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秘密
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ギャラリーが見守る中、カジノを出る。楽しげな室内に後ろ髪を引かれながら、旭は葉月の後を追った。
いつもなら、まだギャンブルやりたいという想いで埋め尽くされる頭の中だが、今日は違う。
早く帰りたいと言っていた葉月。なのにしっかり、旭を連れ帰ろうとしている。
その違和感も気になったし、これから2万円分何をされるかも気にかかる。
「なあ、葉月。早めに帰りたいって言ってたけど、何か用でもあるのか?」
「あったらお前をお持ち帰りしていないと思うが?」
「……じゃ、なんで?」
「実はな、今、追われてるんだよ」
そうとは思えないほど、気楽に言われたので危うく流してしまうところだった。
「その……犯罪は、よくないぞ」
「どうしてそうなる。おれは清廉潔白だ。カジノが法律で引っかかってた頃なら違うだろうけどよ」
そのまますぐに、この前と同じ駐車場へ行って車へ乗り込む。
ともすれば高校生にも見える葉月が運転席へ座るのは、相変わらず妙な感じがした。
「慣れているし、よかったら運転も俺がしようか」
「運転手もやってくれるつもりなのか?」
「まあ、2万円分働かないといけないし」
「じゃあ、こんなことで消費するのはもったいないからやめておく」
葉月が口角だけを上げて軽く笑う。
「それに、昨日も言ったはずだが? 車は好きだし、他人に自分の車を運転させるようなことはしないと」
「そ、それはわかってるんだけどさ」
「そういえばお前、昨日も運転したがっていたな。そんなにこの車が運転したいのか? それともおれの運転が、そんなに不安を抱かせるようなものだったのか?」
「や、いや……」
まさか、高校生が運転しているようで不安になるとは言えず、旭は黙り込んだ。
30代40代なら話は別だが、20代前後の男が若く見えると言われてもあまり嬉しくはないだろう。その場合、若くというよりは幼く見えると言われているようなもの。
もっとも葉月は、雰囲気とその所作などは容姿とは見合わないほど大人びている。まさに、年齢不詳という言葉がふさわしい男だ。
「仕事で人を乗せて運転することが多いから、逆が慣れないってだけだ」
「なるほど。それならいつか、お前の車に乗せてもらうかな」
そんな機会があるかどうかなどわからない。けれど、普段と違い柔らかく微笑む葉月を見て、彼を助手席に乗せてみたいと思ってしまった。
ちなみに葉月の運転は、比べられるのが恥ずかしいほど上手い。
「そういえば、さっき追われてるって言ってたけど……誰に?」
「ああ。まずは警察に追われていることを疑うなんて、お前もヒドイよな」
「じゃあ、昔の恋人、とか?」
「んー。近いような遠いような」
「やっぱり怨恨か」
「まあ、そこは仕方ないだろう。ギャンブラーだし、おれ」
葉月はハァとひとつ溜息をついた後、バックミラーをちらりと見た。
「失敗したんだ」
「ギャンブルで?」
「まあ、あるイミそうだな。遊びのつもりで連れ込んだ男が、ストーカーになったっていう、よくある話さ」
賭事が上手い人間は、駆け引きも総じて上手い。そんな葉月が失敗したと語るのは、なんだか不思議な気もするが、理由はわかる気がした。そして、なんだか酷くイライラした。
きっと葉月は旭にしたのと同じような行動を、その男にしたのだ。それならば、ストーカーになっても無理はないように思えた。葉月の言葉が正しければ、事実失敗している。
「きっちりと、男に興味がないやつを、選んだつもりだったのにな」
「確かにそいつ、男には、なかったんじゃないか。興味」
葉月には異性愛者でもその気にさせてしまうような不思議な魅力がある。それを示唆したのだが、気づいているのかいないのか、本人は素知らぬ顔だ。
「そうか? 男に興味がなければ、男に触られたところで、気持ち悪いだけだろう」
「男の胸板を撫で回して喜ぶ奴が何を言うんだ」
「……それもそうだな。でも触るのはよくても、触られるのはごめんだ」
葉月は自分本位なことを言いながら、信号待ちの間にコートの内側からミントの飴を取り出し、封を開けて口へ放り込んだ。
「ん」
旭のほうにもそれを差し出してくる。
そういえばカジノに出入りしているというのに葉月の身体からは煙草の匂いが少なく、爽やかないい香りがした。もしかすると、禁煙でもしているのかもしれない。
「ありがとう」
簡単に礼を告げた後、ひとつ貰って口に入れた。
ころりと舌で転がす。葉月の味がするな……と考えて、旭は盛大にむせた。
「おい、平気か? ミントが苦手なら、そう言えよ」
「違うから……」
涙目でしばらく咳き込んでから、ようやく静かに息をついた。
「……もしかして俺を連れ帰るのは牽制のため? 新しい男ができたぞ的な」
「おれは男に興味はないと言ってある。そこは純粋に、ボディーガードがわりだ」
「が、がわりってな……」
本職なんだけど。そう口に出そうとして、やめた。
2万円分で買われ、葉月は旭の職業を知っている。ならばきっと、これはすでに賭の内容に入っているのだ。
「まあ、なんでもお前の好きにしてやるさ」
「そうか。それはよかった。じゃあ、とりあえず家に帰って飯を作ってもらうだろ。それからマッサージをして、抱き枕になれ。今日は泊まっていくことを許可しよう」
「はいはい。仰せのままに」
男と一つのベッドで寝るなど普通に考えれば気持ち悪いだけだが、葉月はそういう感情を抱かせない。
中性的な雰囲気を持っているというよりは、むしろ人ではないような気さえしてくる。まるで描かれた肖像画のように。
「男と同じベッドで寝たいだなんて……葉月は気持ち悪くないのか?」
「女はダメだ。隙あらばおれの子供を身ごもろうとしてくる。男相手ならその心配だけはない」
「自分が犯されるほうがまだいいと」
「犯されるのもゴメンだが、知らない場所でおれのガキが育ってるってほうがゾッとするね」
妊娠したことを葉月に黙って産んで育ててしまえば、確かにそういうことになる。自分がその立場だったらと考えて、旭もゾッとした。
どうやら大金をもつことや、名をはせることは早々いいことばかりでもないらしい。
「好きな奴とか、親友とかはいないのか?」
「いたら今、お前を誘ってないだろうよ」
「好きな相手でもいれば、問題ないのにな。どこへ行くにも楽しいだろうし」
「そうだな。相手がおれを好きじゃなくても、金の力でどうとでもなるしな」
「そういうひねた考え方はやめろよ。まだ若いんだからさ」
「まだ若い……ね? 旭クンにはいったいおれが、いくつに見えているのやら」
「は?」
含みのある言い方に、旭が眉を寄せる。
そういえば外見だけで判断して実年齢は知らない。どう上に見ても20代前半、下手をしたら高校生にも見えるくらいなので、年下だと思っていただけだ。
「ハタチそこそこだろう?」
「ザンネンだが、おれはお前よりずうっと年上だ」
「ずっとって……俺、こう見えても26だぞ」
「それはまあ、見た目通りだな。おれは……歳を、とらないんだよ」
「え?」
「人間と違って、緩やかな時間を過ごしているのさ。ヴァンパイアの末裔ってヤツ」
「……え?」
旭を見る葉月の瞳は、嘘をついているようには見えなかった。
人ではない者のようなどこか独特な雰囲気も、言われてみればそうなのかもしれないと思えてしまう。
「おれ、本当にそんなふうに見えるのか?」
「え? えっ?」
「ククッ。ウソに決まってるだろ。そんなファンタジーみたいな」
「う、嘘?」
「当たり前だ。信じられて、そっちのほうがビックリだ。お前、おかしな本の読みすぎじゃないのか?」
嘘をついてるようには見えなかった瞳も、今は楽しげに揺れている。
「いや、だって……。本当のこと言ってるように聞こえたんだ」
「そりゃそうさ。おれは一流のギャンブラーだからな。ウソやブラフは大得意だぞ?」
なにもこんなところでその腕を見せびらかさなくてもいいのに。旭はそう心の中で文句を言ったが、人によってはそれこそ金をつんででも見たいスキルだろう。
催眠術にでもかかるように、それが本当だと思い込みそうになる。深い色合いの黒い瞳に、惑わされる。
「に、してもだ。ヴァンパイアってのを信じるって……お前、賭事には向いてないよ、マジで」
もはや何度言われたかわからない台詞を聞いて、旭は低く唸った。
今の会話ひとつにしてもあっさり葉月を信じ、それをすぐ顔に出す。駆け引きも下手、嘘をつくのも下手。ついでにどちらかといえば不器用で、カードさばきも上手いとは言えない。ビギナーズラックという言葉すら存在しなかったほど運もない。
おおよそギャンブルには向いていない旭だが、だからこそ勝利を追い求めてはまりこんでいる。やればやっただけ、負ける。
「でも、好きなんだ。仕方ないだろう。誰に迷惑をかけているわけでもないんだから、いいじゃないか」
「そうだな。むしろ喜ばれている。いいカモだと」
「……」
「しかし面と向かって好きだなんて言われると、今日はおれが口説かれているみたいだな」
「誰が男なんて口説くか。だいたい、その場合は葉月に迷惑がかかるだろ。ノーマルなんだから」
「どうかな。おれは割りとお前のことを気にいってる。嬉しいかもしれないぞ」
それはきっと、旭が自分を口説くはずがないという確信があってこそ出る軽口だ。
本気で愛を囁いて鼻をあかしてやろうかとも思ったが、葉月には旭の嘘を見破るなどきっと赤子の手を捻るより容易い。
何より演技とはいえ自分が男に愛を語るのも精神的ダメージをくらいそうだ。それこそ両刃の剣。相手に与えただけ、こちらにも返ってきてしまう。それとは別に、葉月から繰り出されるだろうカウンターも侮れない。
明らかに楽しくない展開になるのは思慮深いとは言えない旭にもわかったので、煙にまかれた感のある話を戻すことにした。
「で、実際いくつなんだ」
「フン。サラリと流しやがって。らしくないな。まー、少なくともお前よりは年上だ」
「それも嘘とかじゃなく? 信じられない……」
「そうだな。嘘かもしれない。おれが語ることに真実なんか何ヒトツない。そう考えていたほうが、ミステリアスでステキだろ?」
素敵かどうかはさておき、不思議なもので年上なのだと直に言われてしまえば、そうにも思えてくる。外見は若く見えても、元々雰囲気だけは年上にも思える年齢不詳の男だ。
「それともお前、そんなにおれのプロフィールが気になるのか?」
「気になる……ない」
「どっちだよ」
躊躇っていたら、言葉が混ざった。そんな旭を見て、葉月が吹き出す。
結局葉月のことは何ひとつ謎なまま、この前訪れたマンションへ到着した。
いつもなら、まだギャンブルやりたいという想いで埋め尽くされる頭の中だが、今日は違う。
早く帰りたいと言っていた葉月。なのにしっかり、旭を連れ帰ろうとしている。
その違和感も気になったし、これから2万円分何をされるかも気にかかる。
「なあ、葉月。早めに帰りたいって言ってたけど、何か用でもあるのか?」
「あったらお前をお持ち帰りしていないと思うが?」
「……じゃ、なんで?」
「実はな、今、追われてるんだよ」
そうとは思えないほど、気楽に言われたので危うく流してしまうところだった。
「その……犯罪は、よくないぞ」
「どうしてそうなる。おれは清廉潔白だ。カジノが法律で引っかかってた頃なら違うだろうけどよ」
そのまますぐに、この前と同じ駐車場へ行って車へ乗り込む。
ともすれば高校生にも見える葉月が運転席へ座るのは、相変わらず妙な感じがした。
「慣れているし、よかったら運転も俺がしようか」
「運転手もやってくれるつもりなのか?」
「まあ、2万円分働かないといけないし」
「じゃあ、こんなことで消費するのはもったいないからやめておく」
葉月が口角だけを上げて軽く笑う。
「それに、昨日も言ったはずだが? 車は好きだし、他人に自分の車を運転させるようなことはしないと」
「そ、それはわかってるんだけどさ」
「そういえばお前、昨日も運転したがっていたな。そんなにこの車が運転したいのか? それともおれの運転が、そんなに不安を抱かせるようなものだったのか?」
「や、いや……」
まさか、高校生が運転しているようで不安になるとは言えず、旭は黙り込んだ。
30代40代なら話は別だが、20代前後の男が若く見えると言われてもあまり嬉しくはないだろう。その場合、若くというよりは幼く見えると言われているようなもの。
もっとも葉月は、雰囲気とその所作などは容姿とは見合わないほど大人びている。まさに、年齢不詳という言葉がふさわしい男だ。
「仕事で人を乗せて運転することが多いから、逆が慣れないってだけだ」
「なるほど。それならいつか、お前の車に乗せてもらうかな」
そんな機会があるかどうかなどわからない。けれど、普段と違い柔らかく微笑む葉月を見て、彼を助手席に乗せてみたいと思ってしまった。
ちなみに葉月の運転は、比べられるのが恥ずかしいほど上手い。
「そういえば、さっき追われてるって言ってたけど……誰に?」
「ああ。まずは警察に追われていることを疑うなんて、お前もヒドイよな」
「じゃあ、昔の恋人、とか?」
「んー。近いような遠いような」
「やっぱり怨恨か」
「まあ、そこは仕方ないだろう。ギャンブラーだし、おれ」
葉月はハァとひとつ溜息をついた後、バックミラーをちらりと見た。
「失敗したんだ」
「ギャンブルで?」
「まあ、あるイミそうだな。遊びのつもりで連れ込んだ男が、ストーカーになったっていう、よくある話さ」
賭事が上手い人間は、駆け引きも総じて上手い。そんな葉月が失敗したと語るのは、なんだか不思議な気もするが、理由はわかる気がした。そして、なんだか酷くイライラした。
きっと葉月は旭にしたのと同じような行動を、その男にしたのだ。それならば、ストーカーになっても無理はないように思えた。葉月の言葉が正しければ、事実失敗している。
「きっちりと、男に興味がないやつを、選んだつもりだったのにな」
「確かにそいつ、男には、なかったんじゃないか。興味」
葉月には異性愛者でもその気にさせてしまうような不思議な魅力がある。それを示唆したのだが、気づいているのかいないのか、本人は素知らぬ顔だ。
「そうか? 男に興味がなければ、男に触られたところで、気持ち悪いだけだろう」
「男の胸板を撫で回して喜ぶ奴が何を言うんだ」
「……それもそうだな。でも触るのはよくても、触られるのはごめんだ」
葉月は自分本位なことを言いながら、信号待ちの間にコートの内側からミントの飴を取り出し、封を開けて口へ放り込んだ。
「ん」
旭のほうにもそれを差し出してくる。
そういえばカジノに出入りしているというのに葉月の身体からは煙草の匂いが少なく、爽やかないい香りがした。もしかすると、禁煙でもしているのかもしれない。
「ありがとう」
簡単に礼を告げた後、ひとつ貰って口に入れた。
ころりと舌で転がす。葉月の味がするな……と考えて、旭は盛大にむせた。
「おい、平気か? ミントが苦手なら、そう言えよ」
「違うから……」
涙目でしばらく咳き込んでから、ようやく静かに息をついた。
「……もしかして俺を連れ帰るのは牽制のため? 新しい男ができたぞ的な」
「おれは男に興味はないと言ってある。そこは純粋に、ボディーガードがわりだ」
「が、がわりってな……」
本職なんだけど。そう口に出そうとして、やめた。
2万円分で買われ、葉月は旭の職業を知っている。ならばきっと、これはすでに賭の内容に入っているのだ。
「まあ、なんでもお前の好きにしてやるさ」
「そうか。それはよかった。じゃあ、とりあえず家に帰って飯を作ってもらうだろ。それからマッサージをして、抱き枕になれ。今日は泊まっていくことを許可しよう」
「はいはい。仰せのままに」
男と一つのベッドで寝るなど普通に考えれば気持ち悪いだけだが、葉月はそういう感情を抱かせない。
中性的な雰囲気を持っているというよりは、むしろ人ではないような気さえしてくる。まるで描かれた肖像画のように。
「男と同じベッドで寝たいだなんて……葉月は気持ち悪くないのか?」
「女はダメだ。隙あらばおれの子供を身ごもろうとしてくる。男相手ならその心配だけはない」
「自分が犯されるほうがまだいいと」
「犯されるのもゴメンだが、知らない場所でおれのガキが育ってるってほうがゾッとするね」
妊娠したことを葉月に黙って産んで育ててしまえば、確かにそういうことになる。自分がその立場だったらと考えて、旭もゾッとした。
どうやら大金をもつことや、名をはせることは早々いいことばかりでもないらしい。
「好きな奴とか、親友とかはいないのか?」
「いたら今、お前を誘ってないだろうよ」
「好きな相手でもいれば、問題ないのにな。どこへ行くにも楽しいだろうし」
「そうだな。相手がおれを好きじゃなくても、金の力でどうとでもなるしな」
「そういうひねた考え方はやめろよ。まだ若いんだからさ」
「まだ若い……ね? 旭クンにはいったいおれが、いくつに見えているのやら」
「は?」
含みのある言い方に、旭が眉を寄せる。
そういえば外見だけで判断して実年齢は知らない。どう上に見ても20代前半、下手をしたら高校生にも見えるくらいなので、年下だと思っていただけだ。
「ハタチそこそこだろう?」
「ザンネンだが、おれはお前よりずうっと年上だ」
「ずっとって……俺、こう見えても26だぞ」
「それはまあ、見た目通りだな。おれは……歳を、とらないんだよ」
「え?」
「人間と違って、緩やかな時間を過ごしているのさ。ヴァンパイアの末裔ってヤツ」
「……え?」
旭を見る葉月の瞳は、嘘をついているようには見えなかった。
人ではない者のようなどこか独特な雰囲気も、言われてみればそうなのかもしれないと思えてしまう。
「おれ、本当にそんなふうに見えるのか?」
「え? えっ?」
「ククッ。ウソに決まってるだろ。そんなファンタジーみたいな」
「う、嘘?」
「当たり前だ。信じられて、そっちのほうがビックリだ。お前、おかしな本の読みすぎじゃないのか?」
嘘をついてるようには見えなかった瞳も、今は楽しげに揺れている。
「いや、だって……。本当のこと言ってるように聞こえたんだ」
「そりゃそうさ。おれは一流のギャンブラーだからな。ウソやブラフは大得意だぞ?」
なにもこんなところでその腕を見せびらかさなくてもいいのに。旭はそう心の中で文句を言ったが、人によってはそれこそ金をつんででも見たいスキルだろう。
催眠術にでもかかるように、それが本当だと思い込みそうになる。深い色合いの黒い瞳に、惑わされる。
「に、してもだ。ヴァンパイアってのを信じるって……お前、賭事には向いてないよ、マジで」
もはや何度言われたかわからない台詞を聞いて、旭は低く唸った。
今の会話ひとつにしてもあっさり葉月を信じ、それをすぐ顔に出す。駆け引きも下手、嘘をつくのも下手。ついでにどちらかといえば不器用で、カードさばきも上手いとは言えない。ビギナーズラックという言葉すら存在しなかったほど運もない。
おおよそギャンブルには向いていない旭だが、だからこそ勝利を追い求めてはまりこんでいる。やればやっただけ、負ける。
「でも、好きなんだ。仕方ないだろう。誰に迷惑をかけているわけでもないんだから、いいじゃないか」
「そうだな。むしろ喜ばれている。いいカモだと」
「……」
「しかし面と向かって好きだなんて言われると、今日はおれが口説かれているみたいだな」
「誰が男なんて口説くか。だいたい、その場合は葉月に迷惑がかかるだろ。ノーマルなんだから」
「どうかな。おれは割りとお前のことを気にいってる。嬉しいかもしれないぞ」
それはきっと、旭が自分を口説くはずがないという確信があってこそ出る軽口だ。
本気で愛を囁いて鼻をあかしてやろうかとも思ったが、葉月には旭の嘘を見破るなどきっと赤子の手を捻るより容易い。
何より演技とはいえ自分が男に愛を語るのも精神的ダメージをくらいそうだ。それこそ両刃の剣。相手に与えただけ、こちらにも返ってきてしまう。それとは別に、葉月から繰り出されるだろうカウンターも侮れない。
明らかに楽しくない展開になるのは思慮深いとは言えない旭にもわかったので、煙にまかれた感のある話を戻すことにした。
「で、実際いくつなんだ」
「フン。サラリと流しやがって。らしくないな。まー、少なくともお前よりは年上だ」
「それも嘘とかじゃなく? 信じられない……」
「そうだな。嘘かもしれない。おれが語ることに真実なんか何ヒトツない。そう考えていたほうが、ミステリアスでステキだろ?」
素敵かどうかはさておき、不思議なもので年上なのだと直に言われてしまえば、そうにも思えてくる。外見は若く見えても、元々雰囲気だけは年上にも思える年齢不詳の男だ。
「それともお前、そんなにおれのプロフィールが気になるのか?」
「気になる……ない」
「どっちだよ」
躊躇っていたら、言葉が混ざった。そんな旭を見て、葉月が吹き出す。
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