廃スペックブラザー

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その後の話

特別な悪戯

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「兄貴、トリックオアトリート!」 
「ほら。お菓子ならあるぞ」 

 すんなり出してきた。小さな個包装のお菓子ひとつだけど。しょぼいな。……じゃなくって! 

「違うだろ。こういうのは恋人同士なら、お菓子があったとしてもない振りをしてイタズラを選ぶべきなんだよ」 

 兄貴が困ったような顔で首を傾げる。 

「……でも、あるんだぞ?」 
「わかってる。意外と甘党だもんな。常備してるだろうことは予想がついてた」 
「ならお前だってお菓子が欲しくて言ったんじゃないか」 

 俺は兄貴の中でどんだけ小さな弟なの。 

「違う」 
「あるのにあえてイタズラを選ぶ理由がわからないんだが」 
「イタズラされたくねえの?」 
「されたくない」 

 ズバッと切って捨てやがった。 
 ……待てよ。俺のことを子供扱いしてるんだとしたら。 

「あ、あのさ。この場合、イタズラっていうのは性的な意味なんだけど」 
「性的?」 
「だから……えっちなイタズラっていう」 
「ああ、なるほど」 

 こういうの説明するのって、なんか凄い情けないよな。 

「だが普段しているのに、わざわざハロウィンという理由をつける意味がわからない」 
「そういうもんなの! オンラインゲームだって普段からレア装備とかあるけど、今ハロウィンで特別な装備落とすだろ! それと同じなの!」 

 兄貴はそこで初めて、心得た! みたいな顔をして、俺の手からお菓子を奪い返して食べた。 

「……これで、お菓子はなくなってしまった。さあ、もう一度先程の台詞をどうぞ」 
「そ、そんな。今更、お膳立てされて言うことを強要されてもだなっ……」 

 かたん。と、眼鏡をパソコンデスクに置く音が響く。 
 いつの間にか兄貴は眼鏡を外していて、俺に向かって不敵な笑みを浮かべていた。 
 挑むような、誘うような。少し、妖艶な。
 喉が思わずゴクリと鳴る。 

「トクベツなイタズラ……してくれるんだろう?」 
「っ……トリックオアトリート」 

 なんだか俺が、イタズラでもされたような気分になった。 
 この後はもちろん、お菓子の代わりに兄貴を美味しくいただきましたけど!
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