親友ポジション

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ステージ6

親友じゃなきゃ

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 スリは無事に、駆け付けた警備員に連れていかれた。あのまま警察へ直行だろう。
 ギャラリーもたくさんいたため、軽く状況説明しただけで解放された。
 
「せっかく楽しんでたのに、ケチついちゃったよねぇ。怖い目にあったばかりだけど、このまま楽しめそう?」
 
 真美さんが香織さんを気遣うように尋ねた。
 
「あの、すいません……。今日はさすがに、そんな気分にはなれないかもしれないです。一日、鞄を引っ張られる感覚に怯えそうで」
「うん、だよね。素手だったけど、ナイフでバッグ切り裂くとかもあるし……恐怖は残るよね」
 
 スリと言えど、身体を傷つけられないという保証はどこにもない。
 それを考えたら、確かに今日は人混みに入りにくいだろう。
 
「じゃあ、タクシーで帰ろ。ユカちゃんはどうするの? 冬夜くん追いかけてきたんだよね?」
「ち、違います! アタシは友達と……。あ、いたた……」
「大丈夫? さっき突き飛ばされた時、足くじいたかな?」
「そうみたいです……」
「なら、連絡入れて真美たちと帰ったほうがいいかもね。冬夜くん、香織さんを送っていってあげてくれる?」
 
 俺が一瞬言葉に詰まると、先に香織さんが口を開いた。
 
「あの、私……。できれば真美さんに送ってもらいたいです……」
「真美でいーの? まあ、こゆ時は女性のがいいかもね。でっ、冬夜くんと千里くん、どうする? 男二人で遊園地?」
「いや、帰ります、普通に。男二人で遊園地なんて寒いだけじゃねーか、なあ?」
 
 真山くんの返事は早かった。
 
「うん、まあ、そうだね」
 
 俺も異論はない。俺は真山くんが好きだから、二人で遊園地でも楽しいだろうけど、それとは別のところで寒いとは思うし。
 それに……早く二人きりになりたかった。
 時間が経てば経つほど、勇気が薄れてしまいそうだから。
 
「じゃ、帰ろうか。行きもイケメンと一緒でイイ感じだったけど、帰りは両手に花だよ、贅沢だなー」
 
 真美さんが、ちっとも迷惑なんかじゃないよって感じを前面に押し出してニコニコ笑う。
 本当、高校生にしか見えないけど、こういうところは年上だな……。
 
 俺たちは三人と別れて電車に乗った。別れ際、香織さんは俺に小さい声で、頑張ってくださいねと耳打ちした。
 あの二人はまあ、真美さんに任せておけば大丈夫だろう。
 ……修羅場になったりしないよな?
 
「……お前さ、本当はかおちゃんと、ちゃんとした恋人同士じゃなかったろ」
「あ、やっぱりわかる?」
「まあ、そーゆー雰囲気でもなかったしな。好感度も……微妙だったし。だから、今日一日でぐっと近づかせてやるつもりだったんだけど、あれは反則だよな、真美さん」
「かっこよかったよね」
「漫画みたいだよな。可愛くて頭良くて強いとか」
「見た目はギャルなのにね」
「だからさ、やっぱここは、真美さん狙いでいこうぜ?」
「は?」
 
 まさか、そうくるとは思わなかった。
 ここが電車の中じゃなければ、俺は君狙いなんだって言ってやりたい。
 
「かおちゃんとユカちゃんは強敵かもしんねーけど、真美さんお前に対する好感度結構高いから、努力次第でなんとかなると思うんだよな」
「……そう」
「それに、冬夜もさ、真美さんなら漫画のキャラっぽいから二次元のつもりでいけるんじゃね?」
 
 確かに、最初の頃真美さんに抱いていた恐怖心は消えている。
 真山くんの言う通り、好きになれたらきっとハッピーエンドが待っている。
 でも、今は……。
 
「俺なんかの手におえる女性じゃないよ」
「そんなことねーよ。オレも協力するから」
 
 っ……。好きな人に、協力するだなんて言われてどれだけつらいかわかって言ってるのか?
 
「されたくない」
「え?」
「協力なんか、されたくない」
「冬夜……」
 
 それからマンションへつくまで、真山くんは俺に何も言ってこなかった。
 もっとしつこくいろいろ言われるかと思ったのに。
 やっぱり……もう、俺の気持ちに気づいてるんじゃないのか?
 だとしたら本当、残酷だよ。
 
 
 
 
 真山くんが部屋の鍵を開けた瞬間、彼を玄関先へ押し込んで無理矢理口づけた。
 
「ッ、冬夜、何っ……」
「俺、君にだけは応援されたくない。この意味、わかるよな?」 
「……えっと、オレのこと、実は親友だと思ってくれてないから?」
「……」
 
 俺はうなだれるようにして、真山くんの胸に頭をつけた。
 その発言は有り得ないだろ。今更何を言ってるんだ……。
 
「彼女なんて欲しくない。君がいい。君しかいらない」
「いやー。そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱ親友と彼女は別もんだろ?」
 
 どこまでしらばっくれる気なんだ。むしろ感心する。
 
「真山くんが俺の彼女になってくれよ」
「つっても、オレ、男だし」
「頼むよ。これ以上はぐらかさないでくれ。君のことが好きだ。セックスしたい好きだ。愛してるんだ。ボーイズラブエンドにしたいって言ってる」
 
 押し黙った真山くんの指先を手にとって口づけると、頬が染まり瞳が潤む。そんな顔しておいて俺に気がないなんて言わせない。
 
「一番近くにいたから、友情を恋だと勘違いしてるだけだ。冬夜、オレだけはダメだ。オレは、親友じゃなきゃ、ダメなんだ」
「それが君の、役目……だから?」
「……違う。お前、絶対に後悔する。だから……」
「しない。するとしたらそれは、自分をごまかして君以外と付き合った時だ」
 
 真山くんは言葉で否定しても、俺の手を振りほどかない。
 
 俺は真山くんが……俺の親友でいてくれるのは、そうプログラムされているからだと何回か思ったことがある。
 実際、俺の親友でいるところまでは、そうだったのかもしれない。
 ……でも今は違うよな。もし君がプログラムだけで動いているなら、俺に告白されてそんなつらそうな表情をするはずない。
 親友じゃなきゃダメなんだという言葉、会ったばかりの時とは違う意味を持つんだろう?
 少なくとも今君は……親友以上の想いを、俺に抱いてくれてる。違う?
 
「冬夜……」
  
 真山くんが俺の身体をぎゅっと抱きしめた。
 
「冬夜、冬夜……冬夜ッ」
 
 何度も名前を呼ばれ、抱きしめた腕には力がこもる。
 胸が……焼けるように熱くなった。足元からじわじわと、嬉しさと熱が溢れてくる感じ。
 
「オレじゃ、お前をハッピーエンドにしてやれない。わかってるんだ。だから……。でも、だけど……オレも……お前のこと……」
「馬鹿だな。俺のハッピーエンドは自分で決めるって言っただろ? 君が俺に応えてくれるなら、それがベストエンドだ」
 
 真山くんはボロボロ泣いていて、俺もつられるように泣いてしまった。
 
「ちゃんと好きだって言ってくれよ。俺、君の唇から聞きたい。俺のこと、好きだって」
「……冬夜。好きだ。大好きだ。オレは、親友でなくちゃならなかったのに……」
「こだわるなよ。別に恋人だっていいじゃないか。……す、好き同士なら」
「ふっ……。そうだな」
 
 笑って、真山くんは俺の唇に軽いキスをした。
 俺もそれに応えて、徐々にキスを深くしていく。
 絡められて、甘く噛まれて、舌先を吸われ……口の中、もう無茶苦茶に掻き混ぜられた。真山くんの本領発揮。気持ちよすぎて目眩がする。
 
「ん……っ。う……ハァ……。真山くん、も、我慢できない。ね、抱かせて。抱きたい」
「オレも、冬夜をもっと感じたい」
 
 いつの間にか涙は止まってた。後に残るは、愛しさだけだ。
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