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不機嫌、上機嫌
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※直人視点
夜遅くなって帰宅。マンションを見上げれば自分の部屋の窓に灯りがついている。それを見て、悪くはないな、と思う。
らしくもなく、そんな感傷に浸ってしまうのは、秋の夜が長いせいかもしれない。
まあ、部屋を開けて待っているのが、頼んでもいないのに裸エプロンで料理をしているドMの変態という時点で、そんな感傷はどこかへ吹っ飛んでしまう訳だが。
「直人さぁん、遅かったですね! お帰りなさいっ! ムチにする? ロウソクにする? それとも、ボ・ク?」
全部お前だろうが。本気でウザイ。
しかも今日はいつにも増して機嫌がいい。キモさも三割り増しだ。
「飯にする」
「ああんっ、スルー。そんなところもたまらない!」
「飯」
「今日は天ぷらです」
この格好で天ぷら。どうせまた、油が跳ねて熱い、とか悦びながらセルフプレイをしていたに違いない。どこからどこまでもキモイ男だ。
「今日はねえ、食後にケーキも用意してあるんですよ。あっ、あと僕からのプレゼントも」
……本当に機嫌がいいな。元々、頭のねじが一本抜けている勢いで突き抜けて明るいポジティブな奴だが、今日はどこかいつもと違う。
そんな些細な差を見分けられるくらい、俺もこいつに慣らされているということか。本当に些細かどうかははなはだ疑問だが。
顔に、今日は機嫌いいですよって書いてあるような気がしなくもない。
何かあったのかと聞いてやるのも面倒だったので、俺は望を無視してダイニングへ向かった。
スーツを脱ぎ、ネクタイを外し、椅子に座ってようやく落ち着く。今日も疲れた。家に帰ってきて、更に疲れた。俺に安息の場所はない。
「さっさと用意しろ、グズ」
「直人さん、今日は機嫌が悪いですね、ふふっ……」
「お前はよさそうだな」
無視するつもりだったのに、つい普通に返してしまった。きっとこれも疲れているせいだ。
「はいっ、ムチ」
飯と言っているのにムチを手渡される。俺に刃向かうのか?
正直なじったり叩いたりしてやるだけの気力がないぞ、今日は。
「何のつもりだ」
「だって直人さんは、今それを僕に振りおろしたくてたまらないはずですもん!」
「別に」
「ええー、またまたあ。だって今日から、値上がりでしょ、タバコ! 絶対イライラしてるに決まってます!」
……なるほど。それでお前の機嫌がいいわけだな。
俺が苛ついて、激しいプレイになると……そう思っているのか。
「俺はそこまでヘビースモーカーじゃないからな。そんなことで苛つくほど、困ってない」
「えっ!? だって直人さん、僕といるとき結構吸うじゃないですか!」
それはお前が心底イライラさせてくれるからだ。吸わずにはいられない。
俺をそこまでの気持ちにさせたのは、こいつが初めてだ。
「おい、望」
「何です……んんっ」
指先で望を誘って、それから首根っこをひっつかんで、濃いめのキスをしてやった。
「……んっ、はぁ……。直人さぁん」
「こんな格好しているだけで、ここをこんなにして。はしたない奴だな」
「はい。こんなはしたない僕を、お仕置きしてください」
俺はムチをしならせて、一回だけ思いきり振りおろしてから、またキスをした。
「タバコ代がもったいないと思うなら、口寂しくないようその分キスをしてあげます、くらい言えないのか……?」
「えっ、あっ……。だってそんな、大それたこと」
そしてまた、こんな台詞を言わせたくなるような気分になるのも、これが初めて。
もちろん言いやがったら家から叩き出すけどな。つけあがらせることになるのは歓迎できない。
「僕、直人さんのために、タバコカートンで買ってきたんです」
なるほど、プレゼントというのは、それのことか。
「だけど、その。今日はタバコの代わりに僕がずっとキスをしていていいですか?」
「望、飯の用意」
「直人さぁああん!」
「飯」
ひたすらスルーし続けると、望は肩を落としながら渋々と俺に背を向けた。
「キスもっとしてほしいのに。裸エプロンプレイしたかったのに。エプロンちらっと持ち上げながら突っ込みたかったのに……」
不穏なことをぶつぶつと呟いている。
裸エプロンは気にくわない。それで天ぷらを作りながら、セルフプレイをしていたことも気にくわない。
けどまあ、貢ぎ物に免じて飯の後なら、タバコの代わりに天ぷらの味が残る唇を、たっぷり吸ってやるよ。
だからその尻丸出しのはしたない格好で、さっさと食事の用意をしたらいい。少しはその気になるかもしれないぜ?
まあ、ネコ役は、今日はお前のほうだがな。
夜遅くなって帰宅。マンションを見上げれば自分の部屋の窓に灯りがついている。それを見て、悪くはないな、と思う。
らしくもなく、そんな感傷に浸ってしまうのは、秋の夜が長いせいかもしれない。
まあ、部屋を開けて待っているのが、頼んでもいないのに裸エプロンで料理をしているドMの変態という時点で、そんな感傷はどこかへ吹っ飛んでしまう訳だが。
「直人さぁん、遅かったですね! お帰りなさいっ! ムチにする? ロウソクにする? それとも、ボ・ク?」
全部お前だろうが。本気でウザイ。
しかも今日はいつにも増して機嫌がいい。キモさも三割り増しだ。
「飯にする」
「ああんっ、スルー。そんなところもたまらない!」
「飯」
「今日は天ぷらです」
この格好で天ぷら。どうせまた、油が跳ねて熱い、とか悦びながらセルフプレイをしていたに違いない。どこからどこまでもキモイ男だ。
「今日はねえ、食後にケーキも用意してあるんですよ。あっ、あと僕からのプレゼントも」
……本当に機嫌がいいな。元々、頭のねじが一本抜けている勢いで突き抜けて明るいポジティブな奴だが、今日はどこかいつもと違う。
そんな些細な差を見分けられるくらい、俺もこいつに慣らされているということか。本当に些細かどうかははなはだ疑問だが。
顔に、今日は機嫌いいですよって書いてあるような気がしなくもない。
何かあったのかと聞いてやるのも面倒だったので、俺は望を無視してダイニングへ向かった。
スーツを脱ぎ、ネクタイを外し、椅子に座ってようやく落ち着く。今日も疲れた。家に帰ってきて、更に疲れた。俺に安息の場所はない。
「さっさと用意しろ、グズ」
「直人さん、今日は機嫌が悪いですね、ふふっ……」
「お前はよさそうだな」
無視するつもりだったのに、つい普通に返してしまった。きっとこれも疲れているせいだ。
「はいっ、ムチ」
飯と言っているのにムチを手渡される。俺に刃向かうのか?
正直なじったり叩いたりしてやるだけの気力がないぞ、今日は。
「何のつもりだ」
「だって直人さんは、今それを僕に振りおろしたくてたまらないはずですもん!」
「別に」
「ええー、またまたあ。だって今日から、値上がりでしょ、タバコ! 絶対イライラしてるに決まってます!」
……なるほど。それでお前の機嫌がいいわけだな。
俺が苛ついて、激しいプレイになると……そう思っているのか。
「俺はそこまでヘビースモーカーじゃないからな。そんなことで苛つくほど、困ってない」
「えっ!? だって直人さん、僕といるとき結構吸うじゃないですか!」
それはお前が心底イライラさせてくれるからだ。吸わずにはいられない。
俺をそこまでの気持ちにさせたのは、こいつが初めてだ。
「おい、望」
「何です……んんっ」
指先で望を誘って、それから首根っこをひっつかんで、濃いめのキスをしてやった。
「……んっ、はぁ……。直人さぁん」
「こんな格好しているだけで、ここをこんなにして。はしたない奴だな」
「はい。こんなはしたない僕を、お仕置きしてください」
俺はムチをしならせて、一回だけ思いきり振りおろしてから、またキスをした。
「タバコ代がもったいないと思うなら、口寂しくないようその分キスをしてあげます、くらい言えないのか……?」
「えっ、あっ……。だってそんな、大それたこと」
そしてまた、こんな台詞を言わせたくなるような気分になるのも、これが初めて。
もちろん言いやがったら家から叩き出すけどな。つけあがらせることになるのは歓迎できない。
「僕、直人さんのために、タバコカートンで買ってきたんです」
なるほど、プレゼントというのは、それのことか。
「だけど、その。今日はタバコの代わりに僕がずっとキスをしていていいですか?」
「望、飯の用意」
「直人さぁああん!」
「飯」
ひたすらスルーし続けると、望は肩を落としながら渋々と俺に背を向けた。
「キスもっとしてほしいのに。裸エプロンプレイしたかったのに。エプロンちらっと持ち上げながら突っ込みたかったのに……」
不穏なことをぶつぶつと呟いている。
裸エプロンは気にくわない。それで天ぷらを作りながら、セルフプレイをしていたことも気にくわない。
けどまあ、貢ぎ物に免じて飯の後なら、タバコの代わりに天ぷらの味が残る唇を、たっぷり吸ってやるよ。
だからその尻丸出しのはしたない格好で、さっさと食事の用意をしたらいい。少しはその気になるかもしれないぜ?
まあ、ネコ役は、今日はお前のほうだがな。
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