イケメンと五月病

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その後の話

イタズラ結果論

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 休日のたび、支倉は俺の家へ遊びにくる。
 しかしながら今日はただの休日じゃない。ハロウィンというやつだ。
 なので、支倉を玄関でせきとめて、お決まりの台詞を吐いてみた。
 
「トリックオアトリート」
 
 えっ、という感じの顔をする支倉。
 そうだろうな。お前の中では、俺はこんなお祭りに乗るようなキャラじゃないだろうから。むしろ馬鹿にするタイプだと思ってるはずだ。
 確かに俺はバレンタイン滅びろとか、クリスマスがなくなればいいと思っていたし、お前にもそう言ってはいたが、正直そんなのもてない男のひがみだから。恋人がいるとなったら、話は別なわけだ。たとえその恋人が男であろうともな。
 
「どうした、支倉。お菓子が出せないのか?」
 
 支倉は気まずそうに、俺の前に手を差し出した。
 後ろ手になっていて気付かなかったが、ケーキの箱。立派なスイーツだ。
 なんだと、こいつ。今日に限ってお菓子を持ってきただと……。いや、手みやげはそれなりに持ってくる奴だが、普段はツマミとかビールとかそっち系だ。
 しかも俺を出し抜いてお菓子を用意できているというのに、逆に残念そうにしているのがまたムカツク。
 俺にイタズラされたいとか、そういうことを思ってたんだろ。まったく変態だな。
 
「合格。あがっていいぞ」
「これがなかったら、隆弘は俺に何をするつもりだったんだ?」
 
 案の定そんなことを訊いてきやがった。まったく、期待を裏切らない奴だ。いや、ケーキ持参した時点で、裏切ってはいるか。
 
「別に。外に叩き出して、お菓子買ってくるまでいれてやらんとか、それくらいだ」
「なんだ……」
 
 そこでがっかりした顔をするな、馬鹿。
 俺はケーキの箱を受け取って、ダイニングへ歩き出す。支倉もついてくる。ダイニングテーブルにケーキの箱をトンと置いて、それから支倉にキスをした。
 
「ん……」
 
 今度はさっきと打って変わって、嬉しそうな顔。
 こうまで素直に好意を示されると、くすぐったい。でも、嫌な気分じゃない。
 支倉が俺の腰に手を回して、キスを深くしてくる。
 気持ちよくて多少離れがたかったが、唇を離して軽く押し退けた。
 
「で、支倉は俺にどんなイタズラ、してほしかったんだ?」
 
 逆にそう訊いてやると、支倉は軽く天井を見上げ、それから視線を落とした。
 
「いや、だから別に、イタズラしてほしかった訳じゃなくて」
「椅子に座って、膝の上に乗せて後ろから乳首いじり倒してやろうか」
「だっ、だから……」
 
 頬を染めて軽く睨む。そんな表情をされると、むしろ俺のほうがそれをしてやりたくなってくる。
 冗談抜きに、そういうイタズラしてやればよかったかもしれない。
 まあ、でもケーキ持ってこられちまったしな。
 
「冗談だ。じゃあケーキ食うか。皿出すな」
「ああ」
 
 支倉が頷く。俺は背を向けた。その背に、支倉が全体重をかけてしがみついてきた。
 
「支、倉あああ、何するんだ」
「お菓子をくれないと、イタズラするぞ」
「は?」
「俺にだって言う権利があるだろう。ほら、隆弘、お菓子は」
「……残念ながら、甘いものなら、用意してある」
「ホントに? 隆弘、そこまで甘いもの好きじゃないくせに」
「普通に食うぞ。ケーキだって好きだしな。これ、佐久間さんが美味しいって騒いでた店のケーキだよな。イチゴショート」
「そうそう。あー、隆弘が甘いもの用意してるとか、がっかりだ。残念」
 
 背中からぬくもりが消える。支倉を見ると、椅子にふんぞりかえってつまらなそうな顔をしていた。
 いったい俺に、何をしてくれるつもりだったんだろう。どうせ変態的なことに違いない。
 俺はそんなことを考えつつ、皿にケーキをちょっとした仕掛けをしてから盛りつけ、支倉と自分の前に置いた。
 
「俺からの甘いもの、足しておいた」
「え、足したって……お前、それイタズラじゃないだろうな。なんかちょっと崩れてるし……。食べてみたら中からタバスコが、とか……」
 
 支倉はそう言いながらケーキをフォークで割って、固まった。
 
「これ……」
「合鍵。まだ渡してなかったろ」
 
 ちなみに衛生を考慮し、きちんとラップでくるんでおいた。
 
「でも、お菓子じゃないよな」
「でも、甘いだろ?」
 
 支倉は黙り込んで、頷いて、それから……。
 
「泣くなよ、馬鹿」
「隆弘こそ何やってんだよ、馬鹿。お前これ本当は、それこそイタズラのつもりだったろ」
「ばれたか」
 
 しかしながら、どうやら支倉はこれを甘いものだと認めてくれたようだ。
 お前がどんなイタズラをするつもりだったのか、ちょっと興味はあるけどな、今日は俺の勝ちだ、そうだろう?
 感動で泣いてまでくれたなら、結果的にはこれでよかった。


 たたまあ、本当はケーキの中ではなく……ゴムつけて身体ん中入れてやろうと思ってたってことは、永遠の秘密にしておこう。
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