白雪日記

ふたあい

文字の大きさ
90 / 140
二年目

転寝月1日(3)

しおりを挟む
 すべてはマクミラン王の策略であると、主上たち白銀城御三家ーーまた変なあだ名を付けてしまったーーは言い切った。
 
 女神の杖が壊れていた。

 そう聞いて私はすぐに、誰かが両国の和平にひびを入れようと目論み、壊したのだろうと考えた。これで合点がいった。私を呼んだのは、事が事だけに内密に犯人を捜しだせとの命を下すためだろう、と。

 だけど違った。それだけなら、この面子が雁首を揃える必要はないのだ。

 カランと、手にしたグラスの氷が音を立てる。冷たいだけで、美味しくもないし酔えもしないのだが、飲まなければやってられない気分である。これからのことを考えると、頭を抱えたくなってくる。

 夜中の会合は佳境入りしていた。

「初めから、一定期間後に壊れるように創られていたんだよ」
「今、アケイルに調べてもらっている。どのくらいの期間、その形を保っていたか。そこが重要だ」
「後生大事にしまっておくからそうなるんだ。玉座のヘリにでも、突き刺しておけってんだ」
「それはできない相談だ。言っただろう?繊細な造りだ、そんなことをしたらそれこそ傷を付けかねん。それに、俺はあの男に良い感情を持っていない。どれほど素晴らしい芸術作品でも、毎日眺める気にはならないな。それは先代も、同じだったはずだ」
「そこまで計算してのことだよ。どうせ宝物庫の奥にしまい込まれるって、アイツは知ってたんだ。なにせ、先の王はお前より分かりやすく嫌ってた」
「そう仕向けた。今思い出しても、結構な態度だった」
「…ったく。厄介なことをしてくれる。お陰でこっちは、しばらく寝る間も惜しむ羽目かよ。クソ陰険王が」
「はあ……」
 深い、とても深いため息がこぼれた。まったくだ。どんな奴か知らないけれど、マクミラン王が迷惑な人であるのは確かである。
 とんでもない話になった。

 夜が更ける。話は煮詰まる。

 話はこうだ。マクミラン王は山脈の恩恵を、二国間で平等に分け合う気は更々なく、恒久的に自国のものにしたい。つまり、戦争を起こして奪い取りたいと思っている。
 戦争を起こすには、大義名分がいる。そこでこの杖騒動。あちら様が親睦の証として贈った世に二つとない品をこちらが無惨に、それも平和の象徴を殊更強調した翼部分のみを壊したとなれば、それはもう喧嘩を売ったも同然だ。
 たとえ、こちらが預かり知らぬことでも。
 これは拙い。世間的にはこちらから、けしかけたことになってしまう。戦争なんて、起こした方が悪く見られるのは必然だ。

 なんとか回避しなければならないのだけれど…

 もちろん、すぐさま杖の修繕、もしくは復元を提案した。錬金術を使えば、いくら繊細だといってもできるだろうと。
 答えはアウトだった。修復も復元も可能であるが、その事実はたちどころに、製作者であるマクミランには見破られてしまうだろうとのこと。
 そうなのだ。創った者独自の、複製防止術というものがあるのだ。生成されたここの紙幣なんて、贋物が混ざると本物が発光する仕組みになっている。それにそんなことをしなくても、自分が作ったものは判別できるだろう。美術品の贋作鑑定と同じで。
 とにかく、下手な工作は事態を悪化させるだけのようだ。
 ならばもう、業腹でも馬鹿正直に謝罪するしかないのだが、これも却下であるらしい。
 どんなに平謝りしても、激昂したをしたマクミラン王は、山脈の所有権を放棄しない限り引くことはないだろうとのこと。
 狡猾な奴である。ちなみに惚けて前者、つまり復元の手を使っても、この結果というわけだ。
 そう。残された選択肢は二つ。戦争か、山脈所有権の放棄か。
 だけど御三家の答えは、この二つとも「あり得ない」だった。

 そこで今夜の、この面子。

「フルルクス、術式の組み立てにどのくらいかかる?」
「できるだけ日数の誤差を減らしたい。…十日弱ってとこか。可能な限り、縮めるつもりだが…」
「上手くとして、アケイル次第だねえ~」
「アケイルならば、問題なくやれると言いたいところだが…期間によっては時間勝負になる。綱渡りは覚悟だな」
「そもそもが綱渡りだろ。シロガキ、まずはお前にかかってる。解ってんだろうな?」
「難儀だね~。頑張れ、シロ」
「……そう、ですね」
 苦笑い。なんの因果でこんなこと?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...