言葉に出せません

used

文字の大きさ
19 / 46
ご褒美追加

言葉にできない膝枕

しおりを挟む
「直人さん! 膝枕してください!」
「…………」
 
 殺されるかのような瞳で見られた。たまんない。
 恋人に膝枕をせがんだだけでこんな蔑むような視線を注がれるなんて……。ああ……、僕、なんて幸せ者なんだろう。直人さん、大好き。
 
「何故俺がそんな苦行のようなことをしなければならない」
「こ、恋人同士……なんだから、いいじゃないですか、それくらい」
「貴様に膝枕をするくらいなら、石でも抱いていたほうがよほどマシだ」
「石抱き(※拷問の一種)ですね! そんなの、凄く気持ちよさそう、ハァハァ……」
「マゾが……」
「今夜は石抱きプレイに決まりですね。重りは前に使った鉄板がありますし、下に敷くのは健康竹踏みで構いませんか?」
「間違いなく健康にはなれないと思うぞ」
 
 直人さんは僕の言葉に乗ってくれる様子はなく、ベッドへ腰掛けて煙草の煙を吐いた。
 座っている、今なら……ささっと移動して頭を乗せてしまえば、膝枕な感じになる!
 大体、俺は恋人には甘い男だ……酷いのはプレイの時だけ……みたいなことを言っておきながら、膝枕もしてくれないなんてどういうことなの!
 そう思って滑り込もうとしたら、即座に立たれて、ベッドに頭をバウンドさせ床へ転げ落ちてしまった。
 あ、愛が痛いです、直人さぁん……。
 
「じゃ、じゃあ僕がしてあげるならいいですか? 膝に直人さんの頭を乗せて、ハァハァ……愛の重みが心地よさそう」
「嫌だ」
「どっ……どうしてですか!」
「上からヨダレが落ちてきそうだからだ」
「うっ……」
 
 ひ、否定できない! でもしてもらいたいし、したいし。ラブラブしたいし……したい……。
 
「望。どうして急にそんな馬鹿げたことを言い出すんだ。何かに影響でもされたのか? テレビで拷問特集でもやっていたのか?」
「そんな……恋人に膝枕をすることが、拷問だなんて……ッ! 確かに、僕にとっては両方、気持ちよくてとっても幸せですよ? でも直人さんにとってはそうじゃないでしょう? 同列にするなんて、酷すぎます!」
「なんだ。その境目は一応わかっているんだな」
「じゃなかったら、困るでしょう、僕が! サドがいなくては! まあ僕を責めてくれたのは直人さんだけですけど……」
「……そうか」
 
 直人さんが、灰皿を探していたのでサッと手を出した。袖で隠れる範囲に、ジュッと押し付けられる。
 熱い痛みに……勃起してしまいそう。いや、もう石抱き云々言われた時から半勃ちだけど。
 
「お前は、本当に……いつでもテンションの高い男だな。秋の夜長、恋人同士……静かにゆったりと寛ごうという気にはなれないのか?」
「恋人同士、静かにゆったり」
「そうだ」
 
 そっと、頬を撫でられる。ゾクゾクとした。
 こういうことをされると虐めてほしくなっちゃうけど、確かに直人さんの言う通り、たまには恋人同士! まったりした時間も必要だよね。
 僕は押し付けられた愛の痛みを手で押さえながら、直人さんに寄り添った。
 
「ゆったりだ。わかるな?」
 
 ……だからゆったり寄り添おうとしたのに。
 直人さんは僕に背を向けて、ベッドで眠ってしまった。
 
 …………ゆったりというか、あれ……これって、放置プレイ?
 まあ、これはこれで興奮するからいいか! と、普段なら思うところだけど、頭の中が恋人同士のまったりラブイチャモードになっていた今の僕にはそうは思えなくて、引き締まったお尻にダイブした。
 はぁはぁ……直人さんのお尻、形がよくて布越しでも撫で心地がよすぎ。奥まったとこに指、つっこみたいなあ。
 
「ウザイ!」
 
 撫でながらハァハァしていたら後ろ足で蹴られて、首根っこを掴まれてベランダに閉め出された。
 秋とはいえもう寒い。家の中では、寝るのをやめてテレビを見ながらまったりしている直人さんの姿。それを眺める僕。
 
 なるほど! これが、恋人同士のまったりした時間……。しかも閉め出しプレイ。
 両立させるなんて、さすが直人さん!
 
 僕はベランダの外から、そのままずっと直人さんを見続けた。幸せだった。

 
 次の日風邪を引いて会社を休んだ。 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...