8 / 46
may 8
しおりを挟む
「なんだちひろ。好きな女の事でも考えてたか?」
まさるの言葉で、ぼくはハッと我に返った。
彼はにやけた顔で、ぼくを見つめている。
「相変わらずわかりやすいヤツだな。女だろ」
「え? なにそれ」
ドキリとしながらも、シラを切ってみせる。
「とぼけるなよ。今まで毎日毎日テニス三昧で、女になんか興味ないって顔してたけど、好きな子とかつきあってる子とかできたのか?」
「そ… そんなの、いないよ」
「嘘だろ~。おまえけっこうイケメンだし背も高いし… 何センチだ?」
「177センチ」
「オレなんかギリ170だぞ。やっぱスポーツしてる奴はガタイがいいよな~」
「そうでもないと思うけど」
「いや。おまえ肩幅とかも広くて割とイケてるし、女の方が放っとかないと思うけどな。コクってくる様な女、いないのか?」
「い… いないよ!」
「ん~。おまえは意外と内気で奥手だからなぁ。のクセに妙にプライド高いし、むっつりスケベなのにオレの事チャラいやつだってバカにしてるし… だけどそんな根暗にしてちゃ、女が寄ってこね~ぞ」
「ほっ、放っとけよ!」
こいつ… 意外とぼくの事を掴んでるじゃないか。あまりに図星なんで、恥ずかしさで声もうわずる。
「ははは。いいって。な? いるんだろ? 好きな女とか」
「だからいないって」
「いいじゃん。オレとおまえの仲じゃん。言っちまえよ」
「しつこいなぁ! いないもんはいないんだよ!!」
「そうか? じゃ、初恋はいつだったんだ?」
「…」
答えられない。
今だなんて…
早熟のこいつに言えば、大笑いされること請け合いだ。
頑なに拒否っていると、まさるはちょっとガッカリした様に、プイとそっぽを向いてしまった。
「なんだか水臭せぇな~。オレ達ガキの頃からよく遊んだ仲だってのに、そんな事も言えないなんてよ。もう友達じゃねぇのか~。せっかくおまえにピッタリのiPhoneも選んでやったのによ」
そう言って、まさるは寂しそうにうつむいた。
くそぅ。
こういう駆け引きは、こいつには敵わないんだな、昔っから。
それにこいつは意外と義理堅い。
チャラそうに見えても、人の秘密をペラペラ喋ったりしない、意外と律儀な男なんだ。
ぼくの初恋の事だって、真剣に相談に乗ってくれるかもしれない。ここはほんとの事を話してみるか。
「実は…」
「え? なに? やっぱいるのか?!」
手のひらを返した様に、まさるは嬉々とした瞳でぼくを見つめる。まったく調子のいいヤツ。
「近くのバス停で… 毎朝…」
そこまで言って言葉に詰まる。
どう表現していいかわからない。
「会ってるのか?」
「会ってるってわけじゃないけど… まあ、会ってるんだけど…」
「通学途中の女に一目惚れか? いわゆる『バスストップ・ラブ』ってやつだな。おまえ、鉄板過ぎるよ」
「…」
うう………
ぼくの初恋は『鉄板』なのか?
あさみさんへのこの想いは、一生一度の大恋愛だと思っていたんだけど、実は世間ではありきたりな恋だったっていう事か?
「悪りぃ。テニスの事しか頭にないヤツが、やっと女に目覚めたんだからな~。オレもできる限りのフォローはしてやるよ。それで、どんな女なんだ? どこのバス停にいるんだ?」
まさるに訊かれるまま、彼女の現れるバス停や時間、あさみさんの特徴なんかを、ぼくは彼に打ち明け、念を押す様に言った。
「だけど、余計な事はするなよ」
「それって、話しかけるとか、『君を好きな男がいる』とか伝えることか?」
「そ、そうだよ」
「まあ、オレの口からそんな事を言っちゃ、せっかくの初恋のお楽しみが台無しだからな。おまえはその甘酸っぱい喜びを思いっきり堪能してるがいいさ」
「甘酸っぱいって…」
「初恋ってそういうもんだろ?
オレは幼稚園の時だったけど、隣の席のみおちゃん。目がくりくりって大きいんだけど、オレを見て笑うとタレ目になるんだ。可愛かったな~。今思い出しても胸が震えるぜ」
「…おまえの初恋はどうでもいいって」
「か~っ。キツイな~。確かに、ガキの頃の初恋と、思春期での初恋じゃ、いろいろ違うだろうしな。
幼稚園の頃とか、おっぱいは当然好きだったけど、今みたいに揉みたいとか吸いたいとかいう欲求はなかったし、女とエッチなことするなんて、想像もできなかったしな」
「…おまえな」
「はは。わかったよ。余計なちょっかいは出さないから、安心しなって。明日も行くのか? その『あさみちゃん』の顔を見に」
「あ… ああ」
『あさみちゃん』?
何だ?
その馴れ馴れしい呼び方は?
まさるの手にかかれば、彼女がドンドン汚されていくみたいで、ぼくはこの会話を早く打ち切りたかった。
「もうすぐ検診の時間だから… 今日は見舞いありがとな。それとスマホもサンキュ。時々はメール送るよ」
「ああ。じゃ、また来るわ。おまえもあさみちゃんと上手くやんなよ」
そう言い残してまさるは部屋を出ていく。ひと言余計なんだよ。
でもまあ、やつがぼくに気を遣ってくれてるのは確かだし、それなりによくしてくれるし、あまり邪険にはできないなぁ。
それにしても、このiPhone。
メルアドや電話番号はどうやって、クラスや部活のみんなに知らせるかなぁ。
今度学校のやつが来た時にでも、教えとくとするか。
早くみんなとメールがしたいぞ!
つづく
まさるの言葉で、ぼくはハッと我に返った。
彼はにやけた顔で、ぼくを見つめている。
「相変わらずわかりやすいヤツだな。女だろ」
「え? なにそれ」
ドキリとしながらも、シラを切ってみせる。
「とぼけるなよ。今まで毎日毎日テニス三昧で、女になんか興味ないって顔してたけど、好きな子とかつきあってる子とかできたのか?」
「そ… そんなの、いないよ」
「嘘だろ~。おまえけっこうイケメンだし背も高いし… 何センチだ?」
「177センチ」
「オレなんかギリ170だぞ。やっぱスポーツしてる奴はガタイがいいよな~」
「そうでもないと思うけど」
「いや。おまえ肩幅とかも広くて割とイケてるし、女の方が放っとかないと思うけどな。コクってくる様な女、いないのか?」
「い… いないよ!」
「ん~。おまえは意外と内気で奥手だからなぁ。のクセに妙にプライド高いし、むっつりスケベなのにオレの事チャラいやつだってバカにしてるし… だけどそんな根暗にしてちゃ、女が寄ってこね~ぞ」
「ほっ、放っとけよ!」
こいつ… 意外とぼくの事を掴んでるじゃないか。あまりに図星なんで、恥ずかしさで声もうわずる。
「ははは。いいって。な? いるんだろ? 好きな女とか」
「だからいないって」
「いいじゃん。オレとおまえの仲じゃん。言っちまえよ」
「しつこいなぁ! いないもんはいないんだよ!!」
「そうか? じゃ、初恋はいつだったんだ?」
「…」
答えられない。
今だなんて…
早熟のこいつに言えば、大笑いされること請け合いだ。
頑なに拒否っていると、まさるはちょっとガッカリした様に、プイとそっぽを向いてしまった。
「なんだか水臭せぇな~。オレ達ガキの頃からよく遊んだ仲だってのに、そんな事も言えないなんてよ。もう友達じゃねぇのか~。せっかくおまえにピッタリのiPhoneも選んでやったのによ」
そう言って、まさるは寂しそうにうつむいた。
くそぅ。
こういう駆け引きは、こいつには敵わないんだな、昔っから。
それにこいつは意外と義理堅い。
チャラそうに見えても、人の秘密をペラペラ喋ったりしない、意外と律儀な男なんだ。
ぼくの初恋の事だって、真剣に相談に乗ってくれるかもしれない。ここはほんとの事を話してみるか。
「実は…」
「え? なに? やっぱいるのか?!」
手のひらを返した様に、まさるは嬉々とした瞳でぼくを見つめる。まったく調子のいいヤツ。
「近くのバス停で… 毎朝…」
そこまで言って言葉に詰まる。
どう表現していいかわからない。
「会ってるのか?」
「会ってるってわけじゃないけど… まあ、会ってるんだけど…」
「通学途中の女に一目惚れか? いわゆる『バスストップ・ラブ』ってやつだな。おまえ、鉄板過ぎるよ」
「…」
うう………
ぼくの初恋は『鉄板』なのか?
あさみさんへのこの想いは、一生一度の大恋愛だと思っていたんだけど、実は世間ではありきたりな恋だったっていう事か?
「悪りぃ。テニスの事しか頭にないヤツが、やっと女に目覚めたんだからな~。オレもできる限りのフォローはしてやるよ。それで、どんな女なんだ? どこのバス停にいるんだ?」
まさるに訊かれるまま、彼女の現れるバス停や時間、あさみさんの特徴なんかを、ぼくは彼に打ち明け、念を押す様に言った。
「だけど、余計な事はするなよ」
「それって、話しかけるとか、『君を好きな男がいる』とか伝えることか?」
「そ、そうだよ」
「まあ、オレの口からそんな事を言っちゃ、せっかくの初恋のお楽しみが台無しだからな。おまえはその甘酸っぱい喜びを思いっきり堪能してるがいいさ」
「甘酸っぱいって…」
「初恋ってそういうもんだろ?
オレは幼稚園の時だったけど、隣の席のみおちゃん。目がくりくりって大きいんだけど、オレを見て笑うとタレ目になるんだ。可愛かったな~。今思い出しても胸が震えるぜ」
「…おまえの初恋はどうでもいいって」
「か~っ。キツイな~。確かに、ガキの頃の初恋と、思春期での初恋じゃ、いろいろ違うだろうしな。
幼稚園の頃とか、おっぱいは当然好きだったけど、今みたいに揉みたいとか吸いたいとかいう欲求はなかったし、女とエッチなことするなんて、想像もできなかったしな」
「…おまえな」
「はは。わかったよ。余計なちょっかいは出さないから、安心しなって。明日も行くのか? その『あさみちゃん』の顔を見に」
「あ… ああ」
『あさみちゃん』?
何だ?
その馴れ馴れしい呼び方は?
まさるの手にかかれば、彼女がドンドン汚されていくみたいで、ぼくはこの会話を早く打ち切りたかった。
「もうすぐ検診の時間だから… 今日は見舞いありがとな。それとスマホもサンキュ。時々はメール送るよ」
「ああ。じゃ、また来るわ。おまえもあさみちゃんと上手くやんなよ」
そう言い残してまさるは部屋を出ていく。ひと言余計なんだよ。
でもまあ、やつがぼくに気を遣ってくれてるのは確かだし、それなりによくしてくれるし、あまり邪険にはできないなぁ。
それにしても、このiPhone。
メルアドや電話番号はどうやって、クラスや部活のみんなに知らせるかなぁ。
今度学校のやつが来た時にでも、教えとくとするか。
早くみんなとメールがしたいぞ!
つづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる