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二年目
転寝月1日(3)
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すべてはマクミラン王の策略であると、主上たち白銀城御三家ーーまた変なあだ名を付けてしまったーーは言い切った。
女神の杖が壊れていた。
そう聞いて私はすぐに、誰かが両国の和平にひびを入れようと目論み、壊したのだろうと考えた。これで合点がいった。私を呼んだのは、事が事だけに内密に犯人を捜しだせとの命を下すためだろう、と。
だけど違った。それだけなら、この面子が雁首を揃える必要はないのだ。
カランと、手にしたグラスの氷が音を立てる。冷たいだけで、美味しくもないし酔えもしないのだが、飲まなければやってられない気分である。これからのことを考えると、頭を抱えたくなってくる。
夜中の会合は佳境入りしていた。
「初めから、一定期間後に壊れるように創られていたんだよ」
「今、アケイルに調べてもらっている。どのくらいの期間、その形を保っていたか。そこが重要だ」
「後生大事にしまっておくからそうなるんだ。玉座のヘリにでも、突き刺しておけってんだ」
「それはできない相談だ。言っただろう?繊細な造りだ、そんなことをしたらそれこそ傷を付けかねん。それに、俺はあの男に良い感情を持っていない。どれほど素晴らしい芸術作品でも、毎日眺める気にはならないな。それは先代も、同じだったはずだ」
「そこまで計算してのことだよ。どうせ宝物庫の奥にしまい込まれるって、アイツは知ってたんだ。なにせ、先の王はお前より分かりやすく嫌ってた」
「そう仕向けた。今思い出しても、結構な態度だった」
「…ったく。厄介なことをしてくれる。お陰でこっちは、しばらく寝る間も惜しむ羽目かよ。クソ陰険王が」
「はあ……」
深い、とても深いため息がこぼれた。まったくだ。どんな奴か知らないけれど、マクミラン王が迷惑な人であるのは確かである。
とんでもない話になった。
夜が更ける。話は煮詰まる。
話はこうだ。マクミラン王は山脈の恩恵を、二国間で平等に分け合う気は更々なく、恒久的に自国のものにしたい。つまり、戦争を起こして奪い取りたいと思っている。
戦争を起こすには、大義名分がいる。そこでこの杖騒動。あちら様が親睦の証として贈った世に二つとない品をこちらが無惨に、それも平和の象徴を殊更強調した翼部分のみを壊したとなれば、それはもう喧嘩を売ったも同然だ。
たとえ、こちらが預かり知らぬことでも。
これは拙い。世間的にはこちらから、けしかけたことになってしまう。戦争なんて、起こした方が悪く見られるのは必然だ。
なんとか回避しなければならないのだけれど…
もちろん、すぐさま杖の修繕、もしくは復元を提案した。錬金術を使えば、いくら繊細だといってもできるだろうと。
答えはアウトだった。修復も復元も可能であるが、その事実はたちどころに、製作者であるマクミランには見破られてしまうだろうとのこと。
そうなのだ。創った者独自の、複製防止術というものがあるのだ。生成されたここの紙幣なんて、贋物が混ざると本物が発光する仕組みになっている。それにそんなことをしなくても、自分が作ったものは判別できるだろう。美術品の贋作鑑定と同じで。
とにかく、下手な工作は事態を悪化させるだけのようだ。
ならばもう、業腹でも馬鹿正直に謝罪するしかないのだが、これも却下であるらしい。
どんなに平謝りしても、激昂したフリをしたマクミラン王は、山脈の所有権を放棄しない限り引くことはないだろうとのこと。
狡猾な奴である。ちなみに惚けて前者、つまり復元の手を使っても、この結果というわけだ。
そう。残された選択肢は二つ。戦争か、山脈所有権の放棄か。
だけど御三家の答えは、この二つとも「あり得ない」だった。
そこで今夜の、この面子。
「フルルクス、術式の組み立てにどのくらいかかる?」
「できるだけ日数の誤差を減らしたい。…十日弱ってとこか。可能な限り、縮めるつもりだが…」
「上手く持ち帰ったとして、アケイル次第だねえ~」
「アケイルならば、問題なくやれると言いたいところだが…期間によっては時間勝負になる。綱渡りは覚悟だな」
「そもそもが綱渡りだろ。シロガキ、まずはお前にかかってる。解ってんだろうな?」
「難儀だね~。頑張れ、シロ」
「……そう、ですね」
苦笑い。なんの因果でこんなこと?
女神の杖が壊れていた。
そう聞いて私はすぐに、誰かが両国の和平にひびを入れようと目論み、壊したのだろうと考えた。これで合点がいった。私を呼んだのは、事が事だけに内密に犯人を捜しだせとの命を下すためだろう、と。
だけど違った。それだけなら、この面子が雁首を揃える必要はないのだ。
カランと、手にしたグラスの氷が音を立てる。冷たいだけで、美味しくもないし酔えもしないのだが、飲まなければやってられない気分である。これからのことを考えると、頭を抱えたくなってくる。
夜中の会合は佳境入りしていた。
「初めから、一定期間後に壊れるように創られていたんだよ」
「今、アケイルに調べてもらっている。どのくらいの期間、その形を保っていたか。そこが重要だ」
「後生大事にしまっておくからそうなるんだ。玉座のヘリにでも、突き刺しておけってんだ」
「それはできない相談だ。言っただろう?繊細な造りだ、そんなことをしたらそれこそ傷を付けかねん。それに、俺はあの男に良い感情を持っていない。どれほど素晴らしい芸術作品でも、毎日眺める気にはならないな。それは先代も、同じだったはずだ」
「そこまで計算してのことだよ。どうせ宝物庫の奥にしまい込まれるって、アイツは知ってたんだ。なにせ、先の王はお前より分かりやすく嫌ってた」
「そう仕向けた。今思い出しても、結構な態度だった」
「…ったく。厄介なことをしてくれる。お陰でこっちは、しばらく寝る間も惜しむ羽目かよ。クソ陰険王が」
「はあ……」
深い、とても深いため息がこぼれた。まったくだ。どんな奴か知らないけれど、マクミラン王が迷惑な人であるのは確かである。
とんでもない話になった。
夜が更ける。話は煮詰まる。
話はこうだ。マクミラン王は山脈の恩恵を、二国間で平等に分け合う気は更々なく、恒久的に自国のものにしたい。つまり、戦争を起こして奪い取りたいと思っている。
戦争を起こすには、大義名分がいる。そこでこの杖騒動。あちら様が親睦の証として贈った世に二つとない品をこちらが無惨に、それも平和の象徴を殊更強調した翼部分のみを壊したとなれば、それはもう喧嘩を売ったも同然だ。
たとえ、こちらが預かり知らぬことでも。
これは拙い。世間的にはこちらから、けしかけたことになってしまう。戦争なんて、起こした方が悪く見られるのは必然だ。
なんとか回避しなければならないのだけれど…
もちろん、すぐさま杖の修繕、もしくは復元を提案した。錬金術を使えば、いくら繊細だといってもできるだろうと。
答えはアウトだった。修復も復元も可能であるが、その事実はたちどころに、製作者であるマクミランには見破られてしまうだろうとのこと。
そうなのだ。創った者独自の、複製防止術というものがあるのだ。生成されたここの紙幣なんて、贋物が混ざると本物が発光する仕組みになっている。それにそんなことをしなくても、自分が作ったものは判別できるだろう。美術品の贋作鑑定と同じで。
とにかく、下手な工作は事態を悪化させるだけのようだ。
ならばもう、業腹でも馬鹿正直に謝罪するしかないのだが、これも却下であるらしい。
どんなに平謝りしても、激昂したフリをしたマクミラン王は、山脈の所有権を放棄しない限り引くことはないだろうとのこと。
狡猾な奴である。ちなみに惚けて前者、つまり復元の手を使っても、この結果というわけだ。
そう。残された選択肢は二つ。戦争か、山脈所有権の放棄か。
だけど御三家の答えは、この二つとも「あり得ない」だった。
そこで今夜の、この面子。
「フルルクス、術式の組み立てにどのくらいかかる?」
「できるだけ日数の誤差を減らしたい。…十日弱ってとこか。可能な限り、縮めるつもりだが…」
「上手く持ち帰ったとして、アケイル次第だねえ~」
「アケイルならば、問題なくやれると言いたいところだが…期間によっては時間勝負になる。綱渡りは覚悟だな」
「そもそもが綱渡りだろ。シロガキ、まずはお前にかかってる。解ってんだろうな?」
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