親友ポジション

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カードゲーム

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※真山視点


「なあ、二人でババ抜きなんてやって何が楽しいんだよ」

 冬夜がいきなりトランプを持ってきて、オレの部屋でババ抜き。ルールは通常通りで、3回先に負けたほうが相手のいうことをなんでもきくことになっている。
 別にこんなゲームしなくたって、オレはお前が何かしたいなら……なんでもしてやるのに。
 むしろババ抜きなんかより、そっちがしたい。お前がしたがってることを。

「そうかな。結構楽しいけど」
「うーん……」

 一枚一枚引く度に、ババさえ引かなければ必ずカードが揃う。せわしない。誰がババを持っているのかというドキドキもない。相手が持っているに決まってるんだから。

「でも、真山くん、全然表情変わらないね。俺がババさわっても違うでも、どっちでもよさそうな」

 それは現に、どーでもいいから。

「真面目にやってる?」
「負けたら罰ゲーム、だしな?」
「もう。真山くんが勝ったら俺を好きにできるのにさあ、何か俺にさせたいこととか、ないわけ?」

 ああ。そういう、こと。

「出会ったばかりの頃に、これを仕掛けてくれたら話は早かったんだけどなー」

 ハハッと笑って言ったら、冬夜の手からカードがパラパラと落ちた。

「……それ、本気で言ってる?」

 しまった。やっちまった。
 オレの存在をなかったことにするような冗談を、冬夜が酷く嫌がるって知ってるのに。

「冗談に決まってるだろ。オレはお前がこのエンディングを選んでくれて、良かったと思ってるんだからさ」

 冬夜の手からこぼれ落ちたカードを拾って持たせる。

「ほら。カード見えちまってるぞ」
「……お互いが何を持ってるかわかってるから、問題ないし」
「それもそうだ」

 オレが持っているカードと、冬夜が持ってるカードはそのまま対になっている。違いは……ババがあるかないかだけだ。そして自分が持っていなければ相手が確実に持っているわけで。

「真山くんはさ、罰ゲームで俺にしてほしいことなんて特にないんだろうけど、俺が勝ったら何かしなきゃいけないんだからな。そこ、わかってるのか?」
「わかってるよ」
「じゃあ真面目にやろうよ」
「いやさあ、普通に……ババ抜き二人でやっても。マリカーとかじゃダメだったのかよ」

 生活費を節約してバイト代で買ったテレビとゲーム機に目を向ける。ソフトは冬夜セレクト。
 ゲームの登場人物であるオレがゲームをやるなんて、笑えるというか逆に相応しいとでもいうのか。

「ダメだよ。真山くん、それだと熱中しちゃうだろ。俺のこと考えてくれなくなる」
「そんなの……」

 オレの頭の中は基本的に、冬夜でいっぱいだ。お前のことしか考えていない。
 だってオレは、お前をハッピーエンドにするために、産まれてきたんだから。
 重すぎる……とは思うが、冬夜もそれは知っているはず。
 それだけじゃ、ダメなのかよ。
 オレなんかとハッピーエンドを迎えてくれた、それだけで充分すぎて何か望んでくれと言われたって困るんだ。

「じゃあ、オレが勝ったら米5キロ買ってくれ。無洗米な? 本気出すから」
「う……。うーん……」

 不満気だ。オレには冬夜が期待する答えが出せそうにない。どうしたもんか。

「まあ俺が勝ったら、目の前でストリップショーかつ、裸エプロンしてもらうつもりだから、いいかあ」
「いや待て。確かにオレはお前の望むことなら叶えてやりたいが、それはどうか。こんな平たい身体だぞ? 間抜けすぎる」
「じゃあ、勝てばー? 俺なんて米だよ、米。お金かかってるし」
「うう……」

 エッチな要望もどんとこいなつもりだったが、まさかこうくるとは。
 コスプレ系だけはイマイチ苦手なんだよな。冬夜はソレわかってやってる感じ……。意地が悪い。

「いいぜ。オレが勝てばいいんだろ」
「うん。ちょっとは本気になってくれなくちゃ、面白くない」
「二人ババ抜きの時点で何をどうしたって面白くはならないだろ」

 いっそ初めからババを含めた3枚くらい対のカードを用意したらいいんじゃないか。そう思いながらカードを揃えて出していく。
 でも、確かに……冬夜の言う通り、ゲームと違って集中しすぎないからか、どちらかが勝った後のことを考えてしまう。
 エプロンは嫌だが、別に米を買ってほしいかと言われたらそういうわけでもない。いや、米は大切だけど……。

「千里、今、何考えてるの?」
「え、米?」
「…………」

 盛大に溜め息をつかれた。
 さすがに悪かったと思ってるよ。反射的に口から出ちまったんだよ。お前も話かけるタイミングがだな。

「まあ、食料は大事だしね」
「あ、ああ」

 カードが最後の1枚になった。

「んっ」

 冬夜がババを含めた2枚を、楽しそうに差し出してくる。
 このゲーム唯一の勝負どころだ。オレの指先にも気合いが入る。
 かくして引いたカードは……。

「あ……。揃った」
「残念。負けたかあ。真山くんの裸エプロンが遠くなったなー」
「オレが勝ったら冬夜にしてもらおーかな……」
「あ。真似っこはダメだからね」

 本当は米だって、本意じゃないくせに。

「じゃ、気を取り直して2戦目いくよ」

 再びカードが配られる。またしばらく繰り返される、意味のない作業。揃いまくるから、子どもがやれば楽しいのかもしれない。

 オレが冬夜に望むこと。オレという存在を認識してくれていたらそれでいい。
 言ったらなんか、怒られそうだな。
 勝負はなんとなく、オレが勝つような気がした。




 ……した、んだが。

「ほら、いやらしく脱いで! ピンクのエプロンが君を待ってるよ!」
「待て待て待て。なんでオレが負けてんの!?」
「なんでって。あれから3回連続でババ引いたからだろ」
「ですよねええ!」

 しかしなんだ、このピンクのドギツイフリルエプロンは。こんなもん持参しやがって、勝つ気満々じゃねーか。オレに我が儘言ってほしいのかなとか、ただの考えすぎかよチクショウ。
 だってなんか、冬夜の雰囲気がいつもと違うっていうか。そもそも、ただゲームをするだけならこんな馬鹿馬鹿しいもんじゃなく、それこそマリカーとかでよかっただろ……。

「どうしてもエプロンが嫌なら、こ、これでも、いいけど」
「え? わ、っ、とと」

 何かを放られて、慌ててキャッチする。
 これ、鍵? 一瞬合鍵を返されたのかとヒヤリとしたが、形が違う。うちのじゃない。

「これ何の鍵だ?」
「一人暮らし、しようと思って」
「聞いてない」
「言ってなかった」

 そんな、重大なこと。一応恋人であるオレに、なんの相談もしないなんて。
 合鍵を渡してくれたことは、そりゃ嬉しいけどよ。違うだろ。なんかもっと、こう……。

「千里っ!」
「は、はいっ」
「俺と一緒に暮らしてください!」

 土下座された。
 え。えええええ!? なんだこれ。一体何がどうなって。

「ま、待てよ。オレ、今日初めて聞いたんだぞ。どんなマンションかも知らないし……」
「逃げられそうな気がしたから事後承諾にしてみた」

 別に逃げたりはしない。それでも、なんだかんだ理由をつけて断っていたと思う。

「ここも悪くはないけど、ワンルームだし。俺……真山くんの生活に加わりたい」
「今だってオレの生活はお前中心で……」
「献身的なくらいにね。でも、そうじゃないから」

 頭を上げた冬夜の頬に、そっと手を添える。
 ただただ愛しくて、気づけばオレから唇を重ねてた。

「オレが勝ってたら、どうするつもりだったんだよ」
「お米買ってあげたよ?」
「や、そうじゃなくてさ」
「真山くんの我が儘、普通に聞いてみたかったけどね」

 確かに。冬夜が勝負に勝っていたとしても負けていたとしても、結果は同じだった。
 鍵まで用意されていて。オレが頷かなければ冬夜が一人寂しく暮らすのかと思ったらもうダメだ。断れない。
 一人で暮らす……それはまさに、今オレが身を置いている状況で、冬夜もオレと同じように考えていたのかもしれない。
 しかもオレときたら過去もなければ家族も帰るところもない。本当に、冬夜しかいない。

「じゃあなんだよ、エプロンて」
「これは単に見てみたかったし、俺からのプレゼント。これ着て料理してほしいなー」
「お前、フリル……」

 もしオレがストリップして着たら着たで、こいつにとっては役得とか眼福とかだったんだろうか。理解できない。でもお前はそういうヤツだよな。

「お米も買うから、炊いてよ。新居で。家具とかはまだ、すっからかんなんだ。貯めた俺のバイト代で買いに行こう」

 そういえば、ここのところギャルゲーを買っている様子がなかったな。
 嫁は自分で稼いだ金で買うべきとかオレが勧めて始めたバイトだったはずなのに。

「って、真山くん!? やだなー。泣くほど嬉しい?」
「ば、馬鹿っ……!」

 ああ、もうぐずぐずだ。

「オレ、人間じゃないのに。冬夜と同じ時間を刻むかわからないのに」
「俺だって明日事故で死ぬかもしれないし。それより不老不死だったらどうする?」
「そっ……」

 その可能性は考えてなかった。

「先のことは、その時考えればいいだろ。今の俺は君がいてくれたらそれでいいんだよ」
「お前ぇえ。いつからそん、な。ポジティブになったんだよぉ……」

 冬夜は少し考えて、ふっと噴き出した。

「君と恋人になってから」

 泣いてるオレの頬を、冬夜がエプロンで拭ってくれる。ピンクのフリルエプロン。お前な、それ、いい雰囲気台無しな。ハンカチくらい用意しろよ。

「……よこせ」
「えっ?」

 オレは冬夜を床に押し倒し、馬乗りになってエプロンを奪った。

「色気のあるストリップは期待すんなよ」
「真……。千里」
「だから、その……。お前と暮らしたいから、オレの意思で行く。ババ抜きで負けたからじゃねーからな」

 そんなのわかってると言いたげな顔がちょっとムカツク。
 ピンク色のエプロンを見て、結果が同じなら勝負には勝っておきたかったぜと後悔するも、尻の下で自己主張する冬夜の息子さんに、満更でもない気分になっているオレがいた。

 お前の嫁役、しっかりやってやろうじゃねえの。永遠に、な。
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みんなの感想(4件)

星
2020.04.04

更新ダー\(^o^)/
イチャイチャラブラブか・わ・い・い!!!
好きな作品なので続きが見られるなんて最っ高です!


( ゜д゜)≪ふむふむ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ 
  \/   /
    ̄ ̄ ̄
 ( ゜д゜ )!?
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ 
  \/   /
    ̄ ̄ ̄

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2020.04.05 used

コメントありがとうございます!
完結後もできれば少しずつ、2人の未来を書いていきたいと思っています(*´∀`)

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魁誠
2020.01.31 魁誠

ティッシュ1箱分泣きました…
ほんと、、、幸せになってくれてありがとう…
ゴミ箱がパンパンになるまで泣いたの久しぶりすぎて目が腫れて大変です…
こんな尊い作品を作ってくださりありがとうございます。
ほかの作品も読ませていただいてますが、本当にファンです。。。
お体に気をつけて下さい…好きです

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2020.01.31 used

コメントありがとうございます!
ファンだと言っていただけてとても嬉しいです!
今後もまったり番外編を書いていくのでたまに覗いていただけたら嬉しいです。

他の作品も読んでくださってありがとうございます(*´∀`)

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まぐろ
2019.06.24 まぐろ

凄く良かったです!!!!良かった!良かった!!!電車の中で目が潤んでしまいました!こんな素敵なバッドエンドという名のとてつもないハッピーエンドなかなかお目にかかれません!最高です!ありがとうございます

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2019.06.24 used

コメントありがとうございます(*´∀`)
うるうるしていただけて嬉しいです!

ハッピーエンド大好きなので、大団円で終わらせたかったのです。
まだまだ番外編が続きますので、よろしければお付き合いください

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