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108日目(1)
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ペコリと頭を下げた。
「許可してくださり、ありがとうございました」
「ああ。明日から復帰だ。頼んだぞ?フィルの抜けた穴は大きい」
目の前で、立派な椅子に腰を下ろした主上が笑う。やれ、やっと拝めた。玉座に鎮座まします王様を。
「できる限りは。埋めることは、きっとできませんが」
「そうか?」
「はい」
「それで?二人はどんな様子だった?」
「それが…拍子抜けするほどいつも通りで。ガッサ班長も、メルミルも」
先程、許可を得て地下牢でフィルとメルミルに会ってきたのだがーー
二人は私のよく知る、二人のままだった。
フィルはやっぱり優しく笑ってーーそれで私の胸が、高鳴ることはもうなかったけれどーーそれからひどく深刻なものに表情を変え、傷の心配をしてくれた。
メルミルはちょっとうるさいくらいに「そんな泣きそうな顔は不細工だ」とブツブツ言い募った後、くるりと表情を変えてニッコリ笑った。やっぱり可愛かった。彼女の笑顔を、何日ぶりに見ただろう?そうだよ。笑っているのがいいよ、メルミルは。
そして、謝られた。私も謝った。
フィルもメルミルも、互いがノーツの協力者であったことを知らなかった。
手に入れられる紅の破片が尽き、フィルが離れた後に、ノーツはメルミルを唆し城に行かせたのだ。
それから半年。それはそのまま、フィルがノーツを捕縛すべきか苦悩した期間であったとも言える。もっと早くに決断すべきだったと、メルミルに謝罪したいと、フィルは言葉を締め括った。
メルミルも、踏み止まろうとしていたフィルを、結局自分が巻き込んでしまった、申し訳ないと言って、言葉を切った。
最後は謝ってばかり。
後悔はいつだって先立たず。痛感させられた。
「減刑の署名が集まっている。だが二人とも、厳罰を希望している。シロ、お前はどう思う?」
「え?それはもちろん…」
「フィルはな、諦めきれなかったそうだ。ノーツを捕らえた後も。奴の研究を他の術師に引き継いでもらえないかと、そんな期待を、どうしても捨てられなかったそうだ。だから、奴の研究記録に拘った」
主上が一度、息を吐く。
「そうだったんですか…」
「メール嬢もだ。彼女がノーツを逃がす際、かけていたペンダントの鎖が突然切れたそうだ。それを見た瞬間、フィーナが止めていると、そう感じたらしい。だけど、それでもやめられなかった。どうしても、諦められなかったと、そう言った」
「……諦められない気持ちは、罪ではありません」
「だが、過ちは過ちだ。フィルがもっと早くノーツの所業を報告していたら、メール嬢が思い止まっていたら。ディバルサの罷免はなかったし、お前も傷を負うことはなかった」
「……厳罰に処するつもりなんですか?」
「どうかな?減刑を請う者、厳罰を願う者、双方納得する、そんな都合のいい処分があったか、考え中だ」
「もっと早く…私が二人に問い質していれば。そう思います。私も、なんらかの処分を受けるべきではないでしょうか?」
主上は頭を抱えた。
「手厳しいな。それでは俺も、処分を受けなくてはならなくなる」
ごもっとも。だけど王様に処分を下だせる者などいやしない。
フィルの故郷の、紅の破片の眠る島。特別危険海流区域の一部として、立入禁止となっているその島に、星の雫が落ちたのは今から約一年前。回収に行った陽月下からの報告で、島の紅の破片が根こそぎなくなっていることを知った主上の胸に、小さな不安が宿った。
だけどその時はまだ、なにも事は起こっていなくて、そのまま胸の内に収めた。市場に大量の紅の破片が流通するか、注視しながら。
紅の破片は、どこにも出回らなかった。
主上の家は、元は良い家柄で、それが彼が生まれた時にはすっかり没落していた。生成装飾品を還元し、売り払って生計を立てていた時期があって、還元術を見知っていたらしい。そこで勘が働いたのだ。
腹心の部下に疑問を抱き続けた主上の苦悩は、計り知れない。強いな、この人は。心底、思った。
「主上は知っていたんですね。ガッサ班長が、妹さんに紅の破片を贈ったこと」
「ああ。いつだったか『いつか妹を迎えに行くんだ』と、希望に満ちた目で語ってくれたことがある。だから…妹の存在がフィルにとってどれほど大きかったか、彼女が死んだ時、どれほど絶望したかも知っていた」
諦めきれなかった。ただ、それだけ。だけど、過ちは過ち。
「……主上。減刑で厳罰を」
「難しいことを言う」
主上が笑う。
私も笑った。
「許可してくださり、ありがとうございました」
「ああ。明日から復帰だ。頼んだぞ?フィルの抜けた穴は大きい」
目の前で、立派な椅子に腰を下ろした主上が笑う。やれ、やっと拝めた。玉座に鎮座まします王様を。
「できる限りは。埋めることは、きっとできませんが」
「そうか?」
「はい」
「それで?二人はどんな様子だった?」
「それが…拍子抜けするほどいつも通りで。ガッサ班長も、メルミルも」
先程、許可を得て地下牢でフィルとメルミルに会ってきたのだがーー
二人は私のよく知る、二人のままだった。
フィルはやっぱり優しく笑ってーーそれで私の胸が、高鳴ることはもうなかったけれどーーそれからひどく深刻なものに表情を変え、傷の心配をしてくれた。
メルミルはちょっとうるさいくらいに「そんな泣きそうな顔は不細工だ」とブツブツ言い募った後、くるりと表情を変えてニッコリ笑った。やっぱり可愛かった。彼女の笑顔を、何日ぶりに見ただろう?そうだよ。笑っているのがいいよ、メルミルは。
そして、謝られた。私も謝った。
フィルもメルミルも、互いがノーツの協力者であったことを知らなかった。
手に入れられる紅の破片が尽き、フィルが離れた後に、ノーツはメルミルを唆し城に行かせたのだ。
それから半年。それはそのまま、フィルがノーツを捕縛すべきか苦悩した期間であったとも言える。もっと早くに決断すべきだったと、メルミルに謝罪したいと、フィルは言葉を締め括った。
メルミルも、踏み止まろうとしていたフィルを、結局自分が巻き込んでしまった、申し訳ないと言って、言葉を切った。
最後は謝ってばかり。
後悔はいつだって先立たず。痛感させられた。
「減刑の署名が集まっている。だが二人とも、厳罰を希望している。シロ、お前はどう思う?」
「え?それはもちろん…」
「フィルはな、諦めきれなかったそうだ。ノーツを捕らえた後も。奴の研究を他の術師に引き継いでもらえないかと、そんな期待を、どうしても捨てられなかったそうだ。だから、奴の研究記録に拘った」
主上が一度、息を吐く。
「そうだったんですか…」
「メール嬢もだ。彼女がノーツを逃がす際、かけていたペンダントの鎖が突然切れたそうだ。それを見た瞬間、フィーナが止めていると、そう感じたらしい。だけど、それでもやめられなかった。どうしても、諦められなかったと、そう言った」
「……諦められない気持ちは、罪ではありません」
「だが、過ちは過ちだ。フィルがもっと早くノーツの所業を報告していたら、メール嬢が思い止まっていたら。ディバルサの罷免はなかったし、お前も傷を負うことはなかった」
「……厳罰に処するつもりなんですか?」
「どうかな?減刑を請う者、厳罰を願う者、双方納得する、そんな都合のいい処分があったか、考え中だ」
「もっと早く…私が二人に問い質していれば。そう思います。私も、なんらかの処分を受けるべきではないでしょうか?」
主上は頭を抱えた。
「手厳しいな。それでは俺も、処分を受けなくてはならなくなる」
ごもっとも。だけど王様に処分を下だせる者などいやしない。
フィルの故郷の、紅の破片の眠る島。特別危険海流区域の一部として、立入禁止となっているその島に、星の雫が落ちたのは今から約一年前。回収に行った陽月下からの報告で、島の紅の破片が根こそぎなくなっていることを知った主上の胸に、小さな不安が宿った。
だけどその時はまだ、なにも事は起こっていなくて、そのまま胸の内に収めた。市場に大量の紅の破片が流通するか、注視しながら。
紅の破片は、どこにも出回らなかった。
主上の家は、元は良い家柄で、それが彼が生まれた時にはすっかり没落していた。生成装飾品を還元し、売り払って生計を立てていた時期があって、還元術を見知っていたらしい。そこで勘が働いたのだ。
腹心の部下に疑問を抱き続けた主上の苦悩は、計り知れない。強いな、この人は。心底、思った。
「主上は知っていたんですね。ガッサ班長が、妹さんに紅の破片を贈ったこと」
「ああ。いつだったか『いつか妹を迎えに行くんだ』と、希望に満ちた目で語ってくれたことがある。だから…妹の存在がフィルにとってどれほど大きかったか、彼女が死んだ時、どれほど絶望したかも知っていた」
諦めきれなかった。ただ、それだけ。だけど、過ちは過ち。
「……主上。減刑で厳罰を」
「難しいことを言う」
主上が笑う。
私も笑った。
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