白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月45日

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 まる二日、生死の境をさまよったらしい。そして、そこから意識を取り戻すのに二日、朦朧と更に四日費やした。

 まだ起き上がれない。体が動かない。だけど意識は、ハッキリしていた。
 枕元で声がする。動けずひたすら天井を眺めている状態なので、その姿は見えない。声で誰かは判別できるのだが。
「あのさ、君たちは僕を過労死させたいの?」
 師匠が言った。
「すまん」
 これは主上。
「まったく、立て続けに殆ど死体を治療しろなんてさ、言われる方の身になってくれよ。フルルクスはフルルクスで、両腕ザックリ切れたまま、骨が覗いている状態だったし」
「そのフルルクスはどうしている?」
「屋敷に閉じこもってるよ。自粛のつもりなのかな?自分の勝手が元で、シロが死にかけたわけだし」
「違います」
 思わず口を出した。

 う。傷に響く。声を出しただけなのに、結構キツい。

「シロ?声、出せるの?」
「はい…。あの…主上は起き上がって…大丈夫なんですか?」
「ん?ああ。傷は痛むが問題ないーーっつ。笑うと響くな」
「普通は起きないよ。それよりさ、違うってなにが違うの?」
「初めから…死神は…私が斬るつもりでした」

 そう。

 もし、再び死神が現れたなら、私は自分が斬るつもりでいた。
 何故かって?それはーー

 奴の太刀筋を、この目で見ていたから。

 八年前、私とじっ様は召喚でドウの刃を逃れた。あの瞬間、奴はじっ様に刃をスレスレのところまでつけていた。あれはまさに、間一髪だった。
 そしてその結果、奴の一連の動きは記憶に焼き付いた。これは私が掴んだ、僅かな、唯一の、誰も死なせない勝機。あの死神には、誰かが犠牲にならなければ、太刀打ちできないだろう勘が働いていた。
 もちろん一人では、到底無理だと解っていた。主上かじっ様に、援護を頼むつもりでいた。すでに奥の手のための、術式を胸に刻んであった。

 今回のこの結果は、図らずも私の思惑通りとなっていたのだ。まさか、あんな形でドウと対決することになろうとは、思っていなかったけれど。

「大きく出たな」
 主上が呆れた口調となった。
「一人で対峙する気は、ありませんでしたよ」
「それにしたって強気だね。陛下ですら、斬られたってのにさ。特別に勝算があったとしか思えないけど?」
 師匠の返しにギクリとする。まさか、太刀筋を知っていたなんて、言えない…
「その…なんとなく…なんとかなる気がして…」
 適当に濁すしかないのだが、絶対になにかあるというのは感づかれているだろう。相手が悪い。
「そうなのか?」
「はい」
「……うーん?これ以上は訊いても無駄かな?」
 師匠の言葉が、後ろ暗さのため一段と含みがあるように聞こえる。
「……そのようだな」
 苦り切った主上の声。

 やっぱり、感づかれている。

「ということで、陛下。そろそろベッドに戻ってくれない?それともホントに死にたい?」
「勘弁してくれ。シロの様子が気になったんだ。これで満足した。もう戻る」
「そうそう」
「ああ。だが……その前に、一つだけ訊きたいことがある」
 主上が私の視界に入る位置に、移動し立った。
「まだあるの?」
 渋る師匠。
「シロ」
 主上の顔色は、良好とは言えない。
「はい…」
「どんな手を使って、一命を取り留めた?」

 あ、裏ワザを使ったこと、バレている?

「なんでそう思うのさ?自分じゃなくて、シロが死神を倒したの、そんなに悔しい?」
 師匠が茶化した。
 主上は苦笑して、少し顔を歪めた。傷が痛んだらしい。
「シロの傷の具合を、医師に聞いた。それに、ドウの傷の様子も。……俺の見立てでは、殆ど死体を通り越し、シロ死んでいるはずだ」
「さすがですね。実は…白魔術を使ったんです」
 口の端を上げて答えた。痛い。苦笑しただけなのに、やたらと傷に響く。
 よく生きていたな。我ながら思う。
 見れば主上も胸を押さえている。同じように傷が痛むのだろう。裏ワザを使って生き延びた私と、なにもしないで一命を取り留めた主上。

 これが私たちの実力差である。

 ドウと斬り合ったあの瞬間、私は白魔術を発動させた。と言っても、そんな高度な術ではない。
 頭の巡りの悪い私でも使える、擦り傷、切り傷を治すだけの初歩の術を。だけど、一見単純なこの術は、発動するタイミングを上手く計ると、首の皮一枚を繋げてくれる効果が得られる。
 斬られる瞬間を、ピッタリ捉えなければならなかった。斬ると同時に、気持ち塞ぐという理屈だ。これ、一瞬でもズレればアウト。早ければ発動しないし、遅ければ手遅れとなる。
 普通に考えて、そんなタイミングを実戦中に計れるものではない。けれど、超感覚を持つホムンクルスならば、それを可能とする。おそらく私にしか使えないだろう、奥の手だ。

 ……使いたくなかったなあ。斬られる前提、死にかけるのが分かっている技だもんなあ。

「ーーって、必殺技なんだよ」
 師匠が言葉を切った。
 傷の痛む私に代わって、主上に説明してくれたのだ。もっと難しい言葉を使ってだったけれど。
「ライトリィ…お前は、そんな危険な術の使い方をシロに教えていたのか?」
 主上が、心底呆れたという表情をしている。
「なに言ってんの。それで事なきを得たんでしょ?」

 ……この事態を、事なきを得たと言っていいのだろうか?
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