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「まるで非現実的でアーティスティックな写真でした」
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「ちょっと休もうか」
ひとしきり撮ったあと、砂浜に突き出した岩陰に移動して雨をしのぐ。
胡座をかいて座り込んだヨシキさんのとなりに、わたしはぴったりくっついて座る。今撮ったばかりの画像を、ヨシキさんはモニターで見せてくれた。
それは、不思議な光景だった。
まるで非現実的で、アーティスティックな写真。
肉眼で見るよりも遥かに青く、真っ青な景色のなかに、濡れたサンドレス姿のわたしがいる。
背景の雨雲は、豊かなブルーグレイの色彩が折り重なって、波頭とワンピースの白が綺麗なコントラストを織りなしている。
薄暗い天気だというのに、その画像には陰鬱さのかけらもなかった。
自分で言うのもなんだけど、濡れて貼りついたドレスの胸元や腰がほんのり肌色に透けていて、すごく色っぽい。
「どうしてこんなに綺麗に撮れるんですか?! お天気悪いのに、全然色が濁ってないです!」
暗く澱んだ写真を想像していたわたしは、感動して思わず訊いた。
「色温度をいじって露出オーバー目にして、青っぽい写真にしてみたんだ。どう?」
「すごくいいです。ほんとうに、雨の日にしか撮れない写真という感じで。こんなことができるなんて、尊敬してしまいます」
「はは。いったん撮影に出たら、どんな天気でも、なんらかの作品をモノにしたいからな」
「執念ですね。さすがヨシキさん」
「まあ、それはうちの社長の口癖なんだけど」
「社長さんの?」
「ああ。『ロケは水ものだから、どんなコンディションでも、完成品として見せられるだけの引き出しを持っておけ』って」
「引き出し?」
「対応能力ってところかな?」
「対応能力。ですか」
「『雨が降ってたから』とか、『日が暮れて暗かったから』とか、プロは言い訳できないんだよ。
与えられた条件の元で、逆境を活かしてでも、クライアントの要求に応えられるものを撮れるのが、ほんとのプロカメラマンなんだ… って、これも社長の受け売りだけどな」
「へえ。すごいんですね」
「社長に較べたら、オレなんて全然ヒヨッコさ。プロ意識がまだまだ足りない」
「ヨシキさんはその社長さんを、尊敬しているんですね」
「ああ。尊敬すると同時に、ライバル視してる。いつか超えてやるってね」
「なんだか、いいですね」
「いい?」
「そういう、切磋琢磨できる人間関係。向上心のある人って、わたし、好きです」
「はは… 嬉しいよ」
「『知れば知るほど、嫌われそう』なんて、全然そんなことないです。知れば知るほどわたし、ヨシキさんのこと、好きになっていきます」
「…ほんとに?」
「はい。もっと教えて下さい。わたしにいろいろと」
「オレのことを?」
「はい」
「エロいことも?」
「…知りたいです。すごく」
瞳を閉じて微かに顎を上げ、唇を緩めて、わたしはキスをせがんだ。
水の滴るわたしの頬を両手で包み込み、ヨシキさんはやさしく口づけてくれる。
ちょっぴりしょっぱいキス。
「寒くなってきたな。あっためてやるよ」
そう言いながらヨシキさんはわたしを引き寄せ、胡座のなかに座らせると、うしろから抱きしめた。
ヨシキさんのからだが座椅子になったみたいで、背中があったかい。
肌寒い雨のなかで、この空間だけが、ぬくもりで溢れているみたい。
こうして抱きしめられていると、からだの芯がジンジンしてきて、もっとくっついていたくなる。
うしろから首筋にキスをしながら、ヨシキさんの手が自然と、わたしのからだをなぞりはじめた。
そんな風にされると、いやらしいスイッチが入ってしまって、からだがビリビリと快感に痺れ、自然と声が漏れてしまう。
つづく
ひとしきり撮ったあと、砂浜に突き出した岩陰に移動して雨をしのぐ。
胡座をかいて座り込んだヨシキさんのとなりに、わたしはぴったりくっついて座る。今撮ったばかりの画像を、ヨシキさんはモニターで見せてくれた。
それは、不思議な光景だった。
まるで非現実的で、アーティスティックな写真。
肉眼で見るよりも遥かに青く、真っ青な景色のなかに、濡れたサンドレス姿のわたしがいる。
背景の雨雲は、豊かなブルーグレイの色彩が折り重なって、波頭とワンピースの白が綺麗なコントラストを織りなしている。
薄暗い天気だというのに、その画像には陰鬱さのかけらもなかった。
自分で言うのもなんだけど、濡れて貼りついたドレスの胸元や腰がほんのり肌色に透けていて、すごく色っぽい。
「どうしてこんなに綺麗に撮れるんですか?! お天気悪いのに、全然色が濁ってないです!」
暗く澱んだ写真を想像していたわたしは、感動して思わず訊いた。
「色温度をいじって露出オーバー目にして、青っぽい写真にしてみたんだ。どう?」
「すごくいいです。ほんとうに、雨の日にしか撮れない写真という感じで。こんなことができるなんて、尊敬してしまいます」
「はは。いったん撮影に出たら、どんな天気でも、なんらかの作品をモノにしたいからな」
「執念ですね。さすがヨシキさん」
「まあ、それはうちの社長の口癖なんだけど」
「社長さんの?」
「ああ。『ロケは水ものだから、どんなコンディションでも、完成品として見せられるだけの引き出しを持っておけ』って」
「引き出し?」
「対応能力ってところかな?」
「対応能力。ですか」
「『雨が降ってたから』とか、『日が暮れて暗かったから』とか、プロは言い訳できないんだよ。
与えられた条件の元で、逆境を活かしてでも、クライアントの要求に応えられるものを撮れるのが、ほんとのプロカメラマンなんだ… って、これも社長の受け売りだけどな」
「へえ。すごいんですね」
「社長に較べたら、オレなんて全然ヒヨッコさ。プロ意識がまだまだ足りない」
「ヨシキさんはその社長さんを、尊敬しているんですね」
「ああ。尊敬すると同時に、ライバル視してる。いつか超えてやるってね」
「なんだか、いいですね」
「いい?」
「そういう、切磋琢磨できる人間関係。向上心のある人って、わたし、好きです」
「はは… 嬉しいよ」
「『知れば知るほど、嫌われそう』なんて、全然そんなことないです。知れば知るほどわたし、ヨシキさんのこと、好きになっていきます」
「…ほんとに?」
「はい。もっと教えて下さい。わたしにいろいろと」
「オレのことを?」
「はい」
「エロいことも?」
「…知りたいです。すごく」
瞳を閉じて微かに顎を上げ、唇を緩めて、わたしはキスをせがんだ。
水の滴るわたしの頬を両手で包み込み、ヨシキさんはやさしく口づけてくれる。
ちょっぴりしょっぱいキス。
「寒くなってきたな。あっためてやるよ」
そう言いながらヨシキさんはわたしを引き寄せ、胡座のなかに座らせると、うしろから抱きしめた。
ヨシキさんのからだが座椅子になったみたいで、背中があったかい。
肌寒い雨のなかで、この空間だけが、ぬくもりで溢れているみたい。
こうして抱きしめられていると、からだの芯がジンジンしてきて、もっとくっついていたくなる。
うしろから首筋にキスをしながら、ヨシキさんの手が自然と、わたしのからだをなぞりはじめた。
そんな風にされると、いやらしいスイッチが入ってしまって、からだがビリビリと快感に痺れ、自然と声が漏れてしまう。
つづく
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