白雪日記

ふたあい

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13日目(3)

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 ため息混じりの主上に引っ張られ、親衛塔を後にした。私たちは城内散歩を継続中。

 まいった。大変失礼いたしました。主上はちゃんと王様でした。おかしいな?全然それらしくないんだけどな。
 事実から言うと、確かに私は疑われ監視されていた。ただ、その監視役が正真正銘の王様だっただけ。普通、王様ってのはそんな役目は負わないと思うのだけど。これで私が本当に刺客だったら、どうするんだ?

「お前は無害だ。少なくとも、俺はそう思っている。本気で監視しようと思ったら、こんなに緩いはずがない」
 立ち直りが早い。にっこり笑って主上が言った。
「はあ。まあ、そうですね。でも、なんで主上が?」
「言っただろう?俺しかヒマな奴がいないんだ。それに、責任を持つと皆に言ったからな」

 ……つまり。

 私という者は無害だと見極めたので、監視に余計な人手を割くのは無用。責任は自分が持つーーそう主上は周囲を説き伏せた、ということだ。
 多分、反対意見は多かったのだろう。カクカの言葉、フルルクス爺様の態度が、それを物語っている。

「感謝します」
 ちょっと感動。主上、ありがとうございます。王様らしくないなんて言って、ごめんなさい。
「いや、すまなかった。監視の意があることを、故意に黙っていた」
 すごく自然に謝罪の言葉を口にする。こういうところが王様らしくないって、解っているのかな?

 でも、この方がいい。王様らしさなんて、クソ喰らえだ。

 気を取り直して散歩続行。と、そうだ。ノーツの研究記録、アレの所在に私なりの考えが浮かんでいたんだ。それを言っておこう。

 そう思ったのだけれどーー

「あの、主じょーー」
 んん?
 言いかけた言葉を飲み込んだ。たった今、視界に入った人の姿に気を取られたためだ。
「どうした?」
 主上が私の異変に気付く。
「あそこに、人が…」
 ずいぶん向こうに見える人物を指さす。木漏れ日の中、白い石畳上の遥か先を歩くその人は、技術塔へ向かう道へ折れ曲がって行った。
「主上、あの人を知ってますか?」
「無茶言うな。ここから顔の判別なんて、できるわけないだろう?」

 あ、そうか。そうなんだ。確かに。この距離、判別は無理か。常人なら。

 でも。私にはできている。

 これは…。さすが白雪、超高性能。視力いくらある?6・0とか7・0、普通にあるのでは?
 その白雪の目で見ても、なんの変哲もないただの若い男。格好からすると城の文官って感じの。顔も穏やかで無害そう。無害そうなんだけどーー

 胸がザワつく。

 それはフィルを見て起こるザワめきとは、まるで違う。彼の時はこう…血流、新陳代謝上昇、でもってテンション急上昇!という感じ。だけどあの男の場合、腹の中で風邪菌がワサワサするというか、食いすぎて胃がムカムカするというか。とにかく気持ち悪い。

 身体が勝手に駆け出していた。

 軽い。白雪の身体は、なんて軽いんだろう。瞬く間に、先を歩いていた男に追いついてしまった。
「待って!」
「はい?」
 思わずの私の呼びかけに、男は不思議そうに返事をしながら振り向いた。

「貴方…刺客…」
 直感を口走る。

「おい!どうした?」
 主上も追いついてきた。

 男の表情が消え、微かな手の動き。

 私の言葉と、主上の声、それに男の動作。すべてがほぼ同時だった。

 そしてーー

 ナニかが飛んできた!?

 右足を軸に回れ右、そのまますぐ後ろまで来ていた主上に体当たり。王様を突き飛ばす。

 間一髪。主上のコートの裾に、透けるほどに薄い剃刀(?)が三枚、刺さっていた。

 男はすでに駆け出している。逃がすかと、履いていた靴を片方脱ぎ投げつけた。
 見事、男の頭に鋭く命中。ぶっ倒れてくれた。よし、と思うがそれも一瞬。今度は頭上から、新手の刺客が飛び降りてきた。木の上にもいたのか!

 驚くしかできなかった。だけど、新たに現れた刺客は、その驚きと同時に薙ぎ払われていた。

 え?

 主上が剣を手に、傍らに立っていた。

 私が男に追いついてからここまで、僅か数秒のことだったと思う。信じられない。非日常にもほどがある。冗談でしょ?

「…よく見えたな」
 足元のコートに刺さる剃刀に視線を移し、主上が言った。あの僅かの間に、コートを脱ぎ捨て、剣を抜き、突発的に現れた敵を薙ぎ払うとは。この王様は一体?
「すごく高性能なんですよ、この身体。それにしても、主上はずいぶん腕が立つんですね?」
「ん?そうか?」
 そうだよ!すごいよ主上。私には、いや、白雪の感覚には、判るんだよ!主上が並々ならぬ手練だって。
 あ、だからなのか。監視役なんて買って出ても、皆を納得させられたのは。

「高性能…」

 一人勝手に納得する私の隣で、主上は呟いた。
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