28 / 29
その後の話
お引越し
しおりを挟む
※支倉視点
ただ、一緒にいられたらいいと思っていた。せめて友人としては、一番近い位置にいたかった。
幸い相手は、人づきあいの薄いタチ。俺は、少しはその他大勢から脱却できているだろうか? 少なくとも友達とは思ってもらえているようだ。
それでいい。いつかはお前に彼女ができて、それでも何くわぬ顔をしていい友人でいる。叶わない恋でも構わないんだ。傍にいたい。
……そんなふうに思っていた相手と、今日からついに同棲生活だ。もう何度も抱いて抱かれて、それでもまだ触れる度に少し緊張してしまう俺は、新しい部屋で改めて身体を繋げることが、やたら恥ずかしくなっていた。
どうせ今夜は、俺が抱かれる側だろうし。
「下見にはきてたけど、やっぱり家具が入ると違うな。とりあえず腹減ったから、なんか作ってくれ」
相手は緊張のカケラもないわけですが。
ああ、わかってるさ、隆弘。お前はそんな奴だよな。こっちは緊張して飯も喉を通らないレベルだってのに!
「調理器具、全部ダンボールの中だ。少し待っててくれ、先に出すから」
「えー。もう今腹減った。下にコンビニあったよな? ちょっと買ってくるわ」
「あ、おい、隆弘……ッ」
行ってしまった。
いや、緊張してたから、よかったのかもしれないけど、なんというか……はああ。
今は隆弘も俺のことを好きだってわかってても、こういうふとしたところで温度差を感じる。
俺のほうが絶対、好きって気持ちが大きい。あいつ独占欲は強いけど、子供が玩具を独り占めしたがるような感じだし。
とりあえず片付け進めてるか。また夜も腹減ったってうるさそうだから、先に調理器具を出しておこう。
ええと、どの箱にしまったっけ……。
料理を作るのは好きだ。好きな相手が俺の作ったものを食べて幸せそうにする顔がたまらない。
まさかその対象が男になるなんて、隆弘に惚れるまでは考えたこともなかったけどな。今までの誰より可愛いけど。
今日からずっと、ずっと二人きり。隆弘は俺でいいのかな。実は後悔してるんじゃないか? 俺を置いて、コンビニ行くし。
普通は一緒に行こうぜ、くらいは言ってくれるよな。しかもあいつのことだから、自分の分だけ買ってきそうだ。
まあ買ってきてもらったところで、胸がいっぱいで変に緊張して食べられそうにはないか……。
「ただいまー」
ちんたら片付けているうちに、隆弘が帰ってきてしまった。
「なんだよ、あまり進んでないな?」
「隆弘こそ、早かったな」
「早い? あれから1時間も経ってるぞ」
「え?」
言われて、腕時計に目を落とす。
「うわ、本当だ。マジかよ、ありえない……」
「遅くなったから心配してるかと、急いで帰ってきたのに」
確かに、コンビニならすぐそこだ。
隆弘は一時間も何をして……。
「チェーン店の寿司屋が行ける範囲にあったから、買ってきた」
「昼間っから寿司とか!」
「なんだよ。祝い寿司だろ。同棲祝い的な」
「え……」
「もちろん、ケーキもあるぜ。お前こういうサプライズ的なものに弱いだろ?」
そう言って、もの凄いドヤ顔で寿司とケーキの箱を掲げて見せる。
それで……帰ってくるのが遅かったのか。
隆弘もこれがめでたいことだと思ってくれてるんだ。俺と一緒に暮らせるのが嬉しいって。
「後悔してないからな。お前とこうなったこと、後悔してない」
「隆弘」
「どうせお前のことだから、なんかぐだぐだ考えて沈んでるんだろ。マリッジブルーかっての」
それは意味が違うと言いかけたが、確かに『本当にこれでいいのか』と考えている点では、そうなのかもしれない。
隆弘の幸せな未来を、俺が奪っている。その罪悪感。
本当にどうしたらいいかわからないくらい好きで、どうしようもない。お前に彼女ができたら自分の感情を交えず別れる覚悟すらできていたのに。きっと今は、もう……無理だな。
「幸せすぎて、どうかしそうだ。隆弘と一緒に暮らせるし、ケーキとか買ってきてくれるし」
「……あのな。俺も幸せだよ。元々俺はガキとか好きじゃねーから子供もほしくねーし、彼女はほしかったがパーソナルスペースも広いほうでさ、近づかれるのも嫌いだ。この距離まで踏み込んでこられて不快にならないのは、家族含めたってお前くらいだ」
そう言って隆弘は、唇が触れそうな距離まで近づいて、フッと笑った。
親友になる前は、確かに警戒され通しで、肩に触れるようになるまでも凄く時間がかかった。
どこか他人を寄せつけない雰囲気のある隆弘の傍にいることを許された時は本当に嬉しかったっけな。
今はもう、キスやセックスをする仲で、おまけに同棲なんて……夢でも見てるみたいだ。
「いつまでも、夢の中にいるよーなツラはやめて、早く現実に戻ってこいよ。な?」
甘いキスに心が溶ける。
慈しむようなキスなんて隆弘らしくない。俺、実は本当に夢でも見てるんじゃないか。
「引っ越し作業も終わってないから自重してんのに。そんな顔されたら、寿司やケーキより先にお前を食べたくなるだろ」
「ッ……ん」
首筋に噛み付かれて、ああいつもの隆弘だと思うあたりがもう。
甘いだけではいさせてくれない。でも、そのほうがなんだか安心する。
「た……食べろよ」
「マジか。本気で言ってる? なあ、濁さないでちゃんと言葉にしろよ。今日くらい」
意地を張っているわけじゃなく、俺は本当にどっちでもいい。抱きたいとも思うし、抱かれたい……というのは……うん。
「抱いてくれ。隙間がなくなるくらい、埋めてほしい。隆弘のを俺に挿れ……ッ」
背骨が折れそうなくらい、ギュッと抱きしめられた。
「ははっ、ようやく言ったな。自分から、抱いてほしいって!」
今日の俺はおかしい。でも、隆弘の全部、一滴残らず搾り取りたかった。深く差し込まれて、身も心も奪われるようなあの感覚。
まあ、俺のすべて、とっくにお前のものだけど。
勝ち誇ったような、嬉しそうな顔をする隆弘が可愛くて、この日はリミッターが切れたように、普段は言わない台詞をたくさん言った。
……次の日思い返して、恥ずかしさで死んだ。
「支倉、マジ可愛かった。俺今日、お前のことベッドから出せねーよ」
「ッ……あ、待ッ」
荷解きは、今日も終わりそうにない。
ただ、一緒にいられたらいいと思っていた。せめて友人としては、一番近い位置にいたかった。
幸い相手は、人づきあいの薄いタチ。俺は、少しはその他大勢から脱却できているだろうか? 少なくとも友達とは思ってもらえているようだ。
それでいい。いつかはお前に彼女ができて、それでも何くわぬ顔をしていい友人でいる。叶わない恋でも構わないんだ。傍にいたい。
……そんなふうに思っていた相手と、今日からついに同棲生活だ。もう何度も抱いて抱かれて、それでもまだ触れる度に少し緊張してしまう俺は、新しい部屋で改めて身体を繋げることが、やたら恥ずかしくなっていた。
どうせ今夜は、俺が抱かれる側だろうし。
「下見にはきてたけど、やっぱり家具が入ると違うな。とりあえず腹減ったから、なんか作ってくれ」
相手は緊張のカケラもないわけですが。
ああ、わかってるさ、隆弘。お前はそんな奴だよな。こっちは緊張して飯も喉を通らないレベルだってのに!
「調理器具、全部ダンボールの中だ。少し待っててくれ、先に出すから」
「えー。もう今腹減った。下にコンビニあったよな? ちょっと買ってくるわ」
「あ、おい、隆弘……ッ」
行ってしまった。
いや、緊張してたから、よかったのかもしれないけど、なんというか……はああ。
今は隆弘も俺のことを好きだってわかってても、こういうふとしたところで温度差を感じる。
俺のほうが絶対、好きって気持ちが大きい。あいつ独占欲は強いけど、子供が玩具を独り占めしたがるような感じだし。
とりあえず片付け進めてるか。また夜も腹減ったってうるさそうだから、先に調理器具を出しておこう。
ええと、どの箱にしまったっけ……。
料理を作るのは好きだ。好きな相手が俺の作ったものを食べて幸せそうにする顔がたまらない。
まさかその対象が男になるなんて、隆弘に惚れるまでは考えたこともなかったけどな。今までの誰より可愛いけど。
今日からずっと、ずっと二人きり。隆弘は俺でいいのかな。実は後悔してるんじゃないか? 俺を置いて、コンビニ行くし。
普通は一緒に行こうぜ、くらいは言ってくれるよな。しかもあいつのことだから、自分の分だけ買ってきそうだ。
まあ買ってきてもらったところで、胸がいっぱいで変に緊張して食べられそうにはないか……。
「ただいまー」
ちんたら片付けているうちに、隆弘が帰ってきてしまった。
「なんだよ、あまり進んでないな?」
「隆弘こそ、早かったな」
「早い? あれから1時間も経ってるぞ」
「え?」
言われて、腕時計に目を落とす。
「うわ、本当だ。マジかよ、ありえない……」
「遅くなったから心配してるかと、急いで帰ってきたのに」
確かに、コンビニならすぐそこだ。
隆弘は一時間も何をして……。
「チェーン店の寿司屋が行ける範囲にあったから、買ってきた」
「昼間っから寿司とか!」
「なんだよ。祝い寿司だろ。同棲祝い的な」
「え……」
「もちろん、ケーキもあるぜ。お前こういうサプライズ的なものに弱いだろ?」
そう言って、もの凄いドヤ顔で寿司とケーキの箱を掲げて見せる。
それで……帰ってくるのが遅かったのか。
隆弘もこれがめでたいことだと思ってくれてるんだ。俺と一緒に暮らせるのが嬉しいって。
「後悔してないからな。お前とこうなったこと、後悔してない」
「隆弘」
「どうせお前のことだから、なんかぐだぐだ考えて沈んでるんだろ。マリッジブルーかっての」
それは意味が違うと言いかけたが、確かに『本当にこれでいいのか』と考えている点では、そうなのかもしれない。
隆弘の幸せな未来を、俺が奪っている。その罪悪感。
本当にどうしたらいいかわからないくらい好きで、どうしようもない。お前に彼女ができたら自分の感情を交えず別れる覚悟すらできていたのに。きっと今は、もう……無理だな。
「幸せすぎて、どうかしそうだ。隆弘と一緒に暮らせるし、ケーキとか買ってきてくれるし」
「……あのな。俺も幸せだよ。元々俺はガキとか好きじゃねーから子供もほしくねーし、彼女はほしかったがパーソナルスペースも広いほうでさ、近づかれるのも嫌いだ。この距離まで踏み込んでこられて不快にならないのは、家族含めたってお前くらいだ」
そう言って隆弘は、唇が触れそうな距離まで近づいて、フッと笑った。
親友になる前は、確かに警戒され通しで、肩に触れるようになるまでも凄く時間がかかった。
どこか他人を寄せつけない雰囲気のある隆弘の傍にいることを許された時は本当に嬉しかったっけな。
今はもう、キスやセックスをする仲で、おまけに同棲なんて……夢でも見てるみたいだ。
「いつまでも、夢の中にいるよーなツラはやめて、早く現実に戻ってこいよ。な?」
甘いキスに心が溶ける。
慈しむようなキスなんて隆弘らしくない。俺、実は本当に夢でも見てるんじゃないか。
「引っ越し作業も終わってないから自重してんのに。そんな顔されたら、寿司やケーキより先にお前を食べたくなるだろ」
「ッ……ん」
首筋に噛み付かれて、ああいつもの隆弘だと思うあたりがもう。
甘いだけではいさせてくれない。でも、そのほうがなんだか安心する。
「た……食べろよ」
「マジか。本気で言ってる? なあ、濁さないでちゃんと言葉にしろよ。今日くらい」
意地を張っているわけじゃなく、俺は本当にどっちでもいい。抱きたいとも思うし、抱かれたい……というのは……うん。
「抱いてくれ。隙間がなくなるくらい、埋めてほしい。隆弘のを俺に挿れ……ッ」
背骨が折れそうなくらい、ギュッと抱きしめられた。
「ははっ、ようやく言ったな。自分から、抱いてほしいって!」
今日の俺はおかしい。でも、隆弘の全部、一滴残らず搾り取りたかった。深く差し込まれて、身も心も奪われるようなあの感覚。
まあ、俺のすべて、とっくにお前のものだけど。
勝ち誇ったような、嬉しそうな顔をする隆弘が可愛くて、この日はリミッターが切れたように、普段は言わない台詞をたくさん言った。
……次の日思い返して、恥ずかしさで死んだ。
「支倉、マジ可愛かった。俺今日、お前のことベッドから出せねーよ」
「ッ……あ、待ッ」
荷解きは、今日も終わりそうにない。
10
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる