灰色の旅人

ふたあい

文字の大きさ
58 / 62

13ー1

しおりを挟む
「イー…ディ…ス?」
《……》
「イーディスッ!?イーディスッ!!」
《…ラ》
「イーディスッ!ああっどうしようっ。あ、そ、そうだ!ポーション、ポーションを!待って?リュックはーー」
《フラー》
「ない!提げてたリュックがっ!あれにーー」
《おいフラー!落ち着け!》
「どうしよう?どうしよう!」
《フラー!》
「あ…イーディ…ス?」
《ポーションはいいから、話を聞け》

 でも、イーディスの刀身にひびがーー

《いいか?まず、ベルクラはおそらく心配ない》
「え?」
《アーレイが動いてるなら、表立って動けなくともなにかしら手は打っているはずだ。だがら、慌てる必要はない》
「…分かった」
《それと、迎えは来るから焦るな》
「迎え?それって…ここがどこだか、分かってるってこと?」
《さあな。知らねえ。だが、そこのイカれ女が、ベルクラからお前をここへ運んだんだろ?これもおそらくだが、転移陣を使ったはずだ。それならユルと眼鏡が必ず辿ってくる》
「…なる…ほど?」

 視線を少し離れて倒れているアマリアへと移す。私とラズロが対峙している間、まったく動かなかった。今もその気配はない。

《落ち着いたか?》
「え?あ、はい…」
《落ち着いたなら、いま少し話を聞いてくれ。それくらいの時間はあるだろうから》
「…え?」

 それ、どういう意味?

「イーディーー」
《前にも話したと思うが、俺はお前と同じで生前こことは違う世界で生きてた。そこは多分ーーお前のいた世界とも違う》
「イーディス、待って。なんの話をーー」
《いいから聞け。俺のいたところってのは、そりゃもうクソみたいなところでな。どこもかしこも争いばかりしてた。そんな中で、俺は特殊な部類の者に当て嵌まった》
「特殊な…部類?」
《ああ。なんてんだ?身体能力が高く丈夫で、ここで言う魔法のような能力を、生まれながらに持った者だ。魔法なんてない世界だったから、希少だったと言える。それでも一定数いて、人の上位種だなんて言われていた》
「上位種…」
《病の心配もない、怪我をしても治りが早い。普通の人間からしてみれば、出来すぎた種だ。羨望される反面、妬まれ、異質なモノとして扱われた。それで、だ。そんなのが一定の割合で生まれてきて乱世となれば、必然的に国の為に働くことを強要されることになる》
「それってーー」
《もれなく戦争に駆り出された。生きる兵器としてな》
「ーーっ!」
《戦災孤児だったこともあって、物心ついた時から軍属だ。来る日も来る日も戦って…そして、やっと死んだ》
「イーディ…ス」

 何故、今そんな話をーー

《だから…なにも知らなかった》
「え…?」
《なにも知らなかったんだよ俺は。当たり前な、人並みのことをなにも》
「人並みのこと?」

《誰かと、一緒に暮らして》

《向かい合って、飯食って》

《帰ってくれば「おかえり」なんて、言葉がかけられる》

 ああ。噛みしめるように、口にされるそれらはーー

《心配なんてされたのも、初めてだったな》
「イーディス…」
《あー、あと。「とーさま」なんて呼ばれたのもな。まさか、子持ちの気分まで味わうことになるとは》
「…嫌でした?」
《いいや。意外にも悪くなかった。娘がいるってのは、あんなもんなのかね?まあ、お前は絶対、娘ではないけどな》
「そうですね。私はーー」
《フラー》
「…はい」
《ありがとう、な。お前のお陰で、思いもしなかったことを知ることができた》
「…お礼なんて。それは…私の台詞です。イーディスには、随分…助けられました。きっとこれからもーー」

 声が震える。

 さっきからずっと、イーディスに入った亀裂が広がり続けていてーー

「私との日常は、新鮮だったみたいですね?でも、まだまだですよ?これからもっと、一緒に新しいことをーー…っ」
《フラー》
「イーディ…ス」
《泣くな》
「ーーっ!無理だよ。私のせいなのに…」
《言っておくが、主だから盾になったわけじゃねえぞ》
「主じゃなければ、傷を負うことはなかった!」
《まあ、義務はあったな。けど、そんなことは頭から抜けていたのは確かだ》
「イーディス…」
《あとな、お前が主でなければなにも知らないままだった。そんなのはもう、考えられねえ。ファシオとの旅でも多くを見たが、まったく違う。お前はーー…》
「私は…?」
《なんつうか…しまったと思ってる》
「それは私で…」
《違う。お前との距離が妙に居心地良くて、手を出しそこねちまったことを言ってる》
「っ!イーディス、私…」

 亀裂が更に広がった。

「ーーっ!」
《…フラー、頼みがある》
「……なに?」
《人に戻してくれ》
「で、でも!傷が…!」
《分かるだろ?どっちだろうと変わらねえ。持っていた治癒の魔結晶は使った。それでこのザマだ》
「イー…ディ…ス、だ、けど…」
《頼む》
「……」

 当たり前のように提がっていた鞘を腰から外し、刀身を収めた。
 瞬間、聖剣は人の姿へと変わりーー

「わりい…」
「ーーっ」
 イーディスが覆いかぶさってきた。支えきれず後ろへ下がり、壁際まで到達したところで、もたれ掛かかってズルズルと二人、床へ沈む。
「なさけ…ねえ」
 私の肩に頭を乗せ、体重を預けたイーディスが呟いた。そっと背中に手をまわすと、濡れている感触が。思わず手を上げ、仰ぎ見る。

 真っ赤に染まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...