにが起こったのか、思い当たった。
『技能拒絶』だ。
適性『努力次第』に付随する技能は、どれも汎用性が高い。私自身の持つ『魅了』を拒絶しただけでなく、ラズロの『空間魔法』も拒絶したようだ。
「逃しません」
言い放ち、最初から発動しろよと、心中で舌打ちしながら刀を構える。だけど、どうする?斬り捨てることができない。意識を奪うだけというのは、この男相手には厳しいがーー
《問題ねえ。斬れ》
響く。いつだって気弱になると、私を支えてくれる声が。
「イーディス…」
《忘れんな。斬れ味はお前の気持ちひとつだ》
「そう…か」
《俺に任せろ》
「…分かった!」
前へ踏み込んだ。狼狽えながらも、ラズロが構えの姿勢を見せる。さすが傭兵、得物は一つではなかったか。クナイのような小型の刃物を手にしている。だけどーー
そんなもの関係なく、刀を振り払った。
「ぐ、あ…」
確かな手応えを感じた後、ラズロが呻いて倒れる。息をつく間もなく、屈んで確かめた。
「…血も出て、ない。生きてる」
《当然だろ。斬ったのはこのクソの気概だけだ。ま、当分目覚めないだろうから、然るべき所に突き出してやれ》
「そうですか。ふう」
ようやく息をつき、『性別反転』を解く。フランチェスカに戻った。どうにもフランツの姿は落ち着かないのだ。
「妙に手応えがあったものだから、少し怖かったです。いや、信用してるけどね?」
《……》
「イーディス?」
なんの音もなかった。いや。耳が拒絶していただけで、実際にはピキピキと音を立てていたのかもしれないが。
イーディスが返事をしてくれないのを訝り、刀を掲げてみる。それからもう一度呼びかけようとしてーー
手にした刀に、亀裂が入った。
12 勇者と聖剣
いくら爽やか王子でも、それはいただけない。ましてやローレッタさんが『ラチェ』にとくれた、彼女のお下がりのゴスロリなどもってのほかーー
「ありえねえっ。ありえねえっ!」
ラズロが喚きながら、短剣を繰り出してくる。
「いや、これが現実」
軽くあしらいながら、しれっと返した。
「いいやっ!ありえねえっ!どストライクの女だと思ってたのによっ。男だと!?」
…そんなことを思っていたのか。不審者として、すぐに殺そうとしたくせに。
女の身としては非常に悔しい話なのだが、『性別反転』して男となった方が実力が数段上がる。だから私はこの男を叩くにあたり、『フランチェスカ』ではなく『フランツ』の姿をとった。なんかすっごく、不評を買ってるけれど。そんなモン、知ったこっちゃない。
「テメエはゼッテーぶっ殺す!」
「…」
殺気を放ち、おそらく渾身の力で向けられたであろう攻撃を、なんなく止めてやった。もう力負けすることもない。それにしても…
男に姿を変えたからといって、本当に男であるとは限らないだろうに。
やはり勇者イコール、男のイメージなのだろう。まあいいけど。
「くそっ、なんなんだよ、お前は!」
ラズロが私の反撃を受けて、距離を取る。さすっているところをみると、腕に痺れがきたようだ。
「なにって?勇者。分かっていて何故訊く?」
鼻で笑ってやる。実力はこっちが上。但し、魔法がなければ。
「イヤミかよ」
ラズロが視界から消えた。
《右後ろ》
響く声の通りに瞬時に振り向き、刀を構える。同時にキィンと刃を弾く音。
「くっ!」
歯噛みする声とともに、滑りながら後退る姿をラズロが晒した。
「空間を跳んでも無駄ですよ。イーディスには魔力の流れが見えている」
「うるせえっ」
ラズロが顔を歪めるが、同様に私の方も顔が険しくなった。
ああ、腹立たしい。本来なら、イーディスがこんな奴に傷を負わされることなどないはずなのに。
イーディスは私の危機を感じて、あの瞬間遮るようにラズロとの間に立った。私の落ち度だ。私は私に腹が立って、仕様がない。
だというのにーー
「お前が勇者だってんなら、何故俺たちの邪魔をする!?」
右に左に。瞬間移動して短剣が襲う。
「容認できるわけないだろう!どれだけの人がそのために、命を落としたと思っている!?」
既で攻撃をすべて受け止めた。
「必要な犠牲だ」
「必要な犠牲なんてない!」
「あるね!魔族がいる限り、魔物は消えねえ。放っておいても人は死ぬ。だったらそれを利用して、なにが悪い」
「そもそもそれが!」
「ーーっ!」
受けた攻撃の反動を利用して、そのまま刀を返す。ラズロの手から、短剣が飛んだ。
「間違っている。魔物が生まれる原因は、魔族だけではなく人にもある」
「なんだと?」
「自分だって魔法を使うくせに、そんなことも分からないのか?」
切っ先を向かい合う男の鼻先に向けた。
「テメエ…勇者のくせに、魔族の肩を持とうってのか?」
「勇者は…聖剣イーディスは、誰の味方でもない。ただ、自分の正しいと思うことを成すだけだ。そして私たちは、お前の行いを認めない!」
背中を汗が伝うのが分かる。この男は見過ごせない。叩かなければならない。分かっているのに、これほどまでに怒っているというのにーー私は躊躇っている。
いや、本当は分かっている。私に人は斬れない。
「くそっ!仕方ねえ」
悪態をついたラズロの足元に魔法陣が光った。逡巡は僅かの間。だけどその僅かで転移魔法を完成させたらしい。
《クソが逃げんぞ!》
「え?いや、待て!それは駄目ーー」
焦るイーディスと私。
「アッタマにくるが、プライドなんて持ち合わせてないんでな!逃げさせてもらう」
勝ち誇った笑顔を、ラズロがこちらに向けた。
「ーー待て!」
咄嗟に叫ぶ。
「あばよ!」
ありきたりな捨て台詞。そしてーー
魔法陣が消えた。
「……」
「……」
ラズロはそのまま、そこにいた。目を剥いて無言。
私の方も絶句した。あれ?失敗してくれた?
《…魔法が打ち消された?》
イーディスの声。打ち消された?
「なっ?おいっ?どうなってんだ!?魔法が使えねえっ」
ラズロが足を踏み鳴らす。どうやら再度試みるも、失敗したらしい。
そこでなにが起こったのか、思い当たった。
『技能拒絶』だ。
適性『努力次第』に付随する技能は、どれも汎用性が高い。私自身の持つ『魅了』を拒絶しただけでなく、ラズロの『空間魔法』も拒絶したようだ。
「逃しません」
言い放ち、最初から発動しろよと、心中で舌打ちしながら刀を構える。だけど、どうする?斬り捨てることができない。意識を奪うだけというのは、この男相手には厳しいがーー
《問題ねえ。斬れ》
響く。いつだって気弱になると、私を支えてくれる声が。
「イーディス…」
《忘れんな。斬れ味はお前の気持ちひとつだ》
「そう…か」
《俺に任せろ》
「…分かった!」
前へ踏み込んだ。狼狽えながらも、ラズロが構えの姿勢を見せる。さすが傭兵、得物は一つではなかったか。クナイのような小型の刃物を手にしている。だけどーー
そんなもの関係なく、刀を振り払った。
「ぐ、あ…」
確かな手応えを感じた後、ラズロが呻いて倒れる。息をつく間もなく、屈んで確かめた。
「…血も出て、ない。生きてる」
《当然だろ。斬ったのはこのクソの気概だけだ。ま、当分目覚めないだろうから、然るべき所に突き出してやれ》
「そうですか。ふう」
ようやく息をつき、『性別反転』を解く。フランチェスカに戻った。どうにもフランツの姿は落ち着かないのだ。
「妙に手応えがあったものだから、少し怖かったです。いや、信用してるけどね?」
《……》
「イーディス?」
なんの音もなかった。いや。耳が拒絶していただけで、実際にはピキピキと音を立てていたのかもしれないが。
イーディスが返事をしてくれないのを訝り、刀を掲げてみる。それからもう一度呼びかけようとしてーー
手にした刀に、亀裂が入った。
12 勇者と聖剣
0
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる