その身を賭けろ

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餞別(R18

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 自らも入院してしまいそうなほど真っ青になっている葉月をそのままにはしておけず、旭は葉月の手を引いて駐車場へ向かった。
 生死が気になるところだが、はっきり知るよりは、いずれまた顔を出すのではないかと思っていたほうがいいのかもしれないとも思う。
 何より、あの場にいることがとても怖かった。葉月をいさせることが怖かった。もし、夜西が死んでいたら、そのまま葉月を連れていってしまいそうな気がしたのだ。

 アルコールを飲んでいたことを思い出し、途中でタクシーを拾おうと辺りを見回す。

「……大丈夫だ。おれが運転する。まずいだろう、おれもお前も血まみれだ」
「あ……」

 旭はハンカチを取り出し、葉月の顔を拭った。幸い雪で濡れているため、綺麗に落ちる。
 服についた血はとても取れそうになかったが、汚れたままにしておきたくなかった。
 葉月の口調は想像以上にしっかりしている。今きた道を戻ると言い出さないことに安堵しながら、駐車場へ急いだ。




 ハンドルを握り、車を少し走らせた後、葉月は小さな声で二度目だと呟いた。

「え?」
「こうやって、目の前で命を絶とうとされたコトが」
「葉月が悪いわけじゃない。数え切れないほどストーカーを見てきてる俺が言うんだから、間違いない。葉月はただ少し、運が悪かっただけだ」
「運が悪いなんて言われたのは、久しぶりだ。でも、確かに……そうかもな」

 口では肯定しているが、納得している様子はない。

「ストーカー被害にあっているのは、何も葉月だけじゃない。勝手に慕われて、つきまとわれて、恋人を傷つけられた人だっている」
「お前が言うと、説得力があるな」
「まあ、そういう仕事してるし……。気にするななんて無理な話だろうけど、自分をあまり責めないでほしいんだ」
「……ああ」

 葉月は何も言わなかった。旭もこれ以上は、何も言えなかった。
 限りなく嫌な予感がしていたが、葉月から何か言われるまで、気づかない振りをすることにした。




 いつものように部屋へ戻れば、先程あったことが夢なのではないかと思えてくる。しかしコートについた血の匂いが、これは現実なのだと訴える。
 広々としたリビングで旭は葉月の傍に寄り添い、そっとコートを脱がせた。

「部屋の中は暖かくていいな」
「空調入れっぱなしだからな……」

 葉月はそう言って、旭に体重を預けた。それは暖かい空気に身を委ねているようにも、旭に甘えているようにも思える。

「なあ、旭……」
「嫌だ」

 まだ何も言われてないのに、反射的に言葉を返す。
 これから葉月が言うのは、自分にとって聞きたくない台詞だ。そんな予感がしたからかもしれない。普段は冴えない旭の勘は、この時ばかりは皮肉にも見事に機能していた。

「……まだ、何も言ってないぞ。だが、想像がついてるのなら、話は早いな」
「ついてない」
「旭。住む所を用意してやるから、ここを出ていけ」

 出ていくだけなら構わないが、葉月はきっとこのまま姿を消すつもりだ。
 言い出すだろうとは思っていたが、猶予のなさは想像より情け容赦がなかった。
 時間をおけば葉月の考えも変わるかもしれないし、自分に依存してくれるかもしれないが、その隙すら与えられていない。
 
「嫌だ。俺は葉月といたい。絶対、葉月の前で死んだりなんてしないから」
「本当に?」
「当たり前……だろ」

 旭は、こんな肝心な場面においてまで、馬鹿正直だった。
 何度か、自分が歩けないような怪我を負えば葉月が責任をとってくれるかもしれないと、考えたことがある。死のうとは思わないが、自傷行為という点では近い。

「お前は相変わらず、隠し事が下手だな」
「で、でも死のうと思ったことはないし、葉月が悲しむだろうから、自分の身もきちんと守ろうって考えてる!」

 葉月は苦笑して、旭の首元に冷たい指先をするりと滑らせた。

「ごめんな。わかってる。でもダメなんだ。怖いんだよ。もしお前まで……おかしくなって、おれの前で命を絶ったら、と思うと」
「俺は、絶対に……そんなことしない。葉月とずっと一緒にいたいから」

 しかし、職業と運のなさから考えれば、葉月より先に死なないとは誓えない。
 もし旭に何かあって死んでしまったら、彼は酷く傷つくだろう。そして己のせいだと自責にかられ、今日よりもずっとつらい想いをするに違いない。
 旭は自分が物凄い我が儘を言っているような気分になってきた。

「むしろ今まで束縛しすぎた。おれといたら、お前が傷つくって、わかってたのにな」

 多分葉月は、旭の言葉を聞く気がないのだろう。既に決めてしまっている。離れていくことを。

「嘘だろ? 葉月、本当に……」
「ふ……。どうする?」
「え?」
「ここでおれを殺して、永遠にお前のモノにでも、するか?」

 葉月は旭の首にあてていた手を離し、今度は旭の手を取って逆に自分の首へと添えさせた。まるで絞めろとでも言うように。
 旭はゆるゆると首を横に振る。

「できるはずないだろ、そんなこと」
「ほんの一ヶ月前まで、お前はおれを知らなかった。元に、戻るだけだ。ここで何もしなければ、何もなかったことになる」
「それも……無理だ」

 冷たい手の平。ほんのりとミントの香りがする細い身体。寝起きに響くいつもより低めの声。
 今更、何も知らなかった頃に戻れるはずがない。

「葉月は、俺がいなくても平気なんだな……」

 それが、悔しくて悲しい。一方的に好いているばかりではなく、情を得ていると思っていた。たとえそのベクトルが違くとも。

「もう二度と会わないなんて、死んでるのと一緒じゃないか……ッ。俺は葉月にとって……」

 吐き捨てるように言った旭の台詞を、語尾と共に葉月の唇が飲み込む。すぐに触れて離れていった葉月の唇は、微かに濡れていた。

「殺せないなら、スるか?」
「え? え、葉月、なッ……」
「餞別だよ。もっともお前が、勃つならだけどな」

 渇いた砂に水が染み込むように、言葉が侵食してくる。

「それに、深く繋がれば、お前に不幸が訪れるかもしれない。それでも抱きたいか?」

 ここで抱かなくても、嫌われなくても、葉月は旭の傍から離れていくつもりだ。そう思った途端、今まで抑えていた欲望が一気にせりあがってきた。
 こんな形で求められるのを望んでいたわけじゃない。それでも身体は正直だった。

「葉月……!」
「ん……ッ」

 噛み付くようなキスをして、腰を引き寄せて押し付ける。葉月を求めて痛いほど張り詰めている欲望は、服の上からその肌に擦れただけで跳ねて悦んだ。

「はは……。ハグまでが聞いて呆れるぜ。お前、おれが許可しただけでこんなになんの?」
「そうだ。俺は葉月の言葉ひとつで、どうにでもなるんだ」

 嬉しくなったり、悲しくなったり、滑稽なくらい一喜一憂。
 今だって少し煽られただけで、朝まで理性を失いそうなほど欲情している。こんなにも強い感情を、よく抑えておけたものだ。
 とても寝室へ移動する余裕はなく、傍にあるソファへと葉月を押し倒す。
 葉月が寝転んでちょうど一人分の広さなため二人だと狭いが、身動きがとれないほどではない。
 旭の勢いに押され、葉月のシャツがまくれあがり、細く白い腹が晒されている。黒いシャツとのコントラストがいやらしく見えて目眩がした。
 自分から誘っておきながら、やはり男に抱かれるのは抵抗があるのか、葉月は顔を腕で隠すようにし、唇を噛み締めている。
 普段なら葉月が嫌そうにしていればアッサリ止まる旭だが、今日ばかりはもう止まれそうにはなかった。

「そんな顔してもダメだよ。ほら、もう……萎えないし」

 少しも反応をしめさない葉月のそこに擦りつけるようにすると、反らされた喉がひくりと動く。
 葉月が勃たなくても身を繋げることは可能だ。それでもできれば、感じさせてあげたい。いや、感じる顔が見たいと、旭は胸の奥で切望した。
 覗く白い腹を舐め、そのまま舌を下げていく。邪魔なズボンの前をくつろげて、下着で少しだけ指を躊躇わせた。
 葉月が好きだからこそ、秘部を見ても気持ち悪くはならず、興奮するだけだとは思う。思っていても今間近に現れるのが男性器だという事実が少し恐ろしい。頭の中に、男同士なら愛があればしゃぶらなくてはいけない、と刷り込まれているせいかもしれない。
 そうでなくても、ぬるりとした口内でここを締め付けられ、舌で舐め回される快感は男だからこそよくわかる。葉月を悦ばせるなら避けては通れない道だとも確信していた。

「お前こそ、そう言いながら無理なんじゃないのか?」
「き、緊張してるだけだ。ようやく葉月に触れるから」
「いつも引っ付いてたくせに」
「性的に触るのは、これが初めて、だし」

 旭が緊張していることで、葉月は逆に落ち着いたらしい。
 男同士ということを除けば手順はわかっている。抱かれる側の葉月はともかく、旭にとっては普段とさほど変わりはない。なのに緊張してしまうのは、旭が葉月のことをとても愛おしく思っているからだ。
 葉月が少しでも同じように思っていてくれたら……。そう願いながら、一度顔を上げて深いキスをし、葉月の下着をズボンごと脱がせた。
 裸は一度風呂場で見ているのだが、いざことをするとなると見え方が違ってくる。それに、その時はまだ葉月に恋愛感情を抱いてはいなかった。好きだったような気もするが、今となってはもうわからない。
 萎えている葉月のぺニスが旭の視線に晒されて微かにひくつく。
 顔を隠したように、羞恥にたえかねてそこも手で覆うのではないかと思ったが、堂々としたものだった。
 少し顔を上げると、頬を赤らめた葉月と視線があう。
 
「……好きにしろよ。お前の好きに、していい」
 
 いつもより掠れた声に、ぞくりとした。細い太股を持ち上げ、口づける。肉などまったくないように見えるのに、皮膚は意外なほど柔らかかった。
 誘惑に駆られて軽く歯を立て、甘く吸い上げる。赤い跡を内股にいくつも散らし、葉月の足が焦れたように動くのを見てから、中心にそっと舌を伸ばした。
 
「んッ……」
「気持ち悪かったら、女にされてると思っていいから」
「いいのか?」
「え……?」
「おれが、お前にされながら、女との情事を想像していても」
 
 言われて、葉月と見知らぬ女の情事を想像した。
 
「……嫌だ」
「バカ。泣きそうになるくらいなら、そんなコト言うな」
 
 勝手にライバル心を煽られ、口ですっぽりと包み込む。同じ男同士だからこそ、どこをどうされたら気持ちいいかはだいたいわかる。技巧的な面では過去の女になど負けていられない。
 
「っ……は」
 
 葉月が身震いして軽く甘い声を上げるが、口の中のモノは依然としてふにゃりとしている。喉の奥で刺激してやりたくとも、今のままでは難しい。
 幹に手を添え、先端を舌で扱くようにしながら、芯を作っていく。
 いくらツボがわかったところで、旭は元々あまり器用だとは言えない。その上、葉月はゲイに嫌悪感を抱いていて、点数をつけるならばマイナスから始まるだろう。

「ごめん。俺が下手だから……」
「いや、多分これは、緊張してるから……」
 
 葉月の口から出た意外な事実に、旭が目を見開く。
 
「緊張? 葉月が?」
「お前はおれをなんだと思ってるんだ」
「勃たないほどっていうのが意外で……」
「男にヤられんのは初めてだし、人を遠ざけて生きてきたから、もう十年くらいご無沙汰だ。緊張くらい、してもおかしくないだろう」
 
 足に手を触れると、ペニスが柔らかいのとは逆に、固くなっていた。強張っているというほうがいいだろうか。確かに緊張しているらしい。
 
「全然わからなかった、そんなに緊張してるなんて」
「そりゃ、そういうふうには見えないようにしているからな」
 
 こんな時でも葉月はいつものようにポーカーフェイスだ。それだけでは隠し切れない上がった息と上気した肌が壮絶に色っぽくはあるのだが。
 そして、クールに振る舞っていようと、ネタばらしをしてしまってはまったく意味がない。それが嘘でも真実でも、言ってくれた理由は旭を気遣ってのことだろう。きっとフォローせずにはいられないほど、情けない顔をしていた。
 
「だから別に、おれが感じなくてもお前の欲望を好きにぶつけろよ」
「そんなの……」
「それが、友人を抱くってコトだ。せいぜい後悔したらいい」
 
 かと思えば、そんな胸に刺さることを言う。酷い言葉は本心からか、あえて嫌われようとでもしているのか。
 どちらにしろ、葉月が弱っているところにつけこんでいる自覚があるため、ダイレクトに罪悪感を刺激された。しかし今更、与えられた餌を捨てるような真似はできなかった。
 
「後悔するなんて、初めからわかってる。それでも葉月に触れたい」
 
 指先で、舌で、葉月の身体を辿る。吸い付いて赤い跡を残しても、葉月は旭の髪をあやすように撫でるだけでやめろとは言わない。
 そもそも、葉月が旭に餞別を渡す必要などないのだ。いくら旭のことを憐れんだとしても、それが身体である必要はない。面倒事は金で解決してきたとのたまう葉月が自分から言い出したのなら、彼も少しはこれを望んでいるのではないか。そう思いたかった。
 相変わらず反応の薄い身体を、愛情を持って撫でながら、奥まった場所へゆっくりと指を滑らせた。
 
「いっ……」
 
 唾液で粘り気を帯びていたとはいえ、それだけでは指一本ですらきつい。葉月も苦しそうに呻き声を上げた。
 勃たないなら先に中から刺激してみようと思ったのだが、これではよけいに拒否反応を起こされそうだ。

 そもそも葉月の尻は締まっていて、ズボンも既製品では落ちてきそうなほど小さい。そんな小さな尻を抱え上げ楔を穿つのは、いっそ痛々しくすら思える。想像すると、もちろん興奮は覚えるし、触れている指すら心地好いのだが。
 普段は見えない部分が直に擦れ合う感触だけでドキドキするし、際限なく重ねたくなる。
 
「……そこの、コートのポケットに、ハンドクリームが入ってる」
 
 葉月に言われるまま、ソファの横にだらしなく落ちたコートを拾い上げ、ポケットを探る。何も用意がないままことを進めれば確実に葉月を傷つける。それどころか、さっきの感覚では入れることすら難しそうだ。
 
「葉月が普段使ってるものをローションがわりにするとか、興奮する……」
「お前、結構変態だな」
「でも身体の中に入れて大丈夫なのか、これ」
「さあ?」
 
 手渡されたそれに、高級感はあまりない。温感クリームと書かれているが、その辺りのドラッグストアで適当に選んだような感じだ。
 旭はしばし考えこんで、葉月の様子を窺った。ソファの上、旭を信じるように身体を投げ出し、少し不思議そうな視線を返してくる。
 
「それがないと、多分厳しいと思うぞ。お前のでかいし、入る前に折れそうだ。それとも……やめるか?」
 
 くくっと低く笑う葉月は、旭がやめるなど少しも思っていないのだろう。
 
「やめない……けど」
 
 薄い太股を押し上げ、狭いそこへ舌を伸ばした。まさか舐められるとは思っていなかったのか、葉月が初めて焦ったような表情を浮かべた。
 
「バッ……! そんなトコを舐めるな! だいたい、唾液くらいじゃどうにもならんだろ」
「挿れるのは、やめる。その代わり太股使わせてもらうから」
 
 内股を押すように撫でながら、葉月の抵抗をものともせずに舌を差し入れる。指は拒んだが、さすがに舌はぬるりと受け入れた。
 
「じゃあ尚更、舐める必要、な、いだろ」
 
 旭の肩に葉月の指が食い込む。結構力を込めているようだが、体勢と筋力の差から押し返すのはまず無理だろう。それでも、本気でやめさせたければ爪を立てたり顔を蹴り上げたりはできる。そうされるまでは、葉月にとってまだ許せる範囲なのだと思うことにした。

「せめて、中の熱さは知っておきたくて」

 舌や指を性器に見立てて探り、中の温度を知れば擬似性交はそれだけリアルさを増す。
 したくて挿れたくてたまらなかったが、ホンモノを挿れたら本当に最後になりそうな気がして怖い、というのもあった。

「ん……ッ。ぞわぞわする……」
「もしかして気持ちいい?」
「そういう感じは、しない……と思うが」
 
 退けるのは諦めたのか、今度は旭の与える愛撫に唇を噛んで堪えている。
 それでも先程より身体の強張りは解けている気がするし、気持ち悪いわけでもなさそうだ。
 
 葉月の内部は締め付けるように収縮し、旭を喜ばせる。中は手の冷たさが嘘のように熱く、この身体で自分の熱を鎮めたいという感情が芯からフツフツと沸いてくる。
 
「葉月……」
 
 指と舌で中の熱さをたっぷり楽しんだあと、相変わらず萎えたままの中心を甘く含む。
 
「……ッん」
 
 葉月の身体がびくんと跳ね、今までで一番イイ声を上げた。
 いつもはどこか低く掠れた感じがセクシーな葉月の声だが、喉に詰まるような高い声。旭の熱は暴走しそうなほど体積を増した。
 
「あ、バカ……、そんな強く吸っ……」
 
 わざと音を立てて強めに先端を吸い上げながら幹を扱く。逃げる腰を押さえ付ければ、快感の逃げ道がなくなって泣くように喘いだ。
 
 長い間触れていて緊張が続かなかったのか、葉月のそこはしっかりと欲望を兆している。旭としては、自分が下手なせいだとか俺が触ってるからかもとどこかで思っていたため、この反応がとても嬉しかった。
 もちろん、愛しい相手を自分の手で悦ばせられること自体も、幸せだった。
 葉月が気持ち良さそうにしてる。喘いでる。俺の手で乱れている……。旭はこれ以上ないほど興奮しながら、熱のこもった愛撫を続けた。
 
「ん、んんッ……」
 
 旭の口の中で、葉月のモノがびくびくと震える。そのままイカせたい気もしたが、旭は名残惜しむようにゆっくりと口を離した。

「葉月、ソファにもたれるように、後ろ向いて。顔見たいけど、そのほうが無理ない体勢だと思うから」
 
 裏を返せば、見られなくて済む。野獣のような顔を見せれば、葉月が怯えてまた萎えてしまうかもしれない。それは避けたかった。今途中でやめたのも、できれば同時にイケたらいいと考えたからだ。挿入しないなら、少しでも一体感を得たい。
 
「……顔が見えないのは、なんか怖いな」
「っ……」
 
 不意打ちのデレをくらって、旭が思わず息を飲む。
 
「お前、デカイし」
 
 トドメとばかりに煽られ、理性が焼き切れそうになった。
 
「あ、いや! 身体がだぞ!? 押し潰されそうという意味でだな」
 
 履き違えに気づいた葉月が慌てて訂正する。訂正されたところで、旭はもう限界だった。
 葉月の身体を肘置きの部分に半分もたれかけさせるようにし、太股をぎゅっと閉じさせる。
 肉のあまりついてない腿はぴたりと閉じても空洞ができ、今からそこに挿れるのだと思うと酷くやらしく思えた。木の股を見ても興奮するような年頃でもあるまいし、と自嘲しつつ、温感クリームを手の平で内側に塗り込んでいく。
 
「……うぅ。足に力入れてるせいか、なんかソレくすぐったい」
「我慢して。もう少し、足、ぎゅっとして」
 
 耳元で囁くと、葉月の身体がびくりと震えた。
 股を手の平で擦る時、敏感な部分も掠めるのか、たまにくすぐったいだけではなさそうな小さな声もあげる。それをほんの少しも聞き漏らしたくなくて、いやらしく足を撫で回しながら肩に顔を埋める。戯れに耳を噛んだり舐めたりすれば、上がる声は少し大きくなった。
 
 葉月の足をクリームまみれにし、旭はようやくそこへの侵入を試みた。切っ先が軽く触れるだけで、処女を貫くようにドキドキした。
 ほとんど摩擦のなくなったそこは、ぬるりと簡単に旭のものをくわえ込む。普通は太股がムチムチしているほど締め付けられて気持ちいいのだろうが、旭のペニスがやや大きめなため、いい具合に甘く締め付けられる。
 
「ヤバ、気持ちよすぎ……」
 
 こういった形であれば挿れられる側の負担はほとんどと言っていいほどないが、それは生理的嫌悪感を除いてのことだ。
 熱く猛ってぬるぬるした男性器を内股に擦りつけられ、交尾のように腰を振られる。それ自体に痛みはなくとも、犯されているような気分にはなるだろう。ゲイではない葉月にとっては精神的にかなりきついのではないか。 
 
「葉月は? 平気? 気持ち悪く……ない?」
 
 旭は不安になりつつも、腰の動きを止めることはできずに、荒い息を堪えるように、途切れ途切れ尋ねた。
 
「痛い。お前、腰、押し付けすぎ」
 
 気持ち悪いとは言われなかったが、痛かったらしい。
 気遣うように訊いたところで、快楽に誘われて自制がきかない。もし無理に身体を繋げていたら、きっと大惨事になっていただろう。
 止められないのは、痛いとは言うものの葉月の声が少し甘く掠れていたからでもある。
 少しだけストロークを緩く短くし、腰を掴んでいた手の片方を前へと回した。
 
「ッ……。あ、旭……、おれのはいいから」
「でも俺、葉月にもよくなってほしいし、い……一緒に、イキたい……」
 
 はっ、と息を大きく吐き出し、肩甲骨が綺麗に浮き出た背中の中心にキスをする。
 
「だから、イキそうになったら言って。俺、それまで……我慢、するから」
「我慢なんて、できんのかよ……ッ」
 
 挑発するようにそう言って葉月が内股に強い力をかけてきた。ちょうど引き抜こうとする瞬間だったので先端を強く断続的に刺激され、旭は喉の奥で呻いた。
 先程味わった中の熱さを思い出し、本当に挿れているような気になってくる。強い快感が何度も押し寄せ、必死で耐えた。
 一緒にイキたいというのもあったが、それ以上に、できるだけ長い時間触れ合っていたかった。
 
「葉月……葉月、葉月。好きだ……」
 
 喉が枯れるくらい、何度も名前を呼んだ。愛を囁いた。離れたくないという想いが、葉月の心に少しでも響けばいいと。
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