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クリスマスの奇跡(R18
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今日は楽しいクリスマスだ。最近の秋尋様はお優しいので少し期待をしてなくもなかったけど、両親とクリスマスコンサートに行くのだと言って昼間から出かけていった。
シングルベルになるところを、平坂くんに誘ってもらって平坂兄弟が主催のクリスマスパーティに来ている。
ホームパーティのようなものと聞いていたのに、めちゃくちゃ豪華で人も多い。兄弟みんなが友人などを誘っているとのことで、年齢層はかなり幅広かった。
金井くんの彼女も初めて紹介してもらったんだけど……平坂くんに、そっくりだった。
「ぼくの姉なんだ」
なるほど。男子校生活なのに金井くんに彼女がいたのは、この繋がりだったか。
姉のほうが顔も振る舞いも、平坂くんより庶民的な感じがする。いや、そう感じるだけで、きっと学校では彼みたいに才色兼備なんだろうな。平坂くんも見た目に反してずいぶん気さくな性格をしているし。
「マキくんとうちの弟がお世話になってます」
金井くん、デレデレだ。お姉さんのほうもよほど惚れているのか、弟の前だというのに普通にベッタリしている。2人は挨拶だけして俺と平坂くんを残し、そそくさとどこかへ行ってしまった。
羨ましいくらい、仲いいなあ。歳も身長も離れてるし、ちょっと勇気がわくなあ。まあ、俺と秋尋様の問題はソコより性別にあるけど……。
「秋尋様はコンサートだって?」
「うん」
「でも秋尋様、今年は冬休みも家にいるんだろう?」
「そうなんだけどね。でも、クリスマスは俺にとって、ちょっと特別な日で……」
きらびやかなイルミネーションは遥か遠く、手を伸ばしても決して掴めないものだった。
俺と同じくらいの子が両親にプレゼントしてもらったサンタブーツを抱えながら嬉しそうに歩く。俺はそれを見ながら公園のベンチに座り、冷たくなった手をハァハァと息を吹きかけて温めていた。
しんしんと雪が降る。母親は俺を外に放り出したまま、新しい父親とデートに出かけてしまった。家にいても蹴ったり殴られたりするだけだから元から外にいることが多かったけど、真冬となれば話は別だ。着ているものだってボロボロで、目の前のものがすべて灰色に見えていた。
その日俺に手を差し伸べてくれたのが……秋尋様だった。
同情的な視線は向けられても、あの日まで俺に微笑んでくれる人は一人もいなかった。
ぼくとかえろう。
そう、犬でも連れ帰るみたいに冷えきった俺の手を引いてくれた。ついに天使がお迎えに来たのかと思った。
母親に笑いなさいよと怒鳴られて強制的に笑顔にさせられたことは何度もあったけど、俺はこの日、初めて自発的に笑った気がする。もっとも、上手く笑えていたかはわからない。
もし声をかけてきたのが変質者でも、俺はホイホイついてったろうから、本当に運が良かった。警察に保護されていなかったのが、今思えば不思議なくらいだ。
でも俺は秋尋様に出会うために産まれてきたからな……。きっと他の人が入る隙はなかったな。
「今日はね、秋尋様に初めて出会った日なんだ」
「へえ。クリスマスにだなんて、ロマンチックだね」
「運命的な出会いだった……」
俺に触れる手が優しくて。笑顔もとっても可愛くて。思い出すだけで、泣きたいような気持ちになる。
もちろん、今でも変わらず愛おしい。
「そんな特別な日を過ごすのがぼくたちで、なんだか申し訳ないな」
「ううん。クリスマスパーティに呼んでもらえたのなんて初めてだったから、とても嬉しかったよ」
これは嘘じゃない。俺の最優先事項は秋尋様だけど、今はそれ以外の時間もきちんと大切に思っている。
しかもこんな、豪華な料理に豪華な会場。俺がもう少し大人なら、秋尋様のために色々コネクションも作っておけるのに。
この小さな身体で平坂くんの友人です! って挨拶してまわるのもおかしな感じがするしな……。しかもただの使用人風情が。
「そういえば広川くんは? 先に来てるんだよね?」
「今年こそ彼女を作るんだってはしゃいで会場を駆け回っているよ。君はいいの? 彼女とかさ」
「わかってるくせに、訊くかなあ……」
「うん」
平坂くんはグラスを傾けながらニコニコと笑っている。
グラスの中身はジュースとかだけど、もう少し成長したらワインとかが似合うようになるんだろうな。
「俺より、平坂くんはどうなの?」
「ぼくは恋愛とかは、今は見ているのが好きだな。そう、たとえば使用人とご主人様の恋とかね」
「趣味ワル……」
「協力してあげてる友人様にそんな言葉を吐くかなー」
指先で頬をグイグイと押された。平坂くんが隣にいることで、周囲の視線が痛いのに、よけいなことをしないでほしい。
でも……。前は秋尋様のことしか興味がなかったのに、この喰えない友人の恋愛模様は、少し気になる。それに軽口を叩いたけど、感謝してるのも確かだ。
こんなきらびやかな世界、一生縁がないものだと思っていた。
クリスマスカラーの装飾、大きなツリー、豪華なご飯。しかも食べ放題。もっとも、バーベキューや学食みたいにガツガツ食べたりはしないけど。一応そのへんは、わきまえている。まあ目立つのも嫌だし……。
「できることなら、秋尋様と来たかったなー……とか思ってる?」
「今は……。もっと食べたいなあって思ってた」
「ははっ。色気より食い気か。好きに楽しんでってよ。それじゃ、またあとでね」
平坂くんはそう言って、人混みの中に消えていった。
ホームパーティのはずなのに給仕する人などもきちんといて、本来ならそちら側である俺は、なんだかソワソワしてしまう。
秋尋様と……。こんなふうにパーティへ来るなんて、想像もしなかったけど……。どうだろう。
大人になった秋尋様と、そうだな……秘書になった俺が、ピシッとしたスーツを着て参加する。想像の中では秋尋様より背が高くなっているのもご愛嬌。
好きな料理を運んできてあげたり、食べたあとは口元をそっと拭ってあげたり……。これじゃ普段と同じか。ダメだな、想像力が追いつかない。
ビンゴ大会なんかも催され、残念ながら俺は残念賞の紅茶缶だった。残念賞でもシャレてるし、結構良さそうなやつ。秋尋様も、これなら飲んでくれるかもしれない。
存分にパーティを楽しんだあとは、平坂くんが車で屋敷の前まで送ってくれた。途中まで広川くんと金井くんも一緒だったけど、一番最後に降ろされたのは俺だった。
「これ。サンタさんからの、使用人とご主人様の仲を良くするためのプレゼント」
「えっ……。あ、ありがとう」
帰り際、大きめな白い紙袋を渡された。
俺は何も用意してなかったのに。なんだか貰ってばかりだな。
恋愛は見ているのが好きって言ってたから、言葉通り応援してくれてるんだろうけど……。からかいはするものの、そこまで根掘り葉掘り訊いてこないし適度な距離感が絶妙だ。
あと、素直に物資は嬉しい。それがなんであろうとも。
……たとえ、ビンゴで当てた、パーティグッズであろうとも。
平坂くんと別れ、部屋で紙袋を開けた俺は、中から出てきたミニスカサンタ衣装に頭を抱えていた。
これを……。着ろと。着ろということか。サンタになりきれと。確かに俺なら女性用のこのサイズでも着られるだろうけど。
これを着て、秋尋様にメリークリスマスしに行く?
今日は特別な日だから、確かに会いたい。
多分、もう帰ってきてるだろうし……。
ち、ちょっと……着てみようかな。
うん。パーティグッズの割には、いい生地を使ってる。ベルベットみたいにすべすべだ。赤も下品な派手派手しさはなくどこか深みのある色。帽子まで入ってる。白いポンポンも夏祭りで食べたわたあめみたいにフワフワだ。
女性用なのに少し大きくて、ミニスカといっても膝近くまであるけど、結構似合ってるんじゃない?
秋尋様、俺の可愛い顔は好きなはずだし、女の子に見えるならクリスマスの雰囲気に酔わせてどうこうできるのでは……?
何しろ今日は俺たちが出会った奇跡の日。クリスマスの奇跡を信じて……。
そんなことを考えていたら、タイミングよくノックの音が聞こえた。
ど、どうしよう、この格好。普通に考えたら引かれる予感しかない。着替えてから……。でも、秋尋様を待たせるなんて。
ええい。男なら度胸だ! きっと秋尋様も可愛いなって言ってくれるはず!
「はい! 今開けます!」
思いきって扉を開けると。
「お、おう……」
目を白黒させた春日さんが立っていた。
あ……。ああー!!! 死ぬ。死にたい。恥ずかしすぎる。
「あの。こ、これは……」
「まあ。なんだ……。メリークリスマス。頑張れよ」
言い訳する間もなく、春日さんは本が入っているらしき茶色の紙袋を押しつけて扉を閉めた。
ありがとうって、言えてない。恥ずかしすぎて言う余裕もなかった。とんでもない姿を見られてしまった。平坂くんの馬鹿。
いや、着た俺がいけないんだけど。
そしてすぐに再び扉が開いた。今度は秋尋様がいた。
「なんだったんだ、一体……。あ、朝香!? なんだ、その格好は」
「あ……」
そっか。今日のボディーガードは春日さんだったのか。ここまで一緒に来たんだ。
「いや。ビンゴで……その、貰い、まして……」
「へえ……」
秋尋様が俺を見る。頭から爪先まで。
「可愛いな」
ありがとう。平坂くん。ありがとう。秋尋様に可愛いって言ってもらえたら、すべての恥など吹き飛んでいくよ。
それに短いスカートからのぞく生足に、しっかりと視線を感じる。
秋尋様も中学生男子。やはりこういうのがお好きですか。
これはクリスマスの奇跡も……ありえてしまうのでは?
「とりあえず入ってください。この格好、恥ずかしいので」
「恥ずかしいのか」
「恥ずかしいですよ!」
でも会えて嬉しい。可愛いって言ってもらえて嬉しい。
……欲情してもらえたら、もっと嬉しい。
中へ入ると、秋尋様は俺のスカートの裾を無遠慮に摘んだ。
「さすがに少し、短すぎないか?」
「へっ、部屋で着ていただけなので」
「そうか。パーティの余興で着たのかと思った」
可愛いと言ってくれた割には、秋尋様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
もしかして俺を気遣って言ってくれただけで、実は似合ってないのでは。俺がいくら女の子っぽい顔をしていても、女装でしかないし……。
「お前は僕の使用人なんだ。そんなみっともない格好を、あまりよそで晒すなよ」
突きつけられた事実が痛い。この格好でいる俺も痛いけど。
「申し訳ございません。すぐ脱ぎます」
「いや。そのままでいい」
「え?」
「僕の前では、その格好でも構わない」
え。待って。待って、これって……。
僕以外にお前の可愛い姿を見せるなよってことだったのでは!?
「わかりました。秋尋様が望むなら、ずうっとこの姿でいますね」
「い、いや……。悪い、おかしなことを言った。脱いでくれ」
「でもせっかくのクリスマスですし、サンタさんからのプレゼントもありますから!」
ビンゴで当てた景品の紅茶缶だけども。
秋尋様が少しでも俺の姿にドキドキしてくれるのなら、このチャンスを逃してなるものか。
「そうだな。クリスマスだしな」
そう。今日は俺と秋尋様が出会った、奇跡の……運命の……。
「ん?」
バサリと床に何かが落ちた。秋尋様が首を傾げながら視線でそれを追う。
あ。春日さんに貰った紙袋。落ちた衝撃で中身が。
「お、お前、こんなものを僕にプレゼントしようというのか?」
……まさかのエッチな本。女性がキワドイ格好でいやらしい表情をしていて、言い逃れができない感じの。
「違います! 違います! 俺が渡したいプレゼントはコレッ! ハイッ! 紅茶です! 本は春日さんに押し付けられたんですよ! ほら、さっきいたでしょ!!」
もう必死だった。こんな女装サンタのコスプレしてエッチな本をプレゼントするとか、どう考えても変態が過ぎる。100年の恋も醒めるレベル。幸いまだ恋されてないだろうけど。いや、それはそれで悲しいけど。
秋尋様はまだ少し疑わしげな表情で俺を見ながら、紅茶缶を受け取った。
「まったく、あの男は……。まだ幼い朝香に、こんなものを……」
「あ、秋尋様ッ! そんなものを拾い上げては、貴方の手が汚れます!」
「そんなことを言って、お前が欲しいだけじゃないのか?」
秋尋様に変換して妄想したり、参考にしたりするって意味でなら欲しくなくもない。ただ女優さん自体にこれっぽっちも興味はないし、裸が見たいとも思わない。俺が見たいのは秋尋様だけだ。
「こういうことに興味があるから、春日に頼んで……」
「ないです。ないです。ただ、朝香もそういう年頃だしなーという親切の押し売りでプレゼントしてくれただけだと思います」
「僕には何もないのにか?」
「さすがに雇い主で警護対象である秋尋様にこんな本を渡しはしないかと……」
仲が良ければまあ、有り得るのかもしれないけれど。
何故か引かない秋尋様。一冊の本を2人で取り合う形になってしまった。全然要らないのに。しかもエロ本。なんて酷い絵面なんだ。放り投げていっそ秋尋様を抱きしめたい。こんな本よりも貴方が必要ですとか言って。
それにしても、秋尋様。らしくなく、やたらとねばる。
そんなに俺にこの本を手に入れてほしくないのか。それとも……。
「もしかして、秋尋様……。見たいのですか?」
秋尋様の頬が、カアッと朱に染まる。
そっかー。こういうのに興味があるのは秋尋様のほうだったか……。この反応だと見たこともなさそうだし、男なら気になるのも当然か。
たかが本一冊のことだけど、秋尋様がいつか女性と肌を重ねることを連想してしまって、少しつらい。
本当なら見てほしくもないけれど、ここであまりに拒むのもあれだし、いつかは一人でも見るだろうし、それくらいならいっそ。
「一緒に見ますか?」
「お前にはまだ早い」
「同じようなこと、しているのに?」
その言葉が引き金だったのか、本は無事、俺の手の中に戻ってきた。
「……別に、そんなに見たいわけでもないが、ほ、保護者としてなら、少しだけつきあってやる」
俺が凄く見たがっているような言い方をされている。
今日はクリスマス。初めて秋尋様と出会った運命の日……。
なのに、ベッドへ並んで2人でエッチな本を見ることになってしまった。しかも俺はミニスカサンタの衣装で。思い出が穢されたような気がする。
でも正直、少し興奮もしていた。
もちろん本にではなく、それを見る秋尋様に。
見ながら俺とのことを思い出してくれるかな、とか。したくなったらこんな本より俺を使ってくれないかなとか。
あとページをめくる指が震えてるのが可愛くて、それだけで、なんかもう……。
コンサート帰りの秋尋様はいつもよりきちっとした服を着込んでいるから、よけいに乱したくなる。可愛らしいリボンタイをこの指でほどいてしまいたい。
ああ、でも……。流れでそのまま座ったけど、コートだけは先に脱がせてあげるべきだったな。
エッチな本の女性はたわわな胸を出し、扇情的なポーズでこちらを見ている。
せっかくなので少しでも秋尋様の好みを把握しようと、紙面と表情を見比べる。巨乳は真似できないし、ちんちんついてる時点でダメか。
「……どういうのが、好きですか」
「えっ。お、お前のほうは、ど、どうなんだ」
焦りすぎな秋尋様が可愛らしいことだけはハッキリとわかります。
「俺は……。凄い格好してるなあと思うくらいです」
「子どもだな。普段、ああいうことを……僕にしてくるくせに」
むしろ今、グッときました。
子どもだと馬鹿にしたいのかもしれないけれど、赤い顔をしながらでは俺を煽る効果しかない。
次のページでは、モザイクつきで男女が絡みあっていた。指先がこれでもかというくらい、乳房に食い込んでいる。
こんなにグニュグニュとへこむものなんだ。
秋尋様の乳首のほうが比べものにならないくらい、ずっとやらしいな……。
「お前、さっきから……。紙面よりも、僕を見てないか?」
バレた。というか、そんなに見つめてしまってたのか。
「俺は見ていてもあまり楽しくないので、秋尋様はどうなのかなと思って」
「僕は、その……」
秋尋様がモジモジと足を擦り合わせる。
ああ……。そっか。コレで、きちんと反応できるんだ。男なら異性の裸に反応して当然。それが、普通。ただ俺が普通じゃないだけ。
わかっていたのに、事実を突きつけられると痛いな……。
でもまあ。秋尋様が反応しているのを見たら、勃つものは勃つよね。悲しい男のサガだ。
「してみたいですか? こういうこと」
「し、してるだろ。……お前と」
んんッ。不意打ちやめてほしい。変な声がもれるかと思った。
「してませんよ。だってほら、これ……。ちゃんと性交してるでしょう?」
「これは僕とお前ではできない」
勉強で調べなかったのか。そっちは。
俺もきちんとしたやり方を知ったのはつい最近だ。マッサージを覚える流れで、だったけど。
「……できますよ」
「だとしても、しない」
そうだよな。好きな人同士がすることだし、さすがに友達の域を越えてしまう。実際もう、かなり踏み越えてるとは思うけど。
「でも処理ならいいですよね。今、反応しているでしょう? 本を見ながらでいいので。おんなのひと、想像してて……いいので」
わざとゆっくり、指先を喉元からタイに落とし、優しくほどく。
秋尋様は返事をしなかったけれど、拒まなかった。
そもそも、いつもしているんだし。今更拒みはしないか。
それが何回目であっても、貴方が俺の指先を受け入れてくれるその事実がどれほど嬉しいか、貴方にはきっとわからないでしょうね。
「あ……。コート……ハンガーにかけないと……」
「いい」
「ですが……」
「いいから、早く触れ」
いつもはこんなこと、言わないのに。そんなに本に煽られたのかな。
「秋尋様、俺……」
俺ね、本当は。俺の指先で、貴方をこの女の人みたいに、してしまいたい。泣いてよがるほど、優しく優しく、身体をひらいていきたい。そして、俺の、ゆっくり挿れたい。
「なんだ。やっぱり朝香も、本に興奮してるんじゃないか」
俺の様子がいつもと違ったのか、秋尋様がそう言って俺の額に額をコツンとあてた。近くなった距離が嬉しくて、思わずキスした。
セックスはダメでも、キスは許されてる。それだって凄いことだ。欲張ってはいけない。俺はただの使用人なのだから。
今日はクリスマスだけど、奇跡なんて起きない。
秋尋様にとっては運命の出会いでもなんでもない。
「俺は……本に、興奮しているわけではなくて」
言おうか。いっそ、言ってしまおうか。
最近の秋尋様はお優しい。想いを告げてもクビにはされないかもしれない。
でもきっと、こうして触れることも、キスすることもできなくなる。優しいからこそ。
「じ、じょうけんはんしゃです」
もう少しマシなことは言えなかったのか、俺。
「……もしかして、そんな格好をしていることに興奮しているのか?」
そういえばミニスカサンタだったな、俺。
もう、そういうことにしとこうかな。
女装した俺に襲われる秋尋様っていうシチュエーションに、興奮しないはずもないし。
「そうかもしれません」
答えて、触れた。秋尋様が望むまま。
少し性急なのもこんな格好をしているせい。そう思ってくれたらいい。
秋尋様のほうも俺の格好がお気に召したのか、いつもよりも反応が良かった。きっと、女に見えるからだ。
身体を這う俺の指に喘ぎながら、熱に浮かされたような顔でこちらをジッと見る。
服を汚さないよう吐き出された熱を全部飲んで、丁寧に舐めとった。
「はぁ……。は……。馬鹿。また、僕ばかり……」
「秋尋様にたくさん、気持ちよくなってほしくて」
俺は思いの外、秋尋様にお前とはセックスしないと言われたことがショックだったらしい。いつもならここで終われるのに、傷ついた心を埋めるように秋尋様にねちっこく触れた。指も挿れた。自分の尻で練習した成果を見せる時だとも思った。
「ッ……。朝香、それは嫌だ」
「俺、もっともっと、秋尋様に奉仕したいんです。絶対に気持ちよくしますから」
少しでも可愛く映るよう、目を潤ませながら必死に縋った。
秋尋様は大きな溜息をついて俺の頭を躊躇いがちに撫でた。
この使用人はどれだけ尻を弄りたいんだと呆れられたのかもしれない。
「紅茶……」
「え?」
「紅茶缶をお前から貰ったが、今日僕は……何も、用意してこなかった。だから、お前の好きなだけ奉仕していい。許す」
俺の好きなだけ……!
つまりこれは、セックス以外のことはなんでも、好きなだけしちゃっていいってこと? 指でいっぱいグチュグチュしてもいいし、舐めてもいい?
俺に押し倒されて恥ずかしそうに頬を染めている秋尋様。
今日は指を入れられている顔も堪能できてしまう……。
いつも嫌がるけど、今日は脇の下とか耳とか全部舐めてもいいんだ。
「ありがとうございます。命をかけて気持ちよくさせていただきます」
「いや、そこまでは……」
言ったことを少し後悔してそうな秋尋様の考えが変わる前に、俺はプレゼントの受け取りを開始した。
秋尋様が焦れて泣きそうになるまで全身を舐めた。
一度イッたあとだからか感じやすくなってて、たくさん可愛い顔を見せてくれたし、恥ずかしそうにしてたけど俺の口の中で果ててくれた。
そして俺はこの日、初めて秋尋様のナカを舌先で味わった。
もう感動のしすぎで頭の芯が痺れ、脳髄がとろけるような甘い感覚が身体を満たした。
「ッ……やだ、朝香。舌、やだ」
泣きそうな声の秋尋様が可愛らしすぎて、やだと言われてもやめてあげられなかった。
好きなだけ奉仕していいと言ったのは秋尋様だし、嫌がる理由も恥ずかしいだけだとわかっていたし。
「んっ、あ……、アッ……」
沈み込ませた指で、ある一点を押すと脳髄を焼く甘い声が響いた。
震えが指先、舌、肌に伝わってきてゾクリとする。
「そこ、この前と違う……」
「気持ちいいですか?」
「……ん、気持ち……」
可愛い、秋尋様、可愛い……。俺の指で気持ちよくなってるの、たまらない。
指と舌でいっぱいとろけさせると、いじらしく啜り泣いた。
「あ、あう……。や、やだ。朝香、も……、やめてくれ」
何度か射精したあと、くったりとした身体の秋尋様が初めて強く俺の手を拒んだ。強くと言っても力が抜けているので、ないようなものだったけど。
「お……、お尻でイキそうだから!」
心臓が音を立てて撃ち抜かれた気がした。
秋尋様、安心してください。俺はその言葉だけで射精しました。
いやだってこんなの興奮するなってほうが。
それに俺のちんちんも、こんなふうにキュウと締め付けてくれるのかなとか思ったら。舌もあったかくて気持ちいし。
もちろん、止まれるはずなんてなくて、前をいじらずに中だけを触り続けた。
内部の動きとか、うねりとか、指先に全部伝わってきて、その刺激で俺はまたイッた。
「はあ、はぁ、はぁ……。やめろと言ったのに。こ、こんなの、く、クセになったらどうしてくれるんだ」
「……そうしたら、俺が責任を取るだけです。何回でも、ずっと……気持ちよく、します」
秋尋様の首筋に何度も口づけながら、乳首を指先で転がすと身体が甘くビクビクと跳ねた。
今日は本当に感じやすいな。嬉しい。可愛い。
「まだ、するのか……? ほ、本当に、僕ばかり……。こんなの、さすがにクリスマスプレゼントには……」
「なってます」
「お前、どれだけ奉仕するのが好きなんだ」
「秋尋様だからですよ。俺は貴方にだけ、尽くしたいのです」
愛おしさが勝って、思わずそう言った。こんなのもう、告白と変わらない。
「それは……。僕が、お前のご主人様だからだろう?」
なのにまったく、気づいてくれないあたりが。
……いや、少しは、気づいているのかもしれない。
「俺は、もし貴方が」
ご主人様でなくても、ご奉仕したいのですが。
などという告白を。この格好でしてしまうのか?
ミニスカサンタで。
それはない。さすがにない。危ない、秋尋様が可愛すぎて雰囲気に流されてしまうところだった。秋尋様から見た俺は女装のミニスカサンタ。それを忘れてはいけない。
案外逆に、好感度が上がるかもしれないけど、俺を女の子と間違えてプロポーズした秋尋様の古傷を抉ってしまってもいけないし。
俺は秋尋様が気に入ってくださるなら、それは毎日でもこの姿でいたって構わないんだけども。
「朝香?」
「貴方以外に仕える気はありませんので」
「そ、そうか」
俺は貴方だけの使用人。今はそれでいい。独占していてほしい。
それだけで幸せだ。
「なので続きを……」
「いや、もういい」
「俺の好きなだけ奉仕させていただけるのではなかったのですか?」
「ここまでされるとは思わなかったんだ! というか、本当に……僕を触り続けるだけだし……」
「秋尋様が気持ち良さそうにされると、俺も気持ちがいいので」
「そんなの、おかしいだろ」
貴方が俺をおかしくするんです。
はあ、本当に全然足りない。もっと身体中舐めたい。反応したら、そこに痕をつけたい。痕をつけるのは、今の俺には許されないだろうけれど。
「朝香」
「えっ……」
秋尋様が起き上がって、俺をギュッと抱きしめた。
体格差があるから、見事にすっぽりおさまってしまう。
「凄い気持ちよかった。満足した。お尻の中があんなに気持ちいいなんて思わなかったし、お前……凄く上手くなってて、どうにかなるかと思った……」
「あ、あ、あ、秋尋様ッ!?」
「だから、これでしまいだ。まだ言葉が足りないか?」
元より秋尋様が本気で嫌がったら、続けるつもりもなかったんだけど、凄いプレゼントをいただいてしまった。
「いえ。充分です……。ありがとうございました」
俺の言葉にホッとする秋尋様、可愛い。
「それに今日みたいな特別な日に、秋尋様と一緒にいられるなんて……。俺、それだけで幸せですから」
「ああ……。今日は僕がお前を拾ってきた日だったな」
「覚えてらしたのですね」
「クリスマスだし、忘れるはずもない」
「俺にとってはそれ以上に運命的な日でした」
「僕も……」
秋尋様はそこまで言って、ゴホンと咳払いをした。
「泥だらけで臭くて、初めはゴミかと思ったぞ」
「わかります。俺が本当のゴミだったら、寒さ感じなくて済むのになあって考えながら転がってました」
そんな俺が今、秋尋様にギュッてされて、あったかさを味わってる。人生本当に、何が起こるかわからない。
更に腕に力を込められて、痛いくらいだった。でもその痛みすら幸せで、同情を引いた甲斐がある。
俺はすっかり打算的に育ってしまった。その内容は、どうしたら秋尋様にたくさん触れていただけるかという、我ながら可愛らしい理由だけど。
「……まあ。それが数年後に、こんな格好をすることになるなんて、思ってもみなかっただろうな」
「そこには目をつむってください」
「さっきはみっともないと言ったが……。に、似合ってる、と思う」
「嬉しいです、ありがとうございます!」
「女装を褒められて喜ぶなんて、変なやつだな」
「秋尋様が褒めてくださるなら、毎日女装でも構わないです」
「いや、さすがにそれは……。でも、ちょっと……そこで、クルッと回ってみてくれないか?」
やっぱり、かなり気に入っているのでは。
毎日は無理でも女装デーを決めてメイドでもするかな。せっかく使用人なのだし……。
俺は秋尋様が気に入ってくださったことが嬉しくて、すっかり忘れていた。
服はそのままだったけど、男用の下着が見えると萎えるかなと思ってノーパンでいたことを。
ミニスカで。くるっと回ったら、どうなるかということを。
「ふ、ふふふ。アハハッ。うん。男だな。朝香はきちんと、オトコノコだ。ブラブラッて……」
「あ、秋尋様がそんな下品なことを口にしたらいけません!」
「怒るとこはそこなのか」
それに秋尋様は俺のスカートの中が衝撃的で気づいてないみたいだけど、射精してたからね、大惨事なんだよね、部屋が……色々と、飛んじゃって……。秋尋様にかからなくて良かったけど……。
……秋尋様が楽しそうだから、まあいいか。
奇跡なんてそう簡単には起こらないから奇跡と言うのだけど、俺にとってはもう充分、そんな一日だった。
そもそも貴方に出会ったその日から今まで、ずっと続いているのだし。
シングルベルになるところを、平坂くんに誘ってもらって平坂兄弟が主催のクリスマスパーティに来ている。
ホームパーティのようなものと聞いていたのに、めちゃくちゃ豪華で人も多い。兄弟みんなが友人などを誘っているとのことで、年齢層はかなり幅広かった。
金井くんの彼女も初めて紹介してもらったんだけど……平坂くんに、そっくりだった。
「ぼくの姉なんだ」
なるほど。男子校生活なのに金井くんに彼女がいたのは、この繋がりだったか。
姉のほうが顔も振る舞いも、平坂くんより庶民的な感じがする。いや、そう感じるだけで、きっと学校では彼みたいに才色兼備なんだろうな。平坂くんも見た目に反してずいぶん気さくな性格をしているし。
「マキくんとうちの弟がお世話になってます」
金井くん、デレデレだ。お姉さんのほうもよほど惚れているのか、弟の前だというのに普通にベッタリしている。2人は挨拶だけして俺と平坂くんを残し、そそくさとどこかへ行ってしまった。
羨ましいくらい、仲いいなあ。歳も身長も離れてるし、ちょっと勇気がわくなあ。まあ、俺と秋尋様の問題はソコより性別にあるけど……。
「秋尋様はコンサートだって?」
「うん」
「でも秋尋様、今年は冬休みも家にいるんだろう?」
「そうなんだけどね。でも、クリスマスは俺にとって、ちょっと特別な日で……」
きらびやかなイルミネーションは遥か遠く、手を伸ばしても決して掴めないものだった。
俺と同じくらいの子が両親にプレゼントしてもらったサンタブーツを抱えながら嬉しそうに歩く。俺はそれを見ながら公園のベンチに座り、冷たくなった手をハァハァと息を吹きかけて温めていた。
しんしんと雪が降る。母親は俺を外に放り出したまま、新しい父親とデートに出かけてしまった。家にいても蹴ったり殴られたりするだけだから元から外にいることが多かったけど、真冬となれば話は別だ。着ているものだってボロボロで、目の前のものがすべて灰色に見えていた。
その日俺に手を差し伸べてくれたのが……秋尋様だった。
同情的な視線は向けられても、あの日まで俺に微笑んでくれる人は一人もいなかった。
ぼくとかえろう。
そう、犬でも連れ帰るみたいに冷えきった俺の手を引いてくれた。ついに天使がお迎えに来たのかと思った。
母親に笑いなさいよと怒鳴られて強制的に笑顔にさせられたことは何度もあったけど、俺はこの日、初めて自発的に笑った気がする。もっとも、上手く笑えていたかはわからない。
もし声をかけてきたのが変質者でも、俺はホイホイついてったろうから、本当に運が良かった。警察に保護されていなかったのが、今思えば不思議なくらいだ。
でも俺は秋尋様に出会うために産まれてきたからな……。きっと他の人が入る隙はなかったな。
「今日はね、秋尋様に初めて出会った日なんだ」
「へえ。クリスマスにだなんて、ロマンチックだね」
「運命的な出会いだった……」
俺に触れる手が優しくて。笑顔もとっても可愛くて。思い出すだけで、泣きたいような気持ちになる。
もちろん、今でも変わらず愛おしい。
「そんな特別な日を過ごすのがぼくたちで、なんだか申し訳ないな」
「ううん。クリスマスパーティに呼んでもらえたのなんて初めてだったから、とても嬉しかったよ」
これは嘘じゃない。俺の最優先事項は秋尋様だけど、今はそれ以外の時間もきちんと大切に思っている。
しかもこんな、豪華な料理に豪華な会場。俺がもう少し大人なら、秋尋様のために色々コネクションも作っておけるのに。
この小さな身体で平坂くんの友人です! って挨拶してまわるのもおかしな感じがするしな……。しかもただの使用人風情が。
「そういえば広川くんは? 先に来てるんだよね?」
「今年こそ彼女を作るんだってはしゃいで会場を駆け回っているよ。君はいいの? 彼女とかさ」
「わかってるくせに、訊くかなあ……」
「うん」
平坂くんはグラスを傾けながらニコニコと笑っている。
グラスの中身はジュースとかだけど、もう少し成長したらワインとかが似合うようになるんだろうな。
「俺より、平坂くんはどうなの?」
「ぼくは恋愛とかは、今は見ているのが好きだな。そう、たとえば使用人とご主人様の恋とかね」
「趣味ワル……」
「協力してあげてる友人様にそんな言葉を吐くかなー」
指先で頬をグイグイと押された。平坂くんが隣にいることで、周囲の視線が痛いのに、よけいなことをしないでほしい。
でも……。前は秋尋様のことしか興味がなかったのに、この喰えない友人の恋愛模様は、少し気になる。それに軽口を叩いたけど、感謝してるのも確かだ。
こんなきらびやかな世界、一生縁がないものだと思っていた。
クリスマスカラーの装飾、大きなツリー、豪華なご飯。しかも食べ放題。もっとも、バーベキューや学食みたいにガツガツ食べたりはしないけど。一応そのへんは、わきまえている。まあ目立つのも嫌だし……。
「できることなら、秋尋様と来たかったなー……とか思ってる?」
「今は……。もっと食べたいなあって思ってた」
「ははっ。色気より食い気か。好きに楽しんでってよ。それじゃ、またあとでね」
平坂くんはそう言って、人混みの中に消えていった。
ホームパーティのはずなのに給仕する人などもきちんといて、本来ならそちら側である俺は、なんだかソワソワしてしまう。
秋尋様と……。こんなふうにパーティへ来るなんて、想像もしなかったけど……。どうだろう。
大人になった秋尋様と、そうだな……秘書になった俺が、ピシッとしたスーツを着て参加する。想像の中では秋尋様より背が高くなっているのもご愛嬌。
好きな料理を運んできてあげたり、食べたあとは口元をそっと拭ってあげたり……。これじゃ普段と同じか。ダメだな、想像力が追いつかない。
ビンゴ大会なんかも催され、残念ながら俺は残念賞の紅茶缶だった。残念賞でもシャレてるし、結構良さそうなやつ。秋尋様も、これなら飲んでくれるかもしれない。
存分にパーティを楽しんだあとは、平坂くんが車で屋敷の前まで送ってくれた。途中まで広川くんと金井くんも一緒だったけど、一番最後に降ろされたのは俺だった。
「これ。サンタさんからの、使用人とご主人様の仲を良くするためのプレゼント」
「えっ……。あ、ありがとう」
帰り際、大きめな白い紙袋を渡された。
俺は何も用意してなかったのに。なんだか貰ってばかりだな。
恋愛は見ているのが好きって言ってたから、言葉通り応援してくれてるんだろうけど……。からかいはするものの、そこまで根掘り葉掘り訊いてこないし適度な距離感が絶妙だ。
あと、素直に物資は嬉しい。それがなんであろうとも。
……たとえ、ビンゴで当てた、パーティグッズであろうとも。
平坂くんと別れ、部屋で紙袋を開けた俺は、中から出てきたミニスカサンタ衣装に頭を抱えていた。
これを……。着ろと。着ろということか。サンタになりきれと。確かに俺なら女性用のこのサイズでも着られるだろうけど。
これを着て、秋尋様にメリークリスマスしに行く?
今日は特別な日だから、確かに会いたい。
多分、もう帰ってきてるだろうし……。
ち、ちょっと……着てみようかな。
うん。パーティグッズの割には、いい生地を使ってる。ベルベットみたいにすべすべだ。赤も下品な派手派手しさはなくどこか深みのある色。帽子まで入ってる。白いポンポンも夏祭りで食べたわたあめみたいにフワフワだ。
女性用なのに少し大きくて、ミニスカといっても膝近くまであるけど、結構似合ってるんじゃない?
秋尋様、俺の可愛い顔は好きなはずだし、女の子に見えるならクリスマスの雰囲気に酔わせてどうこうできるのでは……?
何しろ今日は俺たちが出会った奇跡の日。クリスマスの奇跡を信じて……。
そんなことを考えていたら、タイミングよくノックの音が聞こえた。
ど、どうしよう、この格好。普通に考えたら引かれる予感しかない。着替えてから……。でも、秋尋様を待たせるなんて。
ええい。男なら度胸だ! きっと秋尋様も可愛いなって言ってくれるはず!
「はい! 今開けます!」
思いきって扉を開けると。
「お、おう……」
目を白黒させた春日さんが立っていた。
あ……。ああー!!! 死ぬ。死にたい。恥ずかしすぎる。
「あの。こ、これは……」
「まあ。なんだ……。メリークリスマス。頑張れよ」
言い訳する間もなく、春日さんは本が入っているらしき茶色の紙袋を押しつけて扉を閉めた。
ありがとうって、言えてない。恥ずかしすぎて言う余裕もなかった。とんでもない姿を見られてしまった。平坂くんの馬鹿。
いや、着た俺がいけないんだけど。
そしてすぐに再び扉が開いた。今度は秋尋様がいた。
「なんだったんだ、一体……。あ、朝香!? なんだ、その格好は」
「あ……」
そっか。今日のボディーガードは春日さんだったのか。ここまで一緒に来たんだ。
「いや。ビンゴで……その、貰い、まして……」
「へえ……」
秋尋様が俺を見る。頭から爪先まで。
「可愛いな」
ありがとう。平坂くん。ありがとう。秋尋様に可愛いって言ってもらえたら、すべての恥など吹き飛んでいくよ。
それに短いスカートからのぞく生足に、しっかりと視線を感じる。
秋尋様も中学生男子。やはりこういうのがお好きですか。
これはクリスマスの奇跡も……ありえてしまうのでは?
「とりあえず入ってください。この格好、恥ずかしいので」
「恥ずかしいのか」
「恥ずかしいですよ!」
でも会えて嬉しい。可愛いって言ってもらえて嬉しい。
……欲情してもらえたら、もっと嬉しい。
中へ入ると、秋尋様は俺のスカートの裾を無遠慮に摘んだ。
「さすがに少し、短すぎないか?」
「へっ、部屋で着ていただけなので」
「そうか。パーティの余興で着たのかと思った」
可愛いと言ってくれた割には、秋尋様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
もしかして俺を気遣って言ってくれただけで、実は似合ってないのでは。俺がいくら女の子っぽい顔をしていても、女装でしかないし……。
「お前は僕の使用人なんだ。そんなみっともない格好を、あまりよそで晒すなよ」
突きつけられた事実が痛い。この格好でいる俺も痛いけど。
「申し訳ございません。すぐ脱ぎます」
「いや。そのままでいい」
「え?」
「僕の前では、その格好でも構わない」
え。待って。待って、これって……。
僕以外にお前の可愛い姿を見せるなよってことだったのでは!?
「わかりました。秋尋様が望むなら、ずうっとこの姿でいますね」
「い、いや……。悪い、おかしなことを言った。脱いでくれ」
「でもせっかくのクリスマスですし、サンタさんからのプレゼントもありますから!」
ビンゴで当てた景品の紅茶缶だけども。
秋尋様が少しでも俺の姿にドキドキしてくれるのなら、このチャンスを逃してなるものか。
「そうだな。クリスマスだしな」
そう。今日は俺と秋尋様が出会った、奇跡の……運命の……。
「ん?」
バサリと床に何かが落ちた。秋尋様が首を傾げながら視線でそれを追う。
あ。春日さんに貰った紙袋。落ちた衝撃で中身が。
「お、お前、こんなものを僕にプレゼントしようというのか?」
……まさかのエッチな本。女性がキワドイ格好でいやらしい表情をしていて、言い逃れができない感じの。
「違います! 違います! 俺が渡したいプレゼントはコレッ! ハイッ! 紅茶です! 本は春日さんに押し付けられたんですよ! ほら、さっきいたでしょ!!」
もう必死だった。こんな女装サンタのコスプレしてエッチな本をプレゼントするとか、どう考えても変態が過ぎる。100年の恋も醒めるレベル。幸いまだ恋されてないだろうけど。いや、それはそれで悲しいけど。
秋尋様はまだ少し疑わしげな表情で俺を見ながら、紅茶缶を受け取った。
「まったく、あの男は……。まだ幼い朝香に、こんなものを……」
「あ、秋尋様ッ! そんなものを拾い上げては、貴方の手が汚れます!」
「そんなことを言って、お前が欲しいだけじゃないのか?」
秋尋様に変換して妄想したり、参考にしたりするって意味でなら欲しくなくもない。ただ女優さん自体にこれっぽっちも興味はないし、裸が見たいとも思わない。俺が見たいのは秋尋様だけだ。
「こういうことに興味があるから、春日に頼んで……」
「ないです。ないです。ただ、朝香もそういう年頃だしなーという親切の押し売りでプレゼントしてくれただけだと思います」
「僕には何もないのにか?」
「さすがに雇い主で警護対象である秋尋様にこんな本を渡しはしないかと……」
仲が良ければまあ、有り得るのかもしれないけれど。
何故か引かない秋尋様。一冊の本を2人で取り合う形になってしまった。全然要らないのに。しかもエロ本。なんて酷い絵面なんだ。放り投げていっそ秋尋様を抱きしめたい。こんな本よりも貴方が必要ですとか言って。
それにしても、秋尋様。らしくなく、やたらとねばる。
そんなに俺にこの本を手に入れてほしくないのか。それとも……。
「もしかして、秋尋様……。見たいのですか?」
秋尋様の頬が、カアッと朱に染まる。
そっかー。こういうのに興味があるのは秋尋様のほうだったか……。この反応だと見たこともなさそうだし、男なら気になるのも当然か。
たかが本一冊のことだけど、秋尋様がいつか女性と肌を重ねることを連想してしまって、少しつらい。
本当なら見てほしくもないけれど、ここであまりに拒むのもあれだし、いつかは一人でも見るだろうし、それくらいならいっそ。
「一緒に見ますか?」
「お前にはまだ早い」
「同じようなこと、しているのに?」
その言葉が引き金だったのか、本は無事、俺の手の中に戻ってきた。
「……別に、そんなに見たいわけでもないが、ほ、保護者としてなら、少しだけつきあってやる」
俺が凄く見たがっているような言い方をされている。
今日はクリスマス。初めて秋尋様と出会った運命の日……。
なのに、ベッドへ並んで2人でエッチな本を見ることになってしまった。しかも俺はミニスカサンタの衣装で。思い出が穢されたような気がする。
でも正直、少し興奮もしていた。
もちろん本にではなく、それを見る秋尋様に。
見ながら俺とのことを思い出してくれるかな、とか。したくなったらこんな本より俺を使ってくれないかなとか。
あとページをめくる指が震えてるのが可愛くて、それだけで、なんかもう……。
コンサート帰りの秋尋様はいつもよりきちっとした服を着込んでいるから、よけいに乱したくなる。可愛らしいリボンタイをこの指でほどいてしまいたい。
ああ、でも……。流れでそのまま座ったけど、コートだけは先に脱がせてあげるべきだったな。
エッチな本の女性はたわわな胸を出し、扇情的なポーズでこちらを見ている。
せっかくなので少しでも秋尋様の好みを把握しようと、紙面と表情を見比べる。巨乳は真似できないし、ちんちんついてる時点でダメか。
「……どういうのが、好きですか」
「えっ。お、お前のほうは、ど、どうなんだ」
焦りすぎな秋尋様が可愛らしいことだけはハッキリとわかります。
「俺は……。凄い格好してるなあと思うくらいです」
「子どもだな。普段、ああいうことを……僕にしてくるくせに」
むしろ今、グッときました。
子どもだと馬鹿にしたいのかもしれないけれど、赤い顔をしながらでは俺を煽る効果しかない。
次のページでは、モザイクつきで男女が絡みあっていた。指先がこれでもかというくらい、乳房に食い込んでいる。
こんなにグニュグニュとへこむものなんだ。
秋尋様の乳首のほうが比べものにならないくらい、ずっとやらしいな……。
「お前、さっきから……。紙面よりも、僕を見てないか?」
バレた。というか、そんなに見つめてしまってたのか。
「俺は見ていてもあまり楽しくないので、秋尋様はどうなのかなと思って」
「僕は、その……」
秋尋様がモジモジと足を擦り合わせる。
ああ……。そっか。コレで、きちんと反応できるんだ。男なら異性の裸に反応して当然。それが、普通。ただ俺が普通じゃないだけ。
わかっていたのに、事実を突きつけられると痛いな……。
でもまあ。秋尋様が反応しているのを見たら、勃つものは勃つよね。悲しい男のサガだ。
「してみたいですか? こういうこと」
「し、してるだろ。……お前と」
んんッ。不意打ちやめてほしい。変な声がもれるかと思った。
「してませんよ。だってほら、これ……。ちゃんと性交してるでしょう?」
「これは僕とお前ではできない」
勉強で調べなかったのか。そっちは。
俺もきちんとしたやり方を知ったのはつい最近だ。マッサージを覚える流れで、だったけど。
「……できますよ」
「だとしても、しない」
そうだよな。好きな人同士がすることだし、さすがに友達の域を越えてしまう。実際もう、かなり踏み越えてるとは思うけど。
「でも処理ならいいですよね。今、反応しているでしょう? 本を見ながらでいいので。おんなのひと、想像してて……いいので」
わざとゆっくり、指先を喉元からタイに落とし、優しくほどく。
秋尋様は返事をしなかったけれど、拒まなかった。
そもそも、いつもしているんだし。今更拒みはしないか。
それが何回目であっても、貴方が俺の指先を受け入れてくれるその事実がどれほど嬉しいか、貴方にはきっとわからないでしょうね。
「あ……。コート……ハンガーにかけないと……」
「いい」
「ですが……」
「いいから、早く触れ」
いつもはこんなこと、言わないのに。そんなに本に煽られたのかな。
「秋尋様、俺……」
俺ね、本当は。俺の指先で、貴方をこの女の人みたいに、してしまいたい。泣いてよがるほど、優しく優しく、身体をひらいていきたい。そして、俺の、ゆっくり挿れたい。
「なんだ。やっぱり朝香も、本に興奮してるんじゃないか」
俺の様子がいつもと違ったのか、秋尋様がそう言って俺の額に額をコツンとあてた。近くなった距離が嬉しくて、思わずキスした。
セックスはダメでも、キスは許されてる。それだって凄いことだ。欲張ってはいけない。俺はただの使用人なのだから。
今日はクリスマスだけど、奇跡なんて起きない。
秋尋様にとっては運命の出会いでもなんでもない。
「俺は……本に、興奮しているわけではなくて」
言おうか。いっそ、言ってしまおうか。
最近の秋尋様はお優しい。想いを告げてもクビにはされないかもしれない。
でもきっと、こうして触れることも、キスすることもできなくなる。優しいからこそ。
「じ、じょうけんはんしゃです」
もう少しマシなことは言えなかったのか、俺。
「……もしかして、そんな格好をしていることに興奮しているのか?」
そういえばミニスカサンタだったな、俺。
もう、そういうことにしとこうかな。
女装した俺に襲われる秋尋様っていうシチュエーションに、興奮しないはずもないし。
「そうかもしれません」
答えて、触れた。秋尋様が望むまま。
少し性急なのもこんな格好をしているせい。そう思ってくれたらいい。
秋尋様のほうも俺の格好がお気に召したのか、いつもよりも反応が良かった。きっと、女に見えるからだ。
身体を這う俺の指に喘ぎながら、熱に浮かされたような顔でこちらをジッと見る。
服を汚さないよう吐き出された熱を全部飲んで、丁寧に舐めとった。
「はぁ……。は……。馬鹿。また、僕ばかり……」
「秋尋様にたくさん、気持ちよくなってほしくて」
俺は思いの外、秋尋様にお前とはセックスしないと言われたことがショックだったらしい。いつもならここで終われるのに、傷ついた心を埋めるように秋尋様にねちっこく触れた。指も挿れた。自分の尻で練習した成果を見せる時だとも思った。
「ッ……。朝香、それは嫌だ」
「俺、もっともっと、秋尋様に奉仕したいんです。絶対に気持ちよくしますから」
少しでも可愛く映るよう、目を潤ませながら必死に縋った。
秋尋様は大きな溜息をついて俺の頭を躊躇いがちに撫でた。
この使用人はどれだけ尻を弄りたいんだと呆れられたのかもしれない。
「紅茶……」
「え?」
「紅茶缶をお前から貰ったが、今日僕は……何も、用意してこなかった。だから、お前の好きなだけ奉仕していい。許す」
俺の好きなだけ……!
つまりこれは、セックス以外のことはなんでも、好きなだけしちゃっていいってこと? 指でいっぱいグチュグチュしてもいいし、舐めてもいい?
俺に押し倒されて恥ずかしそうに頬を染めている秋尋様。
今日は指を入れられている顔も堪能できてしまう……。
いつも嫌がるけど、今日は脇の下とか耳とか全部舐めてもいいんだ。
「ありがとうございます。命をかけて気持ちよくさせていただきます」
「いや、そこまでは……」
言ったことを少し後悔してそうな秋尋様の考えが変わる前に、俺はプレゼントの受け取りを開始した。
秋尋様が焦れて泣きそうになるまで全身を舐めた。
一度イッたあとだからか感じやすくなってて、たくさん可愛い顔を見せてくれたし、恥ずかしそうにしてたけど俺の口の中で果ててくれた。
そして俺はこの日、初めて秋尋様のナカを舌先で味わった。
もう感動のしすぎで頭の芯が痺れ、脳髄がとろけるような甘い感覚が身体を満たした。
「ッ……やだ、朝香。舌、やだ」
泣きそうな声の秋尋様が可愛らしすぎて、やだと言われてもやめてあげられなかった。
好きなだけ奉仕していいと言ったのは秋尋様だし、嫌がる理由も恥ずかしいだけだとわかっていたし。
「んっ、あ……、アッ……」
沈み込ませた指で、ある一点を押すと脳髄を焼く甘い声が響いた。
震えが指先、舌、肌に伝わってきてゾクリとする。
「そこ、この前と違う……」
「気持ちいいですか?」
「……ん、気持ち……」
可愛い、秋尋様、可愛い……。俺の指で気持ちよくなってるの、たまらない。
指と舌でいっぱいとろけさせると、いじらしく啜り泣いた。
「あ、あう……。や、やだ。朝香、も……、やめてくれ」
何度か射精したあと、くったりとした身体の秋尋様が初めて強く俺の手を拒んだ。強くと言っても力が抜けているので、ないようなものだったけど。
「お……、お尻でイキそうだから!」
心臓が音を立てて撃ち抜かれた気がした。
秋尋様、安心してください。俺はその言葉だけで射精しました。
いやだってこんなの興奮するなってほうが。
それに俺のちんちんも、こんなふうにキュウと締め付けてくれるのかなとか思ったら。舌もあったかくて気持ちいし。
もちろん、止まれるはずなんてなくて、前をいじらずに中だけを触り続けた。
内部の動きとか、うねりとか、指先に全部伝わってきて、その刺激で俺はまたイッた。
「はあ、はぁ、はぁ……。やめろと言ったのに。こ、こんなの、く、クセになったらどうしてくれるんだ」
「……そうしたら、俺が責任を取るだけです。何回でも、ずっと……気持ちよく、します」
秋尋様の首筋に何度も口づけながら、乳首を指先で転がすと身体が甘くビクビクと跳ねた。
今日は本当に感じやすいな。嬉しい。可愛い。
「まだ、するのか……? ほ、本当に、僕ばかり……。こんなの、さすがにクリスマスプレゼントには……」
「なってます」
「お前、どれだけ奉仕するのが好きなんだ」
「秋尋様だからですよ。俺は貴方にだけ、尽くしたいのです」
愛おしさが勝って、思わずそう言った。こんなのもう、告白と変わらない。
「それは……。僕が、お前のご主人様だからだろう?」
なのにまったく、気づいてくれないあたりが。
……いや、少しは、気づいているのかもしれない。
「俺は、もし貴方が」
ご主人様でなくても、ご奉仕したいのですが。
などという告白を。この格好でしてしまうのか?
ミニスカサンタで。
それはない。さすがにない。危ない、秋尋様が可愛すぎて雰囲気に流されてしまうところだった。秋尋様から見た俺は女装のミニスカサンタ。それを忘れてはいけない。
案外逆に、好感度が上がるかもしれないけど、俺を女の子と間違えてプロポーズした秋尋様の古傷を抉ってしまってもいけないし。
俺は秋尋様が気に入ってくださるなら、それは毎日でもこの姿でいたって構わないんだけども。
「朝香?」
「貴方以外に仕える気はありませんので」
「そ、そうか」
俺は貴方だけの使用人。今はそれでいい。独占していてほしい。
それだけで幸せだ。
「なので続きを……」
「いや、もういい」
「俺の好きなだけ奉仕させていただけるのではなかったのですか?」
「ここまでされるとは思わなかったんだ! というか、本当に……僕を触り続けるだけだし……」
「秋尋様が気持ち良さそうにされると、俺も気持ちがいいので」
「そんなの、おかしいだろ」
貴方が俺をおかしくするんです。
はあ、本当に全然足りない。もっと身体中舐めたい。反応したら、そこに痕をつけたい。痕をつけるのは、今の俺には許されないだろうけれど。
「朝香」
「えっ……」
秋尋様が起き上がって、俺をギュッと抱きしめた。
体格差があるから、見事にすっぽりおさまってしまう。
「凄い気持ちよかった。満足した。お尻の中があんなに気持ちいいなんて思わなかったし、お前……凄く上手くなってて、どうにかなるかと思った……」
「あ、あ、あ、秋尋様ッ!?」
「だから、これでしまいだ。まだ言葉が足りないか?」
元より秋尋様が本気で嫌がったら、続けるつもりもなかったんだけど、凄いプレゼントをいただいてしまった。
「いえ。充分です……。ありがとうございました」
俺の言葉にホッとする秋尋様、可愛い。
「それに今日みたいな特別な日に、秋尋様と一緒にいられるなんて……。俺、それだけで幸せですから」
「ああ……。今日は僕がお前を拾ってきた日だったな」
「覚えてらしたのですね」
「クリスマスだし、忘れるはずもない」
「俺にとってはそれ以上に運命的な日でした」
「僕も……」
秋尋様はそこまで言って、ゴホンと咳払いをした。
「泥だらけで臭くて、初めはゴミかと思ったぞ」
「わかります。俺が本当のゴミだったら、寒さ感じなくて済むのになあって考えながら転がってました」
そんな俺が今、秋尋様にギュッてされて、あったかさを味わってる。人生本当に、何が起こるかわからない。
更に腕に力を込められて、痛いくらいだった。でもその痛みすら幸せで、同情を引いた甲斐がある。
俺はすっかり打算的に育ってしまった。その内容は、どうしたら秋尋様にたくさん触れていただけるかという、我ながら可愛らしい理由だけど。
「……まあ。それが数年後に、こんな格好をすることになるなんて、思ってもみなかっただろうな」
「そこには目をつむってください」
「さっきはみっともないと言ったが……。に、似合ってる、と思う」
「嬉しいです、ありがとうございます!」
「女装を褒められて喜ぶなんて、変なやつだな」
「秋尋様が褒めてくださるなら、毎日女装でも構わないです」
「いや、さすがにそれは……。でも、ちょっと……そこで、クルッと回ってみてくれないか?」
やっぱり、かなり気に入っているのでは。
毎日は無理でも女装デーを決めてメイドでもするかな。せっかく使用人なのだし……。
俺は秋尋様が気に入ってくださったことが嬉しくて、すっかり忘れていた。
服はそのままだったけど、男用の下着が見えると萎えるかなと思ってノーパンでいたことを。
ミニスカで。くるっと回ったら、どうなるかということを。
「ふ、ふふふ。アハハッ。うん。男だな。朝香はきちんと、オトコノコだ。ブラブラッて……」
「あ、秋尋様がそんな下品なことを口にしたらいけません!」
「怒るとこはそこなのか」
それに秋尋様は俺のスカートの中が衝撃的で気づいてないみたいだけど、射精してたからね、大惨事なんだよね、部屋が……色々と、飛んじゃって……。秋尋様にかからなくて良かったけど……。
……秋尋様が楽しそうだから、まあいいか。
奇跡なんてそう簡単には起こらないから奇跡と言うのだけど、俺にとってはもう充分、そんな一日だった。
そもそも貴方に出会ったその日から今まで、ずっと続いているのだし。
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