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二年目
雨月1日(2)
しおりを挟む耳の痛い話である。痛手を負ったのは、相手の女性の方ではなかろうか?確かに、姿を偽ったのは悪い。だけど…
ーー中身が同じなら、シロでもクロでも構わない。
少なくとも、フルルクスはそう思ってくれた。外見は関係ないと。
図書室襲撃事件の後にじっ様が話してくれたことを思い出すと、今でも胸が痛んで泣きそうになる。
じっ様はまず、自分が話そうとしていた内容の殆どを、私が話したと言った。どうやら、クロのことを話そうとしていたらしい。その上で、クロには話していなかったことを語ってくれた。
それは、ミリ・オヴリがすべてのきっかけをくれた恩人であったこと。
じっ様はミリさんが彼の子供に接する姿を見て、陽月下を辞する決意をした。何故、両親は生まれたばかりの自分を捨てたのか?ーーその時、初めて知りたくなったのだそうだ。
捨て子であったというのも初耳だったので、まずそのことに驚かされたのだが、それはさておき、陽月下を辞めたじっ様は時空間の召喚研究を始めた。
それが、すべての始まり。
過去へ跳び、両親に会うことを願ってーーすでに亡くなっていたことは、知っていたらしいーーじっ様は召喚術の研究に没頭した。いつしかその願いは、知らなくていいことだと、不要になったけれど、研究は無駄にはならなかった。
疫病に苦しむ人を救えた。そしてなによりーー
私の助けになった。
ずっと引っ掛かっていた。爺様の筆頭召喚術師としての、在任期間の長さ。何故、七年もの間、過去の自分を時空の狭間に追いやってまで、現在に残っていたのか。それは…もしかしてと思いつつも、考えないようにしていたこと。
それはーー私のため。
ディルモア・ノーツは天才だった。奴の組んだ術式を、現在のフルルクス・シンでは組み替えられないことを、爺様は知っていた。だから…
「ディトレット?」
隣のケルマン大将が、不思議そうに私を見ていた。
「あ…すみません。少し…考え込んでしまって」
大将と話の途中であった。すっかり、意識を飛ばしてしまっていたようである。
「考え込む?」
「……その…ササン大将と相手の人のことを…。なんだか、悲しい話だなって…」
「悲しい?貴公はそんなふうに思うのか?」
「はい」
悲しいと思う。もし、今聞いただけの話で、二人の関係が壊れたのだとしたら。
再び意識を、あの日に戻す。
じっ様は話を続けるうちに、どんどんバツの悪い顔になっていった。
戸惑うほどに似ているとーーもちろん、見た目ではない。口調は丁寧なくせに、まったく遠慮のない物言い、それにまとう雰囲気がそっくりに見えていたーー思いながら、何故シロとクロが同一であると気付かなかったのか?自分自身に憤ったらしい。
それで、あの図書室の騒ぎが起こった。
まあ、思わず本棚を突いて(?)しまったほどの怒りの矛先の半分は、師匠に向けられていたようだが。どんな力の入れ方をして棚が倒れたのかは、今もって謎である。
それから、伝えてくれた。
八年も待ち続けたのは確かに、クロならばミリさんを殺した者たちの手がかりを持っているかもしれなかったから。けれど、別れ際に呼び止めたのは、純粋にもう一度、会いたいと思っただけだったことを。
そこまで濁し、悪態じみた言葉を織り混ぜながら口にして、そして…
ーー「だから、あの丘に行くのをやめた」のだと。
ーー「シロを取るなら、クロと会ってはならん。本気でそう思った」と。
更に気まずそうな表情になって、そう言ってくれたのだ。
真相を知ってしまえば、これほど滑稽な話はないのだけれど、私は泣かないではいられなかった。
クロに会わないと決めたのは、シロが大事だから。シロを大事にするためにそう決めたのは、クロの存在が大きかったから。
こんな話って、あるだろうか?
こんなーー
「しかし…」
首を捻るケルマン大将の声に、我に返る。
「はい?」
「何故、悲しいと思う?偽りがあって、決裂する。それは道理だと、俺は思うが?」
そうかもしれない。だけど…
「そうですね。それでも悲しいと思うのは、きっと…二人の仲が上手くいく方が、ずっと幸せだろうと思うから、なんだと思います」
「ディトレットは案外、夢想家のようだ」
大将が笑う。
「はい。そうみたいです」
私も笑った。
だって、そうでしょう?
すべてを知っても、フルルクスは私の手を取ってくれた。それがこんなにも嬉しいのだから。
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