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85日目(2)
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城下へ出た私は、街の様子を見てびっくり仰天してしまった。え?なんなの?この光景!?これは、なんと言ったらいいの?
人魂が、列なして、徘徊してる!?
言い方が悪かったけれど、そこには幻想的な景色が広がっていた。絵葉書の街並み。夜空の月。そして…頭上には人魂。あれ?怪談になってしまった?
違う!
いくつもの手のひらサイズの光の玉がフワフワ浮かび、一定区間を空けながら列を作って、大通りを移動している。
「じ…じっ様!なんです?あの光の玉は?」
「おい、『じっ様』ってのは俺のことか!?」
「他に誰がいます?それより、アレ!あれはなんなんですか?」
若い方のフルルクスに対して、私に遠慮の二文字はもはや存在していなかった。だってね?向こうも結構な物言いだからね?
爺様の方には怖くて言い返せないけど、その分、若い方に言ってやれと思っている。
「……よく聞け、シロガキ。あれは街灯だ」
渋々といった調子、フルルクスが声を絞る。ほらね。負けじと失礼な呼び方をしてきた。だから私が、彼を『爺様か』ら転じて『じっ様』と呼んだって別にいいのだ。
「街灯?」
思い出した。
前にカクカに「あれはなに?」と訊いて、呆れられたヤツだ。そうか。あの術式の正体がこの光の玉?
……いや、まだよく解らない。
こんな話をしているが、私とフルルクスーーもう、じっ様でいいなーーは、いまだ賊を追っている最中である。すでに結構な距離を走っている。何故、こんなところにまで来て、マラソンをしなければならないのだろう?追撃部隊はなにをしている?早く来て!賊が目の前を逃走中です!
「あれは黒魔術だ」
律儀だな、じっ様。こんな状況下だというのに、ちゃんと街灯のレクチャーしてくれるんだ。
「黒魔術?」
「今、通り過ぎた柱は見たか?通り沿いに一定の間隔で立っているんだが、あそこに光の発生源となる術式が刻まれている。そして、そこから出た複数の光が、それぞれの建物に貼られた術式プレートが作り出す風の道を通って、次の柱へ帰る。その繰り返しで大通りを巡回する仕組みだ」
なるほど。
これが黒魔術か。黒魔術というと、もっと物騒なイメージだった。それこそゲームでの攻撃魔法のように。でも違ったようだ。生活に有効活用しているんだな。
「ずっと不思議だったんです。建物に貼り付けてるあのプレートのこと。術式もよく解らない種類だったし。ようやく謎が解けました。ありがとうございます」
駆けながらじっ様に向けて、ペコリと頭を下げた。どうにも緊張感に欠けている。
「学術塔の本を読み漁っていると聞いてたが、黒魔術は興味対象外か?」
返すじっ様は、横目で私の動きをチラリと確認しながら、口の端を上げた。
どうもなあ。
じっ様も、呑気なのである。賊を追っているというのに。
大体、この人何者?さっきから息乱さず、一緒に疾走しているし。白雪同様、壁も軽々と駆け上がった。しかも、サンダル履きで。
「あの…?」
じっ様に不信の目を向けかけるーーが、それを中断した。
今まで感じていなかった、新たな気配の出現に。
「おい!」
「分かってます」
じっ様も感じたよう。前方、逃げる賊のその先。三人、か。どうやら彼らのお仲間で、合流する気だ。こちらに向けて、静かだけれど確かな殺気を放っている。
逃げる賊に、追う私たち。全員がここで足を止めた。
大通りを抜け、すでに入り組んだ路地裏内。街灯の灯りが離れた道の隙間から漏れ、建物の影を際立たせていた。
僅かな月明かりだけが頼りの、暗い場所だ。
「…手前二人は、範囲内。シロガキ、油断すんなよ。同時に後の三人は動くぞ」
隣に立つじっ様が、小声で言った。
「え?はい?」
返事するとほぼ同時、じっ様が右手を前に突き出す。そしてーー
稲光。
それも横向きに。
いきなりなことで、一瞬我を忘れた。雷が上から落ちるのではなく、横に走った!?それも目の前の、賊に向けて。
その稲光と同時に、クナイが飛んできた。身体が勝手に反応して、剣を抜く。クナイを払い落とし、次いで襲いかかってきた賊に応戦した。
二人がかりとは。
素早く目線を移して状況把握する。散々逃げて手こずらせてくれた、手前の賊二人は倒れている。さっきの雷にやられたのだ。
残る三人の内二人が私を狙い、もう一人はじっ様へ。
決めていたことがある。
私は絶対に人を斬らない、と。いや、斬れないと言った方がいい。結局、覚悟はできそうにない。剣技を教われば教わるほど、それを実感した。
だから剣技だけは面倒くさがらず、真面目に取り組んだ。人を斬らないために。斬らないで済むだけの、技量を身につけようとした。
白雪。どうか私に力を。
一人、剣の柄でその横っ面を突いて気絶させた。よし、あと一人。
主上に比べたら、こいつらの腕前は大したことはない。
大丈夫、行けるーー思うと同時だった。
残ったもう一人が、目の前で真横に吹っ飛んでいった。
え?
「ふん。ま、悪くねえな」
呟きながら、じっ様が側に立っていた。覆った布の上から、ガリガリと頭を掻いている。早々に自分の相手を片付けて、加勢をしてくれたのだ。
手を…いや、この場合、足を貸してくれたと言うべきか?
電光石火。
だけど白雪の目は見逃さなかった。じっ様が賊を、蹴りで頭から飛ばしたその瞬間を。やるか、それ?サンダルだぞ?
「……じっ様って、何者です?」
問わずにいられない。
絶対、ただの召喚術師ではない。さっきの稲光はどう見ても黒魔術だったし、武術にも長けている。それも並大抵ではないほどに。
「ああ?聞いてなかったのか?俺は元、陽月下だ」
そう答えて、じっ様はさも不思議そうな顔をした。
……聞いてません。
人魂が、列なして、徘徊してる!?
言い方が悪かったけれど、そこには幻想的な景色が広がっていた。絵葉書の街並み。夜空の月。そして…頭上には人魂。あれ?怪談になってしまった?
違う!
いくつもの手のひらサイズの光の玉がフワフワ浮かび、一定区間を空けながら列を作って、大通りを移動している。
「じ…じっ様!なんです?あの光の玉は?」
「おい、『じっ様』ってのは俺のことか!?」
「他に誰がいます?それより、アレ!あれはなんなんですか?」
若い方のフルルクスに対して、私に遠慮の二文字はもはや存在していなかった。だってね?向こうも結構な物言いだからね?
爺様の方には怖くて言い返せないけど、その分、若い方に言ってやれと思っている。
「……よく聞け、シロガキ。あれは街灯だ」
渋々といった調子、フルルクスが声を絞る。ほらね。負けじと失礼な呼び方をしてきた。だから私が、彼を『爺様か』ら転じて『じっ様』と呼んだって別にいいのだ。
「街灯?」
思い出した。
前にカクカに「あれはなに?」と訊いて、呆れられたヤツだ。そうか。あの術式の正体がこの光の玉?
……いや、まだよく解らない。
こんな話をしているが、私とフルルクスーーもう、じっ様でいいなーーは、いまだ賊を追っている最中である。すでに結構な距離を走っている。何故、こんなところにまで来て、マラソンをしなければならないのだろう?追撃部隊はなにをしている?早く来て!賊が目の前を逃走中です!
「あれは黒魔術だ」
律儀だな、じっ様。こんな状況下だというのに、ちゃんと街灯のレクチャーしてくれるんだ。
「黒魔術?」
「今、通り過ぎた柱は見たか?通り沿いに一定の間隔で立っているんだが、あそこに光の発生源となる術式が刻まれている。そして、そこから出た複数の光が、それぞれの建物に貼られた術式プレートが作り出す風の道を通って、次の柱へ帰る。その繰り返しで大通りを巡回する仕組みだ」
なるほど。
これが黒魔術か。黒魔術というと、もっと物騒なイメージだった。それこそゲームでの攻撃魔法のように。でも違ったようだ。生活に有効活用しているんだな。
「ずっと不思議だったんです。建物に貼り付けてるあのプレートのこと。術式もよく解らない種類だったし。ようやく謎が解けました。ありがとうございます」
駆けながらじっ様に向けて、ペコリと頭を下げた。どうにも緊張感に欠けている。
「学術塔の本を読み漁っていると聞いてたが、黒魔術は興味対象外か?」
返すじっ様は、横目で私の動きをチラリと確認しながら、口の端を上げた。
どうもなあ。
じっ様も、呑気なのである。賊を追っているというのに。
大体、この人何者?さっきから息乱さず、一緒に疾走しているし。白雪同様、壁も軽々と駆け上がった。しかも、サンダル履きで。
「あの…?」
じっ様に不信の目を向けかけるーーが、それを中断した。
今まで感じていなかった、新たな気配の出現に。
「おい!」
「分かってます」
じっ様も感じたよう。前方、逃げる賊のその先。三人、か。どうやら彼らのお仲間で、合流する気だ。こちらに向けて、静かだけれど確かな殺気を放っている。
逃げる賊に、追う私たち。全員がここで足を止めた。
大通りを抜け、すでに入り組んだ路地裏内。街灯の灯りが離れた道の隙間から漏れ、建物の影を際立たせていた。
僅かな月明かりだけが頼りの、暗い場所だ。
「…手前二人は、範囲内。シロガキ、油断すんなよ。同時に後の三人は動くぞ」
隣に立つじっ様が、小声で言った。
「え?はい?」
返事するとほぼ同時、じっ様が右手を前に突き出す。そしてーー
稲光。
それも横向きに。
いきなりなことで、一瞬我を忘れた。雷が上から落ちるのではなく、横に走った!?それも目の前の、賊に向けて。
その稲光と同時に、クナイが飛んできた。身体が勝手に反応して、剣を抜く。クナイを払い落とし、次いで襲いかかってきた賊に応戦した。
二人がかりとは。
素早く目線を移して状況把握する。散々逃げて手こずらせてくれた、手前の賊二人は倒れている。さっきの雷にやられたのだ。
残る三人の内二人が私を狙い、もう一人はじっ様へ。
決めていたことがある。
私は絶対に人を斬らない、と。いや、斬れないと言った方がいい。結局、覚悟はできそうにない。剣技を教われば教わるほど、それを実感した。
だから剣技だけは面倒くさがらず、真面目に取り組んだ。人を斬らないために。斬らないで済むだけの、技量を身につけようとした。
白雪。どうか私に力を。
一人、剣の柄でその横っ面を突いて気絶させた。よし、あと一人。
主上に比べたら、こいつらの腕前は大したことはない。
大丈夫、行けるーー思うと同時だった。
残ったもう一人が、目の前で真横に吹っ飛んでいった。
え?
「ふん。ま、悪くねえな」
呟きながら、じっ様が側に立っていた。覆った布の上から、ガリガリと頭を掻いている。早々に自分の相手を片付けて、加勢をしてくれたのだ。
手を…いや、この場合、足を貸してくれたと言うべきか?
電光石火。
だけど白雪の目は見逃さなかった。じっ様が賊を、蹴りで頭から飛ばしたその瞬間を。やるか、それ?サンダルだぞ?
「……じっ様って、何者です?」
問わずにいられない。
絶対、ただの召喚術師ではない。さっきの稲光はどう見ても黒魔術だったし、武術にも長けている。それも並大抵ではないほどに。
「ああ?聞いてなかったのか?俺は元、陽月下だ」
そう答えて、じっ様はさも不思議そうな顔をした。
……聞いてません。
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