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ステージ7
親友ポジション
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やたらと片づいた部屋からは、真山くんの気配も匂いもすべて消えている。
毛布はクリーニングにでも出したかのように綺麗で、まるでこの部屋に誰も住んでいなかったみたいだ。
でも……今までのことが夢じゃないのは、携帯に残った真山くんのアドレスと、何より俺がこの部屋にいることで証明されている。
ただ、彼の姿だけが、なかった。
どうして。どうしてだよ。なんで、俺の前からいなくなるんだよ。
千里って……何度も呼べって言ったくせに。
俺、まだ……ほとんど呼んでないよ。
こんなエンディング、望んでなかった。
君が傍にいなきゃ、幸せになんてなれない。
……そうだ。ゲーム。あのゲームをもう一度起動すれば、もしかして……。
俺は、転げるようにして家へと帰った。
ただいまを言う間も惜しく、部屋へ駆け上がる。
クローゼットに入れたノーパソを引っ張り出して、ケーブルをコンセントにさして、電源を入れた。
お決まりの起動音に苛々する。早く、早くゲームアイコンをクリックさせてくれ。
マイコンピュータを開いて、ドライブに入れてあるCDをクリック。ゲームは、拾ってきた時と同じように、立ち上がった。
「……っ」
あの時は、画面にたくさんの女の子がいた。タイトルはなかった。
今は……ゲームに、タイトルがついている。
【親友ポジション】
そのタイトル画面に映っているのは……俺の、部屋だ。
表示されるスタートボタンを、勢いよくクリックした。
画面の中に、真山くんの姿はない。けど、文章は、ゲームのように表示されていく。
『……こいつがオレの主人公か。冴えねぇなぁ……』
『でも、流されやすいとこはいいな』
『結構素直で、可愛いかも』
これ……会った当時の、真山くんが……思ってたこと?
真山くん視点で進んでく……。まるで、ゲームみたいだ。
少し気恥ずかしいけど……俺は食い入るように画面を見ていた。
毎日すべてが表示される訳じゃない。ゲームでイベントが起こるように、断片的に表示されていく。真山くんが印象的だと思った出来事だけ、表示されているのかもしれない。
『起きてられる時間短くなってんな……。オレ、いつまでこっちの世界にいられるんだろう』
『オレじゃダメだ。オレは親友じゃなきゃ……。オレがいなくなったことでへこむあいつを、誰が慰めるんだ? そんなの、彼女しかいないだろ』
……真山くん、だから……親友じゃなきゃ、ダメだって……。
涙が溢れて止まらない。バイトで疲れているから大学へ来ないんだと思っていたけど、もしかすると実際は、バイトをしている間しか、起きていられなかったのかもしれない。
真山くんは、どんな想いで俺の隣に立っていたんだろう。
『冬夜、ごめんな、オレ……』
何に対しての謝罪かはわからなかった。ゲームはそこで動かなくなった。
ハッピーエンドとも、バッドエンドとも出ていない。
ただ、画面が真っ黒くなって、しばらくすると再びタイトル画面へ戻る。
俺はそれを、繰り返し何度も再生した。何度も同じものが流れるだけだった。
「……真山くん」
画面を見ながら、泣き続けた。
いくら泣いてもゲームを繰り返しても、真山くんは現れない。
元々壊れかけていたノートPCは、熱で熱くなりすぎて電源が落ちてしまった。
その日は涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いて眠った。大学は休もうと思った。
朝……。悪あがきで、真山くんがいなくなったのは夢なんじゃないかって、メールを送信した。
やっぱり、宛先不明で戻ってきた。当然、真山くんからのメールがきていることもない。
……そういえば、見てなかったけど、ユカと香織さんからメールがきてたっけ。読む気になれないけど……。
本来なら香織さんには、真山くんと上手くいったよ! と笑って報告メールをしたいところなのに。
再びもそもそとベッドの中に潜り込んだ瞬間、携帯に着信がきた。
「真山くんっ!?」
俺は通話ボタンを押して、開口一番そう言っていた。
『ハズレ。真美だよ。真山くんが外国へ行っちゃって寂しがってるだろうと思って電話してみたの。バイトはちゃんと、出られそう?』
……外国……。そういう、ことになってるんだ。
真山くんは人の記憶から消えたりしている訳じゃない。
なかったことにはならず、ただ、その存在だけがここにない。
「……はい、大丈夫です」
大丈夫じゃなかったけど、バイト先へ行ったら真山くんが現れるようなそんな気がして、俺はそう答えていた。
『真美ならいつでも慰めてあげるからね! バイト、赤い目して出ないようにね』
「はい……」
通話はそこで終わった。
赤い目……。すでに腫れぼったい気がする。
俺は机の上にある鏡を取って、覗いてみた。
……ああ、うん。これは……アウトだな。
机の上には真山くんがくれたイヤリングが光っている。
そういえば……こっちの世界に傷跡は残せない、みたいなこと言ってたっけ……。
俺を抱く、抱かないの時も、少しも傷つけたくない……みたいに言って。それも、関係してたのかな。
何が傷跡を残せない、だよ。俺の心にこんな大きな傷を残していって、よくそんなことが言えたものだと思う。
いっそのこと、本当に俺に傷を残してくれたらよかったのに。抱かれておけばよかったかも。ピアス開けて、コンタクトにして……。少しでも、君がこの世界にいた証が、残るように……。
「っ……」
また、涙が溢れてきた。
真美さんすいません。目薬はさしていきますけど、俺、真っ赤な目で接客をすることになりそうです。
毛布はクリーニングにでも出したかのように綺麗で、まるでこの部屋に誰も住んでいなかったみたいだ。
でも……今までのことが夢じゃないのは、携帯に残った真山くんのアドレスと、何より俺がこの部屋にいることで証明されている。
ただ、彼の姿だけが、なかった。
どうして。どうしてだよ。なんで、俺の前からいなくなるんだよ。
千里って……何度も呼べって言ったくせに。
俺、まだ……ほとんど呼んでないよ。
こんなエンディング、望んでなかった。
君が傍にいなきゃ、幸せになんてなれない。
……そうだ。ゲーム。あのゲームをもう一度起動すれば、もしかして……。
俺は、転げるようにして家へと帰った。
ただいまを言う間も惜しく、部屋へ駆け上がる。
クローゼットに入れたノーパソを引っ張り出して、ケーブルをコンセントにさして、電源を入れた。
お決まりの起動音に苛々する。早く、早くゲームアイコンをクリックさせてくれ。
マイコンピュータを開いて、ドライブに入れてあるCDをクリック。ゲームは、拾ってきた時と同じように、立ち上がった。
「……っ」
あの時は、画面にたくさんの女の子がいた。タイトルはなかった。
今は……ゲームに、タイトルがついている。
【親友ポジション】
そのタイトル画面に映っているのは……俺の、部屋だ。
表示されるスタートボタンを、勢いよくクリックした。
画面の中に、真山くんの姿はない。けど、文章は、ゲームのように表示されていく。
『……こいつがオレの主人公か。冴えねぇなぁ……』
『でも、流されやすいとこはいいな』
『結構素直で、可愛いかも』
これ……会った当時の、真山くんが……思ってたこと?
真山くん視点で進んでく……。まるで、ゲームみたいだ。
少し気恥ずかしいけど……俺は食い入るように画面を見ていた。
毎日すべてが表示される訳じゃない。ゲームでイベントが起こるように、断片的に表示されていく。真山くんが印象的だと思った出来事だけ、表示されているのかもしれない。
『起きてられる時間短くなってんな……。オレ、いつまでこっちの世界にいられるんだろう』
『オレじゃダメだ。オレは親友じゃなきゃ……。オレがいなくなったことでへこむあいつを、誰が慰めるんだ? そんなの、彼女しかいないだろ』
……真山くん、だから……親友じゃなきゃ、ダメだって……。
涙が溢れて止まらない。バイトで疲れているから大学へ来ないんだと思っていたけど、もしかすると実際は、バイトをしている間しか、起きていられなかったのかもしれない。
真山くんは、どんな想いで俺の隣に立っていたんだろう。
『冬夜、ごめんな、オレ……』
何に対しての謝罪かはわからなかった。ゲームはそこで動かなくなった。
ハッピーエンドとも、バッドエンドとも出ていない。
ただ、画面が真っ黒くなって、しばらくすると再びタイトル画面へ戻る。
俺はそれを、繰り返し何度も再生した。何度も同じものが流れるだけだった。
「……真山くん」
画面を見ながら、泣き続けた。
いくら泣いてもゲームを繰り返しても、真山くんは現れない。
元々壊れかけていたノートPCは、熱で熱くなりすぎて電源が落ちてしまった。
その日は涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いて眠った。大学は休もうと思った。
朝……。悪あがきで、真山くんがいなくなったのは夢なんじゃないかって、メールを送信した。
やっぱり、宛先不明で戻ってきた。当然、真山くんからのメールがきていることもない。
……そういえば、見てなかったけど、ユカと香織さんからメールがきてたっけ。読む気になれないけど……。
本来なら香織さんには、真山くんと上手くいったよ! と笑って報告メールをしたいところなのに。
再びもそもそとベッドの中に潜り込んだ瞬間、携帯に着信がきた。
「真山くんっ!?」
俺は通話ボタンを押して、開口一番そう言っていた。
『ハズレ。真美だよ。真山くんが外国へ行っちゃって寂しがってるだろうと思って電話してみたの。バイトはちゃんと、出られそう?』
……外国……。そういう、ことになってるんだ。
真山くんは人の記憶から消えたりしている訳じゃない。
なかったことにはならず、ただ、その存在だけがここにない。
「……はい、大丈夫です」
大丈夫じゃなかったけど、バイト先へ行ったら真山くんが現れるようなそんな気がして、俺はそう答えていた。
『真美ならいつでも慰めてあげるからね! バイト、赤い目して出ないようにね』
「はい……」
通話はそこで終わった。
赤い目……。すでに腫れぼったい気がする。
俺は机の上にある鏡を取って、覗いてみた。
……ああ、うん。これは……アウトだな。
机の上には真山くんがくれたイヤリングが光っている。
そういえば……こっちの世界に傷跡は残せない、みたいなこと言ってたっけ……。
俺を抱く、抱かないの時も、少しも傷つけたくない……みたいに言って。それも、関係してたのかな。
何が傷跡を残せない、だよ。俺の心にこんな大きな傷を残していって、よくそんなことが言えたものだと思う。
いっそのこと、本当に俺に傷を残してくれたらよかったのに。抱かれておけばよかったかも。ピアス開けて、コンタクトにして……。少しでも、君がこの世界にいた証が、残るように……。
「っ……」
また、涙が溢れてきた。
真美さんすいません。目薬はさしていきますけど、俺、真っ赤な目で接客をすることになりそうです。
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