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二年目
転寝月36日(2)
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声の主を追って視線を移すと、少し離れた背後ーーつまり、先ほど私が現れた場所に、一人の男が剣を手に立っていた。
なんてことのない、普通の男。中肉中背、栗色の髪に無精髭を生やした、四十絡みのどこにでもいそうな…
気配はなかった。突如現れたのだ。それは、ゲード邸から召喚されて、ここにいるということ。
今、このタイミングでここに現れる、それは多分ーー
「ようやく顔を拝めたな。死神」
じっ様が言った。
ドウはなにも言葉を返さない。ただ揺れた、ように見えただけ。けれどそう思った時には、私たちの目前まで間合いを詰めていた。
「じっ様!」
「逃げろ!」
叫び声を同時に上げるとともに、私とじっ様は左右に散る。
ドウは迷わず私を標的と定めたようで、手にしていた細い刀身が、こちらへ向けられていた。
弱い方から確実に、ということか。
剣を抜き応戦しかけたその時、私と死神の間を遮るように稲光が走った。
「さっさと行け!」
怒鳴るじっ様。
稲光が立て続けに二本走って、私とドウの距離が開く。そこへじっ様が飛び込んで、二段蹴りを繰り出した。
更に距離が開いた。
さらりとじっ様の蹴りを躱すドウに、イライラが募る。ああ!もう!アレを躱すのか?あの二段目は、私も避けられないっての!腹の立つ死神だ。
じっ様は黒魔術を駆使して、上手くドウとの間合いを取り、攻撃を仕掛ける。死神の標的を、私から自身に切り替えさせるのに成功していた。
何故あの男は物騒にも普段から、腕に雷の術式を刻んでいるのだろうという疑問がこれで解けた。いつ如何なる時でも、臨戦態勢に入れるよう準備していたのだ。
だけど…拙い。
じっ様の旗色は悪くなる一方である。間断なく動いているため術の狙いが定まらず、徐々に間合いを詰められている。
「馬鹿野郎っ!早く行け!」
攻防を続けながら、じっ様が再び怒鳴る。こんな状況で、人の心配をしている場合か?ああっ!それ見たことか、腕を斬られた。動きとともに、血が飛び散る。今度は反対の腕も。どちらも致命傷とまではいっていない。だけどこのままでは、確実に追い詰められる。出血が半端ない。
じっ様か一瞬グラつき、ドウがその隙をついた。あわや、ザックリ袈裟斬りというところ、割って入って死神の剣を止めた。
キンッと、刃のぶつかる音が響く。
「このっ、阿呆がーー」
「フルルクスッ!」
怒鳴り声に被せて叫んだ。ドウの剣をいなし、飛び退き間合いを取りながら。
どうかーー
刹那、稲光が横を走る。
通じてた!
踏み込む。
ドウが雷を避けながら、間合いに飛び込んでくる。
ありがとう、じっ様。これなら、互角のタイミングだ。
解っていた。
私の実力では、この死神に遠く及ばないということは。師に当たる主上でさえ斬られたのだ。まともに斬り合って勝てるわけがない。
よく「肉を切らせて、骨を断つ」などと言うけれど、私とドウの実力差はそれでも埋められない。なにせ、肉と切ると同時に骨も断つような奴なのだ。
やるならば…「骨を断たせて、骨を断つ」しかない。
剣を握る手に力を込め、胸に体内の星の雫を集めるイメージを描く。
この奥の手、使いたくなかったなあ…
「シロッ」
じっ様の声が響くと同時に、刃が胸に食い込む感触。そしてーー手にした己が剣からも、確かな手応えの感触がした。
この瞬間がーー
とても大事。
それにしても、嫌な……とても嫌な感触だ。……まったく。条件召喚を組むなら、牢屋へ飛ばしてくれればいいのに…
ーー意識が遠退く。
……駄目だな。死神の顔を知らなかった。惚けられたら、証拠不十分で逃げられる可能性がーー
ーー視界が霞む。
「…………ーーっ」
……じっ様がなにか言っている。すごく怒っているようだ。わざわざ覗き込んで、こちらに険しい顔を向けている。そこまでして怒らなくても……
……眉間の皺がかなり深い。
…………ああ、そう言えば…確か爺様が初めて会った時に……こんな…顔して……
「……ーーっ」
…………え?なに?聞こえ……ない…
大丈夫ですよ?
……私はーー……
なんてことのない、普通の男。中肉中背、栗色の髪に無精髭を生やした、四十絡みのどこにでもいそうな…
気配はなかった。突如現れたのだ。それは、ゲード邸から召喚されて、ここにいるということ。
今、このタイミングでここに現れる、それは多分ーー
「ようやく顔を拝めたな。死神」
じっ様が言った。
ドウはなにも言葉を返さない。ただ揺れた、ように見えただけ。けれどそう思った時には、私たちの目前まで間合いを詰めていた。
「じっ様!」
「逃げろ!」
叫び声を同時に上げるとともに、私とじっ様は左右に散る。
ドウは迷わず私を標的と定めたようで、手にしていた細い刀身が、こちらへ向けられていた。
弱い方から確実に、ということか。
剣を抜き応戦しかけたその時、私と死神の間を遮るように稲光が走った。
「さっさと行け!」
怒鳴るじっ様。
稲光が立て続けに二本走って、私とドウの距離が開く。そこへじっ様が飛び込んで、二段蹴りを繰り出した。
更に距離が開いた。
さらりとじっ様の蹴りを躱すドウに、イライラが募る。ああ!もう!アレを躱すのか?あの二段目は、私も避けられないっての!腹の立つ死神だ。
じっ様は黒魔術を駆使して、上手くドウとの間合いを取り、攻撃を仕掛ける。死神の標的を、私から自身に切り替えさせるのに成功していた。
何故あの男は物騒にも普段から、腕に雷の術式を刻んでいるのだろうという疑問がこれで解けた。いつ如何なる時でも、臨戦態勢に入れるよう準備していたのだ。
だけど…拙い。
じっ様の旗色は悪くなる一方である。間断なく動いているため術の狙いが定まらず、徐々に間合いを詰められている。
「馬鹿野郎っ!早く行け!」
攻防を続けながら、じっ様が再び怒鳴る。こんな状況で、人の心配をしている場合か?ああっ!それ見たことか、腕を斬られた。動きとともに、血が飛び散る。今度は反対の腕も。どちらも致命傷とまではいっていない。だけどこのままでは、確実に追い詰められる。出血が半端ない。
じっ様か一瞬グラつき、ドウがその隙をついた。あわや、ザックリ袈裟斬りというところ、割って入って死神の剣を止めた。
キンッと、刃のぶつかる音が響く。
「このっ、阿呆がーー」
「フルルクスッ!」
怒鳴り声に被せて叫んだ。ドウの剣をいなし、飛び退き間合いを取りながら。
どうかーー
刹那、稲光が横を走る。
通じてた!
踏み込む。
ドウが雷を避けながら、間合いに飛び込んでくる。
ありがとう、じっ様。これなら、互角のタイミングだ。
解っていた。
私の実力では、この死神に遠く及ばないということは。師に当たる主上でさえ斬られたのだ。まともに斬り合って勝てるわけがない。
よく「肉を切らせて、骨を断つ」などと言うけれど、私とドウの実力差はそれでも埋められない。なにせ、肉と切ると同時に骨も断つような奴なのだ。
やるならば…「骨を断たせて、骨を断つ」しかない。
剣を握る手に力を込め、胸に体内の星の雫を集めるイメージを描く。
この奥の手、使いたくなかったなあ…
「シロッ」
じっ様の声が響くと同時に、刃が胸に食い込む感触。そしてーー手にした己が剣からも、確かな手応えの感触がした。
この瞬間がーー
とても大事。
それにしても、嫌な……とても嫌な感触だ。……まったく。条件召喚を組むなら、牢屋へ飛ばしてくれればいいのに…
ーー意識が遠退く。
……駄目だな。死神の顔を知らなかった。惚けられたら、証拠不十分で逃げられる可能性がーー
ーー視界が霞む。
「…………ーーっ」
……じっ様がなにか言っている。すごく怒っているようだ。わざわざ覗き込んで、こちらに険しい顔を向けている。そこまでして怒らなくても……
……眉間の皺がかなり深い。
…………ああ、そう言えば…確か爺様が初めて会った時に……こんな…顔して……
「……ーーっ」
…………え?なに?聞こえ……ない…
大丈夫ですよ?
……私はーー……
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