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「わたしのことをわかってくれる人はいません」
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港の見える公園までドライブして海を見て、そのあと食事をしようということになって、公園を出て近くのファミレスに寄り、そこでしばらく4人で喋った。
さっきのオフ会と違って話も弾み、あっという間に時間が過ぎる。
帰りはヨシキさんの『TOYOTA bB』で順番に送ってもらい、自分の家に戻ってきたのは、10時を少し回った頃だった。
「凛子、遅かったじゃないの。門限は何時か知っていますか?」
「じ、10時です」
「あなたの時計では門限前なのかしら?」
「い、いいえ。ごめんなさい」
「いったいどこに行ってたの?」
「ちょっと、友達のところに」
「夏休みだからって、だらしない生活を送っちゃ駄目じゃない。あなたは受験生なんだから」
「わかっています。じゃわたし、勉強があるから」
「ほんとにもう…」
もう少し文句を言いたそうだった母を適当にあしらい、わたしは自分の部屋に籠るとイベントの片付けを終わらせ、一応教科書を机の上に広げたあと、パソコンの電源を入れて、ヨシキさんからもらったCD-Rをセットした。
先々週撮影してもらった画像が、次々と画面に映し出される。
ハガキサイズのプリントの入ったミニアルバムも頂いたが、ディスプレイで見る大きな画像はまたひと味違っていて、改めて見入ってしまう。
このときのわたしは確かに表情は硬いけど、それが画面に適度な緊張感を与えていて、初々しくて美しく感じる。
はじめての撮影でこれだけ綺麗に撮ってもらえるのなら、もっと親しくなれたら、さらにいい写真を撮ってもらえるかもしれない。
「個撮かぁ…」
頬杖をつき、ディスプレイに次々と表示される画像をぼんやりと眺めながら、わたしは帰りの車内でのヨシキさんとの会話を思い返していた。
送ってもらう順番はわたしが最後で、ヨシキさんとはしばらくの間、ふたりだけになった。
盛り上げ役の恋子さんや、癒し系の桃李さんがいなくなり、流れる空気がとたんに重くなる。
「前の席に来ない?」
恋子さんが降りてふたりきりになったあと、ヨシキさんはわたしをうながした。
うなずいて助手席に座り直す。
狭い空間に好きな人と並んで座っている。
別になにかを期待しているわけじゃないけど、なんだか緊張してしまう。
いや…
期待しているから緊張するのかな?
「…悪かったね」
しばらく無言で運転していたヨシキさんだったが、ハンドルを握って前方を向いたまま、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
すぐとなりのヨシキさんの顔を、わたしは訝しげにうかがった。
彫りの深い横顔が街のイリュミネーションに照らされ、濃い陰を刻む。さっきまでの明るい表情とはうらはらに、ヨシキさんは真剣な瞳をしていた。
「あんなアフターに誘って、美月ちゃん、つまんなかったんじゃない?」
「そんなことないです」
「レイヤーってみんな、自己主張が激しいからな。あまり喋れずに、退屈させたかと思って」
「いえ… みなさんの話がいろいろ聞けて、興味深かったです」
「そう? それならいいけど…」
そう言って少し間を置き、ヨシキさんは口を開いた。
「訊いていい?」
「え? あ、はい」
「美月ちゃんはどうして、コスプレしようと思ったんだ?」
「え…?」
「美月ちゃんって、おとなしくて礼儀正しくって、品のいいお嬢様って感じじゃん。そんなにオタクでもなさそうだし、友達に誘われてコスプレはじめたってわけでもないし。なんか不思議でね」
『おとなしくて礼儀正しくって、品のいいお嬢様』、か…
やっぱりこの人も、わたしのうわべしか見てくれない。
結局、わたしのことをわかってくれる人なんて、いないんだ。
「わたし… おとなしいわけでも、品がいいわけでもないです」
少し苛ついた声音で、わたしは答えた。
だけど、帰ってきた言葉は、意外なものだった。
つづく
さっきのオフ会と違って話も弾み、あっという間に時間が過ぎる。
帰りはヨシキさんの『TOYOTA bB』で順番に送ってもらい、自分の家に戻ってきたのは、10時を少し回った頃だった。
「凛子、遅かったじゃないの。門限は何時か知っていますか?」
「じ、10時です」
「あなたの時計では門限前なのかしら?」
「い、いいえ。ごめんなさい」
「いったいどこに行ってたの?」
「ちょっと、友達のところに」
「夏休みだからって、だらしない生活を送っちゃ駄目じゃない。あなたは受験生なんだから」
「わかっています。じゃわたし、勉強があるから」
「ほんとにもう…」
もう少し文句を言いたそうだった母を適当にあしらい、わたしは自分の部屋に籠るとイベントの片付けを終わらせ、一応教科書を机の上に広げたあと、パソコンの電源を入れて、ヨシキさんからもらったCD-Rをセットした。
先々週撮影してもらった画像が、次々と画面に映し出される。
ハガキサイズのプリントの入ったミニアルバムも頂いたが、ディスプレイで見る大きな画像はまたひと味違っていて、改めて見入ってしまう。
このときのわたしは確かに表情は硬いけど、それが画面に適度な緊張感を与えていて、初々しくて美しく感じる。
はじめての撮影でこれだけ綺麗に撮ってもらえるのなら、もっと親しくなれたら、さらにいい写真を撮ってもらえるかもしれない。
「個撮かぁ…」
頬杖をつき、ディスプレイに次々と表示される画像をぼんやりと眺めながら、わたしは帰りの車内でのヨシキさんとの会話を思い返していた。
送ってもらう順番はわたしが最後で、ヨシキさんとはしばらくの間、ふたりだけになった。
盛り上げ役の恋子さんや、癒し系の桃李さんがいなくなり、流れる空気がとたんに重くなる。
「前の席に来ない?」
恋子さんが降りてふたりきりになったあと、ヨシキさんはわたしをうながした。
うなずいて助手席に座り直す。
狭い空間に好きな人と並んで座っている。
別になにかを期待しているわけじゃないけど、なんだか緊張してしまう。
いや…
期待しているから緊張するのかな?
「…悪かったね」
しばらく無言で運転していたヨシキさんだったが、ハンドルを握って前方を向いたまま、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
すぐとなりのヨシキさんの顔を、わたしは訝しげにうかがった。
彫りの深い横顔が街のイリュミネーションに照らされ、濃い陰を刻む。さっきまでの明るい表情とはうらはらに、ヨシキさんは真剣な瞳をしていた。
「あんなアフターに誘って、美月ちゃん、つまんなかったんじゃない?」
「そんなことないです」
「レイヤーってみんな、自己主張が激しいからな。あまり喋れずに、退屈させたかと思って」
「いえ… みなさんの話がいろいろ聞けて、興味深かったです」
「そう? それならいいけど…」
そう言って少し間を置き、ヨシキさんは口を開いた。
「訊いていい?」
「え? あ、はい」
「美月ちゃんはどうして、コスプレしようと思ったんだ?」
「え…?」
「美月ちゃんって、おとなしくて礼儀正しくって、品のいいお嬢様って感じじゃん。そんなにオタクでもなさそうだし、友達に誘われてコスプレはじめたってわけでもないし。なんか不思議でね」
『おとなしくて礼儀正しくって、品のいいお嬢様』、か…
やっぱりこの人も、わたしのうわべしか見てくれない。
結局、わたしのことをわかってくれる人なんて、いないんだ。
「わたし… おとなしいわけでも、品がいいわけでもないです」
少し苛ついた声音で、わたしは答えた。
だけど、帰ってきた言葉は、意外なものだった。
つづく
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