甘すぎるのも悪くない

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甘さ控えめ

特別になりたい

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 好きになってしまえば、その人の特別になりたいと思うのは至極当然の感情だろう。

 問題は……彼は基本的には不特定多数女性の特別であり、おれは顔見知りですらないただの後輩。しかも男なんてそう見向きもされないということだ。


 けど女じゃない分、アプローチをしたら目立ちはするかもしれない。

 ……悪目立ち、って感じかもしれないけど。



 この前、おれに笑いかけましたよね?



 話すきっかけとしては、まあ……最悪、だよな。

 先輩が本当に笑いかけていたならまだしも、錯覚だったとしたらおれはどれだけ自意識過剰の勘違い男と思われることか。悪印象を与えてしまうのは、間違いない。


 ここは古典的に先輩の趣味や好きな場所を調べて、なるべく同じ時間に居て……声をかける、とか。

 なんてことは、彼のファンならみんなやってるんだろうな。


 彼の特別になるのはなんて大変なことだろう。

 相手が有名人であればあるほど、身の回りで起きる小さなきっかけは色褪せてしまう。


 どう頑張っても、その他大勢にしかなれない人間が一体何人、影で涙を流したのか検討もつかない。先輩にとってはおれなんて、その他大勢の一人でしかないんだ。


 それでもおれは先輩を目で追って、先輩はそれに気付かず毎日を過ごす。

 おれは影から貴方を見つめているだけで満足なんて乙女には、なれそうにないんですけど。


 どうしたら貴方の特別になれるかな。聞けば教えてくれるだろうか。逃げられるだろうか。

 大勢の前でいきなり告白したら、それは確実に特別な存在になれる。望むのとは別のベクトルで。

 放課後の図書室で勉強をしていても、浮かぶのはそんなことばかり。


「この前笑いかけたの、気付いたろ?」


 だから、そんなことを言いながらおれの読んでいる本を指先で倒して目の前でニコニコ笑うこの人は、妄想が作り出した幻なんじゃないかと思った。


「……え?」


 思わず間抜けな呟きを漏らすと、彼は楽しそうにくくっと笑う。


「あれだけ視線ががっちりあって、それで笑いかけたのに、気付かなかったのか?」


 喉がカラカラに乾く。確かに、おれに笑いかけたのかもしれないとは思った。でも、おれが先輩を知っていても、先輩がおれを知ってるなんてことはない。四階なんて、知り合いでもいなけりゃ見ようとは思わない。


「俺ね、空が凄く好きなんだよ。というか、青色が凄く好き。空を見上げた途端、目が合ったから笑ってみた。それから毎日後輩くんの視線感じるんだけど、気のせいかな」

「気のせいじゃ、ありません」


 特別になりたいと、そればかりを思ってきたから気付かなかった。


 既に彼の特別である可能性なんて、考えもしなかった。
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