白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月36日(1)

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 明け方まで主上の寝室に立ち続け、交代した。

 一睡もしていない。クタクタだったが、目は異様に冴えていた。
 一晩、ずっと考えていた。頭を覆っていた布を外したフルルクスの後ろ姿が、思考から離れなかった。

 そして今、疾走している。

 八年前、南の闇商人に雇われていたことと、マクミラン王が接触を図ろうとしたことから、ドウの拠点が南であるのは明らかだと思う。
 そのドウが八年ぶりに、城下へ現れた。奴はまだ、依頼された仕事を完遂していない。主上は生きている。

 死神はーーまだこの街にいる。

 じっ様が髪を晒した、その意味は?あの、ちょっとばかり人目を引く髪で、外をうろついているのか?ドウが潜伏しているというのに…。
 いや、ドウがいると思うからなのでは?じっ様は自らの手で、決着をつけるつもりなのでは?

 そんな考えが消せなかった。今ではどんどん、強まっている。

 焦る気持ちを押さえつけ、早朝の街中を駆け回った。早く…早く、じっ様を見つけなければ。
 予想を裏切ることなく、家にはいなかった。城内も出る前に心当たりを回ったけれど、やっぱり見つけられなかった。
 じっ様、どこに行ったんです?もし、ドウが八年前のことを覚えていて、その姿を見たらーー

 考えたくなかった。たとえそれが、じっ様の意図することだとしても。

 見つからない。刻々と時間が過ぎてゆく。日は高くなり、人通りも増えてゆく。いい加減にしろ!出てこい!フルルクス・シン!
 ふと思いつく。
 確か…惨劇のあったゲード邸は、今も誰も住むことなく、城の管理下に置かれている。書類管理室に行った際、それも確認していた。
「まさか…?」
 呟く。

 方向転換。あそこはミリ・オヴリが亡くなった場所ーーゲード邸に足を向けた。

 門の前に立ち、屋敷を見上げた。ゲード邸の佇まいは、八年前となんら変わっていないように見える。静かだ。真っ赤な記憶が蘇り、寒気がした。
 辺りを窺う。人の気配はない。門構えを飛び越え、敷地内に侵入した。そして玄関の扉に手をかける。
 扉は静かに開いた。
 鍵がかかっていない?何故?人の気配は変わらずない。訝しりながらも、思いきって一歩中へ足を踏み入れた。するとーー

 視界が歪んだ。

 え?また、コレ?

   ✢

 乾いた風が頬を撫でた。
「え?ここは…?」
 左右に首を振り、景色を確認する。

 まったく知らない場所。

 見える範囲、崩れ去った建物の残骸と瓦礫の山ばかり。寒々しい。ずいぶん寂しいところである。
 こんな場所があるなんて。少なくとも、城下の周辺ではない。

 そこは、いわゆる廃墟だった。

「お前が…何故、ここに?」
 背後で声が上がって、力いっぱい、振り向いた。
「じっ様!探したんですよ!」
 思わず叫んでしまった。振り向いた先に、探し人の姿を見つけて。
 いつもと違うあらわになった髪に僅かに眉をひそめるも、間違いなくフルルクスである。安堵して駆け寄った。
「探した?……それで、どこをどう通って、ここまで来た?」
 じっ様がこちらを睨む。
「え?どこって…」
「ゲードの屋敷に、入ったか?」
「あ、はい。以前あそこでドウが…ーー」

 ハッとして、じっ様を凝視した。

「なんだ?」
 条件召喚ーー何故そんなものが、ゲード邸で組まれていた?それは…
「やっぱり…一人で決着させるつもりだったんですね?」
「……いきなり出てきて、なにを言いやがる?」
「惚けないでください」
「うるせえ。なんのつもりか知らねえが、とっとと帰ーー」

 突然、じっ様が言いかけた言葉を呑んだ。

「じっ様?」
 目を見張る。みるみるうちに、険しかったじっ様の表情が消えていく。

 ひっそりと。

 第三者の声がした。

「一度、会ったことがあるな…」
 穏やかな声だった。
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