白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月34日

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 三日ぶりに通常勤務に戻った昼下がり、久々に主上に稽古をつけてもらった。

 協約改定を無事終えて、時間に余裕ができたらしい。秘密の抜け道から王の私庭に入り込んだのは、いつ以来だろう?
 三十分ほど剣を交え一段落したところで、室内に招じられる。そこには、ガラスケースに納まった、両の翼を広げる女神の杖が置かれていた。寝かせられているため、応接テーブルの上を独占している状態だ。

 因縁の品と、ご対面させてやろうというわけである。

「これは…奇麗、です」
 思わず前屈みになり、ガラスケースに顔を近付け呟いた。神々しく、銀色に輝く女神が微笑んでいる。片側の翼は、八年間に生成された部分より、さらに繊細な造りのよう。
「そうだな。公言通りマクミラン王は、残りの翼を製作して会談に臨んでいたわけだ。なにもかも予定通りという涼しい顔をして、女神の背に片翼を授けてくれた」
「……まったく驚くことなく、ですか?」
「一瞬だけ、目を見開いたのは見逃さなかった。だが、それだけだ」
「…なんだか、悔しいですね」
「ああ。まったくだ」
「期待していたのですが…。もう少し、リアクションがあると…」
 ガラスケースの女神から、視線を逸らさないままぼやく。主上の苦笑が、透明なケースに映って見えた。
「だが、当面の危機は脱した」
「そう…ですね」
 主上に表情を見られたくなくて、杖を覗き込むようにうつむく。当面の危機は脱したーー本当に?

 私の心は、一向に晴れる気配がないというのに?

 目の前にある不安という深淵。埋めても、埋めても、塞がらない感覚に陥っていた。なんなのだろう?フッと小さな溜息が漏れる。

 不意にぽんっと、頭の上に大きな手が乗せられた。

 驚いて顔を上げる。
「……さて、稽古の続きだ。そろそろ俺から一本取ってもいい頃だぞ?『白狼』」
 わしゃわしゃと私の白い髪を搔き回し、主上が笑ってそう言った。肩口まで伸びていた髪がまとわりつき、顔をくすぐる。

 そろそろ、髪を切ろうかーーそれとも、このまま伸ばそうか。

 どうでもいいことが、思い浮かんだ。
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