親友ポジション

used

文字の大きさ
32 / 50
ステージ7

初めまして

しおりを挟む
 俺の前から真山くんが姿を消して、一週間が過ぎた。
 バイトではたくさん真美さんに迷惑をかけた。香織さんには、真山くんは理由があって海外に行っている。俺はずっとそれを待っている、とメールを入れておいた。
 大学へ行けば、真山くんはやっぱり海外へ行ったことになっていた。
 真山くんがたまに話していた人たちから、あいつ何があったんだと聞かれたけど、しばらく帰ってこられない、と返した。
 そんなに深いつきあいではなかったのか、それ以上の詮索もされなかった。
 
 ……そう、あれから、俺は普通の日常を過ごしている。
 真山くんがいなかった頃に戻った訳じゃない。
 俺はバイトを続けているし、前よりは大学の人たちとも話すようになった。
 最近ではユカや香織さんが真美さん目当てにバイト先へくるので、賑やかだ。ただここに君がいないのが、とても不思議に思える。
 俺はこの先……親しい友人を作る気にはなれないし、きっと恋人も……作れない。
 真山くんを思い出すから、ギャルゲーもできなくなってしまった。
 唯一の趣味だったゲームでさえやる気にならない。何が楽しくて生きているのかわからない、そんな状態。
 でも、いつか真山くんが帰ってくるかもしれないという希望に縋って、それだけで毎日を過ごしている。
 
 真山くんと出会って、そんなに長い月日が流れた訳じゃないのに、彼はどこまで俺の中を浸食してくれたんだろう。
 本当に、酷いや……。こんなに好きにさせておいて、姿を消すなんて……。
 
 でも……俺は、一つだけある期待をしている。
 明日はクリスマスだ。去年と同じように、一人きりのクリスマス。
 本当なら、恋人……真山くんと、過ごすはずだった。
 
 真山くんが、クリスマスまでには彼女を作れみたいなことを言っていたから、もしかしたら、何かあるんじゃないかなという淡い期待。
 単に、真山くんがこっちの世界にいられる期限上での問題だったのかもしれないけど。
 
 それでも、キーワードとしては充分で、ガラにもなく奇跡が起きないかな、なんて考えていた。
 
 クリスマスイブは何もなく終わった。
 そして、クリスマス当日……。朝、俺が目を覚ますと、枕元に包装紙で包まれた、パソコンソフトくらいの小さな箱が置いてあった。
 
 心臓が、大きく音を立てた。
 
 震える手で、ゆっくりと包みを剥がしていく。
 やっぱり、パソコンのソフトだった。思わずタイトルを確認する。
 
 ……こ、これは……。
 俺が買う予定でチェックしていた、発売したばかりのソフト……。
 
「お兄ちゃん、起きたー?」
「な、夏流っ……」
「それ、私とユカ姉サンタからのプレゼントね。最近元気ないからって……ユカ姉、心配してて」
「……夏流も?」
「まあ、どうせ彼女もいないんでしょ? クリスマスにギャルゲーとか、マジキモイけど、毎日死んだような顔見せられるよりはマシだもん。まったく、千里くんに影響されていい感じになってきたと思ったのに」
「真山くんの名前は、出さないでくれ」
「……ごめん」
 
 夏流は驚くほど素直に謝って、扉を閉じた。
 俺を励ますために、サプライズしてくれたつもりなんだろうな。
 気持ちは嬉しいけど、期待してのこれは……残酷すぎた。
 どうしてかな。最近、天国から地獄へ落とされてばかりだ。
 結ばれたと思ったら、いなくなって、今日は喜んだら、サプライズで……。
 ああ、もう……。本当に、いっそギャルゲーでもやってるかな。どうせ、現実に目は向けられそうにないし。
 元の生活に戻る……それだけだ。
 
 俺はずっと発売を楽しみにしていたそのゲームのパッケージを見た。
 思わず、親友役の姿を探してしまう。
 ……当然、真山くんであるはずなんてないんだけど。
 
 俺は、パッケージを開けて、パジャマのままパソコンの前に座った。
 CDを入れて、インストール、アプリケーションを起動。
 出てくる、可愛い姿の女の子たち。
 でも、誰も……落とそうとは思えない。きっとプレイしても、楽しくない。
 ゲーム画面を見るだけで、こんなに涙が出てくるんだから。
 だいたい、歪んで文字すら見えないのに、どうやってゲームを進めるつもりなのか。
 
「……っ」
 
 過去にプレイした、様々なゲーム。様々な俺の嫁。
 今はどれ一つだって、起動したい気分にならない。
 エロ画像が収納されたフォルダも、開く気にはなれない。 
  今、プレイしたいと思えるものは……。
 俺はそこまで考えて、床に置きっぱなしになっているノートPCをじっと見つめた。
 あれで見られるのは過去だけだった。
 でも……もし、このデスクトップにあのゲームをインストールしたら?
 
 パソコンが壊れたとしたって構わない。
 それで再び、君と会えるなら他に換えられるものなんて何もない。
 
 俺はノートPCからCDを取り出して、デスクトップのドライブに突っ込んだ。
 はやる気持ちを抑えつつ、インストールを開始する。
 奇跡が、起きてくれればいいのに。
 
 何だよ、クリスマスなのに彼女もいないで一人なのかって言って、笑って欲しい。
 俺は君がいてくれればそれでいいんだって答えるから。
 
 震える指先で、あの日と同じように本名を入力した。
 ……その途端、画面が白く光って、目の前に……はにかむ真山くんの姿があった。
 
 会えたらいっぱい言いたいことがあったのに、声が出てこない。
 出てくるのは、涙だけだ。
 
「そんなに怯えなくても……」
 
 馬鹿、怯えてるんじゃなくて、感動してるんだ。
 真山くんは声の出ない俺に向かって、あの日と同じように微笑んで……。
 
「初めまして。オレは真山千里。お前の親友だ」
 
 あの日とまったく、同じ台詞を吐いた……。
 目の前が揺れて、真っ暗になった気がした。
 
 これは、なんの冗談だ?
 
「……冗談、だろ?」
「いや~残念だけどこれ、現実なんだよね、森下冬夜くん」
「違う、そういうことじゃない。君は俺の……っ」
「うおっ」
 
 俺は真山くんに抱きついて、その場に押し倒した。
 涙が俺の頬から、真山くんの顔へとぱたぱた落ちていく。
 
「おいおい、いくら親友ができたからって感動しすぎだろ?」
 
 そんな茶化すような声も、表情も、何もかも君のままなのに、なのに……君の中に、俺がいない。
 
「俺のこと、何も……覚えてないのかよ」
「覚えてって……」
 
 本当に、わからないんだ。
 冗談じゃ、ないんだ。
 嘘だって言って欲しい。演技だって。オレは戻ってきたんだって笑って欲しい。
 
 君がこうして目の前にいるのに、君じゃないなんて。
 
「クリスマスなのに彼女もいないで一人なのか?」
 
 確かにそう言って笑ってほしいと思ってた。
 でもそれは、君であって君にじゃないんだ。
 
「彼女はいらないんだ」
「何言ってるんだ。無理するなよ。オレが親友になったからには」
「……真山くん」
「な、なんだよ」
「俺は……森下冬夜」
「知ってるけど……」
「君の……恋人だ」
 
 真実を告げた俺に、君が酷く怪訝そうな顔をした。
 限界だった。俺は、俺の恋人じゃない真山くんの胸に縋ってひたすら泣き続けた。
 真山くんはそんな俺の背を、優しく撫で続けてくれた。
 ……きっと『これも親友の役目だからな』とか思ってるんだろうな。
 そう考えると、よけいに涙が止まらなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...