甘すぎるのも悪くない

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甘さ控えめ

偶然?それとも……

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「俺コーヒーで」


 先輩を見た店員が頬を赤く染めた。

 迷うことなく、おれも同じものを注文する。トレイを胸に抱えて小走りに走っていくショートカットの女性店員を、先輩はさも当たり前のような顔で見ている。

 次におれに視線を合わせて、にっと笑った。


「お前、あまり妬かないのな」

「え……?」


 突然の台詞にぎょっとする。


「ごくたまに、男と喫茶店とか来るとさ、凄い羨ましがられたりするから」


 驚いた。先輩が好きだということ、ばれているのかと思った。

 単に男としての嫉妬をしないのかという意味らしい。


「まあ、羨ましくなるでしょうね、普通なら」

「羨ましく思うほど、女性には不自由してませんよってとこか? 後輩くん、やるね」

「先輩ほどじゃないですけど」


 確かにおれは、羨ましくなるほどもてない訳でもない。

 それに今では女性にもてるよりも先輩に好きになってもらえる方が嬉しいし、好きな相手に好かれなきゃなんの意味もない。


「で、まずは飲み物から頼んだけど、どの甘いものがお勧めなのかな」

「ええと……。アップルパイかチョコレートパフェですかね」


 正直ここにはたまに軽食を食べに来るくらいで、甘いものはこの二種類しか食べてはいない。

 でも美味しかったのは嘘ではないから、がっかりはさせない筈だ。


「じゃあチョコレートパフェにしよう」

 恥ずかしげもなく迷わずその選択肢でいくわけですね、さすがです先輩……。

「お前は何にする?」

「ん……じゃあ、新しいの試したいんで紅茶のシフォンケーキにします……」

「飲み物持ってきてくれた時に注文するか」


 先輩がそう言った途端、タイミングよくコーヒーが運ばれてきた。さっきとは違う、ロングヘアで黒髪の女性店員だった。ここではあまり見たことがない顔だ。

 誰が注文を取りに行くか争奪戦とかが裏で行われてるんじゃないだろうな。


 パフェとケーキを注文すると、さっきの女性店員と同じような反応をして戻っていった。

 先輩を見ると嘘みたいな量の砂糖とミルクを入れていてぎょっとした。

 ちなみにおれは、一つずつしか入れてない。


「凄いたくさん入れますね」

「苦いより甘い方が美味い」


 本当にこの人、相当甘党なんだな……。


「お姉様方の前でやると、ギャップが可愛いとか喜ばれるんだぜ?」


 おれも思ってますよ。可愛いって。


「お前さ、知ってる?」

「え? 何をですか?」

「この店から向こうな、ホテル街なんだよ」


 飲みかけたコーヒーを危うく噴くところだった。

 別に意識するようなところじゃない。

 そうなんですか、とか。先輩は詳しそうですねとか、無難に返せばいい。


「連れ込まれるのかと思った」

「そ……」


 そうなんですかと言う前に、おれは固まった。

 何だ、この台詞は。


 冗談? 気付いてる……? 偶然言ってみただけ? それとも……。


 冗談でごまかせなくなると判っているのに頭の中がぐるぐるとして、おれは固まったまま何も言うことができなかった。
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