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75日目
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朝一番で、主上に会った。
アケイルさんが伝言を受け取っていたのだ。「戻ったら庭に来るように」と、一言。いいのかね?なにかとあそこに、出入りしているけれど。仮にも王様なんだから、もう少しそれらしいところってないの?いまだに、玉座に鎮座する姿を拝んでいないという事実に、気付いてしまった。
「もう一人のフルルクスに会ったか」
開口一番、主上は言った。苦笑している。友人の人柄を思ってだろう。
「なんというか…フルルクスさんって…」
「口が悪いだろう?気を悪くしないでくれ。あんなだが、良い奴だ」
失笑。だろうな。結局、私の質問にきっちりきっかり答えてくれた。完全勝利だ。どちらかというと、人が良くて損をするタイプと見た。
外見はヤクザか?マル暴か?という感じだけれど。
「笑う、か」
「はい。だけど、話は笑えるものではなかったです。十年前、大変だったんですね」
「聞いたか。…見ていられなかった。なにもしないではいられなかった。それだけだ」
知ってる。アールクレイさんがそう言っていたから。彼女は本当に主上をよく見ていた。支えたいと願っていた。
「私は元には戻れない。フルルクスさんはそれを手っ取り早く理解させるために、現在の自分とわざわざ会わせた。それだけで、十年前のことは、本当は私が知るべきことではなかった。すみません。どうしても気になって尋ねました。何故、現状に至ったのかを」
「なに、構わんさ。お前になら話しても問題ないと、アイツが判断したんだ」
「信用してるんですね、フルルクスさんを。あの…それで……また、余計なことを一つ、言っていいですか?」
「ん?ああ」
「十年前のこと、アールクレイさんは気にしていました。なにも、話してくれなかった、と」
「そうか……」
「はい」
主上が大きくて伸びをして、息を吸った。
「背負わせたくなかった、その一心だった。だが……結局、それで俺が駄目にしてしまったんだな。王の選出は、ただのきっかけだったというわけか」
「それは…」
返す言葉が見つからない。
ああ、もう。やっぱり言うべきではなかった。
「そんな顔をするな。もう終わったことだ。いまさらアールに背負わせるつもりはないし、これ以上自分を責めるつもりもない。分かってスッキリした。礼を言う」
礼なんて、とんでもない。頼むから言わないでください。
ああ、だけど…
「ままならないですね」
深いため息とともに、思わずこぼれた言葉。
「そうだな。思うようには、いかないものだ」
返す主上は破顔した。
そうだ、と思いつく。
「昼間のフルルクスさんは、未来のことを知っているわけですけど、なにも助言はしてくれないんですか?」
「なにか一言でも、漏らすと思うか?あの爺さんが。お前の記憶に関しても、あれこれ手を尽くそうとする俺たちを見て、『くだらん』と一喝しただけだ」
「……愚問でした」
絶対、言わない。爺様はそういう人だ。
そういう人だからこそ、疫病の治療法以外のなにも語らぬ爺様だからこそ、神様は境界に立つことを許してくれたのではないだろうか、そう思った。
「だが、な?」
主上が、目を伏せ笑う。
「だが?」
なに?思わせぶりな顔をして。
「なにも言わなくとも、態度で判ることもある。なんと言っても長い付き合いだ。アイツはお前を、まったく危険視していない。だから俺は、お前を信用できる」
……なるほど。
爺様は私が無害だと、承知しているわけか。全然そんな態度には見えなくとも、一応は。
そしてそれを、主上はよく解っている。だからこそ「くだらん」の一喝が、「私の記憶を戻そうとする試みは無駄」という示唆であったことにも気付いたわけだ。
そうなのだ。
私は無害だ。そしてそれこそが、私が境界に立つ羽目になった理由なのかもしれない。
小市民の小心者。極めつけものぐさ。異界から来たくせに、なにも新しいモノをもたらさない。変化など起こらない。
そうであるがゆえ、境界に立たせたところで害はないと神様は思ったのでは?爺様同様。そんな気がした。
まあ、これはあくまで私の想像だ。そもそも神がいるかも、分からない。
主上には、苦笑を返すしかなかった。
アケイルさんが伝言を受け取っていたのだ。「戻ったら庭に来るように」と、一言。いいのかね?なにかとあそこに、出入りしているけれど。仮にも王様なんだから、もう少しそれらしいところってないの?いまだに、玉座に鎮座する姿を拝んでいないという事実に、気付いてしまった。
「もう一人のフルルクスに会ったか」
開口一番、主上は言った。苦笑している。友人の人柄を思ってだろう。
「なんというか…フルルクスさんって…」
「口が悪いだろう?気を悪くしないでくれ。あんなだが、良い奴だ」
失笑。だろうな。結局、私の質問にきっちりきっかり答えてくれた。完全勝利だ。どちらかというと、人が良くて損をするタイプと見た。
外見はヤクザか?マル暴か?という感じだけれど。
「笑う、か」
「はい。だけど、話は笑えるものではなかったです。十年前、大変だったんですね」
「聞いたか。…見ていられなかった。なにもしないではいられなかった。それだけだ」
知ってる。アールクレイさんがそう言っていたから。彼女は本当に主上をよく見ていた。支えたいと願っていた。
「私は元には戻れない。フルルクスさんはそれを手っ取り早く理解させるために、現在の自分とわざわざ会わせた。それだけで、十年前のことは、本当は私が知るべきことではなかった。すみません。どうしても気になって尋ねました。何故、現状に至ったのかを」
「なに、構わんさ。お前になら話しても問題ないと、アイツが判断したんだ」
「信用してるんですね、フルルクスさんを。あの…それで……また、余計なことを一つ、言っていいですか?」
「ん?ああ」
「十年前のこと、アールクレイさんは気にしていました。なにも、話してくれなかった、と」
「そうか……」
「はい」
主上が大きくて伸びをして、息を吸った。
「背負わせたくなかった、その一心だった。だが……結局、それで俺が駄目にしてしまったんだな。王の選出は、ただのきっかけだったというわけか」
「それは…」
返す言葉が見つからない。
ああ、もう。やっぱり言うべきではなかった。
「そんな顔をするな。もう終わったことだ。いまさらアールに背負わせるつもりはないし、これ以上自分を責めるつもりもない。分かってスッキリした。礼を言う」
礼なんて、とんでもない。頼むから言わないでください。
ああ、だけど…
「ままならないですね」
深いため息とともに、思わずこぼれた言葉。
「そうだな。思うようには、いかないものだ」
返す主上は破顔した。
そうだ、と思いつく。
「昼間のフルルクスさんは、未来のことを知っているわけですけど、なにも助言はしてくれないんですか?」
「なにか一言でも、漏らすと思うか?あの爺さんが。お前の記憶に関しても、あれこれ手を尽くそうとする俺たちを見て、『くだらん』と一喝しただけだ」
「……愚問でした」
絶対、言わない。爺様はそういう人だ。
そういう人だからこそ、疫病の治療法以外のなにも語らぬ爺様だからこそ、神様は境界に立つことを許してくれたのではないだろうか、そう思った。
「だが、な?」
主上が、目を伏せ笑う。
「だが?」
なに?思わせぶりな顔をして。
「なにも言わなくとも、態度で判ることもある。なんと言っても長い付き合いだ。アイツはお前を、まったく危険視していない。だから俺は、お前を信用できる」
……なるほど。
爺様は私が無害だと、承知しているわけか。全然そんな態度には見えなくとも、一応は。
そしてそれを、主上はよく解っている。だからこそ「くだらん」の一喝が、「私の記憶を戻そうとする試みは無駄」という示唆であったことにも気付いたわけだ。
そうなのだ。
私は無害だ。そしてそれこそが、私が境界に立つ羽目になった理由なのかもしれない。
小市民の小心者。極めつけものぐさ。異界から来たくせに、なにも新しいモノをもたらさない。変化など起こらない。
そうであるがゆえ、境界に立たせたところで害はないと神様は思ったのでは?爺様同様。そんな気がした。
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主上には、苦笑を返すしかなかった。
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