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20日目
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気付けば半月以上。
二十日目。日数は三日目くらいから、意識してカウントしていた。白雪は高性能なので「あれ?何日だっけ?」なんてウッカリがない。
前日、いや五分前のことすら「なんだっけ?」などと言っていた生前の私を思うと、ノーツにちゃちな器と言われても、仕方がなかったと思えてくる。いや、あれはやっぱり腹立つわ。
とはいえ。
そのすごい能力も、現状では宝の持ち腐れ。無駄、無意味。
それというのも七日前、城に潜伏していた刺客を主上と捕えて以来、学術塔から一歩も外に出られない状態が続いているからだ。
あの後すぐに「しばらく塔で大人しくしていてくれ。不便を強いるがすまん」と言って、主上は私に頭を下げた。王様に頭を下げられたとあっては、無下にできない。不承不承、塔に籠もることにした。
しかもただ、籠もるだけではなかった。
今、私はアケイルさんの研究室の一つに寝かされている。いや、寝かされているという表現は柔いな。まな板の鯉状態。完全に動けない。意識も朦朧。
窓もなにもない、四方を石壁に囲まれただけの薄暗い部屋。その床の一面にはびっしりと、何重もの円に沿った文字らしきものが書かれている。術式というやつだ。
その中心にいる。ごろりんと。そして時折、その書かれた文字が這うように動いて変化する。すると体がピクリと、あちこち反応した。まるで全身で脚気の検査をしているように。
そんな調子でほぼ七日。意識がない時間の方が長いので、それほど苦痛にはなっていない。普通なら日数の感覚なんてなくなるというものだが、白雪の体内時計は正確にカウントしている。
「……だ…は」
扉の向こうから話し声が聞こえてきた。何日ぶりかだ。この数日、アケイルさんの気配しか感じられなかった。
うーん。ハッキリ聞こえない。だけど。
意識を集中すると聞こえてきちゃうんだな、コレが。今はその意識が曖昧なので、ちょっと労するけれど、無理ではない。
頼むぞ、白雪!集中、集中ーー
「意識は?」
あ、主上の声だ。
「今はあります」
相手はアケイルさんね。
「すまんな。気の進まないことを頼んで」
「いえ。どちらにしても避けては通れない検査でした。彼女のためにも」
「で、どうだ?」
「問題ありません。普通の十代の少女と同じです」
「同じ?」
「そう、同じ。違うのは潜在能力の引き出し量」
「…人が本来持っているとされる身体能力を、すべて引き出している、ということか?」
「さあ?彼女とて、余すことなくなのかどうかは。なにせ、人は未知数です」
「彼女は人、だと?」
「ええ。人、です」
「そうか。……フッ、ハハッ」
「そうです。フフッ」
あー、なんか二人して笑いだしちゃった。物騒とは程遠い、いい感じに話がまとまっているみたいだけど…。
人、ねえ…。
異存はない。この身体はすっごい高性能ではあるけれど、間違いなく人だ。角も尻尾もない。火を吹いたり、毒を吐き出したりーー別な意味では吐くけどーーするのでもない。
だけど中身がね?死人なんですよ。
自然の法則逆らいまくりですよ?二人とも、そこのところを忘れていません?
やれやれと、心の中で息を吐く。そうして視線を泳がせていると、いきなり部屋の扉が開いた。
「おい、起きてるか?」
主上が私に声をかけてきたかと思うと、ずかずかと中に入ろうとしてくる。
「ああっ!?陛下!そこ!踏んでは駄目です!」
アケイルさんが慌てて止めた。やっぱり術式を踏むのはマズいのか。
困った。返事をしたくても、全く動けない。声も出ない。
主上は床一面の術式を踏まないよう、どかりと入り口に座り込んだ。
そして言い放った。
「お前、明日から近衛な」
はい?
二十日目。日数は三日目くらいから、意識してカウントしていた。白雪は高性能なので「あれ?何日だっけ?」なんてウッカリがない。
前日、いや五分前のことすら「なんだっけ?」などと言っていた生前の私を思うと、ノーツにちゃちな器と言われても、仕方がなかったと思えてくる。いや、あれはやっぱり腹立つわ。
とはいえ。
そのすごい能力も、現状では宝の持ち腐れ。無駄、無意味。
それというのも七日前、城に潜伏していた刺客を主上と捕えて以来、学術塔から一歩も外に出られない状態が続いているからだ。
あの後すぐに「しばらく塔で大人しくしていてくれ。不便を強いるがすまん」と言って、主上は私に頭を下げた。王様に頭を下げられたとあっては、無下にできない。不承不承、塔に籠もることにした。
しかもただ、籠もるだけではなかった。
今、私はアケイルさんの研究室の一つに寝かされている。いや、寝かされているという表現は柔いな。まな板の鯉状態。完全に動けない。意識も朦朧。
窓もなにもない、四方を石壁に囲まれただけの薄暗い部屋。その床の一面にはびっしりと、何重もの円に沿った文字らしきものが書かれている。術式というやつだ。
その中心にいる。ごろりんと。そして時折、その書かれた文字が這うように動いて変化する。すると体がピクリと、あちこち反応した。まるで全身で脚気の検査をしているように。
そんな調子でほぼ七日。意識がない時間の方が長いので、それほど苦痛にはなっていない。普通なら日数の感覚なんてなくなるというものだが、白雪の体内時計は正確にカウントしている。
「……だ…は」
扉の向こうから話し声が聞こえてきた。何日ぶりかだ。この数日、アケイルさんの気配しか感じられなかった。
うーん。ハッキリ聞こえない。だけど。
意識を集中すると聞こえてきちゃうんだな、コレが。今はその意識が曖昧なので、ちょっと労するけれど、無理ではない。
頼むぞ、白雪!集中、集中ーー
「意識は?」
あ、主上の声だ。
「今はあります」
相手はアケイルさんね。
「すまんな。気の進まないことを頼んで」
「いえ。どちらにしても避けては通れない検査でした。彼女のためにも」
「で、どうだ?」
「問題ありません。普通の十代の少女と同じです」
「同じ?」
「そう、同じ。違うのは潜在能力の引き出し量」
「…人が本来持っているとされる身体能力を、すべて引き出している、ということか?」
「さあ?彼女とて、余すことなくなのかどうかは。なにせ、人は未知数です」
「彼女は人、だと?」
「ええ。人、です」
「そうか。……フッ、ハハッ」
「そうです。フフッ」
あー、なんか二人して笑いだしちゃった。物騒とは程遠い、いい感じに話がまとまっているみたいだけど…。
人、ねえ…。
異存はない。この身体はすっごい高性能ではあるけれど、間違いなく人だ。角も尻尾もない。火を吹いたり、毒を吐き出したりーー別な意味では吐くけどーーするのでもない。
だけど中身がね?死人なんですよ。
自然の法則逆らいまくりですよ?二人とも、そこのところを忘れていません?
やれやれと、心の中で息を吐く。そうして視線を泳がせていると、いきなり部屋の扉が開いた。
「おい、起きてるか?」
主上が私に声をかけてきたかと思うと、ずかずかと中に入ろうとしてくる。
「ああっ!?陛下!そこ!踏んでは駄目です!」
アケイルさんが慌てて止めた。やっぱり術式を踏むのはマズいのか。
困った。返事をしたくても、全く動けない。声も出ない。
主上は床一面の術式を踏まないよう、どかりと入り口に座り込んだ。
そして言い放った。
「お前、明日から近衛な」
はい?
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