お隣の王子様

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本編

恋人ごっこ2

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 恋人ごっこが始まって、僕たちの間には更にスキンシップが増えた。
 しかし残念ながら甘い雰囲気はあまりなく、子供の遊びみたいにキャッキャしている感じだ。
 ガキ同士のおふざけ。おままごと。だからこれは正しく『ごっこ遊び』に過ぎないんだろう。
 僕のほうは、恋人になる覚悟はとうにできているんだけど。
 でも、純粋に試行錯誤しながら楽しんでいる東吾さんを見ると、中々本音は言い出せなくて……。

 まあ、モチロン、僕に勇気が足りないのもあるし、ごっこ遊びに興じる東吾さんをもう少し見てたいなって気持ちもある。何より、やっぱりそういう雰囲気ってのは必要だ。ムードもタイミングも大事。

 だから僕は下心つきで、ニコニコと東吾さんの彼女役をしてみせるのだった。




 今日は東吾さんの家で夕食。持っていくのは面倒だけど、こたつの素晴らしさでお釣りがくる。
 東吾さんと相談した結果、1日おきに僕のほうが訪ねることになった。

 クリスマスまで、あと少し。
 僕も東吾さんも、その手の話題は不自然なくらい出さない。
 それが意識している何よりの証拠って感じがするけど、東吾さんの場合は天然という可能性もありそうだ。
 それはそれで、僕からのサプライズクリスマスに感動する東吾さんが見られるから、何ら問題はない。

 問題は……プレゼントだ。
 東吾さんの欲しいものがコンビニスイーツ以外に思い浮かばない。普通なら、じゃあちょっと高価なスイーツを、となるだろうけど、東吾さんは高いものなら食べなれてるだろうから。
 どちらかといえば庶民的な玩具とかのほうが喜びそう。
 たとえば、かき氷機とか。いや、僕、真冬に正気か。

 ここはやっぱり、ストレートに訊いてしまおう。

「東吾さんって、何か欲しいものありますか?」
「そういえば、そろそろホッカイロがなくなりそうだ」

 そういうんじゃなくて。

 というかホッカイロ、箱で貰ってませんでした? 貴方ここ数日でどれだけ開けたんですか。
 僕が微妙な表情をしていたのに気づいたのか、東吾さんがハッと息を飲んだ。

「せーたが欲しい。って言うべきところだったね?」

 貴方が望んでくれるならば喜んで!
 ……本当だったら嬉しいのに。言うべきところだったね、とか確認いりませんから。むしろ本当に捧げたい。
 でも、そういうアレでもないんだよなあ……と、思いつつ。

「僕も、東吾さんが欲しいです」

 とりあえずノッてみたら、東吾さんの顔が赤くなった。
 自分から言ってきたくせに照れるだと……。あざとい。

「さすが、手慣れているな……」
「や、ちょっと待ってください。僕、こんな台詞吐いたことないですから!」
「そうなんだ」
「はい。これが初めてです」
「私も初めてだ」

 何か嬉しそうにはにかんでて可愛い。
 初めてって言われて僕も嬉しいけど、僕と同じ気持ちの嬉しさではないんだろうな。

「ということは、普通はあまり、こういう台詞は言わないんだね」
「そうですね。付き合いたてで、まだ致してないカップルならありかもしれませんけど……」
「致してない? 何を?」

 えっ。これ答えなきゃいけないの?
 流れでわからないのか。わからないんだろうな、王子様だし。
 教育係さんは女性が喜ぶキザな台詞より、雑学を東吾さんに教え込むべきだったと思う。
 いや、こういう微妙なニュアンスなんかは教わるようなことじゃない。友人知人と会話をかわすうち、自然と身につくようなものだ。僕が初めての友人だと言ってのける王子様には難しいだろう。

「……いったい僕の何をいただくつもりだったんですか?」
「あ。あ! あー……すまない」

 再び赤くなる東吾さん。
 よかった、通じた。ストレートに言うハメにならなくて助かった。

「みかん箱が置いてあったり、新婚さんのお約束なフレーズを知っていたり、東吾さんって雑学が片寄ってる気がするんですけど、どこで覚えたんです?」
「漫画とかかな……」
「漫画……読むんですか?」
「そう。結構古いのを。自分では買ったりしないのだけど」

 僕も漫画はあまり読まないな。買う余裕もないし。たまに知人に借りて読むくらいだけど、東吾さんの知識は確かにだいぶ古そうだ。

「多分、昭和とかの、かな。休憩室に置いてあったりして」
「東吾さんが漫画を読むって、なんか意外です」
「結構面白いよ。活字とは違う楽しさがある」

 休憩室じゃあ、エッチな本とかは置いてなさそうだな。
 グラビアとかなら、あったかも。
 グラビアを見る東吾さん……想像できない。

「話がそれたけど、私はせーたがくれるものならなんでも嬉しいよ」

 無難な台詞なのに東吾さんが言うとキラキラしてキザに聞こえるから不思議だ。

「たとえば、漫画とかでも」

 欲しいのかな、漫画。
 でも、さすがに……クリスマスに、好きな人へ贈るプレゼントではないよな。つきあってしばらく経って気心の知れた相手とかならまだしも、アプローチしたい相手なんだし。
 ……もう少し考えてみるか。

 東吾さんも僕に何かくれるつもりなのかなあ。楽しみ。

「僕は。やっぱり東吾さんが欲しいですかね」
「っ……。ま、また、照れさせようとしてもそうはいかないよ」

 めっちゃ照れてますけど。可愛い。
 東吾さんとこうやって過ごせる時間が僕にとっては充分プレゼントだよな。そう、クリスマス……一緒に過ごしてもらえる、だけで。
 さすがにこれは、僕も照れくさくて言えやしない。

「こういう台詞は、言う側が照れていたらダメなんですよ。堂々としてないと」
「なるほど、勉強になるなあ」

 その勉強の成果は、できれば僕以外に披露しないでほしい。
 これはあくまでごっこ遊び。東吾さんにとっては、いつか来る日の練習なんだ。
 そう考えると切なくもなるけど、東吾さんの態度が脈アリすぎて幸せのほうがデカイという。そもそも、台詞ならともかく恋人にするような接触、男相手じゃ相当好意がなければ気持ち悪くて無理だろう。

 東吾さんが机の上にある僕の手をギュッと掴んで、真剣な眼差しでこちらを見た。
 そうそう、こういうのとか……。それとも手を握りしめるくらいは、一般的には許容範囲なのかな。
 僕は東吾さんでなければ振り払って飛び退いてるけど……。

「好きだよ、せーた。君が欲しい」
「ッ……!」

 熱っぽい囁きに熱い眼差し。不意を突かれて撃沈。
 きまりすぎてて、抱いて! とか、抱かれてもいい! とか思ってしまった。

 殺傷力高すぎです、王子様。これはその気のない男でもホイホイされそう。

「本当だ。せーたが照れた!」
「うう……」

 凄い、してやられた感。はしゃいでる姿は可愛いんだけど、狙い通りになったのが悔しい。

「今のはどうだった?」
「ま、まだまだですね」
「そうか、まだまだか……」

 本当は胸にズドンときたってことは、内緒にしておこう。
 悔し紛れの台詞を素直に捉えている東吾さんを見ると、少し罪悪感がわくけど。

 まったく罪な王子様だよ。
 こんな平民の身体なんていくらでも差し出すから、貴方も僕のものになってしまえばいい。

 僕は繋がれたままの手に、ぎゅっと力を込めた。
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