イケメンと五月病

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その後の話

イケメンと夏休み

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 夏休みがやってくる。齢24にして、人生初、恋人がいる夏休み。
 学生の頃は夏休みの予定を立てるカップルを見るたび後ろから蹴り飛ばしてやりたくなったし、去年は支倉を見ながらイケメン死ねと思っていた。
 今思えば支倉は去年も俺を誘い出そうとしていた。あの頃は本当に、余裕見せんなこのイケメン爆発しろとしか思わなかったんだが。
 今年はそのイケメンと恋人同士として夏休みの予定を立てることになるってんだから、人生何が起こるかわからない。
 
「海とか……」
「男二人でか?」
「遊園地」
「男二人でか?」
「水族館」
「男ふた」
「ああ、もう。じゃあどこならいいんだよ!」
 
 提案をことごとくお決まりの文句でかわしていったら、支倉が切れた。
 
「家に引きこもってジグソーパズル完成させようぜ」
「せっかくの夏休みなのに? 俺、隆弘とどこか行けるの、凄く楽しみにしてたんだぞ」
 
 まあ、それは……テーブルに余すところなく差し出されたこのパンフレットの山を見ればわかる。
 どれだけ楽しみにしてたんだよ。可愛い奴だな。
 支倉が上機嫌で淹れてくれたコーヒーは、一口啜ると幸せの味がした。
 
「外出面倒だしなぁ」
「そう言わずにさ。動物園とか。なんならラブホ巡りとか」
「それお前が行きたいだけだろ、馬鹿」
 
 とか言いつつ、頷きそうになってしまった。
 確かにちょっと、してみたい。
 
「支倉が縛らせてくれたら考えてやる」
「は?」
「その前に目の前でストリップしてみせろよ。あ、靴下だけはそのままでな」
「ばっ……。お前のが馬鹿だ、何考えてんだ!」
「俺がやってやったら大喜びするくせに、よく言うぜーこの変態」
「隆弘に言われたくない!」
 
 俺はそれ以上何も言わずに、ただ支倉をじっと見た。
 支倉は蛇に睨まれた蛙のように固まって、少し間を開けて目を逸らした。
 
「……そ、それやったら、どこでも俺の好きな所へ行ってくれるか?」
「さあな。ただ、出かける気にはなるかもしれん」
 
 残念ながら、やってくれたとしてもお前の好きな場所に付き合う予定はない。
 俺はお前以上に、恋人と過ごす夏休みってやつが楽しみだ。お前と過ごせるのを、凄く楽しみにしていた。
 だからどこへ行くかはもう予定を立ててあるし、旅館に予約だって入れてある。
 今年は俺に付き合えよ、支倉。来年はお前の好きにさせてやるから。
 それを伝えたらお前は手放しで喜ぶんだろう。俺はそれを考えるとなんだか気恥ずかしくて、そんで……まあ、幸せな気分に、ならないこともない。
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