白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月35日(1)

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 あ、美味しそう。皿に手を伸ばす。

 親衛塔での昼食時、隣のカクカがフォーク片手に言った。
「お前、本当に馬鹿正直に城から外へ出なかったんだな」
 ダルメブタ香草焼き蒸しパンサンドを頬張りつつ、コクコクと頷く。美味しい。だけど…照り焼き味が恋しい。しばし咀嚼し、口の中を空にして言葉を返した。
「そう云われていたから。万が一にも、南の人の目につかないようにって。どんな感じの人たちだった?」
「どんなって…別に俺たちと大差ねえよ。違いと言えば、ま、ちょっと派手な奴らだったってくらいか?マントやコートに、やたら金ピカの装飾が付いてたな」
「ふーん?マクミラン王は?見た?」
「おう、見た見た」
「どんな人だった」
「それがよ…」
 チラリと、向かいに座り黙って食事していたギィを、カクカが見やる。
「え?」
「……似てないことも、ないよなあ」
「なにが言いたい?」
 ここまで黙っていたギィが、カクカをギロリと睨んだ。
「……似てたの?レヴン班長に??」
 思わず尋ねる。
「あー?顔は全然。でも、なんていうか雰囲気が。あくまで俺から見てだけどな。けど…いけ好かなそうなとこなんか、特に…」
「どういう意味だ?」
「いや、だからよ…」

 失笑。なるほど、つまりーー

「女の人にモテそうな人だったんだ?」
「そう!あと、掴み所のなさそうな感じも。……ギィがオッサンになったら、あんな感じになるんじゃねえか?」
「心外だ。男と同じにされては堪らん」
 そう言って、ギィはカクカを小突く。
「痛えっ」
 カクカは小さく、不平を口にした。
、なんて人だったんですか?」
「……終始にこやかな表情で物腰も柔らかだったが、口を開けば野心を覗かせ、周囲の反応を楽しんでいるーーそんな男だ。五分も会話すれば、神経がささくれ立つこと請け合いだ」
「……そう、ですか」

 手にできたマメを見た。

 昨日、主上はずいぶん熱心に稽古をつけてくれたが…ひょっとして、鬱憤晴らしだったのでは?
 ううむ。午後から護衛に付くし、ちょっと訊いてみようかなーーそんなことを思いながら、ひょいと目の前のカップを持ち上げ口に付ける。

 ーースープを一口、飲み込むのと同時だった。

「たっ、大変です!」
 叫びながら転がり込むように、三年先輩に当たるベルが食堂に入ってきた。
「どうした?」
 ギィが席を立つ。
 ベルは、息も切れ切れに言った。
「陛下が…陛下が!死神に斬られました!」

   ✢

 どこをどう通ったのか、覚えていない。思い返せば正確に辿れるのだろうが、今はそんなことできそうにない。私たちは城の奥、主上の寝室にいた。
 師匠がベッド脇にいた。周りには他に、医師が三人。天蓋が邪魔をして、主上の姿は見えない。だけど、シーツが血に染まっているのは嫌でも見えた。
「大丈夫か?真っ青だぞ?」
 隣で問うギィの顔も、真っ青だった。
「あの…一体、どういう…?」
 あまり、大丈夫ではない。まさか、そんな…主上が斬られた!?
「嘘だろ…」
 ギィの隣で、カクカが呆然と呟く。

 バタンッと派手な開閉音がして、フルルクスが入ってきた。

「一体全体、どういう次第だ?」
「静かに。仕事にかかりなよ」
 怒鳴りに近い声を上げたじっ様に、師匠が返す。
「……分かった」
 苦々しく了承したかと思うと、じっ様はベッドの足元側に座り込んで、なにやら術式を綴り始める。そして、今度は静かに問うた。
「で、容態は?」
「なんとも言えない。傷が深すぎる」
 隣のギィの顔が、今度は白くなったように見えた。今、私の顔色はどんなふうになっているのだろう?

 主上にもしものことがあったら…いいや!そんなはずは…

 重苦しい空気が流れた。師匠はひたすら、右手をベッドに向けてかざしていた。よく凝らして見ると、うっすらと青く光る文字列が、天蓋の中で球体を形作り回っている。初めて見る術式の形態だった。
 じっ様は床に術式を綴り続け、それは魔方陣の形となり始めていた。
 そのうちに、じっ様が言った。
「条件はベッドから半径一メートル以内への侵入者だ。ライトリィ、出るなよ。入れなくなる。他の奴は、一旦出ろ。必要なものは放り投げればいい」
 三人の医者がわらわらと、ベッドから距離を置く。術式が完成した。
「つまり、後は僕にすべて掛かってるってわけだ」
 師匠が口の端を上げる。
「軽口叩く余裕があるなら、なんとかしろ」
「なんとか…してみせるよ。是が非でも」
「そうしろ」
 息を吐き、室内を見回すじっ様。医者や私たちの他に、要職の執政官たちが一同に揃っていた。それらを確認してから、続く言葉を口にする。
「聞いての通りだ。ベッドには近付くなよ。牢屋へ直行だ」

 ああ。そういうことか。今、主上のベッド周りに条件召喚をかけたのだ。

「ドウがここへ来るってのか!?」
 その意味を悟ったカクカが喚く。ようやく頭へ血が巡り始めたよう。
「念のため、だ。これだけの警備の中、ノコノコやって来る阿呆とは思えないがな」
 じっ様が答える。
「嘘だろ…」
 カクカが、先程と同じ言葉を呟いた。
 確かに。ここへ来るとは思えない。だけど一方で、標的である主上はまだ生きている。顔を見られている可能性も。奴にしてみれば、このまま放っておけない事態である。

「シロガキ」

 不意に呼ばれた。
「は、はい?」
 驚いて目を向けると、じっ様が私を見ていた。
「お前…そんな調子で、護衛が務まるのか?」
「え…?」
「丁度いい。お前、カリメラ・ハルベラとは親しかったよな?」
「え?カリメラ?」
「わりいな、借りてくぞ」
 ギィに向けてそう言うと、じっ様は私の手を引きさっさと部屋を後にしようとする。え?一体、どうなっている?戸惑いながら振り向くとーー
 小さく笑って、ギィは了解のサインに、片手を軽く上げていた。
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