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小学校低学年編
弟の特別
しおりを挟むバレンタインの時もそんな話はしてなかったから、俺は安心しきっていたんだ。
まさかその三日後に、こんな地雷が待ち受けていようとは……。
「お兄ちゃん、今日ね、学校の女の子に好きだって言われた!」
ついにこの日がきてしまった……。
早い。小1だろう。弟よ。それに、好きだなんて幼稚園の頃からガンガン言われていたじゃないか。今更だ!
今更なのに言ってくるってことはつまりあれだ! 早い!
……ちょっと血圧上がりすぎて自分でも何を考えているんだかよく判らなくなってきた。
「ど、どうするんだ? つ、つ、つっつっつっつきあうとか」
「つっつきあうの?」
「ごめん。兄ちゃん最近どもりが酷くて、は、はは」
動揺しすぎた。
多分これは……あれだろう。チョコをもらって告白を受けて、その意味に気付いてない弟に痺れをきらして言ったってところだろう。
「あのね、律。よく聞いて? その子は律と今よりもっと仲良くなりたいって思ってるんだ」
「もっと?」
「うん。他の人と違う、特別になりたいってこと。付き合いたい、と思ってるんだよ」
「とくべつ……」
律が考え込んで、顔を上げた。
「それってお兄ちゃんよりも、大事ってこと?」
……凄い、胸にきた。律に俺より大事な人ができる。
考えただけで、涙がこぼれそうだ。
俺はそれをぐっとこらえながら返事をする。
「ん……。うん、そうだよ」
「じゃ、無理だ。何を言われても僕、お兄ちゃんより好きになれそうな人なんて居ないもの。それじゃ、その、付き合う? っていうのは、だめなんだよね?」
律。お兄ちゃん、今死んでもいいよ。
たとえそれが、子供の頃のことだけでも、俺には大事で絶対的なことなんだ。今の君のその気持ちが、嬉しくてたまらないんだ。
きっとそんなことを言っても、いつかそのうち、兄ちゃんのことなんかどうでもよくなって、もっと大事な人ができて付き合ったりなんかする。
そう思うと、泣きそうになるけど……。
俺は律をぎゅっと抱きしめた。
「お、お兄ちゃん?」
「うん。その通りだよ。律。好きでもない女の子と付き合うって言うのは、相手を傷付けることになる。だから、こうしてぎゅっとした時に、どきどきする相手と付き合うんだ」
「そうなんだ。だったら判るかも。だって、お兄ちゃんにこうされると、すごく安心するの。これがドキドキだったらいいってことだよね?」
「うん、そうだ……」
律にとって俺は安心できる相手。それで充分じゃないか。
可愛い可愛い律。お願い、神様。俺にもう少しだけ、律を独占させてください。
それはそんな長い時間じゃないかもしれない。
でもあともう少し。一日一ヶ月、一年でも長く、この笑顔が俺のものだけでありますように。
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