白雪日記

ふたあい

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86日目

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 思考は巡る。諾々と。

 陽月下。
 陽の下、月の下、降り注ぐもの。それは、星の雫の古き呼び名。

 実は、陽の光にも式熱は含まれている。そう。日中も雫は流れているのだ。
 だがいかんせん、あまりに少なすぎた。それは圧倒的に、夜落ちる。その上、陽の光で霧散する性質。いつの間にか、目に見える大きな資源の塊である、夜に降る光の方に、その認識は集約され呼び名を変えた。

 そして、『陽月下』は人々に星の雫をもたらす、お上の役職名となった。

 フルルクスーーじっ様は元、陽月下だった。もう十年以上、前のことらしい。
 そのじっ様が言った。「資源管理部だろう」と。「陽月下は資源管理部に属する部隊で、城内で唯一、支給前の星の雫を直に扱う者たちだ」と。

 その言葉はなにを意味する?

 先だって、資源管理官の一人がクビになった。この符合は?ーー私は問う。
 じっ様は、皮肉げに口の端を上げた。

 ああ。そうか。

 一目瞭然。その管理官が、ノーツに研究資源を流していたのだ。
 アランサの託宣を聞いて、主上はすぐさまその可能性に気付いたわけだ。占者はその言葉の意味を知らなくとも、意味のないことは言わないーーそういうものだから。
 だからこそ、ためらいなく早々に処分を下した。まったく、侮れない王様だ。

 そして襲撃騒動が起こった。

 これにより今まで城に入り込んでいた刺客と、ノーツがまったく別に動いている事実が見えてきた。まあ、考えないことでもなかったので、確信を得たと言った方がいい。
 罷免された人たちとノーツの利害は一致する。だけど、やっぱり違う。主上の襲撃は、絶対にない。ノーツに関しては。
 至ってシンプル。馬鹿単純に考えていい。ノーツには主上を亡き者にする理由がない。紙一重的な奴だけれど、そんな余計はしない。資源確保の次なる手を考えつつ、ひたすらアランサを狙うだろう。ノーツを知る者の意見は、そう一致する。
 私も同感である。奴はどこまでも式術研究者だ。狂ってはいても。

 つまりはーー

 罷免という憂き目を見た者たちがアランサ及び、主上を排除しようとし、他方でノーツがそれを利用し、アランサの遺体を手に入れ罪を押し付けようとしていたことになる。
 思い返してみれば、最初にノーツと話した時に「出遅れている」と口にしていた。あれは、反占者派の動きを指していたのだ。

 今頃思い出してどうする?我ながら使えない。

 ああ、なんだかモヤモヤする。

 私とじっ様が賊を縛り上げながら、そんな話をああだこうだと論じていたその頃ーー主上は同じ結論に至ったのみならず、ちゃっかり状況を活用していたわけだ。

 資源管理官、ディバルサ・ロウト。

 資源横流しの証拠はなにもなく、託宣によりただヒマを出され、放置されていたこの男は、『王の暗殺未遂容疑』というしらばくれた理由から、直ちに拘束された。
 食えない王様だ。自分を狙った者と彼は無関係だろうと予想しながら、しれっと捕縛命令を下すのだから。

 そして狙い通り、を吐かせた。一夜の内に。

 しかしーー

 その資源管理官は核心を話さなかった。いや、口を割ろうにも彼は知らなかった。己の渡した雫が、誰の手によってどこに流されていたのかを。

 ただ国庫へ納める前の雫を、掠め取っただけ。
 報告書を、改ざんしただけ。
 指定された場所に、雫を運んだだけ。
 その場に残されたお金を、懐に入れただけ。

 すべては書簡でのやり取りだった。金に困っていながらも、自ら横領した雫を売りさばく度胸のないロウト氏を甘言で誘ったそれは、すでに破棄され跡形もない。
 カマをかけられ尋問された彼は、その経緯をあっさり吐露した。
 気の弱い人。元来お人好しなばかりで、他人の借金を背負い込むような、そんな。そこに付け込まれたのだ。

 そして新たな問題発生となった。

 その横流しが、ここ数ヶ月のものと判明したのだ。それがノーツの差し金として、では、それ以前はどこから研究資源を調達していた?称号剥奪は六年も前だ。その間あの高慢馬鹿が、資源なしの理論だけ研究を進めていたとは到底思えない。

 はあ…。まいった。

 ノーツを逃したのは、ロウト氏ではなかった。ノーツの名を聞き、驚愕していたという。奴の内通者は他にいる。おそらく、そいつが横流しの手引きも行ったのだろう。

 どれほど考えても、依然謎は残る。

 昨夜の捕物は堪えた。ああ、眠い。

 外は雨降り。

 ぐだぐだと、一日を終えた。
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