親友ポジション

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ステージ6

恋はジェットコースター

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 ジェットコースターを前にはしゃぐ真山くんと真美さん。
 怯える俺と香織さん。
 
「ふ……二人で行ってきなよ。俺たちここで待ってるし……」
「だ、駄目ですよ、せっかくですから乗りましょう」
 
 香織さん……。
 今は正直そういう気遣いより、いかにしてジェットコースターに乗らないで済むかを優先したいんだ……。
 
「女の子にこう言われて乗らないなんて、冬夜くんそんなんじゃ駄目だよー?」
「そうだぞ、冬夜。男ならここで、乗るべきだ!」
 
 もの凄く乗らなくてはいけない雰囲気だ。
 俺は仕方なく、足が震えるのをこらえながら列に並んだ。
 
「香織さん」
「……はい」
 
 何度となく俺と香織さんがボソボソ話しているから、むしろ仲睦まじく見えてしまうかもしれない。
 恋人同士という設定である以上、これ以上の勘違いも何もないのでそれはもういいんだけどさ。
 
「俺マジでこういうの苦手なんだよ。ってか乗ったことないし」
「でも、これはチャンスだと思うんです」
「チャンスって、なんかもう訳わからない感じになって、そういうのを感じる隙もないんじゃないかな」
 
 そんなことを話しているうちに、ついに俺たちの番が目の前にさしかかった……その時だった。
 
「あっ……」
 
 香織さんが二人にも聞こえるように、小さな声を上げた。
 
「あの……ちょっと、私……。その、真美さん、ついてきてもらえませんか?」
「ん? どうしたの?」
「その……」
 
 言いにくそうに、少し遠くのほうを見る香織さん。
 真美さんが、ああ、というような顔をして香織さんの腕を引いた。
 
「ちょっと行ってくるね。二人とも、ジェットコースター楽しんでねー!」
「すいません……」
 
 真山くんも、ああ、というような表情をしている。
 
「え、ちょ……何。俺も、乗りたくないんだけど。それに男二人で乗るとか」
「今二人についていくのは最低の男だぞ。察しろよ」
「何が……!?」
「馬鹿、アレに決まってんだろ、アレ」
「アレ……?」
「だから、女の子特有の……アレだよ」
「あっ……」
 
 そこまで言われれば、いくら鈍い俺でもピンとくる。
 そうでなくても妹がいるんだ。母親と会話しているのを何度か聞いているから、知識もある。
 つまり……そういう設定、なのか、香織さん。
 俺と真山くんを二人にするための……。
 でも! いくら二人っていったって、ジェットコースターは嫌だ! せめて観覧車とかそういう時にしてくれたっていいじゃないか!
 
「ほら、乗るぞおおお!」
「……ま、待っ……!」
 
 真山くんはやたら楽しげに、俺の腕を引いて順番がきたジェットコースターへ颯爽と乗り込んだ。
 後に響くは真山くんの笑い声と俺の悲鳴。
 
 
 ……意外と気絶ってしないもんだな。 
 明らかに死にそうな顔色の俺と、相変わらずはしゃぐ真山くんがジェットコースターから降りると、二人が帰ってきていた。
 
「ちょっと冬夜くん、よたよたしてるけどダイジョブなの?」
「大丈夫……です」
「こいつ悲鳴すっげーの。声嗄れてるだろ、ほら」
「ホント! いつもよりセクシーでエロいよね! 香織ちゃんっ」
「えっ……?」
「うふふ、赤くなっちゃって可愛い~。二人の間に混ぜてもらいたいなぁ」
 
 なんの話をしてるんですか……真美さん。
 明らかに香織さんはドン引いている。
 
「オレも、かおちゃんと真美さんの間になら混ぜてもらいたいなー」
「もうっ……真山さんまで」
 
 ジョークに乗っただけだろう真山くんのそんな台詞に、胸がずきりと痛んだ。
 男なら割りと一般的な回答だ。それを口に出して言って許されるのがイケメンだが。
 ……でも、お前とはもうしないって、線を引かれている気がした。
 そもそも、俺と真山くんのアレソレは、彼にとって練習でしかなかったんだろうけど。
 
「おい、冬夜。本当に平気か? 顔色相当悪いぞ。調子に乗って悪かったよ。ベンチで少し休んだほうがいいかな。なんか飲みもん、買ってこようか」
「真山さん、冬夜くんのこと、凄く大切にしてますよね」
 
 香織さんの言葉に、真山くんが少しうろたえた。
 
「そ、そりゃ……親友だからな」
「えーっ。ただの親友同士とは思えないほど仲いいよぉ。香織ちゃん、彼氏取られちゃうかもね。そうなったらいつでも真美んとこおいで。慰めてあげるから!」
 
 真美さん、それは……身体で、ですか。
 実は恋人同士ではない俺と香織さんは、苦笑いをするしかない。
 
「なんだよ、二人して。ほら、冬夜、オレドリンク買ってくるから、待ってろよ。かおちゃん、冬夜についててやってな」
 
 そう言って、真山くんは真美さんの手を引いた。
 
「やーん、逃避行? 真美可愛い二人を見守ってたいのになー」
「いいから」
「仕方ないなあ。じゃ、行ってくるから、二人とも仲良くね~」
 
 真美さんは手をひらひらと振りながら、真山くんに連れられていった。
 ああいう……手をつなぐとか、本当に簡単にしちゃえるんだな、女の子相手に。
 やっぱり俺と真山くんじゃ世界が違いすぎる。
 いや、本当に……違うんだけどさ、比喩表現でもなく。
 
 君は俺のこと、主人公だって言うけど、この世界じゃ君のような奴のことを、主役って呼ぶんだよ。
 
「行っちゃいましたね」
「うん」
「すいません。ろくにお役に立てなくて」
「いや、というか……。なんで、ジェットコースターで……なんて」
「それは、恋ってよくジェットコースターにたとえられますし、怖い思いを共有した二人は恋に落ちやすいって言うじゃないですか!」
「怖いのは俺だけなのでは……。それに、スピード早すぎて、恋に落ちる暇もないよ」
「そう言われてみれば……そうですね。すいません……」
 
 そもそも、たとえの意味が違うし。
 薄々そうじゃないかと思ってたけど。香織さん、天然だよな……結構。 
 
「とりあえず、近くのベンチで座って待ってましょう。コーヒーカップにお化け屋敷、まだまだスリルのあるものはたくさんありますし、覚悟を決めなくては」
「……コーヒーカップは別に、スリルを感じないと思うよ」
「ええっ……だってあんなに、ぐるぐる回るじゃないですか。絶対怖いです……」
 
 …………香織さん、どうして遊園地にしようって思ったんだろう。 
 そんな疑問を残しつつ、ベンチへと移動した。
 
「でも……せっかく協力してもらって悪いんだけどさ、見ての通りだよ。脈、まったくなさそうなんだ」
「……そうでしょうか。心配の仕方とか、ずいぶん過保護でしたけど」
「うん。真山くんが度をすぎるくらい俺を大切に思ってくれてるのは確かなんだ。でも、それは……恋愛感情じゃないんだよ、きっと」
 
 俺は半分、自分に言い聞かせていた。
 だから、勘違いしちゃいけないって。あの優しさは、俺が彼の親友であり、主人公だから……ただ、それだけ。
 
「おい、買ってきたぞ」
 
 真山くんは思ったより早く帰ってきた。
 俺と香織さんを二人きりにするため、もっとゆっくりしてくるかと思ったのに……。俺の身体を優先してくれたのかな。
 ……ああ、くそ。それくらいで喜んでる自分が情けない。今、言い聞かせたばかりだっていうのに。
 
「平気か?」
「うん。ちょっとくらくらしただけだよ」
「男の子だもん、これくらい平気よねー。じゃあ、それ飲んだら次はお化け屋敷行こっか。真美ね、お化け屋敷大好きなんだ」
 
 それを聞いて、真山くんが目を丸くした。
 
「意外ですね。ああいうアトラクション、馬鹿にするほうかと思ってました」
「やだなあ。あの手のアトラクションで、きゃあヤダコワーイって言ってもわざとらしくない練習をしておくのって凄く重要なんだから!」
 
 そういうことをして、何人もの男を落としてるんだろうか。
 ……まさか、今日のターゲットは真山くんだったりして。
 なんとか、俺と真山くんでお化け屋敷……一緒、できないかな。……なんて、無理か。
 
「香織ちゃん、お化け屋敷は平気?」
「……へへ、へい、平気です、が、頑張ります」
 
 どう見ても平気じゃなさそうだ。足がガタガタ震えてるし。
 
「そうだよな。冬夜が守ってくれるから、平気だよ、かおちゃん」
 
 やっぱり、そうくるよなあ。
 もう開き直って、女の子の黄色い悲鳴、楽しんでおこうかな……。最初で最後だろうし。
 最後の一口をあおったジュースは、冬だっていうのに氷が全部とけてしまったかのように薄く感じた。
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