親友ポジション

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ステージ6

スーパーヒーロー

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 それから、お化け屋敷に移動した途端、真山くんが俺の腕を掴んで耳打ちした。
 
「おい、いいところ見せてやれよ。暗闇に女の子と二人きりなんて、チャンスだしな」
 
 それは君にとっても……そうなの?
 
「真山くんは、真美さん落とすつもりだったりする?」
「オレ? オレはいーんだよ。まあ、あの巨乳を押し当ててもらう役得くらいはあるかもな」
 
 どうせ俺に乳はない。ってそういう問題でもないか。
 
「一気に関係を縮めるんだ。キスくらい、してもいいと思うぜ」
 
 真山くんは、俺が香織さんとキスしてもなんともないんだ。
 この場で……二人の見てる前で君の顔を引き寄せて、いっそキスでもしてやりたい。馬鹿。
 
「じゃあ、行こうか。香織さん」
 
 仕方なく香織さんをエスコートしようとすると、引っ張られるような感覚。
 後ろを向けば、真山くんが俺の服の裾を掴んでいた。
 
「……真山くん?」
「え?」
「え? じゃなくて、俺の服……離してくれないと、行けないんだけど……どうかした?」
 
 何か用でもあったのかと思って尋ねたのに、真山くんは……真っ赤になった。
 今気づいたというように、俺の服から急いで手を離す。
 
「いや、え、ほら、さっきのジュース代、貰ってなかったろ、今払え、さあ!」
 
 心臓が大きな音を立てる。
 ちょっと……なんだよ、今の。反則だろ。
 そんなわかりやすい嘘、君らしくない。何動揺してるんだよ。期待……するじゃないか。
 俺を、香織さんと二人で行かせたくないんだって。 
 
「何ー? これ、真美と香織ちゃんで入ったほうがいい雰囲気?」
「そうみたいですね」
「ふっ、二人とも、何言ってるんだ。オレは、貧乏でお化け屋敷のチケット代も払えないくらいだから、ジュース代返してもらわないと入れねーんだよ!」
「でもぉー、真美がパスポート代立て替えたから、チケット代、必要ないけどね?」
「うっ」
 
 ……いや、それは普通に情けないだろ、真山くん。
 
「本当に、なんでもないから。い、行きますよ、真美さん」
 
 真山くんはさっきみたいに、真美さんの腕を引いてお化け屋敷の中へ入っていってしまった。
 
「ほら、だから言ったじゃないですか。真山さんは絶対、森下さんのことが好きだって。きっと、勇気を出して告白すれば……叶いますよ」
「そうかな……」
「そうです」
 
 本当に、そんなに簡単にいくのかな。
 俺のハッピーエンドを望む、真山くん相手に……。
 
 でも、今のはかなり、勇気づけられたぞ、うん。
 とりあえず遊園地にもきてくれたんだし、初志貫徹で帰ったら告白しよう。
 
「それで、俺たちも入っておく? お化け屋敷」
「いえ、先回りして、出口で待ってましょう」
 
 そんなに怖いのか……。
 まあ、俺もお化け屋敷が特別好きな訳じゃないから、ここは素直に出口へ行っておこう。
 
 ……と、思ったことを、俺はすぐさま後悔した。
 
「ああーっ!」
 
 まさかの、ユカと鉢合わせ。
 な、なんだ、この……展開は。
 
「冬夜、アンタ、アタシの告白を断っておきながら、こんなブリッコ女と付き合ってるワケ?」
「あ……。わ、私……」
「おい、よせよ」
「……っ、悪かったわよ。でも、ごめんなさい。悔しくて……。一番、悔しいのは、過去のバカな自分に対してだけどね」
 
 ユカは大きな溜息をついて、肩を落とした。
 
「あ、あの。私と冬夜さん、付き合ってる訳じゃないです。お友達なだけで……」
「は? それってアタシに同情でもしてるの? 最低ね!」
 
 今は真美さんと真山くんがお化け屋敷の中にいるから、どう見ても二人きりでのデートだ。
 なのにそんなことを言うものだから、ユカの逆鱗にふれたらしい。
 
「ち、違うんですー! 私も、ふられてて……」
「か、香織さん、何もそんなことまで言わなくても……。ユカ、それよりお前こそ、一人でどうしたんだよ。まさか一人で遊園地か?」
「ちょっと友達がみんな迷子になっただけよ!」
 
 群からはぐれたのか。
 
「別に、アタシはもう、二人が付き合おうがどうしようが……いいけどさ、そんなふうに同情されるのだけはイヤ」
「いや、本当に違うんだよ。俺たちは恋人同士って訳でもなくて……」
 
 そしてタイミングをはかったかのように、真山くんと真美さんが出てきた。
 真美さんはケロッとしているけど、真山くんはなんだか疲れて見える。
 ……もしかしてお化け屋敷、苦手だったのかな? そんな真山くんはなんか可愛い……とか思ってしまうあたり、もう。
 
「あれー、冬夜くんの幼なじみちゃんじゃない? ユカちゃんだっけ? 冬夜くん、男女問わずモテモテだねー」
「男女? 何の話?」
「まっ、真美さん! もーいいです。もーお化け屋敷の中だけで充分です、そういうからかいは」
 
 どうやら、真山くんが疲れているのはお化けが怖かった訳じゃなく、真美さんに散々からかわれたからのようだ。
 俺のことでからかわれる真山くん、ちょっと見てみたかったな。
 
「千里くんも……。何、普通にダブルデートってワケじゃない!」
 
 その言葉に衝撃を受けて、思わず香織さんと顔を見合わせてしまった。
 ……やっぱり、普通なんだ……ダブルデートって……。
 
「そうそう、ダブルデート」
 
 そして真山くんがまた余計なことを言うものだから、ユカは顔を真っ赤にして後ろを向いた。
 
「……やっぱ、サイテー」
「あっ……待ってください」
 
 走りだそうとするユカを追いかける香織さん。
 ああ、もうまたややこしいことに……。
 
「きゃっ」
 
 少し走り出したところで、ユカはサングラスをかけてキャップを被った少し大柄な男にぶつかって、倒れてしまった。
 そして男は更に香織さんのバッグを奪って逃走。
 
「あ、アタシの財布……! ど、泥棒ーっ!」
 
 叫ぶユカと、立ち尽くす香織さん。
 情けないことに、足が地面に縫いつけられたように動けない俺の横を、もの凄い早さで影が擦り抜けていった。
 やっぱりイケメンはこういう時違うな。
 
 すぐ様追いついたらしく、大男は俺たちの目の前で宙を舞った。
 ……ただし、そこにいたのは真山くんじゃなくて、真美さんだった。
 
 ちょ……え……? 投げ……投げた?
 
「ま、真美さん、柔道とかやってたんですか?」
「んーん。空手黒帯~。柔道は学校の授業でやったくらいだから、投げ飛ばす分には問題ないよね」
 
 日曜の遊園地だ。当然、野次馬が集まってくる。
 
「すげー、あの姉ちゃん、あんな大きい男、投げたぞ……」
 
 真美さんは、地面に伸びた大男の腹に足を乗せて、ふんぞり返っている。
 
「遊園地でせっかく楽しんでいる、か弱い女性の財布をねらうなんて、警察が許しても真美が許さないんだから!」
 
 貴女の今の姿……凄く……説得力がないです。
 というか、普通に警察も許さないだろ。
 
「ぐ……。うぐぐ……。こんな、乳だけでかい頭の軽そうな女に……」
 
 真美さんは腹に置いた足に軽く力を入れ、わざとらしくパスケースを落としてみせた。
 
「あっ、ごめん。落としちゃった。拾ってくれる? 真美の学生証」
 
 男がとても拾える様子じゃなかったため、近くにいたカップルの男が、興味津々でそれを拾った。
 
「えっ、マジ? 東大!?」
 
 周りがざわめく。完璧だ。誰が見ても完璧だった。そして、大男の完敗だった。
 まるで漫画の中のような展開に、盛り上がらないはずがない。
 すげー、カッコイー、ひゅーと、口々に真美さんをはやしたてる声が聞こえてくる。
 
「すげーな。真美さん、東大生だったんだな。見た目は高校生にしか見えないってのに……」
「だね」
 
 俺と真山くんだって、間近で見て少し高揚していた。
 
「……かっこいいー……」
 
 ただ……香織さんとユカは、もっと重傷だった。
 
「はい、バッグと財布。二人とも、身体は大丈夫? 女の子なんだから、怪我でもあったら大変だしね」
「だ、大丈夫です……」
 
 二人の目はすっかりハート型だ。
 確かにこれは、惚れる。吊り橋効果も抜群だ。
 でも、俺と真山くんにとっては、むしろ男惚れかもしれない。
 
「ああ、さすがにこれは……冬夜、お前の完敗だわ」
「……はは」
 
 こうして、真山くんの中で勝手に、俺の恋がひとつ終わりを告げさせられた。
 言っておくが俺の恋、実際は継続中……なんだからな。
 
 ……とりあえず、妹はバイト先に絶対近づけないようにしよう……。
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