あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 3

「新しい世界の創造がわたしにできますか?」

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お互いなにもしゃべらないまま、しばらく夜の街を走っていた。
高ぶった感情が鎮まるのを、ヨシキさんは待ってくれているかのよう。
さっきのわたしの声がふつうじゃないのを、気づかれたかもしれない。
それにしてもヨシキさんって、なんだか余裕があるな。
不覚にも涙ぐんでしまい、わたしは動揺してしまったというのに、ヨシキさんは平然とした顔でわたしの方も見ず、淡々とハンドルを握っている。
四つも年上だし、なにより女の子の扱いに慣れているからかな?
そんな姿を見ていると、わたしが全力でぶつかっていっても、余裕で受け止めてもらえるという安心感がある反面、ちょっと焼きもちも感じてしまう。
でも、ヨシキさんとは別に恋人同士でもないし、こんな自分勝手で我が儘な感情をぶつけられるのは、彼も迷惑なのでは…

あれこれ思いはじめたとき、ヨシキさんは改めて訊いてきた。

「それで。コスプレして、なにか変われた?」
「え? まあ、いろいろ新しい世界を見れたというか… けっこう面白いかなって」
「変身するのが?」
「ええ」
「じゃあ、もっと変わってみたいと思わない?」
「思いますけど」
「オレなら、もっと違う美月ちゃんを、引き出してみせられる」
「え?」

思わずヨシキさんを見る。
力強い表情。
この人のこの自信は、はったりや虚言なんかではなく、今までの実績からくるものだろう。
わたしを振り向くと、ヨシキさんはニッコリ微笑みながら言った。

「写真が写し出すのは容姿だけじゃない。人間性もなんだよ」
「え?」
「美月ちゃんもレンズを向けられると、撮られるのを意識するだろ」
「あ。はい」
「ファインダーで覗いてみると、よくわかるんだよ。モデルの性格というか、自意識が」
「自意識?」
「羞恥心とか虚栄心とか美意識とか。
カメラマンのことをどう思ってるかとか、自分のパーツのどこを気に入ってて、どこにコンプレックス持ってるかってことまで、わかるんだ」
「そうなんですか?」
「美月ちゃんもそうだったよ」
「えっ?」
「戸惑いながらも『変わりたい』って気持ちが、ビンビン伝わってきた。この2週間、美月ちゃんもいろいろ研究したんじゃない? ポージングとかメイクとか」
「ええっ。どうしてわかるんですか?!」
「だから、本能的に感じるんだよ。ファインダー越しに見てると。それが写真の面白さで、怖さだよな」
「確かに… なんだか怖いです」
「撮る方も撮られる方も、自分自身が意識してない本能や欲望を、レンズは正直に映し出して、目の前に曝け出す。
それは怖いけど、快感でもあるな。
美月ちゃんも、知らない自分を引きずり出されるような快感って、なかった?」
「あ。それは少し感じました」
「もっと感じてみたくない?」
「そう、ですね」
「美月ちゃんになら、できると思う」
「なにがですか?」
「新しい世界の創造」
「創造?」
「オレの世界を美月ちゃんにぶつけてみたい。美月ちゃんになら、それを受け止める力があると思うんだ。そして新しい作品を、美月ちゃんといっしょに創り出したい」
「…」

そんな難しそうなことが、コスプレ初心者のわたしなんかにできるのだろうか?
ヨシキさんはいったいなにを、わたしのなかに見ているのだろうか?
期待されるのは嬉しいけど、重くもある。

つづく
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