41 / 140
74日目(4)
しおりを挟む
「…責任取れってことでしょうか?ん?アランサが?」
「なわけねえだろ。前任、あのチビの伯父だ。元々体が弱かったところに感染していた。完治はしたが更に弱まり、三年後、人事を決めるだけ決めてさっさと逝っちまいやがった」
「良い人事です。さすが占者」
「ざけんな。お陰で俺は、日中ジジイが努め果たしている間、時空の狭間だぞ?」
「そこがどうも分からない。何故、爺様の方?」
「ジジイが陣頭指揮したつっただろ。顔が知れ渡っちまったんだよ。占者がフルルクス・シンの名を出した時、誰もがジジイの方を思い浮かべた。俺の方は、城の連中には知られていなかったしな」
「それでこの状態?でも、時空間の召喚をそんな頻繁にして大丈夫なんですか?かなり式熱を消費するんでしょう?」
「術式は一度組み上げて確立しちまえば、後はそいつを崩さない限り、保つのに一定量が必要となるだけだ。いちいち組み上げてたら、キリがねえ。式熱消費の桁違いな術は、継続型が基本だ。これはテメエも無関係じゃねえ」
「え?私?あ、もしかして胸の術式のこと?」
「そうだ。間違いなく継続型として組んであるだろうな。その術式が常に、テメエの魂をその体に引き止めて繋いでいる」
「そう言えば、ノーツもそんなことを…」
「かなり特殊な術式だな。相容れないモノ同士を繋ぐ…というより一緒くたにして隔離することで保っている?いや、待て。んなこと可能か?ジジイはどこまで……」
あ、なんかブツブツ言ってる。術者の探究心に火がついた?
「あのー?」
「ん?ああ、話の途中だったな。鈍そうに見えたが、意外に早く進んだか。……で?ここまで話したんだ。いい加減、ジジイの言わんとすることは、理解できただろうな?」
「え?」
何気に失礼なことを言われたが、そこは目を瞑ることにしてーー目を瞬かせた。
もう理解の範疇を、大幅に超えている。いや、それはここに来た当初からか。何度も思った。これ以上、私にどうしろと言うのだ?
我ながらよく我慢している。ああ。神様がいるなら、石を投げつけてやりたい…。
爺様は、なにを言いたかった?
一、ノーツを見つけても、多くを望むな
一、私は境界上にいる
一、境界の先へは行けない
爺様の言ったことは、概ねこれだけ。境界云々については、たった今、目の前にいるガラの悪い男が話してくれた。
考えるべきは、私がノーツになにを望むか、だろうか?
私がノーツに望むこと。身の潔白を晴らしてくれることーー占者暗殺の意が、私にまったくないという事実を証言、証明してくれること。それ以外なにもない…と思うのだけど?
「お前、戻りたいとか思わねえのか?」
呆れた声音。目を向けると、実際に呆れた顔でフルルクスがこちらを見ていた。
「え…?あ、ああ!そうか!そういうこと?『ノーツに元の世界へ返してもらおうなんて思うな』、それを爺様は言いたかった?」
「普通、考えるだろ?」
「いや、だって無理でしょう?死んでますし」
「今は生きてるぜ?そのまま戻ろうとか、考えなかったのか?」
「あ…そうか。うーん……でも、どうせ無理なんですよね?」
「無理だろうな。死人は元には戻らねえ。それは境界を超えちまう」
……そうか。そうだったのか。
「つまり。爺様って、以外と心配性ってこと?」
「知るか。俺は会ったことはねえ」
でも解るんだよね?曲がりなりにも自分だから。
爺様は私がノーツを捜しているのを見て、忠告しようと思ったのだ。「叶わない望みを抱いては駄目だ」と、そう言おうとしていた。
……かなり、まわりくどい。
そっぽを向き、不機嫌そうに頭を掻いている眼前の男ーーフルルクス・シンを見つめる。
白雪の勘が言う。ここまでの話に嘘はないと。爺様とこの男は、確かに同一人物であると。
昼間、この若いフルルクスの姿を見ることは、決してないのだろう。境界を超えられないゆえに、独りぽつねんとボヤけた空間に佇む、彼の姿が思い浮かんだ。
孤独な時間。それも毎日、決して短くない間。
ーー暑くもないのに頬を汗が伝って、急に体温が下がった気がした。
ゾクリと寒気がする。無理に元の世界に戻ろうとすれば、そんな空間を永遠にさまようことになる。おそらく。
現実を目の当たりにさせられたと気付いた。爺様…。ずいぶんまわりくどくあったけど、確かに実感させられたよ。
境界を。人の限界というものを。
私がノーツに望むこと。身の潔白。
それとーー帰郷。
本当に考えていなかった?
…分からない。
ここまで目まぐるしすぎた。ひょっとしたら、高性能な思考速度に感情がついていっていないのかも。今の私は、人間らしさに欠けているのかもしれない。ホムンクルスなだけに。
だけど。
うずくまって泣きそうな自分がいる。それも確かだ。無意識に、目を閉じていたのだろうか。
どうであれ、すでに引導は渡された。爺様によって。
爺様のいる四十七年後、私はどうなっているのだろう?ふと、思った。
「なわけねえだろ。前任、あのチビの伯父だ。元々体が弱かったところに感染していた。完治はしたが更に弱まり、三年後、人事を決めるだけ決めてさっさと逝っちまいやがった」
「良い人事です。さすが占者」
「ざけんな。お陰で俺は、日中ジジイが努め果たしている間、時空の狭間だぞ?」
「そこがどうも分からない。何故、爺様の方?」
「ジジイが陣頭指揮したつっただろ。顔が知れ渡っちまったんだよ。占者がフルルクス・シンの名を出した時、誰もがジジイの方を思い浮かべた。俺の方は、城の連中には知られていなかったしな」
「それでこの状態?でも、時空間の召喚をそんな頻繁にして大丈夫なんですか?かなり式熱を消費するんでしょう?」
「術式は一度組み上げて確立しちまえば、後はそいつを崩さない限り、保つのに一定量が必要となるだけだ。いちいち組み上げてたら、キリがねえ。式熱消費の桁違いな術は、継続型が基本だ。これはテメエも無関係じゃねえ」
「え?私?あ、もしかして胸の術式のこと?」
「そうだ。間違いなく継続型として組んであるだろうな。その術式が常に、テメエの魂をその体に引き止めて繋いでいる」
「そう言えば、ノーツもそんなことを…」
「かなり特殊な術式だな。相容れないモノ同士を繋ぐ…というより一緒くたにして隔離することで保っている?いや、待て。んなこと可能か?ジジイはどこまで……」
あ、なんかブツブツ言ってる。術者の探究心に火がついた?
「あのー?」
「ん?ああ、話の途中だったな。鈍そうに見えたが、意外に早く進んだか。……で?ここまで話したんだ。いい加減、ジジイの言わんとすることは、理解できただろうな?」
「え?」
何気に失礼なことを言われたが、そこは目を瞑ることにしてーー目を瞬かせた。
もう理解の範疇を、大幅に超えている。いや、それはここに来た当初からか。何度も思った。これ以上、私にどうしろと言うのだ?
我ながらよく我慢している。ああ。神様がいるなら、石を投げつけてやりたい…。
爺様は、なにを言いたかった?
一、ノーツを見つけても、多くを望むな
一、私は境界上にいる
一、境界の先へは行けない
爺様の言ったことは、概ねこれだけ。境界云々については、たった今、目の前にいるガラの悪い男が話してくれた。
考えるべきは、私がノーツになにを望むか、だろうか?
私がノーツに望むこと。身の潔白を晴らしてくれることーー占者暗殺の意が、私にまったくないという事実を証言、証明してくれること。それ以外なにもない…と思うのだけど?
「お前、戻りたいとか思わねえのか?」
呆れた声音。目を向けると、実際に呆れた顔でフルルクスがこちらを見ていた。
「え…?あ、ああ!そうか!そういうこと?『ノーツに元の世界へ返してもらおうなんて思うな』、それを爺様は言いたかった?」
「普通、考えるだろ?」
「いや、だって無理でしょう?死んでますし」
「今は生きてるぜ?そのまま戻ろうとか、考えなかったのか?」
「あ…そうか。うーん……でも、どうせ無理なんですよね?」
「無理だろうな。死人は元には戻らねえ。それは境界を超えちまう」
……そうか。そうだったのか。
「つまり。爺様って、以外と心配性ってこと?」
「知るか。俺は会ったことはねえ」
でも解るんだよね?曲がりなりにも自分だから。
爺様は私がノーツを捜しているのを見て、忠告しようと思ったのだ。「叶わない望みを抱いては駄目だ」と、そう言おうとしていた。
……かなり、まわりくどい。
そっぽを向き、不機嫌そうに頭を掻いている眼前の男ーーフルルクス・シンを見つめる。
白雪の勘が言う。ここまでの話に嘘はないと。爺様とこの男は、確かに同一人物であると。
昼間、この若いフルルクスの姿を見ることは、決してないのだろう。境界を超えられないゆえに、独りぽつねんとボヤけた空間に佇む、彼の姿が思い浮かんだ。
孤独な時間。それも毎日、決して短くない間。
ーー暑くもないのに頬を汗が伝って、急に体温が下がった気がした。
ゾクリと寒気がする。無理に元の世界に戻ろうとすれば、そんな空間を永遠にさまようことになる。おそらく。
現実を目の当たりにさせられたと気付いた。爺様…。ずいぶんまわりくどくあったけど、確かに実感させられたよ。
境界を。人の限界というものを。
私がノーツに望むこと。身の潔白。
それとーー帰郷。
本当に考えていなかった?
…分からない。
ここまで目まぐるしすぎた。ひょっとしたら、高性能な思考速度に感情がついていっていないのかも。今の私は、人間らしさに欠けているのかもしれない。ホムンクルスなだけに。
だけど。
うずくまって泣きそうな自分がいる。それも確かだ。無意識に、目を閉じていたのだろうか。
どうであれ、すでに引導は渡された。爺様によって。
爺様のいる四十七年後、私はどうなっているのだろう?ふと、思った。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる