マニアックヒーロー

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ブルー

恋人は爆弾魔

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 仕事も辞め、家賃を払うあてもなく、生きる希望も見失っていたので、ここに住んでもいいというのは正直かなり助かった。しかもモモくんと一緒だ。
 もう死にたいとは思わない。だってオレには新しい推しがいるから。
 生きる希望を与えてくれたモモくんのために、ボイストレーニングを頑張らないとな……。

 身につけてみろと言われ衣装を着てみたが、なんと自動装着された。どうなっているんだろうか。不思議すぎる。科学の進歩は凄まじいな。
 それにしても、本当にどこからどう見てもヒーロースーツだ。顔が見えないけど、こんな衣装はアリなのか? まあ、でもあれだけ美形な司令官さんがマネージャーだというし、容姿はそんなに重要ではないのかもしれない。
 脱ぐのも、キャストオフというだけ。特殊技術だ。

「さて、これから俺とアオで仲間探しをしてくる。モモはシロとゆっくりしているといい。ストーカー騒ぎでお疲れだろう」
「すぐ傍にまだ一匹いるけどね。まさかボクのチャームにかかってるってことはないよね?」
「出会ったその日から、モモくんに魅了されてる……」
「ほら、こんな様子だし、この人……」

 嫌そうな表情もチャーミングだ。
 モモくんの訴えを聞いた司令官さんは、ゆっくりと首を横に振る。

「いいえ。そもそも、ヒーローの適性がある人はチャームにかからないようになってるんですよ。だって仲間の技が効いちゃったら困るでしょ?」
「現実的なんだか、そうじゃないんだか……」

 モモくんのストーカー騒ぎとやらは、きっとオレも巻き込まれたおとといのアレだ。そのせいで昨日は寝込むハメになっていた。当事者なら精神的にきているだろうし、お疲れなのも充分わかる。
 モモくんと一緒にいられないのは残念だが、役に立てるのであれば喜んで仲間をスカウトしに行こう。

「司令官さんは、仲間を探しに行かないのか?」
「私はヒーロースーツの調整があるんです。ブルーも何かおかしなことがあれば、すぐに言ってくださいね」
「そんなことまでしているのか……大変だな」

 それなら赤城が2人で行こうと言ったのも頷ける。
 衣装の調整まで自分でしなければならなかったり、寮がラブホテルだったり、マネージャーも色々苦労してそうだ。

「まだ何か誤解をされているような気もしますが、まあ遠からずなので問題ないでしょう」
「うんうん。その通りだ」
「かなり遠い気もするけど……赤城サン、いつもはツッコミ役なのにボケに回ってどうしちゃったの?」
「誰がボケてるか。自分の目で見て納得するまでは、まあ近いんじゃねーかなって思っただけだ」
「……そう言われてみれば、そう、かな……?」

 3人が会話していると、疎外感を覚える。馴染みたいなら積極的に発言するべきだ。でも、推しのモモくんが尊すぎて難しい。影から応援しているくらいがちょうどいいのに、この距離は嬉しくも近すぎる。

「ってことで、行ってくるな。何かあれば連絡するから」
「よろしくお願いします。ブルーにも私の連絡先を教えておきますね」
「あ。俺とも交換しとこうぜ」

 赤城と司令官さんとLINEを交換した。

「連絡手段はLINEとかだし……。妙に現実的なところがあるから、誤解してるのも仕方ないか」

 モモくんは小さな声でそうブツブツ言うだけで、スマホを取り出しすらしてくれなかった。悲しい。推しのアドレスなんて入っていたら興奮しすぎて死んでしまいそうだから、これで良かったのかもしれない。

 まさか初めてラブホテルを出るのが、よく知りもしない男とになるなんてな。そう思いながら、あまりセンスのよくない扉を開いた。

「ビックリしただろ。秘密基地がラブホテルなんてな」
「あ、ああ」

 孤高を気取ってそうな外見をしている割に、赤城は親しげに話しかけてくる。先程もモモくんの体調を気遣っていたし、イイヤツなのかもしれない。同じグループとして活動するのであれば、好かれていたほうがいいに決まってる。それに、このコミュニケーション能力の高さは見習うべきだろう。アイドルをやる上で、かなりの武器となるはずだ。

「年齢も近いし、仲良くしようぜ。けど、お前は小さい子のがいいのかな?」
「いいとは……?」
「小さい子に恋愛感情を抱くタイプかと。モモみたいな」
「なっ! ち、違う! 確かに一目惚れだか、そういうアレではなく……。もっとこう……そう、神を崇めるような……」
「そ、そうか。わかるっちゃわかるな。モモのルックスは精巧に作られたような感じがするから。俺の好みからは外れるが」
「あれが好みから外れる……? 信じられない」
「無神論者なものでね。俺には神は必要ない。大人の関係を求めるには、アイツはガキすぎるのさ」

 コイツの言い回しのほうが、モモくんよりよほど演技めいた……作られたもののような気がするが。偏見かもしれないが、オタクくさいというか。思わず笑ってしまいそうになったぞ。
 ああ、でもアイドルにとっては、キャラクター作りも重要だもんな。プライベートから実践しているとは意識高い系か。

「そんで、恋愛としての好みはどうなんだ? 童貞か?」
「どっ……!? なんでそんなこと、答えなきゃならないんだ」
「いやー。ほら、アイドルとしては重要だぞ? 後から熱愛発覚とか、処女じゃなかったとかはダメだろ」
「……確かに」

 実際それで裏切られたばかりのオレに、その言葉は重く響いた。

「け、経験は……ない」
「よっしゃ!」
「……何故そこで、お前がガッツポーズをとるんだ」
「んん。いや、俺も経験ないからさー。仲間ができたようで嬉しいって気持ち?」
「なるほど」

 確かに少し、親近感が沸く。どう見ても軽そうに見えるコイツが初めてとは。本当に、人は見た目によらないな。赤城はやたらと嬉しそうで、それも微笑ましく映った。親しくしたいというなら、オレももう少し友好的になるべきだろう。年齢も近いしと言っていたが、なんとなく年下だろうとは思うし、優しくしてやらねば。

「で、好みのタイプは?」
「……そうだな。いい歳をしてアイドルに熱をあげていても、お金がなくても好きになってくれて、かつ顔がいい女性だ」
「……ハードルたけぇな……」

 お前はどうなんだと訊くと、好きになったヤツがタイプかな! などと殊勝なことを言って笑っていた。




 それから2人で街まで出て、雑踏をぼんやり眺める。ぼんやりしてるのはオレだけで、赤城はきちんと人の顔を追っている。この中から……ダイヤの原石を探し出すんだ。5人グループだから、あと2人。

 顔がいいヤツならそれこそ掃いて捨てるほどいる。でもアイドルになるには、それだけじゃダメだ。もちろん顔がいいことは前提だが、人目を引くような華がなければならない。そう、モモくんみたいに。あれだけの人に追いかけ回されていたのだから、素質は充分。オレが知らないだけで、すでにネットなどで顔が売れているのかもしれない。

「探しているメンバーの系統などはあるのか? 男性のみ?」
「そうだな。男がいい。系統は……。顔は重要だ」
「それはそうだろう」
「あとはオーラが見えるかどうかだ」
「お前にはオーラが見えるのか? なら、オレのオーラも?」
「ああ。お前は……凄く綺麗な青色だよ」

 赤城はやたらキメ顔を作りながら、少し長めなオレの髪をすいて耳にかけた。ファンサービスの練習だろうか。口説かれているように思えて少しドキリとする。
 オーラが見えると言ってもらえると、少し自信がつく気もする。顔がそう悪くないことも自覚はしてる。ただ、歳もとったし今は身体も貧相だからな……。

「青いって、会った時にも言ってたな。あの時は顔色のことだと思っていたが」
「顔色て」

 何故か噴き出された。

「人によってオーラが違うわけか」
「ふふっ……。そ、そうだな。あとは黒と黄色だ」
「黄色はまさに、スターっぽいな。あ、アイツなんか、ちょうど良さそうでは? 黄色という感じがする」
「ああー……。確かに、顔は好みだが……。残念だな、オーラが見えない」

 本当に心底残念そうな顔をしている。彼の本気が窺える。

「ま。そう簡単には見つかんねえから、気長にな」

 星の数ほどアイドルがデビューし、そして消えていく。探す段階で完璧に選別ができるのなら、赤城の能力はたいしたものだ。

「むしろ1人でいたほうが、声をかけやすくないか? 2人組だとツボか宗教だと思われそうな気がする」
「ソコに気づいてしまったか……。今日のとこは、お前と親しくなりたくて連れてきただけなんだよ。むしろ仲間探しがついでな」
「そ、そうか」

 同じメンバーとしてやっていくなら、それもまた重要か。

 赤城の距離感が……恋人のような近さなのが、少し気になりはするが。

「アオの能力はなんだろうな」
「オレの……?」

 正直、オタ芸くらいしか自慢できるものがない。

「さっきのスーツを着ることで、能力が使えるようになんだよ。俺はオーラが見えるようになる」
「ドーピングみたいなものか? 選べるのだとしたら……バク転……。ダンスの才能。天使の歌声」

 欲しい能力を並べあげてみた。

「敵を倒すには役立ちそうにないな」
「充分だと思うが……」
「いや、もう少し殺傷力がないと」

 ライバルを物理で倒していくスタイルとか恐ろしすぎる。プロレスじゃないんだ。デビュー早々スキャンダルはごめんこうむりたい。赤城の手綱はきちんと握っておく必要がある。

「人を傷つけたりしたらダメだぞ、赤城」
「あー……。まあ、むしろ守る側だし」
「うん。コンセプトは正義のヒーローだしな」
「お前、実際に事件が起こってもまだ撮影だと思ってそーだよな。まあ俺も人のことは言えんけど」
「じ、事件が起こるのか?」
「さー……どうだろな。できれば仲間が揃ってからだとありがたい。毎日襲ってくるわけでもないみたいだし……」

 赤城はオレの肩に頭を乗せて溜息をついた。視線はぼんやりと、人の流れを追っている。

「お前のことは、俺が守ってやるからな」
「え……」
「少しはドキッとしたかよ?」
「いや、全然。むしろ引いた」
「……手強いな」

 男にこんなことをされて、ゾッとすることはあってもドキリとは中々しないと思うんだが……。

「ッ! アオ、今のやつ……!」
「オーラの持ち主がいたのか!?」
「限定キーホル……ッ、や、そう! 追いかけるぞ!」

 走り出した赤城を追う。人混みだというのに気持ち悪いくらい足が速い。連絡先は交換してあるから見失っても問題ないとはいえ、こちらのことをまったく考えていない様子に腹が立った。守るが聞いて呆れる。

 そして、オレも見つけてしまった。オーラの持ち主ではない。

「マイちゃん……!」

 ずっと推していた元地下アイドル綾瀬マイの姿を。

 オレは無意識のうちにマイちゃんの背を追っていて、赤城を見失ってしまった。習性というのは怖いものだな。全然そんなつもりはなかったのに、足が吸い寄せられていた。
 今は男の子の姿をしているし、ライブや握手会をしていた時の面影なんてまったくない。それにもう、オレの推しはモモくんだ。マイちゃんへの未練は断ち切ったはず、だったのに。

 でも、元推しが困ったような表情で走っているのはどうしても見過ごせなかった。
 オレたちを裏切ってまで愛した『ハニー』とやらのせいでそんな顔をしているのか? だとしたら許せない。殺傷力のある能力が今こそほしい。倒してやる、物理で。

 そう思った瞬間、前方から爆発音が響いた。煙と同時に、肉の焦げる匂い。そして……千切れたのか、人の腕が目の前にとんできた。
 高く上がる悲鳴。蜘蛛の子を散らすように、爆心地から逃げてくる。オレの足は震えて動かない。血の気が引いた。手が冷たい。
 赤城の言っていた能力という言葉が頭を掠める。

 ……オレ、今、爆発しろって……思った……。

 いや、だって、まさか……。だとしても、正義のヒーローなんだろう? こんな、一般人を巻き添えにするような能力なんて。

 目の前が真っ暗になる。そんなファンタジーな考えは馬鹿げていると思ったが、あまりにもタイミングが良すぎた。
 そして……再び、現実とは思えないことが起こった。

「あっ、ご、ごめんなさい!」

 何かがぶつかってきた衝撃に視界が明るくなる。腕の中に飛び込んできたのは、マイちゃんだった。
 それは明るくもなる。輝いてる。心臓が物凄い音を立てている。

「マイ……ちゃん」
「えっ? 僕のこと、知ってるの?」

 さっきの爆発はオレがやったのかもしれない。しかし、もし違うとしたら、マイちゃんを連れてこの場所から逃げなくては。

「逃げよう!」
「……ッ。でも……」

 切ない、苦しそうな表情でマイちゃんが爆心地を見る。
 オレが手を引くと、キュッと唇を引き結んでついてきた。
 なんとなく、予想はつく。恋人はきっとあの爆発に巻き込まれて……。いや、むしろ、巻き込まれたというよりは爆発したのが。

 スマホの着信音が鳴って、慌てて出る。

『おい、今どこだ!? 爆発があっただろ、大丈夫か!?』
「オレは……平気だ。オレは」

 今さっきまで聞いていたのに、その声がなんだか懐かしく、そして頼もしかった。守ってくれるというのなら、今こそ守ってほしい。そう思った瞬間。

「いた!」

 電話越しではない声が聞こえて、マイちゃんと繋いでいない手のほうをグイッと引かれた。

「赤城!」
「その男の子はなんだ?」
「ま、マイちゃんだ」
「いや、名前を訊いてるワケじゃなくてよ。……まあいい。とにかく、そいつは置いてこっちへ来い。事件だ」

 でもその事件は、オレが起こしたのかもしれない。そのせいで震えているマイちゃんを放っておくなんて、オレには……。
 離された手を名残惜しく思いながら、二人の顔を見比べる。

「あの、もしかして警察の方ですか!? さ、さっきの爆発、もしかしたら僕の……恋人がっ! 起こしたかもしれなくて!」

 次々と展開が変わりすぎて、頭がついていかない。当たり前だ、モモくんに会ったあの日から、あまりにも非日常が過ぎる。頭がおかしくなったのではと思うほど。

 赤城はスマホの画面をちらりと確認し、頷いた。

「話を聞かせてくれ。第二、第三の爆発が起こる可能性が高い」
「わかりました。でも、その、僕にも、よくわかってなくて。これは夢かもしれないって」
「ああ。心配するな。夢だよ。自分のスマホを見てみな。時間が止まってるだろ?」
「え……。あ、本当だ……。カメラも、起動しない……」

 なんてことだ。
 つまり、せっかく出会った元推しの写真が撮れない……!?

 いや、馬鹿。そんな場合じゃないだろう、オレ。
 マイちゃんは恋人のせいかもと言っているが、まだオレが爆発を起こした可能性も否定しきれないんだ。
 こんな不思議な現象が起こってるなら、なおさら。

「これって、最近噂の白昼夢事件ですか? 全部、全部元通りになりますか?」
「ああ。なるぜ。だから心配しなくていい」
「はいッ……!」

 マイちゃんは赤城にタッと駆け寄ると、その胸の中に飛び込んだ。
 クソッ、満更でもない顔をするな、赤城! 羨ましすぎる……!

「喫茶店とかに入れればいいんだが、さすがに避難が始まってるな」
「結構大きい爆発でしたから」

 言うが早いか、またどこかで爆発音と悲鳴が聞こえてくる。
 マイちゃんは赤城の腕の中でビクリと身を縮こまらせた。その背を優しくポンポンと叩いてやっている。羨ましい。

「俺は赤城。そっちは青山だ」
「赤城さん……と、青山さん」

 ヒイッ! 推しがオレの名前を呼んでる……!
 元とはいえずっと応援していたアイドルに名前を呼ばれるのは恐れ多すぎた。思わず固まる。

「青山さんはアイドルだった時の僕を知ってるんですね。今は全然姿も違うのに……」
「ファン、だったから……」

 たとえ着ぐるみを着ていたとしても、見分けられる自信がある。それくらい、好きだった。人生賭けていた。それがこんなふうに会話できる日がくるなんて。

「それで、爆発が恋人のせいかもしれないっていうのは?」
「その。近く結婚予定なのですが。彼女、僕が浮気してると思ったみたいで。女装アイドルなんてしてたせいか、同性の友人との仲まで疑われて……」
「マリッジブルーもあるだろうな」
「それで、彼女が……。爆発させてやるって言って、爆弾を出しまして」
「…………爆弾を?」
「はい。手から、ポンッて。悪い夢かと。いや、夢なんですよね、これ」
「もしかしたらじゃなく、完全にその恋人とやらのせいじゃねーか!」
「だって普通、手から爆弾なんて出ないでしょ!? しかもゲームで見るような、まん丸い形に火のついたやつですよ!?」

 マイちゃんは可愛らしく、手でその爆弾とやらのフォルムを表現している。
 確かにそんなありえないことが起こったら、何かの間違いではと思ってもおかしくない。何より、結婚相手がそんな事件を起こすわけないという想いもあるだろう。

「巨大爆弾か……? いや、でも……。この場合、何をどうすればゲームクリアになる?」

 赤城がブツブツと聞こえないくらいの声で、何かを呟いている。

「マイ。彼女の写真はあるか?」
「はい、これです」

 綺麗な女性が映っている。マイちゃんは女装をしていたから、相手が男だというイメージがあったけど……。そうだよな、日本で結婚するなら、それは相手は女性だよな。物理で倒さなくて良かった。むしろ今、オレたちが倒されそうなのは置いといて。

「よし。この画像をシロとモモ……。お前にも送るぞ」
「えっ……? なんで、赤城さんのスマホは写真が撮れるんですか?」
「け、警察のスマホには特殊な機能がついてんだ」

 マイちゃんは不思議そうに、自分のスマホを操作している。
 そういえば、時計は動いてないけどオレのも通話は繋がってたな。

「アンタは避難しろ。見たくないものまで見るはめになるぞ」
「嫌です! 僕も行きます!」
「大丈夫だ。どうせ全部夢になる。恋人さんにいられると、俺たちもやりにくいんだよ」

 そんな優しそうな顔ができたのか、というほど、赤城は優しそうな顔をしていた。しかも頭ポンからのナデナデまでしている。
 人のことは言えないが、お前マイちゃんの性別を忘れてないか?

「わかりました……。気をつけてくださいね。二人とも。あと、青山さん……」

 名前を呼ばれて変な声がもれそうになったのを、死ぬ気で飲み込んだ。

「……なんだ?」
「ファンの貴方を裏切ってしまってスミマセンでした」
「それはもう、ステージで謝ってくれただろう。今の君はただの男の子だ。謝る必要がどこにある?」
「ッ……! ありがとうございます!」

 ふあああー! 元推しに頭を下げられてる凄い!
 今のオレにはモモくんもいるし、本当にもういいんだ。寂しくはあるけどな。オレのほうこそ、ありがとう、マイちゃん。今なら心から素直にお礼を言える。

「挨拶は終わったな。行くぞ、アオ」
「ああ……」

 オレたちは爆心地へ向って走った。次々に爆発している。もう無差別にも思える。
 運動不足であるはずのオレの足は羽でも生えたみたいに軽快に動き、逃げる人の波から逆走することも容易かった。
 突然の爆発。手慣れた赤城。止まった時間。何もかもまだ、わからないことだらけだ。でも。

「赤城……ひとつ、わかったことがある」
「言ってくれ」
「正義のヒーローは、アイドルのグループ名じゃなかったんだな」
「…………ああ」
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