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甘さ控えめ
夢の中の話
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ややあって運ばれてきたパフェに、先輩が顔を輝かせる。
甘い物に対しては割りと素直に表情を見せるんだな。
「チョコレートソースたっぷりだし生クリームも多い。これは当たりだ」
そんなことを言うもんだから、思わずコーヒーを噴き出しそうになってしまった。
「そんなカッコイイ顔で言う台詞じゃありませんね」
「顔は関係ない」
多分それも言われ慣れているんだろう、先輩は気にした様子もなく、嬉しそうにパフェを食べている。
もう知っていても頭の中で一致しない眺めだ。
それでも好きな人が目の前でパフェを食べる姿はやっぱり可愛いし嬉しいとか思ってしまうもので、おれは先輩の綺麗な形をした口唇の中に生クリームが運ばれていくのをじっと見ていた。
やらしいことをまったく考えてないとは流石に言えない。
「後輩くん」
だからそう声をかけられた時はやましさから思わずテーブルをがたつかせてしまった。
「っあ。生クリームが手についただろ、もう」
ちゅ、と舐めるしぐさはおれに対してサービスか嫌がらせかどちらだろう。
「お詫びにそれ一口寄越せ。食ってないし」
「あっ」
しかもシフォンケーキを勝手にさっくりと持っていかれた。
一口って。今ので半分ほど無くなったんですけど。
「おとなげない……」
「いいんだよ」
「それで、何ですか?」
「え?」
「呼んだじゃないですか、おれを」
「ああ、それはもう終わった。そのケーキ、一口もらいたかっただけだから」
……結局食べる気だったんじゃないか。
「憧れの先輩がこうだって知ったら、みんなは悪夢のようだと思うでしょうね」
「夢みたい! って思うに決まってる。それとも後輩くんにとってこれは悪夢か?」
狡い……。そんな風に笑うのは、狡い。
「……黙秘権を行使します」
「傷つくなあ。お詫びにもう一口な」
「あ」
そして全部食べられてしまった。
「結構美味しいな」
「そうですか……」
それから少しだけ学校の話をして、おれが支払いをしてデートが終了した。
次の約束を取り付けなきゃと思うのに、声が出ない。
歩かずに突っ立っている訳にもいかなくて、おれは仕方なく駅へ向かおうとした。
「後輩くん」
先輩がおれを呼ぶ。おれは振り返る。
「何ですか?」
「さっきのケーキ、やっぱり一口くらいは食べたかったか?」
……少し期待したおれに、また甘い物の話。
「そりゃあ……頼んだのはおれだった訳ですし」
先輩はおれの手を掴んで、路地に入るといきなりキスをかましてきた。
突然の事態に頭がついていかない。
何だ? 何? 一体何が起こってるんだ!?
「一口」
「……え?」
「割りと美味いよな」
確かに先輩の口唇は甘いケーキの味がした。
先輩は壁に俺を押し付けると、低い声で囁く。
「で、このまま俺を連れ込んでみる? 後輩くん」
今制服だ、とかそんなものは一切頭から消えていて、おれは先輩の身体を抱きしめていた。
「どうなっても知りませんから」
身体がかっと熱をあげる。このまま腕を引いて駆け出して、連れ込んでしまいたい。
でもその前に……やられっぱなしは性にあわないので。
「ッ……」
路地の壁に先輩を押し付け返して、下から熱い口唇を貪った。
本当に熱い、先輩。口の中、とろっとろだ。このまま溶けていきそうな……。
ああ、まるで夢みたいだ、とは思ったけど。
本当に夢だったっていう展開はないんじゃないかと思う。
「え?」
おれは見慣れた自分の部屋、一人呆然とそのままたっぷり一時間はベッドの上で固まっていた。
甘い物に対しては割りと素直に表情を見せるんだな。
「チョコレートソースたっぷりだし生クリームも多い。これは当たりだ」
そんなことを言うもんだから、思わずコーヒーを噴き出しそうになってしまった。
「そんなカッコイイ顔で言う台詞じゃありませんね」
「顔は関係ない」
多分それも言われ慣れているんだろう、先輩は気にした様子もなく、嬉しそうにパフェを食べている。
もう知っていても頭の中で一致しない眺めだ。
それでも好きな人が目の前でパフェを食べる姿はやっぱり可愛いし嬉しいとか思ってしまうもので、おれは先輩の綺麗な形をした口唇の中に生クリームが運ばれていくのをじっと見ていた。
やらしいことをまったく考えてないとは流石に言えない。
「後輩くん」
だからそう声をかけられた時はやましさから思わずテーブルをがたつかせてしまった。
「っあ。生クリームが手についただろ、もう」
ちゅ、と舐めるしぐさはおれに対してサービスか嫌がらせかどちらだろう。
「お詫びにそれ一口寄越せ。食ってないし」
「あっ」
しかもシフォンケーキを勝手にさっくりと持っていかれた。
一口って。今ので半分ほど無くなったんですけど。
「おとなげない……」
「いいんだよ」
「それで、何ですか?」
「え?」
「呼んだじゃないですか、おれを」
「ああ、それはもう終わった。そのケーキ、一口もらいたかっただけだから」
……結局食べる気だったんじゃないか。
「憧れの先輩がこうだって知ったら、みんなは悪夢のようだと思うでしょうね」
「夢みたい! って思うに決まってる。それとも後輩くんにとってこれは悪夢か?」
狡い……。そんな風に笑うのは、狡い。
「……黙秘権を行使します」
「傷つくなあ。お詫びにもう一口な」
「あ」
そして全部食べられてしまった。
「結構美味しいな」
「そうですか……」
それから少しだけ学校の話をして、おれが支払いをしてデートが終了した。
次の約束を取り付けなきゃと思うのに、声が出ない。
歩かずに突っ立っている訳にもいかなくて、おれは仕方なく駅へ向かおうとした。
「後輩くん」
先輩がおれを呼ぶ。おれは振り返る。
「何ですか?」
「さっきのケーキ、やっぱり一口くらいは食べたかったか?」
……少し期待したおれに、また甘い物の話。
「そりゃあ……頼んだのはおれだった訳ですし」
先輩はおれの手を掴んで、路地に入るといきなりキスをかましてきた。
突然の事態に頭がついていかない。
何だ? 何? 一体何が起こってるんだ!?
「一口」
「……え?」
「割りと美味いよな」
確かに先輩の口唇は甘いケーキの味がした。
先輩は壁に俺を押し付けると、低い声で囁く。
「で、このまま俺を連れ込んでみる? 後輩くん」
今制服だ、とかそんなものは一切頭から消えていて、おれは先輩の身体を抱きしめていた。
「どうなっても知りませんから」
身体がかっと熱をあげる。このまま腕を引いて駆け出して、連れ込んでしまいたい。
でもその前に……やられっぱなしは性にあわないので。
「ッ……」
路地の壁に先輩を押し付け返して、下から熱い口唇を貪った。
本当に熱い、先輩。口の中、とろっとろだ。このまま溶けていきそうな……。
ああ、まるで夢みたいだ、とは思ったけど。
本当に夢だったっていう展開はないんじゃないかと思う。
「え?」
おれは見慣れた自分の部屋、一人呆然とそのままたっぷり一時間はベッドの上で固まっていた。
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