廃スペックブラザー

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本編

禁断の恋

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 狩り場へつくと、サチがピタリと歩みを止めた。俺たちが今いるマップは、木々が生い茂り雪が地面を埋め尽くす寒々しいフィールドだ。モンスターは雪の結晶をかたどった感じのと、緑色の虫みたいなんと、青色の鳥だ。多分これらは、普段からいるやつらだろう。ちなみに今日狩るのは水の形をしているイベントモンスターになる。
 多分ここは、今の俺にはまだちょっと早い狩場だ。
 せっかくのイベントだから、あまりサチの足を引っ張りたくねえな……。
 周りには既にプレイヤーが数名いて、他のモンスターには目もくれずイベントモンスターを狩っている。
 サチたちも狩るにゃよ! と、意気揚々と言い出しそうなサチは、何故か入ったとこで立ち止まったままだ。

『デロイからフレ茶にゃあ。一緒に狩らないかって』

 なるほど、チャットがきてたのか。
 サチと二人で狩りたい気もするが、正直なところゲーム的な面で言えば奴がいるのはとても助かる。なんつっても前衛様ですし? 加えてサチ並の廃人だ。俺が足を引っ張る確率も減るし、ヒールが追いつかなくなることもないだろう。
 強い敵相手になれば、サチは火力はあっても防御が弱い。それでも、紙装甲と呼ばれるソーサラーにしては有り得ないレベルで堅いんだけどな……。

『私はまだ弱いから、ロイがいてくれたら助かるかも』
『じゃ、オッケー出すにゃね』

 むしろわざわざ俺に訊いてくれたことが意外だ。二つ返事しそうなもんなのに。だってパーティーメンバーは多いほうが助かるだろ? 俺とサチじゃ明らかにキツイんだ。効率厨気味なサチらしくない。
 効率なんかより、俺と二人でキャッキャしたいと思ってくれたんかな。なんか嬉しい。
 だが、足を引っ張る側としては申し訳なさのほうが前面に出るんだよな……。

『ロイもイベント待ちわびてたでしょ。スタート遅かったもんね』
『もうまだかまだかって、たくさんチャット送ってきてたにゃよ』

 やはり。

『サチも送ったけど』

 ですよねー。きっと運営の悪口大会みたいになってたんだろう。
 これでオンラインに嫌気がさして……なんて展開があればてっとり早くていいんだが、まあ、ないだろうな。俺ももう少し、この世界で遊んでいたい気もするし……。

『デロイが来るまでボチボチ狩ってるにゃ?』
『うん、そうしよ』
『よーし、頑張って集めるにゃよー! ファイヤー!』

 サチはそう言って一番近くにいる水滴型のモンスターに一撃を喰らわせた。水滴型のモンスターは小さな傘を手にしている。魔法は微弱なダメージしか出なかった。

『やっぱ、火魔法は効かないにゃね。じゃあスタンダードに土魔法かにゃ? ロックストーン!』

 今度は綺麗にダメージが出た。

『傘を持ってるのと持ってないのがいるけど、何か違うのかな? ドロップ率? にしては、均等にいるし……』
『いろいろ確かめてみるにゃー!』

 めちゃめちゃ楽しそうだな。本当は俺がやりたいのは前衛職だから、敵をズバズバ倒していく姿が少し羨ましかったりもして。

『うわ、結構ダメージ喰らうにゃ。デロイ呼んでおいて正解だったにゃね』
『ヒール! リフレク!』

 この前覚えたばかりのスキルをかけてみる。
 一度だけだが、敵の攻撃を無効化できるスキルだ。……連続攻撃に対しては初めの一撃で剥がれたり、全体攻撃に対しては無力だったりで万能ではない。クールタイム(次に使えるようになるまで)も長い。使い勝手は悪いが、判断を誤らなければ効果は絶大。

『いいタイミングにゃ!』

 回復したサチが、杖で殴る。ダメージは1。
 サチはソーサラーとはいえ、装備はチート。殴りでも1しかでないというのは相当だ。

『嘘みたいに堅いにゃー。魔法職万歳?』

 言葉通りいろいろ試してみてる。情報が出回ってないから、本当に手探り。楽しそうなサチに俺もウキウキしてくる。
 それから4回くらい魔法を唱えて、戦闘が終了した。水の珠を手に入れた! という文章がチャット欄に流れる。

『出たにゃー!』

 とりあえず手に入れたアイテムを使ってみると、ここでは使えませんと表示された。
 ま、だろうとは思ったが、お約束ってヤツだな。

『でも、想像以上に大変だね。イベント期間一週間みたいだし、終わるかなあ』
『これくらい一日で終わるにゃ』

 そりゃそうですよね、廃人様なら。

『このアイテムトレードできるかにゃ?』

 まさか俺の分まで集めてくれる気か? 助かるが、それでは
やっぱりつまらない。俺が大学に行ってる間、サチはさっさとクリアしてそうなのもつまらない。
 こうなりゃ、俺も大学休んで不眠不休でイベントを……って、危ねえ! こうして廃人が出来上がっていくんだな。恐ろしい。ミイラ取りがミイラになっていたらシャレにならない。

『あ。トレードできるみたい』
『にゃ……。間に合わなければ、サチがアズちゃんの分まで集めておくけど、そうなるまではサチ、イベントやらないで待ってるにゃ。一緒に集めるにゃあ』
『え……?』

 誰より早くイベントを終わらせてそうなサチが、俺を待ってるって? 俺が落ちたら絶対徹夜でイベント終わらせそうなサチが! いや、イベントやらないにしても連日徹夜はしてそうだが……。

『いいの? だってサッちゃん、早くクリアしたいでしょ? 攻略サイトに情報もアップされてって、周りはみんな先にクリアしちゃうんだよ?』
『でも、今アズちゃん、寂しそうな顔したにゃ』
『サッちゃん……』

 顔、見えねーだろ。ドットなんだから。
 そう突っ込みたかったが、とりあえず我慢した。

『私も、サッちゃんとイベントやりたいと思ってたから、そう言ってくれて嬉しいよ。でも、悪いなあ』
『大丈夫。急ぐ必要はないにゃ。終わればそれでいいのにゃ。それにやろうと思えばこんなの楽勝にゃ。制約があったほうがやり甲斐があるってもんにゃよ』

 確かにそうかもしれないが、カンストしちまってるサチなら今はイベント以外にあまりやることもないだろうに……。
 や、やばい。やたらと、嬉しいぞ。もうちょっと喜びをちゃんと伝えたい。そういう気持ちこそ、画面から滲んでくれたらいいのに。
 何かこのタイミングにちょうどいいエモーションは……。

「呼ばれて飛び出てデブストローイ! ややっ、お二人さん、見つめあっちゃってどうしたぴょん!?」

 呼んでねええぇええええええ!
 いや、実際呼んだから来たわけだが、とりあえず突っ込まなければ気が済まなかった。
 相変わらずテンションと破壊力の高い男だ。

「デロイがぴょんとかつけても可愛くないにゃ。パーティチャットしてただけにゃよ」

 サチはそう言いながら、ロイをパーティへ加えた。
 正直今の登場にドン引きしてて、加えてほしくないレベル。

『これは、我が愛しの姫君たち。元気にしてたKAI?』
『昼間会ったばっかりにゃ』
『お久しぶりです、ロイさん』
『ああっ、すげなくあしらわれるのもスルーして普通に返されるのも、どっちもたまらんち!』

 ……いや、もう……。どう、反応していいのか……。
 こんなロイが、俺の好みのタイプを訊くようにサチに頼んだって? やっぱり考えにくいな。

『で、サチ、どうだった?』
『魔法職万歳って感じの敵だったにゃよ』
『そうじゃなく、アズキちゃんの好みのタイプだよ!』

 マジで訊いてたのかよ!! てか、俺の目の前で尋ねたら遠まわしにした意味がまったくねーだろうが!!

『アズちゃんはハイスペックな男が好みなんだって』
『えっ!? オレのことじゃん? そっか、アズキちゃんはオレのことが……』
『言うと思ったにゃ。デロイは廃スペックなだけにゃ』
『またまたぁ! リアルでのオレなんて知らないだろお?』

 まあ、確かに……。にゃんにゃん言ってる兄貴がリアルハイスペックな男であるように、このテンションがアホみたく高いロイも物静かな純朴青年だったり、今時のギャルだったりするのかもしれん。意外なところで小学生とかな。印象としてはそれなりに歳はいってそうだが。

『確かにそうにゃけど、もしデロイが薄幸そうな美少女だったらとか、想像もつかないにゃね……』

 それはまあ、確かに。
 ロールプレイをしていても、性格ってヤツは端々に滲み出る。リアルでにゃんにゃん言う兄貴は考えられない……が、サチはキャラ作ってるくせに割りと気にしいでへこみやすく、完璧主義者。字面は違うがハイスペック。結局、根っこのところは一緒なんだよな。

『ふはっ。オレが美少女ならサチは身長高くて、美形で、天才でクールな感じのイッケメェンだな!』

 それまさにリアル兄貴。

『それはないにゃー』
『だよなー。あ、でも、もしそうだったらアズキちゃんの好みじゃねー? な? どうよ、アズキちゃん』
『えっ……私の? まあ、うん、そうかな』

 急に話を振られてドキドキしたが、無難に答えた。これだけじゃちょっとつまらんよな……。

『もし、サッちゃんの中身がそんなハイスペックなイケメンだったら、もう惚れちゃうかも』

 なんて言ってみたりして。

『アハハー。でも、ネトゲ廃人な時点で中身がどーであろーとNG扱いだよなー、オレとサチはさ』
『そうにゃね』

 よくわかってんじゃねーか。
 隣の部屋に少しだけ聞き耳を立ててみる。物音は……しないか。
 顔が見えなきゃ動揺も見えない。どんなに焦っていても、頭で考えて冷静にタイピングすればいい。ネットってのはそんな世界だ。ただ、何をどう言っていいかどうしてもわからなくなったら、チャットでの発言が止まる。タイピングして、消して、考えてまた打って。
 サチのタイピングはいつもと同じく神速度だった。
 それでももし顔が見えていたら、きっと何かわかった気がする。壁の一枚がなんだかもどかしい。
 サチの中身が兄貴なら惚れちゃうかもと言ったのは、アズキとしてであって俺がってワケじゃない。これは俺なりのロールプレイ。そうだろう? 根っこは一緒っつってもまた別の話。

『さあ、じゃあ狩るぜ狩るぜ! 廃人様のお通りじゃああ! 草木一本残さないぜええ! オレサマに、ひれ伏しなあぁ! ひゃっはああ!』

 ロイはそう言って敵に突っ込んでった。
 定型文じゃないよな。長文なのにタイピング速ッ! 兄貴も相当だがこっちもやべえ。

『……ロイさん、どうして今日あんなにテンション高いの』

 いつもおかしいが、今日はなんかマジでおかしい。

『デロイがああなのも無理もないにゃ。今日は本当に朝から待たされて待たされて待たされて』

 相当フラストレーションたまってそうだな……。兄貴もな。

『デロイ! イベントモンスターは直接攻撃が効きにくいから危ないにゃよ!』

 サチが慌てて駆け寄るが、ロイの攻撃はアッサリ通った。そして敵が使ってくる水魔法に苦戦している。
 さっきとは攻撃方法も強さも違う。強さは三段階っつっても、さっきサチが戦ってたのと強さは的には同じくらいに思える。

『そういえば、傘持ってるのと持ってないのがいたよね? 強さは三段階でも、それによって強さの質が違うんじゃ?』
『にゃるほど。パーティー仕様にゃね。前衛職万歳な敵もいるってことにゃ。でも、ダメージはおおいに喰らう』
『本当ならクレリックである私が、魔法攻撃は引き付ければいいんだけど』

 クレリックは素の魔法防御力が高いから、ゴミ装備でも廃スペックなサチと同等になれる。素の値が低い戦士なら軽く上回れる。……はずなのだが、いかんせん、俺のレベルが足りない。

 うまいタイミングでサチがロイと敵の間に割り込む。俺はその隙にロイにカーソルをあて、ヒールを唱えた。キラキラとしたエフェクトが出て、ゲージがMAXまで回復する。

『助かったぜ、オレの子猫ちゃん!』

 HPが半分ほど減ってたのに、随分余裕じゃねーか。まあ、戦士は基本的に積載量多目で、回復アイテムをアホほど搭載してるからな。

『あっ! イベントアイテムの重さがわからんかったから、ポーション1桁にしてきちまったぜ!』
『何やってるにゃ! 町戻るはめになったら逆にタイムロスにゃあ。イベントアイテムは重さほぼないにゃよ』
『うそーん』

 ロイの場合はほんまもんのアホだった。
 どーすんだよ。俺のヘボヒールだけじゃ、そんな長い時間持ちこたえられねーぞ。

『いや、でもコレ、どのみちソロじゃダメージでかすぎて狩れそうにないぞ』
『だからってポーション積んでこなくていい理由にはならないにゃ。前衛の風上にもおけんアホにゃ』
『そこまで言う!?』

 追撃が容赦ねえな、兄貴……。待たされた挙げ句、デロイのせいで中断される。そんな状況になりかねないから、まあしかたないのかもしれん。

『サチはアズキちゃんにあわせて、イベントゆっくりにするんだろ? まったりでいいじゃんか。なっ?』

 あ……。ソレ、デロイにも公言してたのか。本気だったんだ。本気で、俺の歩みにあわせてイベントするつもりなんだ。ずいぶん待ち焦がれてたみてーなのに……。

『だとしても、サチが言ってるのは一般論にゃ!』

 ああー、もう。完璧主義なんだから。サチは厳しいな。それともデロイがそうさせるのか。いじらずにはいられないキャラしてるもんな、デロイ。
 だがアズキとしては、ここはフォローを入れておかねば。
 
『まあまあ、できる限りヒール、頑張るから!』
『ウサ耳天使萌え!! オレも頑張る、頑張っちゃう!』

 ロイの台詞を今度はサチがスルーで、魔法が効きやすいほうのイベントモンスターに攻撃をしかけていた。
 どうやら傘持ちは魔法攻撃で物理が通りやすい。持ってない敵は物理攻撃で魔法が通りやすいみたいだ。傘を杖代わりに持ってる。持ってない敵は肉弾戦と覚えりゃいいかな。

『サッちゃん、あまり無理しないで! ソーサラーなんだから』

 ソーサラーは積載量があまりなく、どうしても荷物がMP回復薬だらけになってしまい、HP回復薬を積む余裕がない。
 クレリック不在の特攻は自殺行為と言ってもいい。普段はサチのハイスペックさでなんとかなるが、今日は慣れないイベント敵。何があるかわからない。
 俺はロイを無視して急いで駆け寄った。そうじゃなくてもスルーだがな、あんな台詞!

『アズちゃんを守るためなら、死なない程度に身体を張るにゃよ!』

 死なない、程度に……。

『デスペナルティ厳しいもんな……』
『格好つけたくても素直につけきれないにゃね……』

 これだけ延々とログインしているなら、1レベル下がるくらいはたいしたことない気もするが、捨て置けない何かがあるのだろう。




 それから1時間ほど狩って、俺はレベルが23になった。二人とレベルが近くなってきているからか、いつもより多く経験値が入った気がする。30くらいからはレベルアップの必要経験値が増えて、また上がりにくくなるかもしれない。
 戦闘後は会話しながら町に戻って、そのまま軽くチャットタイムだ。
 二人が強いのでイベントアイテムである水の珠は90個も手に入れることができた。イベント敵の中でも一番ランクの高い敵と戦っていたからか倒せばほぼ落とすし、多い時は3つまとめてドロップしたりした。
 俺に足並みを揃えなければ、サチにとっては楽勝なイベントだったろう。

『回復量アップのスキルレベル上げたよー』
『これでMAXにゃね。だいぶ楽になるにゃあ』
『他のパッシブかなり犠牲にしてるけどね……』

 パッシブというのは、オートで常時発動しているスキルのことだ。腕力を上げたり、回避を上げたりなどもある。

『それでいいにゃ。アズちゃんはサチと一緒に遊ぶんだから、防御系はサチに任せるにゃ』
『でも、今日みたいな日はやっぱり魔法防御スキルがほしいなって思ったよー』
『確かにマジックレジストは早めにとっておいたほうがいいかもしれないにゃあ。まあデロイは丸焦げで放っとけばいいにゃ』
『おいっ! てか、既に放っておかれてるんですケドー。二人の世界なんだもんなあ。ニャンニャンしてて可愛いけど! グフフ』
『キモイにゃ』
『酷ッ!』
『キモイにゃ』
『何故二度と言ったし』
『キモイです……』
『アズキちゃんに言われるとマジで地味にくるわ……』

 ロイが落ちこむって感じのエモーションを出す。しかしへこんでいるのはポーズだけで、基本的にはいじられることをオイシイと感じているんだろう。すぐにあっさりと、明るく次の話題に移る。

『しかし本当、二人ともラブラブだな。実際、アズキちゃんてばサチに惚れちゃってたり』
『ウフフ。どうでしょう』
『アズちゃんとは友達にゃよ。それに……サチには好きな人、いるし』

 な。なにぃぃぃ!?

『えー! オレ……。オレ様か。もてすぎてつらい』
『一生つらい想いしてればいいにゃ』
『一生もてもて人生か』
『めげないにゃね……』

 二人が何かチャットしてるけど、画面が上滑りして目に入ってこない。
 なんで俺、こんなショックうけてんの? 兄貴にだって好きな奴くらいいるだろ。
 サチ……兄貴のことが気になるのは、アズキとしてだ。アズキとしての……ハズ、だった。確かにバカワイイサチに惹かれている節はある。それだってあくまで、ゲーム内でゲームとして。
 そもそも俺には兄貴を避けていた時期がある。その時に彼女を作っていたなら、知らないのも当たり前だし……。ショックを受けるような理由なんてない、ハズなのに。

 画面なんて目に入ってなかったが、チャットってのは記録が残る。便利なもんだ。それに……さっきはサチの動揺が見えなくて惜しいと思ったが、裏を返せば俺の動揺も気取られることはない。

『好きな人、いるんだ。聞きたいなー。この世界の人?』

 心の動揺を表に出さず、指先だけでキーを打つ。
 兄貴が真実を口にするかはわからないが、そう訊かずにはいられなかった。

『サチはね、禁断の恋をしているにゃ。だからナイショ、にゃ!』
『なんだあ。やっぱりアズキちゃんとラブラブなんじゃねーの?』
『だから違うって言ってるにゃ。デロイもシツコイにゃねー。もうこの話題ヤメッ! どうせ何が真実かなんて、ゲームの中ではわからないにゃ』
『でも、ネトゲで出会って結婚。なんてパターンもあるんだぜ?』
『……それは、ロールプレイをしてない場合。仮面を被ってるサチたちとは違うにゃ』

 たちって……それ、俺も入ってる?
 俺は二人みたいなロールプレイはしてないし、至って普通に見えるように振る舞ってんのに。
 深い意味はないかもしれないが、鋭い兄貴のことだからなんかしら察しているのかもしれない。俺もきっちり、ネコならぬウサを被っていることに。
 しかし、禁断ってなんだよ、禁断って。単なるジョークだよな?
 でも……でも、もし。兄貴がネトゲに依存した原因が、その禁断の恋愛とやらにあるとしたら? 現実がつらくて、逃げてるんだとしたら?

『サッちゃん、もしかして……禁断の恋がつらくて、引きこもりに……?』
『ウン、実はそうなんにゃあ。って、どこまで信じるんにゃ、このネタ! さすがに恥ずかしくなってきたにゃ』
『そうそう、リアルが充実してたって、ネトゲにハマる奴はハマるんだよなー。オレとサチみたいに。なっ?』
『そうにゃ!』

 お前が兄貴の何を知ってるんだよ! 兄貴はそういうタイプじゃないから、俺がこうして心配して、この世界に足突っ込んでんだよ!
 ああ、くそ。それこそ、もう今から兄貴の部屋突入して洗いざらいぶちまけてやろうか。
 ……ダメだ。落ち着け。本当に冗談かもしれない。いや、マジだったらそれこそ、兄貴は二階の窓からガラス破ってダイブくらいするかも。

『あっ、さすがにもう落ちなきゃ。私も変な冗談言って、ごめんね』

 俺は結局、そう言って逃げた。これ以上冷静でいられる自信が、なくて。
 パソコン画面はクリアに映っているのに、まるで別の世界を見ているようだった。

 ……別の。
 そうだ。この箱の中は別の世界なんだ。

 わかっちゃいるのに。
 兄貴に好きな相手がいるかもしれないこと。それが、道ならぬ恋かもしれないということが気になって、今夜は眠れそうになかった。
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