イケメンと五月病

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一緒に暮らす前の話

嘘をついて笑い合う

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※しばらくしたら時系列に入れ直します


 エイプリルフールなので、まあ、とりあえずお約束の嘘をついてみることにした。
 
「支倉、別れよう」
「わかった」
 
 なんだよ。アッサリすぎてつまんねーな。
 
「じゃあ俺は、もう帰るな」
「待て待て、帰るな」
 
 踵を返して外へ出ようとした支倉の肩を掴んで振り向かせる。
 本当に帰ろうとするとか、なんだよ。手が込みすぎだろ。
 
「支倉、お前どこまでが嘘だよ」
「嘘?」
「エイプリルフールだろ、今日」
 
 俺がそう言った途端、支倉はすとんと床に膝をついて、壊れたように笑った。
 
「なんだ、嘘か。はは……は」
「当たり前だろ。それとも俺に、そんな兆候でもあったのか? 愛が足りなかったか?」
「いや、溢れすぎだ。先週末も」
 
 いつもなら照れて赤くなる台詞を言ったあと、支倉は足を押さえた。
 なんだ、足、震えてるのか。そんなに怖かったのか、俺の言葉が。
 
「情けない。足が震えて……」
「それより、今のが嘘じゃなかったら、本当に別れるつもりだったってほうがショックだぞ」
「そ、それは……」
「嘘ついておいてなんだが、俺が別れようって言い出してもおかしくないと思っていたってことだよな? あれだけ迷いもせずバッサリ、わかった、と言うくらいだ」
「違うんだ、違うんだよ、隆弘」
「何が違うんだ」
「反射なんだ」
「反射的に言えるほど、お前の中で俺はそんな簡単に別れてもいい相手なのかよ」
 
 それが俺のためになると思っているなら、支倉は本当に馬鹿な男だ。
 もう約一年だぜ。一年付き合って、これとかさあ。
 付き合い始めた頃と違って、俺が愛しているということも、信じられるようになっていたと思っていたのに。
 
「俺は、お前が別れようと言ってきたら、ごねず、何も考えず、了解しようと決めていた。少しでも俺の気持ちを挟んだら、絶対お前のこと……傷つける」
 
 傷つけるって……。刺すとか、殴る蹴る、強姦とかか? こいつにそんなバイオレンスな一面があったとは。意外だ。
 何しろ、喧嘩なんてしたことなさそうに見える、いい人、優男、支倉だ。
 もし俺がこいつに別れようなんて言われたら……。まあ、そうだな。刺しはしないだろうが、手錠で家のベッドへ縛り付けて監禁くらいはするかもしれない。下の世話はいくらでもやってやるし。今でも似たようなことはしてるしな。嫌がられるが。
 
「言わないから安心しろ」
「ん……。嘘でよかった」
「また泣く」
「安心したら、気が抜けて」
 
 可愛すぎて、涙の滲む目元をぺろぺろと舐めてやった。
 
「だからお前も、別れようなんて気になるなよ」
「俺からそんなこと思うはずがない。俺は魂でお前に惚れている」
「やめろよ、馬鹿。笑わせんな。中二病かよ、お前」
 
 こんな状況なのに、危うく噴き出すところだ。
 
「中二?」
「いや、いい。ところで、お前俺のことを傷つけるって、どんなことをするつもりだったんだ?」
「い、いいだろ。そんなこと、どうでも。嘘だったんだし」
「言わないともう二度と抱かせないぞ」
「……べ、別に……。お前がそれを望むなら、俺は」
「とか言って、本当はもうただ抱かれたいだけだろ」
 
 ぎゅーっと抱きしめて、支倉を床へ押し倒す。
 
「じゃ、言ってくれたら今週末はお前を虐めないし、お前が望むようなセックスをしてやる」
「う……」
 
 支倉は声に詰まって、それから俺をぎゅっと抱き返した。
 
「お前が別れようって言ったら、俺は……」
「うんうん」
「不幸になれとか、し……死んでしまえばいいとか、言ってしまうかもしれない。お前が死んだら絶対泣くのに」
 
 今度は耐えきれなかった。傷つけるって、言葉でかよ。

 腹筋が崩壊しそうなくらい笑う俺に支倉が文句を言おうと口を開くのを、キスで塞ぐ。笑いが止まらずうっかり噛んでしまったが、幸せだからまあいい。

 最後は、意味が分かってない支倉も笑っていた。
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