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ステージ5

生身のよさ、教えてやる(R15

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 なんとなく、メールでは伝えにくかった。
 でも真山くんは多分朝までバイトでそのあと大学へはこないだろう。
 
『大学が終わったらすぐマンションへ行く。直接話す』
 
 そうメールしたら朝の6時頃、気になるから早退してこいと返ってきた。
 大学へ行く前に一度マンションへ寄ろうかと思ったけど、どうせ今から寝るんだろうからやめておいた。
 その判断は、凄く正しかったと思う。
 
「まだ寝てるし……」
 
 大学が終わって早めに駆け付けたのに、真山くんはまだ羽布団と毛布にくるまって寝ていたから。
 もしかしたら二度寝か? それにしてもよく寝てる……。
 早くベッド買えばいいのに。そろそろ床じゃ寒すぎないか?
 
「ん……」
 
 髪をそっと撫でると、温もりを求めるように擦り寄せてきた。
 あれ、なんだろう、なんか……。昨日ユカに告白された時より、ドキドキしてる、俺。寝顔なんて、もう何度も見てるのに言いようのない感情が胸の奥から溢れてくる。
 この前あんなことしてしまったせい? 真山くんからはキスまでされてるし。
 ……スキンシップの範囲だなんてわかってるのに、どうしてこんなに触りたくなるんだろう……。
 俺、もしかして……スキンシップが足りてないのかな?
 とりあえずベタベタ触っておくか。
 髪に触れて、頬に触れて、首筋。そのまま肩、身体……。
 なんだかおかしな気分になってくる。
 
「ん、ん……。冬夜……? ちょっ、どこ触っ……」
 
 あ、起きた。
 
「……お腹」
「くすぐったい、くすぐったいから!」
 
 真山くんが俺の手を避けるように転がった。
 
「真山くんが悪いんだ。呼び付けたのに寝てるから」
「……悪い、二度寝した」
 
 やっぱり二度寝か……。
 真山くんはようやく毛布から脱皮して、大きく伸びをする。
 ……なんで俺、男の腹チラに動揺してるんだ!
 
「あれ? お前顔赤くない? 風邪?」
「なっ、なんでもない!」
 
 額こつんって、どんな少女漫画だよ! しかも俺の反応まで少女漫画だ! 顔が上げられない。
 
「んで、昨日はあれからどーだったん?」
「あ、ああ……好きだったって、言われた……」
「マジで? もちろんOKだろ? ついに冬夜にも彼女が……思ったより早かったなー。何かあれば親友のオレに聞けよな! おめでとう!」
 
 口を挟む間もなくテンション高く、まくしたてられた。
 
「いや、断ったけど……」
「え……!? どうしてだよ!」
「どうしてって、今はそんな気になれないから……。毎日充実してるし、真山くんもいるし」
「お、俺!?」
「そういう意味じゃなくて! 別に今は彼女はいいかな、友情で……って。彼女なら画面の中だけで充分だし」
 
 なんか凄く言い訳っぽく聞こえてしまうのは気のせいか?
 真山くんもなんだか難しい顔をしているし、言わなきゃよかった。
 
「でも……現実世界に彼女がいれば、絶対に毎日がもっと楽しくなるぜ? オレは、お前のハッピーエンドを見たいんだ」
「ハッピーエンドね……。だから、それは君の価値観だろ? 幸せのツボでも売り付けるようなことを言うなよ。俺がいらないって言ってるのに、どうしてそんなに作らせたがるんだよ。勝手に気負われても困る」
「オレは……」
 
 真山くんは少し躊躇ったあと、俺の頭に毛布を被せて押し倒してきた。
 
「なっ、何ッ……!?」
「……静かにしてろ。生身のよさ、教えてやるから」
 
 本当に何する気だよ!
 というか……どこ触って……。 
 
「ん、んんッ……!」
 
 当たり前だけど、俺は……他人の手で性器を扱かれるなんて、初めてだった。
 信じられないような悦楽を与えてくるその指先は、恋人ではなく親友のもの。
 
「嫌だって、やめ……」
「友達同士でコキあうくらい、割りと普通だって」
 
 普通ならなんで毛布を被せるんだ!
 だいたい、これじゃ……コキあいじゃなくて真山くんが一方的にしてるだけじゃないか!
 
「っ……は……。やば……」
 
 口を開けると、妙な声が出そう。気持ちよすぎて、目の端に涙が滲んでくる。
 少し触られただけなのに、こんな……。
 
「彼女にされてると思え」
「今……っ、友達同士でって、言ったくせに……」
「いいんだよ。ほら、気持ちいいだろ? ゲームだけやってたんじゃ、こんな気持ちよさとかわかんねーぞ?」
「あっ……。も、離して」
「もう? 早いな」
 
 真山くんがくすくすと笑う。
 俺はあっと言う間に、真山くんの手で強制的にイカされてしまった。
 仕方ない。人にされるなんて、初めてなんだ。
 
 確かに……気持ちよかったよ。それは認める。でも……。
 俺は毛布から顔を出して、真山くんの顔を見た。
 からかってる様子はない。想像よりずっと、真剣な表情をしてた。
 
「こんなの、違うだろ。おかしいよ……」
「な、何がだよ……」
「気持ちいいだけなら、真山くんの手だって、風俗だって……なんでもいいことになる。俺を、幸せにしたいんじゃなかったのかよ。君の言う幸せは、俺が気持ちよければそれでいいの?」
「そ、れは……」
 
 真山くんがぐっとつまる。
 前にも同じようなことがあった気がする。その時は俺を抱きしめて眠るだけだった。
 こんな直接的な快感より、ただ抱きしめて眠る、そのほうが……気持ち自体は伝わる気がする。
 
「なんか変だよ。焦ってるっていうか……。そんな、俺に彼女を作りたい? 親友であるなら、別に俺に彼女ができようとできまいと、関係ないと思うんだけど」
「……それって、つまり……冬夜はオレのこと、親友って認めてる?」
「…………何を、今更」
 
 真山くんが、俺に抱き着いた。
 
「待って、先に手を拭いてくれ!」
「えー、お前のなのに」
「君が勝手にしたんだろ!」
 
 焦っててあんまりよくわからなかったけど、俺……真山くんの手で……。
 うわ、うわ……! なんか今更、凄く恥ずかしくなってきた!
 
 真山くんはそんな俺の気も知らず、律儀に手を拭いてから再び抱き着いてくる。
 毛布と羽布団を引き寄せて、二人同時にくるまるような感じで。
 
「二人だとぬくー。最近寒いんだよなー」
「う、うん……」
 
 今あんなことしたばっかなのに、どうしてそんな普通にしてられるんだ?
 俺はもう、心臓が爆発してもおかしくないような感じなのに。
 
「あのさ、冬夜。ごめんな。オレ、お前の気持ちも考えないで焦りすぎてた。でも……オレは、やっぱりお前に、彼女をつくって欲しい。お前に彼女ができたら、凄く嬉しい」
「真山くん……」
 
 何故か胸が、酷く痛んだ。
 
「俺に彼女ができたら、真山くんといる時間が、減るかもしれないのに?」
「それは……。だって、彼女優先が当たり前だろ? まあ、寂しいけどさ」
 
 寂しいんだ。少しホッとした。
 俺は真山くんに彼女ができたら嫌だけどな。俺より大切な存在が真山くんにできるの、嫌だけど……。
 なんか……おかしいな。こんなの。こういう感情って……。
 
「彼女……作るの、少し頑張ってみようかな。真山くんが嬉しいって言うなら」
「マジ? オレ今まで以上に頑張る! お前も気合い入れろよ、冬夜!」
 
 これでいい……のかな。彼女作らないと、俺、なんかおかしなことになりそうだし。
 一番近くにいるのが真山くんだから、きっとなんか……近すぎて、俺、勘違いしそうになってるだけなんだ。
 
 でも、嬉しそうな真山くんの表情に、やっぱり胸は酷く痛んだ。 
 
 
 
 
 それから、真山くんはまた寝てしまった。
 二度寝ならぬ三度寝……。バイトから帰ったのが朝の七時頃だろうから、途中起きていればまあ眠くもなるか。
 あんなことがあったあとで、一人さっさと寝て……残された俺の気持ちにもなってほしい。
 なんか落ち着かないし、そわそわするしでたまらない。
 こんな密着したまま、一人だけ先に寝てしまうなんて。
 睫、やっぱり長いな、とか。前に俺のこと抱きしめて、いい匂いがするとか言ってたけど、真山くんのほうがよっぽどいい匂いがするだとか。
 ……俺の家にいた時と、シャンプー変えたんだな。
 何使ってるんだろう。凄くいい匂い。柔らかいし……。撫でてると気持ちいい。
 
「ん……冬夜……」
 
 名前を呼ばれて、ドキッとした。
 どうしよう。どうしよう、俺……。真山くんがあんなことするから、なんか、また、興奮してきた。
 大体なんだよ、一方的にイカせるって。いや、別に俺がしたいとか、そういうことじゃないけど、一方的なのはフェアじゃないっていうか。
 温もりを求めるようにすがりつく身体を抱き寄せて、俺は大きく溜息をついた。
 
 ……俺、真山くんに触りたいって思ってる。それはもう、ごまかせない事実だ。
 支えた手のひらから伝わる体温が、身体の熱を沸騰させていく感じ。
 指先で真山くんの唇に触れてみると、かさかさに乾いていた。
 俺は、なんとなく。その唇を、湿らせたくなって。
 
 無意識に顔を近づけた途端、携帯が音を立てた。
 
 やばい。俺、今何しようとした?
 これは本格的にまずい。
 真山くんからされてしまったことは仕方ない。この前ちょっと乳首を触ってしまったのも雰囲気に流されたからだって言い訳できた。でも今は……。
 
 ……そうだ。メール。メールを見よう。
 なんだろう。
 携帯を開けると、タイミングを見計らったかのようにもう一通新着が届いた。
 俺の携帯、真山くんがくるまでは一週間に一通メールがくればいいほうだったのに……。俺のメール生活に革命が起こっている……。
 
 メールは、一通目がユカ、二通目が香織さんからだった。
 まずはユカからのメールを開いてみる。

『アンタのやってるゲームをやってみたいから、今度貸して』
 
 いや……無理。無理無理。絶対無理。
 あっ、ギャルゲーのことじゃないかもしれないよな、うん。
 俺だって普通のゲームくらい持っている。
 麻雀RPG列伝、ドラツモファンタジーでも貸しておこう。
 えっと、香織さんからのメールは……。
 
『明日、バイト先へ遊びに行ってもいいですか?』
 
 会いたいって思ってくれてるのか。
 彼女作るの頑張ろうって思ったけど、ユカはやっぱり、どうしてもそういうふうには思えない。
 むしろあれだけ苦手意識があったのに、友達としてやりなおそうと思えたのが奇跡と言えるレベル。
 そして真美さんは……。なんというか、人柄を知るほど俺の手には負えな……いや、俺にはもったいなさすぎる人だと思えてくるから、やっぱり香織さんかな。
 って、こんな消去法みたいなの、失礼すぎるだろ。
 
 でも……香織さんは、俺みたいなオタクにも優しいし、それこそもったいないほど、いい人だ。
 現実の女性に興味がない俺だけど、彼女のことはきっと好きになれる気がする。いや、きっと好きになる。
 
 男は単純だから、女の子に好きだってサインを見せられたら好きになってしまうなんて、ネットのどこかに書いてあったけど、あれって結構真理だと思う。
 二次元だけでいいやと思っていた俺が、つきあうところを想像したり、好きになるかもって考えてしまうんだから。
 
 それを言うなら……親友なんて、ゲームの中でさえ欲しいと思ったことはなかったんだけどな。
 俺は、画面の中の嫁さえいれば、それでよかった。
 
「責任とってくれよ、真山くん」
 
 真山くんの鼻を、ぎゅっと摘んだ。真山くんはふがっと妙な寝息をたてて俺の手を拒み、もそもそと毛布の中に潜り込んでしまった。
 
 明日はバイトが休みだから……香織さんには明後日きてねとメールしておこう。
 たくさん会って、デートして、告白して……彼女に、なってもらおう。
 ……それで、いいんだよな。
 
「真山くん、君は俺に彼女ができても……本当に、いいの?」
 
 毛布の中から、答えは返ってこなかった。
 起きていたとしても、返ってはこなかっただろう。
 真山くんは俺の、親友なんだし……。何より、彼が俺に彼女ができることを、望んでいるんだから。
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