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変態は直らない(R18

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※直人視点の看病(?)ネタ




 参ったことに風邪を引いてしまった。仕事を休んでる場合じゃないというのに……。一番参ったと思うのは、俺のどうしようもない恋人のことだ。
 あいつは絶対に喜々としてお見舞いに来るだろう。そんなことになったら、風邪が長引く。絶対に。
 だから無駄だとは思ったが、見舞いには来るなと言っておいた。
 案の定、そうしないうちに玄関先で物音がした。

 まったく、来るなと言ったのに判らない奴だ……。とりあえず侵入を阻止しよう。家に入られたら終わりだ。
 だるい身体を引きずるようにして移動し、合い鍵で開けられる前にドアを開けた。
 
「帰れ」
「なっ、直人さーん!」
 
 いきなり抱きついてきた。やはりこいつは危険だ。
 
「帰れと言っているだろう!」
「す、すみません」
 
 望が未練がましい視線を俺に向けながら、ゆっくり離れる。俺は家に上がられないよう、手を広げて入り口を塞いだ。
 
「何もしませんから。お見舞いに来ただけですから」
「当たり前だ。他もする気なら殺すぞ」
「そんな熱に浮かされた瞳で殺すだなんて……ハァハァ。何かしたくなっちゃいますぅ。パジャマ姿もたまんないです!」
 
 こいつはマゾのくせに押しが強い。マジでやるに違いない。
 
「帰れ」
「じ、冗談ですよ」
「お前のは冗談に聞こえなさすぎる……」
 
 まずい。足がふらつく。思った以上に熱が出てるな、これは……。
 
「安心してください。僕、直人さんの風邪なら移っても気にしませんから!」
 
 そんなことを気にしているんじゃないんだが。相変わらずポジティブ過ぎる男だ。本当に迷惑なんだとは思わないのか? 思わないんだろうな。判ってることだ。今更だ。
 俺は諦めて望に身を預けた。玄関まで出てこさせた責任くらいは取ってもらうとしよう。
 
「……連れていけ、ベッドまで」
「はい!」
 
 嬉しそうな顔しやがって。正直、不安と具合の悪さで目眩かしてこないぞ。ますます熱が上がりそうだ。
 こいつがいても不安なだけで、安心はどこにもない。
 ……俺、本当に何でこいつと付き合ってるんだかな。今更そんなことまで考えてしまう。風邪で弱気になっているせいだな。そういうことにしておこう。 




 俺をベッドに寝かせ、望はいそいそとビニール袋の中から桃缶とスポーツ飲料を取り出した。
 風邪を引いている時に悪くないチョイスだ。こいつもこういうところはまともなのかもしれない。
 付き合っていると一般常識という言葉を辞書で何度も引きたくなるが。
 
「それじゃ、直人さん汗を……」
「拭かなくていい」
「じゃあお粥を」
「作らなくていい」
「子守歌を」
「歌うな」
「僕にどうしろって言うんですか!」
「……普通に桃缶開けてこい、食ってやるから」
 
 俺がそう言うと、望はぱぁっと顔を輝かせてキッチンへ行こうとした。
 その後ろ姿を確認し、ベッドから少しだけ身を乗り出して床に置かれているコンビニのビニール袋の中からスポーツ飲料を取り出す。
 ダカラか……。俺はスポーツ飲料ならアクエリアスが好きなんだが、この際文句を言うのはやめておこう。
 甘ったるい乳飲料を買ってこなかっただけマシだ。やたらと飲ませたがるからな。白い飲み物が好きだということで。
 何を連想してのことなのか、今では判ってしまうからイヤになる。初めてあいつがこの家に来た日は、そこまで変態だとは思っていなかったからな……。
 蓋を開けて、一気に飲み干す。自分でも気付いていなかったが、相当喉が乾いていたらしい。
 
「ふぅ……」
 
 一息ついて額を拭う。大分汗を掻いたな……。身体を拭きたいが、あいつがいるうちはやめておいた方がいいだろう。
 
「直人さーん! 桃缶開けてきましたよぉおお! って、ああああああああ!」
 
 やかましい。何だと言うんだ。聞いてやる気力もないから放っておいたらさめざめと泣き出した。それでも放っておいたら一人で語りだした。
 
「僕の前で飲んで欲しかったのに。ううう、ぐすん」
 
 口でぐすんとか言う奴を初めて見た。心底うざい。
 こいつがこういう風に言う時はろくなことがない。言い方的にヤバイ薬が入っていたって感じじゃないな……。それなら俺が飲んだ時点で成功だろうし。
 あいつが自分で異物混入させたならそういう言葉も出るかもしれないが、未開封だった。
 おおかた熱に浮かされた感じの顔で長細い物をくわえて欲しかったとかそんなところだろう。
 しかしまったく面倒な奴だ。
 
「……望。桃缶を食わせるつもりはないのか?」
 
 風邪で掠れている声で、仕方なくそう言ってやった。 
 望は案の定機嫌を直しガラスボウルを取り出した。綺麗な橙色の桃には、すでに小さなフォークが刺さっている。
 
「どうぞ」
 
 にこにこ笑いながらフォークに刺した桃を差し出す。
 絶対やってくるとは思った。どこまでもテンプレ的な男だ。
 俺は素直に口を開けて、それを口に含む。
 
「美味しいですか」
「そうだな」
 
 熱のある身体に瑞々しい桃は、想像以上に美味しく感じられた。いろいろ疲れさせられはしたが、スポーツドリンクも助かったし、迷惑とありがたみの内訳は引き分けというところだろうか。
 
「はぁ……」
 
 桃を完食したあと、俺はすぐ横になった。
 騒いでいたせいか少しだるさが増した。熱もまた上がってきた気がする。
 
「あ、あの……直人さん」
「何だ……」
「凄い、いろ……色っぽいです……ハァハァ」
 
 やばい。我を失った感じの目をしている。
 こいつはマゾだが、俺に痴漢撃退スプレーをかけ、苦しんでのたうち回っているところを強姦してきたような男だ。風邪で弱っているところをこれ幸いと突っ込んでくるかもしれない。
 俺は基本抱かれるのは好きじゃない。最近はほとんどさせてやってなかった。
 望がせっぱ詰まって突飛な行動に出ないよう、普段は定期的に餌を与えておくが、今回はそのあたりで熱が出た。タイミングとしては最悪。
 
「最近させてもらえてなかったし、今なら直人さん抵抗できないし、僕、もうっ……」
「待て。お前は恋人を強姦するのか?」
 
 俺は冷たい声でそう言った。
 前の時と違うところ……それは、俺とこいつが恋人同士であるということ。
 元々恋人になったきっかけだって、どんな行動に出るか判らないからそういう形を保っておこうと思ったからだ。いつの間にか本当に好きになっていたのが俺の人生最大の番狂わせ。
 
「そんな冷たい声。たまりません。あとでいっぱいお仕置きしてくださいっ!」
「あー……」
 
 がばっと押し倒された。
 そうだよな。そうなんだ。殴る蹴るも怒るも、こいつにはまったく通用しない。暴走されたら終わりだ。
 いつもは優位な筈の立場が覆される瞬間。当たり前だが無理矢理されるのはプライドが軋む。いつもは仕方なく抱かせてやってるだけだ。だが、今日はどうしたって、仕方なく抱かせてやる気にはなれない……。
 
「今度お前が風邪を引いたら、逆に犯してやるからな……」
「平気ですよっ! 僕滅多に風邪引かないですし。気付いたらたまに入院とかしてますけど」
 
 きっとそれは、引いていることに気付かず、ぶっ倒れて入院して初めて判るからだろう。
 馬鹿は風邪を引かないというのは本当なんだなと、がっついて肌に吸いついてくる望を見ながら俺はつくづくそう思った。



 頭の奥が霞む。自分の息遣いがどこか遠くで聞こえてくる。
 俺も相当体温が上がっている筈なのに、身体を這う望の舌は酷く熱い。
 
「直人さんの味がします」
 
 そんなのシャワーを浴びてない、汗ばんだ身体を舐めているんだから当たり前だ。
 
「僕が舌で全部綺麗にしますね」
「や、め……、うっ……」
 
 どうせべたべたになるだけだから勘弁して欲しい。
 唾液まみれにされたって綺麗になる訳じゃない。

 俺と望の間では汚れている部分を舐めさせたりは普通のこと。問題はこの先にあるものだ。俺はこの時点で押し返せないほどぐったりしているのに、望は無理矢理ことを進めてくる。
 
「……っあ、あ……」
 
 まずい。いつもより感じる気がする。ペニスを口に含まれただけでイキそうになってしまった。恐らく熱のせいだろう。
 こいつなら美味しそうに全部飲み干すだろうが、強制的にイカされるのは屈辱だ。
 だが望は素直に声を出す俺に興奮しているのか、いつにも増して熱心に舐めしゃぶる。
 
「凄いです。今日いつもより、直人さんの味が濃くて。早く、飲ませてください。飲みたい……」
 
 俺なんかよりよほど息を荒げながら、そう言って強く吸い上げてくる。
 出るだとかなんだとか前置きなしにぐったりしたまま射精すると、苦しそうにむせこんだ。アホだ。
 まあ奴にとってはその苦しさもイイんだろうが。
 
「直人さんの反応がなくなるとつまんないです……」
「馬鹿。具合悪いんだよ。お前、俺が入院したらどうするつもりなんだ」
「毎日お見舞いに行きますっ!」
 
 むしろこいつ俺を入院させたい勢いじゃないか……?
 望はどうあっても止める気はないのか、塗れた指先を奥に沈み込ませてくる。俺は俺で力が抜けているせいか、難なく受け入れてしまった。
 
「凄い熱い……。こんなとこに僕の挿れたら火傷しちゃいそうですね、フフ」
「ならやめろ……」
「無理です。だって直人さん、もう色っぽくて色っぽくて色っぽくて! 今自分がどんな顔してるか判ってますか!? 凄いですよ、凄絶です、猛烈です。薄く汗ばんだ肌、塗れた唇、焦点のあってない瞳はそれでも険があって美しく僕を虜にし……」
「指を抜け」
「そんなつれないところもたまりません!」
 
 とりあえず色っぽいから先は頭が読み込むのを拒否した。
 望は俺の身体を抱きしめながら思う存分身体を擦りつけてくる。肌を使ってオナニーをされているのだと判ったが、拒否する気力はない。むしろマーキングのようなそれだけで終えてくれたら助かる。
 でも指を突っ込んできてるから、挿れる気だろうな。間違いなく。
 
「今日は奥まで舐めちゃいますね」
「やめ、気持ち悪……」
 
 ぬるりとそこに舌が入り込む。この気持ち悪さは、望にされて初めて知ったものだ。軟体動物が奥まで押し分けて入ってくるような感覚は、絶対慣れることはないと思う。
 それだけじゃなく、ちゅうちゅうと吸い上げてくるからタチが悪い。
 
「のぞ、む……」
 
 指も一緒に入れて、掻き混ぜられる。短く息を吐きながら、これが夢であればいいのにと何度か思う。既に意識は朦朧としているし、視界も歪んで見える。
 ただ、下半身の感覚だけはやたらとリアルだった。
 
「直人さん。好きです、好き……。凄い、ここ、ヒクヒクして僕を誘ってるみたい……」
「っう、あ……」
 
 しかもだ。これが、やたら、何故か……さっき以上に感じる訳だ。
 なんかもう段々どうでもよくなってきた。
 だがやはり無理矢理ヤられるのは性に合わない。かと言ってここまで来たら避ける術もない。
 だから、俺は……。
 
「望、待て。まだダメだ……。あと10分頑張れたら与えてやる。いいな」
 
 いつも通り、命令した。望は目を輝かせて幸せそうに頷いた。 




 当たり前だが、風邪は余計に酷くなった。望は土下座をしながら、何でもお仕置きしてくださいと言ってくる。目を輝かせている辺り、反省の色がまったく見えない。
 しかし俺は最後は許した訳だし、無理矢理されたと思うこと事態が、逆に屈辱な訳だ。
 
「久しぶりにさせてやったんだ。タクシー代と、点滴代、お前に持ってもらうからな」
「な、直人さんっ……!」
 
 許してもらえると顔を上げた望に、冷たい一撃。
 
「それと今後一ヶ月はさせないから、覚悟しろ」
「ええええ! おさわりは? お仕置きだけなら?」
「お前の好きな放置プレイだ。嬉しいだろう?」
 
 これくらいで済ませてやるなんて、俺はなんて優しい男なんだろう。望はもの凄く不服そうな顔をしているが知ったことか。
 今までしたセックスの中で一番気持ちよかったなんて、絶対に言ってやらない。
 俺は常に優位に立ってなきゃいけないんだ。お前なんかに調教されてたまるか。
 ああ、くそ……。また熱が上がってきた。
 この病の原因は間違いなくお前に違いない。精神的にも、肉体的にも。
 お前なんて一生俺に、奉仕し続ければいい。風邪が治ったら覚えていろよ。這いつくばらせて、頭に足を乗せてさんざんいたぶってやる。お前は喜ぶだろうが、それで快感を得られるのは俺も同じ。
 きっと熱が下がっても、燻るこの感情は消えやしないだろう。



------------------------
おまけの望編(冒頭のみ)

 直人さんが風邪を引いた。お見舞いに来るなって言われた。
 ……僕に風邪を移すまいとして! 直人さんってば優しいんだから!
 でも恋人としては看病しない訳にはいかないよね。オイシイシチュエーションだし、もとい大変だろうし。
 汗拭いてあげたりとかお粥ふーふーして食べさせてあげたりとか。風邪引いて熱があるなら抵抗できないなとかっ!
 いやさすがにそんな鬼なことはしないけどね。僕マゾだし。むしろされたいし。だから風邪が移ってもまったく問題ない! ただ、直人さんは僕が寝込んでもお見舞いに来てくれた試しがないんだよね。いつも放置プレイで……。そんなところも……ハァハァ。

 とりあえず、お見舞いと言ったらやっぱり桃缶とポカリ、お粥が定番かな。ちょうど僕の家には、ダカラがとんでもない量買い溜めてある。一時期精液の味がするとか噂になった時につい……。
 持ちきれないほどコンビニで買い占めた時の、店員さんのあの蔑んだ目が忘れられない。噂全盛期の頃だったからな。

 よし、ダカラを持っていこう! スポーツドリンクだし何も怪しいところはないよね、えへへ。
 僕は早速隣へ行って、合い鍵で侵入。しようとしたら、直人さんが玄関まで出てきた。
 シルクのパジャマは苦しそうに前が開き、しっとりと汗ばんだ肌が見える。上気した顔、荒い息づかい。
 
「帰れ」
「なっ、直人さーん!」
「帰れと言っているだろう!」
 
 はっ。思わず我を忘れて飛びかかってしまった。
 
「す、すみません」
 
 僕は名残惜しげに離れると、全身で僕の進行を妨げようとしている直人さんの身体を支えた。
 
「何もしませんから。お見舞いに来ただけですから」
「当たり前だ。他もする気なら殺すぞ」
「そんな熱に浮かされた瞳で殺すだなんて……ハァハァ。何かしたくなっちゃいますぅ」
「帰れ」
「じ、冗談ですよ」
「お前のは冗談に聞こえなさすぎる……」
 
 そう言って直人さんは足をふらつかせた。
 玄関まで出てきてたから油断してたけど、相当熱が高いっぽい。そこまでして僕を家の中に入れたくなかったのか。
 
「安心してください。僕、直人さんの風邪なら移っても気にしませんから!」
 
 直人さんはまだ何か言いたそうにしていたけど、諦めたように肩を落とし、僕に身を預けた。
 
「……連れていけ、ベッドまで」
「はい!」 
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