お隣の王子様

used

文字の大きさ
9 / 29
本編

恋人ごっこ2

しおりを挟む
 恋人ごっこが始まって、僕たちの間には更にスキンシップが増えた。
 しかし残念ながら甘い雰囲気はあまりなく、子供の遊びみたいにキャッキャしている感じだ。
 ガキ同士のおふざけ。おままごと。だからこれは正しく『ごっこ遊び』に過ぎないんだろう。
 僕のほうは、恋人になる覚悟はとうにできているんだけど。
 でも、純粋に試行錯誤しながら楽しんでいる東吾さんを見ると、中々本音は言い出せなくて……。

 まあ、モチロン、僕に勇気が足りないのもあるし、ごっこ遊びに興じる東吾さんをもう少し見てたいなって気持ちもある。何より、やっぱりそういう雰囲気ってのは必要だ。ムードもタイミングも大事。

 だから僕は下心つきで、ニコニコと東吾さんの彼女役をしてみせるのだった。




 今日は東吾さんの家で夕食。持っていくのは面倒だけど、こたつの素晴らしさでお釣りがくる。
 東吾さんと相談した結果、1日おきに僕のほうが訪ねることになった。

 クリスマスまで、あと少し。
 僕も東吾さんも、その手の話題は不自然なくらい出さない。
 それが意識している何よりの証拠って感じがするけど、東吾さんの場合は天然という可能性もありそうだ。
 それはそれで、僕からのサプライズクリスマスに感動する東吾さんが見られるから、何ら問題はない。

 問題は……プレゼントだ。
 東吾さんの欲しいものがコンビニスイーツ以外に思い浮かばない。普通なら、じゃあちょっと高価なスイーツを、となるだろうけど、東吾さんは高いものなら食べなれてるだろうから。
 どちらかといえば庶民的な玩具とかのほうが喜びそう。
 たとえば、かき氷機とか。いや、僕、真冬に正気か。

 ここはやっぱり、ストレートに訊いてしまおう。

「東吾さんって、何か欲しいものありますか?」
「そういえば、そろそろホッカイロがなくなりそうだ」

 そういうんじゃなくて。

 というかホッカイロ、箱で貰ってませんでした? 貴方ここ数日でどれだけ開けたんですか。
 僕が微妙な表情をしていたのに気づいたのか、東吾さんがハッと息を飲んだ。

「せーたが欲しい。って言うべきところだったね?」

 貴方が望んでくれるならば喜んで!
 ……本当だったら嬉しいのに。言うべきところだったね、とか確認いりませんから。むしろ本当に捧げたい。
 でも、そういうアレでもないんだよなあ……と、思いつつ。

「僕も、東吾さんが欲しいです」

 とりあえずノッてみたら、東吾さんの顔が赤くなった。
 自分から言ってきたくせに照れるだと……。あざとい。

「さすが、手慣れているな……」
「や、ちょっと待ってください。僕、こんな台詞吐いたことないですから!」
「そうなんだ」
「はい。これが初めてです」
「私も初めてだ」

 何か嬉しそうにはにかんでて可愛い。
 初めてって言われて僕も嬉しいけど、僕と同じ気持ちの嬉しさではないんだろうな。

「ということは、普通はあまり、こういう台詞は言わないんだね」
「そうですね。付き合いたてで、まだ致してないカップルならありかもしれませんけど……」
「致してない? 何を?」

 えっ。これ答えなきゃいけないの?
 流れでわからないのか。わからないんだろうな、王子様だし。
 教育係さんは女性が喜ぶキザな台詞より、雑学を東吾さんに教え込むべきだったと思う。
 いや、こういう微妙なニュアンスなんかは教わるようなことじゃない。友人知人と会話をかわすうち、自然と身につくようなものだ。僕が初めての友人だと言ってのける王子様には難しいだろう。

「……いったい僕の何をいただくつもりだったんですか?」
「あ。あ! あー……すまない」

 再び赤くなる東吾さん。
 よかった、通じた。ストレートに言うハメにならなくて助かった。

「みかん箱が置いてあったり、新婚さんのお約束なフレーズを知っていたり、東吾さんって雑学が片寄ってる気がするんですけど、どこで覚えたんです?」
「漫画とかかな……」
「漫画……読むんですか?」
「そう。結構古いのを。自分では買ったりしないのだけど」

 僕も漫画はあまり読まないな。買う余裕もないし。たまに知人に借りて読むくらいだけど、東吾さんの知識は確かにだいぶ古そうだ。

「多分、昭和とかの、かな。休憩室に置いてあったりして」
「東吾さんが漫画を読むって、なんか意外です」
「結構面白いよ。活字とは違う楽しさがある」

 休憩室じゃあ、エッチな本とかは置いてなさそうだな。
 グラビアとかなら、あったかも。
 グラビアを見る東吾さん……想像できない。

「話がそれたけど、私はせーたがくれるものならなんでも嬉しいよ」

 無難な台詞なのに東吾さんが言うとキラキラしてキザに聞こえるから不思議だ。

「たとえば、漫画とかでも」

 欲しいのかな、漫画。
 でも、さすがに……クリスマスに、好きな人へ贈るプレゼントではないよな。つきあってしばらく経って気心の知れた相手とかならまだしも、アプローチしたい相手なんだし。
 ……もう少し考えてみるか。

 東吾さんも僕に何かくれるつもりなのかなあ。楽しみ。

「僕は。やっぱり東吾さんが欲しいですかね」
「っ……。ま、また、照れさせようとしてもそうはいかないよ」

 めっちゃ照れてますけど。可愛い。
 東吾さんとこうやって過ごせる時間が僕にとっては充分プレゼントだよな。そう、クリスマス……一緒に過ごしてもらえる、だけで。
 さすがにこれは、僕も照れくさくて言えやしない。

「こういう台詞は、言う側が照れていたらダメなんですよ。堂々としてないと」
「なるほど、勉強になるなあ」

 その勉強の成果は、できれば僕以外に披露しないでほしい。
 これはあくまでごっこ遊び。東吾さんにとっては、いつか来る日の練習なんだ。
 そう考えると切なくもなるけど、東吾さんの態度が脈アリすぎて幸せのほうがデカイという。そもそも、台詞ならともかく恋人にするような接触、男相手じゃ相当好意がなければ気持ち悪くて無理だろう。

 東吾さんが机の上にある僕の手をギュッと掴んで、真剣な眼差しでこちらを見た。
 そうそう、こういうのとか……。それとも手を握りしめるくらいは、一般的には許容範囲なのかな。
 僕は東吾さんでなければ振り払って飛び退いてるけど……。

「好きだよ、せーた。君が欲しい」
「ッ……!」

 熱っぽい囁きに熱い眼差し。不意を突かれて撃沈。
 きまりすぎてて、抱いて! とか、抱かれてもいい! とか思ってしまった。

 殺傷力高すぎです、王子様。これはその気のない男でもホイホイされそう。

「本当だ。せーたが照れた!」
「うう……」

 凄い、してやられた感。はしゃいでる姿は可愛いんだけど、狙い通りになったのが悔しい。

「今のはどうだった?」
「ま、まだまだですね」
「そうか、まだまだか……」

 本当は胸にズドンときたってことは、内緒にしておこう。
 悔し紛れの台詞を素直に捉えている東吾さんを見ると、少し罪悪感がわくけど。

 まったく罪な王子様だよ。
 こんな平民の身体なんていくらでも差し出すから、貴方も僕のものになってしまえばいい。

 僕は繋がれたままの手に、ぎゅっと力を込めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方

ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】 公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。 「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」 世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!! 【謎多き従者×憎めない悪役】 4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。 原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...