親友ポジション

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ステージ5

告白(R15

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 一応俺に、彼女のようなものができてしまった。
 おかしいな。俺の中で女性はゲーム画面の中でのみ、俺を認めてくれる存在だと思っていたのに。
 
 日曜日に遊園地へ出掛ける約束をして、家まで送って別れた。
 その帰り俺は、自宅ではなく真山くんのマンションへ向かった。
 実は合鍵で家主のいない家に忍び込むのはこれが初めてだ。
 真山くんの部屋は相変わらず生活感がない。いつもは……彼がいる分、まだ生を感じられる。
 家電は小さな冷蔵庫があるくらいで、衣類は部屋の隅。食事は適当にパンあたりを買ってきて食べてるんだろう。
 部屋を見る限りじゃ、俺以外を呼ぶ気はなさそうだな……。
 というか部屋寒いぞ。このままじゃマジ凍死するって。
 俺は暖を取ろうと、毛布に手を伸ばした。包まると真山くんの匂いがした。
 ……そういえばテーブルこたつ欲しがってたっけ。でも、クリスマスプレゼントにするには、夢がなさすぎか。
 とか、思考を逸らしてみたけど、身体が反応してしまってる事実は認めなければならないようだ。
 
 どうして、どうしてだよ。鎮まれ、こら。
 あんなことされたから、身体が条件反射してる?
 それとも俺、やっぱり真山くんのことが……そういう意味で好きなのか?
 身体だけが反応して、それにつられているだけのような気もするんだ。自分がよくわからない。
 だって俺、キスとか触られたり触ったりとか、真山くんが全部初めてだし。
 真山くんが悪いんだ。免疫がない俺にあんなことをするから、だから、きっと……俺。
 毛布に頬を擦り寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
 顔、見たい。早く帰ってきて。
 君のこと、ちゃんと抱きしめて触れてみたら、答えが出せる気がするんだ。
 
 
 
 
 ……寝てしまったらしく、玄関のドアが開く音で目を覚ました。
 うとうとして、半覚醒状態の俺。早く会話したいし、お帰りなさいって言いたいけど、このままでいたいような気もする。真山くんが部屋へ上がって、俺を見てびくりと身体を震わせたのがわかる。
 そのあと、俺の髪を撫でてきた。泣きたくなるくらい、優しい手つきで。
 柔らかい感触が額に走って、目を見開いた。見上げた真山くんの瞳には、戸惑いの色が浮かぶ。
 真山くん……今、キスした?
 俺は思わず、真山くんの腕を掴んで床に押し倒していた。
 
「お、おはよぅ……」
「真山くん、今……」
「やー、お前がオレの部屋で、眼鏡かけたまんま安心しきったように寝てるから、愛しくってさ。悪い、思わずちゅーした」
 
 あっけらかんとした物言い。
 額へのキスだし、愛しいとはいっても、恋愛感情の意味じゃない、みたい……な?
 確かにさっきの感覚は遠い昔に感じたような気もする。そう、小さい頃、母さんが俺にしてくれた……。つまり、親愛の情?
 恋愛としての意味なら、こんな簡単に言うはずないし。
 
「香織さんと、付き合うことになったよ」
「マジ? おめでとう、冬夜! 好感度的にいけると思ってた。でもまだ、友達以上恋人未満って感じだな」
 
 普通に、喜んでるな。真山くんにとって俺はやっぱり、親友でしかないんだ。
 俺がハッピーエンドを迎えたら、真山くんはどう思うんだろう。
 俺は……。俺が、真山くんとエンディングを迎えたいと言ったら、君はどんな顔を……。
 
「真山くん、させて」
「……何を?」
「練習」
「……オレ、眠いんだけど。もう朝だし、お前これから大学だろ? 帰ってからじゃダメか?」
 
 練習については、断らないんだ。
 させてくれるのかと思ったら、身体があっさりと熱を上げた。
 ダメだ。感情より先に、欲望で引きずられる。
 俺は真山くんの唇に自分からキスをした。この前は寸前で止めたけど、今日はもう止まらなかった。
 
「……ん。わーった。初めてのキスの時は、優しくな。相手が物足りなそうにしてたら、探るように唇の端から舐めて……」
 
 眠そうに、俺のキスを何度か受ける。
 押し付けるだけじゃ物足りない。キスだけじゃ、終われない。
 この先どうしたらいいかわからないけど、もっと真山くんに近づきたいと思った。 
  舌をゆっくり忍び込ませてみる。ぬるぬると擦り合わせるたび、なんだか気持ちいい。
 
「ん……」
 
 真山くんは女の子役に徹するつもりなのか、俺の肩や髪を優しく、愛しそうに撫でるだけ。
 そんなふうに触られたら、勘違いしそう……。
 
 服の上から胸に手を這わせようとすると、真山くんがはっとした表情で俺を仰ぎ見た。
 
「しまった。今日は中華まんがない」
「いや、いらないから」
「なんだと。お前、オレのちっぱいとかおちゃんのおっぱいが変わらないなんて失礼だぞ。確かにかおちゃん、あまり大きくはなかったが」
 
 真山くん、それ、君のほうが失礼だぞ。
 
「だいたい、中華まんを揉んでも楽しくもなんともないし」
「練習に楽しいも楽しくないもあるか。それともお前、オレのちっぱいなら楽しいとでも言うのかよ。揉めもしないのに」
 
 少なくとも俺は、楽しいけどな。
 真山くんのシャツの下に手を滑り込ませ、乳首をきゅっと摘んだ。
 
「あッ……」
「揉めるよ、ほら」
 
 そのまま指の腹で揉み上げるようにすると、真山くんがびくりと身体を震わせて、俺の肩を押した。
 
「ば、馬鹿、よせって……!」
「やっぱり真山くん、ここ感じるんだ。感度いいよね。気持ちいい?」
「……お前それ、初めての時、かおちゃんに言うなよ」
「だから、今は練習だろ? ちゃんと言ってくれないと」
 
 卑怯な言い方をしていると思う。
 真山くんがいつも練習だって言うのを利用して、無理を強いているのは俺のほう。
 なのに俺は……勝手にイライラしてる。これが練習だってことを思い出させる真山くんに。
 
「そんなの、オレとかおちゃんじゃ性感帯も違うだろうし……。まあ、でもここは、感じるだろうな」
「ここ?」
「ん……、うん」
 
 真山くんは俺がそこを摘む度、熱い吐息を漏らす。
 たまらなくなってシャツをまくりあげると、俺が弄りすぎたせいか赤く膨らんでいた。
 
「やらしー色してる……」
「お前が散々弄るからだろ」
 
 唇を寄せて吸い上げる。宥めるように舐めると、今までろくな抵抗をしなかった真山くんが俺の身体を引きはがした。
 
「ごめんね、染みた?」
「じゃなくて! れ、練習でそこまでしなくていい。乳房もないし」
「でも俺、舐めてみたい。初めてやって、みっともなくがっついたら振られるかも」
「ま、まあ確かに……。今だってちょっと、がっついてる感じだもんな」
 
 真山くんが納得したように頷く。
 ……悪かったな。でもそれは、君が相手だからだ。
 俺にとってこれは練習じゃない。
 だって俺、俺は……やっぱり君のことが……。
 
 言ってしまいたい。喉まで出かかっているのに言い出せない。
 好きだと告げたら、もう触らせてもらえなくなるかもしれない。
 欲望に支配された頭の中では、気持ちを告げる前に乱れる姿を見ておきたいとか、あわよくば既成事実を作ってしまいたいだとか、綺麗とは言えない感情が渦巻いていた。
 だって……練習なら、こうして友情のまま君に触れることができる。
 そして俺は触る度に君をもっと好きになって、これが練習だってことがつらくなっていくんだ。
 
「うん、だから……舐めるよ」
「……ッ」
 
 舌触りがなんとも言えない。
 舐めてみたいとは思ったけど、確かに真っ平らな胸を舐めて楽しいのかどうかは疑問だった。
 でも俺が吸い付くことで、真山くんが身体を跳ねさせる。それだけで俺の背を快感が走り抜けた。
 ……楽しいというより、俺まで気持ちいい。
 
「待て、やっぱ……ダメだ」
 
 真山くんなんてこれ以上に凄いこと俺にしてるのに、どうして俺がするのはダメなんだ。
 
「真山くんだってこの前しただろ。触り合いっこくらい当たり前とか言ってたくせに」
 
 指でぐにぐにと押し潰しながら詰ると、真山くんがバツの悪そうな表情で目を逸らした。
 
「そ、それは……」
「それは、何?」
「だってオレ、感じちゃうんだもんっ!」
「え、何?」
 
 訳がわからなくて思わず聞き直してしまった。
 というかなんだその、わざとらしいブリッコポーズは。
 
「何回も言わせんな、馬鹿!」
「あ……いや、だって。その、感じてくれないほうが、やだけど俺」
「オレに余裕がなかったら練習にならねーじゃん! 馬鹿! バーッカ!」
 
 何これ、もしかして拗ねてんの?
 ちょっと待って、可愛すぎるんだけどどうしよう。頭に血が上りすぎて鼻血出そう……。
 
 だいたいさ、真山くんが悪いんだよ。免疫のない俺に人肌の気持ちよさ与えたのだって君だし、三次元の恋人もいいかなって思ってしまったのも君のせいだし、こんなにも愛しく思っちゃうのも……。
 
「いいよ。余裕のない真山くん、もっと見てみたいし」
 
 俺は想いを込めて唇にキスをひとつ落としてから、真山くんの熱をズボンの上から撫でさすった。
 
「あ、待て! そこはそもそも女の子にはつい……ってない、し……」
「じゃあ、相手の気持ち良くなることをする練習、で」
 
 とゆーか、凄い勃ってるし。
 さすがに男のコレに触ったら、いくら真山くんのでも嫌悪感あるかなって思ったけど……。
 
「も、や……。やだって、冬夜」
 
 正直嫌がる真山くんが可愛すぎてそれどころじゃありません。
 
 真山くんは俺の手から逃れるように、ころんと俯せにひっくり返ってしまった。
 
 何、なんなんだ。真山くんがこんな可愛く思える俺がおかしい?
 同じ男同士で変かもしれないけど、どうしようやっぱり、凄く愛しい。 
 
「真山くん……」
「あっ……」
 
 後ろから手を回し、ベルトに手をかける。少し緩めて、背中から手を差し入れた。
 
「お尻ならいいの? 女の人にもある場所だから」
 
 撫で心地は……やっぱり、固い。固い身体に興奮する自分が信じられない。
 
「今日は俺がするよ。お尻撫でられたくらいじゃイケないだろうし、前も擦らせて」
「オレだけされんのは嫌だ。オレもする」
「この前は一方的にしたくせに」
「……悪かったよ」
 
 真山くんが向き直って、俺の首に腕を回した。
 
「お前さ、オレとこういうことしただけでギンギンじゃ、女の子とした時は触らずに暴発かもな」
「それはないと思う」
「そうかあ?」
「そうだよ」
 
 だって俺、もう君以外とこういうことするつもり、ないから。
 
 ズボンからお互いのを取り出して触り合う。少し触られただけで変な声が出そうになって焦った。
 するほうにはためらいがないのか、真山くんが積極的に俺のを擦る。
 俺も負けないように、手を動かした。
 
「あ……う。真山くん、気持ちいい……」
「そんな声、出すなよ……」
 
 もしかして……真山くんも、俺の声に煽られてくれてる?
 
 部屋に荒い息遣いが充満する。
 幸せすぎて、気持ちよすぎてどうにかなりそう。
 この前された時は、気持ちよくてもこんなふうには思わなかったのに。
 
「真山くん、真山く……っ」
「……ッ」
「顔、真っ赤だ……。もしかして、恥ずかしい?」
「……ん」
 
 こくんと頷いた目元には、涙がたまっていた。
 もう可愛くてたまらなくって、涙をちゅっと吸い上げながら、俺のを擦る真山くんの手を握った。
 
「冬……夜?」
「一緒に重ねて、擦らせて。きっともっと気持ちいいから」
 
 まとめて握って擦りつけるようにすると、真山くんが目をぎゅっとつぶって、身体を震わせた。
 
「んっ……」
  
 練習にしてはやりすぎだなんて、君にもわかっているはず。
 なのにこうして素直に付き合ってくれるのは、本当に友達同士ならこれくらいおかしくないと思っているから?
 俺の手でこんなによがって、恥ずかしがって、身体はもう、好きだって言っているように見えるのに。
 
「あ、あっ……。それ、まずいって」
「ッ……うん、すっごく、気持ちいい……」
「……冬夜、オレ……っ、オレ、もう……」
「俺も、も、出る……」
 
 吐き出したのは同時だった。
 手に真山くんの熱い飛沫がかかる。俺がイカせたんだと思うと、ぞくぞくした。
 
「好き……なんだ。好き、真山くん。恋人にするなら、君がいい。俺、君とハッピーエンドを迎えたいんだ!」
 
 愛しくて、愛しくて、もう言葉を抑えておけなかった。
 
「…………ん……」
 
 え……ちょっと。ここで寝る?
 ここで寝てるとか、ないだろおおおおおおお!
 俺はがっくりと肩を落として、大きな溜息をついた。
 
「眠いって言ってたし、体力の限界だったのかも……」
 
 仕切り直すしかないのかな……。
 とりあえず今日はもう、やめておこう。
 
 起こしてまで告白する勇気はないし、寝たふりかどうかを確認する勇気も、今の俺にはないから。
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