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07 Carnival Night
Carnival Night 18
確かに…
あのときの電話では、今日の約束の話はしなかった。
でも…
「あの時さつきちゃんは、『サークル、やめるし、小説講座は続けたいけどわからない』と言ったけど、『もう会いたくない』なんて言ってないだろ。
今日の約束をとり止めるなんて、ぼくは一言も聞いてないから」
「…」
なんだか、喉の奥にものが詰まったようになって、なにも言えなくなる。
無理にしゃべろうとすると、この人の前で泣き出してしまいそう。
「ぼくは間違ったこと、言ってないだろ?」
「…」
「今日、12時に正門前のバス停で、ぼくたちは確かに待ち合わせしてたよな?」
「…」
黙ったまま、小さくうなずく。それが精いっぱい。
川島君のこういった、ばかな程の素直さが、やっぱりたまらなく好き。
ようやく緊張が解けたように、川島君はほっと息をついて、さわやかに微笑んだ。
「そうか。9時間も探したんだぞ。あとでコーヒーくらいおごってもらうからな!」
そう言って川島君は微笑みながら、わたしの隣に腰をおろした。
それきり川島君はなにも言わず、わたしも黙ったまま、ふたりはいっしょに、遠くのフォークダンスの輪を見つめていた。
となりに座る彼を、気づかれないよう、そっと見る。
その頬にはかすかに、ファイヤーストーンの炎の色が揺れている気がする。
あたたかな、だいだい色。
触れてみたい。その色に。その頬に…
感じてみたい。川島くんの肌のぬくもりを…
そんなことばかり考えていて、わたしもなにも言えず、でも、なにかしゃべらなきゃいけないと思い、次の台詞を探していた。
川島君が今、なにを考えていて、これからなにを言おうとしているのか、必死で予想していた。
最後に会った、あの雨の夜…
わたしはものすごい早さで、その時の記憶を巻き戻す。
『好きな人。いるよ』
『同級生』
『完璧にぼくの片想い』
そして…
『もういいよ』
もう、何回も何回も、心のなかで再生を繰り返した、川島君の言葉。
すっかり擦り切れてしまったけど、何度思い返しても痛みがやわらぐことのない、絶望の台詞。
「…………ごめん」
長い長い沈黙のあと、川島君は口を開いた。
「あの時、ぼくがヤケっぱちなこと言ったから、さつきちゃんを怒らせてしまった」
「あの時?」
「こないだの小説講座の帰り道。雨の夜の」
「…わたし、なにも怒ってなんか、ないわ」
「じゃあ、ぼくが怒ってるんだ。自分自身のふがいなさにね」
「どうして?」
真っ黒な空を見上げてひと息つくと、川島君は話しはじめる。
「別れ際、ぼくが『好きな人がいる』って言ったの、覚えてる?」
「…ええ」
わたしは頷いた。
「後悔してる」
そう言って川島君はひと呼吸おき、わたしの顔を見ながら続けた。
「あの時ぼくはさつきちゃんに、苛立ちをぶつけてしまったんだ。さつきちゃんはただの友だちなのに、そんなことしちゃいけないって、わかっているのに、だ」
「…」
『ただの友だち』
心の中で、その台詞を繰り返す。胸の傷が、またひとつ、えぐられる。
重なる喪失感。
そんなことを言うために、川島君はわたしを探しまわったの? 9時間も。
今夜、こうまでしてわたしに会いにきてくれた川島君の優しさは,やっぱり『ただの友だち』としてのもの…
わたしの気持ちに気づきもせず、川島君は話を続けた。
「実は、えみちゃんから告白された時、言われたんだ。
『さつきさんは先輩のこと、ただの友だちとしか思ってないし、むしろ、わたしに協力してくれてる』って」
「えっ?」
いつかのマクドナルドでの、蘭さんとの会話が蘇る。
『川島先輩。優しいし、頭いいし、行動力あるし、ルックスもいいじゃないですか。先輩は、どう思います?』
『わ、わたしは、別に、ただの友達だし…』
『へぇ~。そうなんですか。わたしてっきり、先輩は川島先輩のこと、好きなんだと思ってました』
『えっ。そ、そんなことないけど…』
『じゃあ、わたしが川島先輩のこと、好きでもいいですよね。協力してくれません?』
『協力?』
『わたし、告白しようと思ってるんです。弥生先輩にもそれ、手伝ってほしいんです。ダメですか?』
『いや。ダメってわけじゃないけど…』
『じゃあ、お願いできるんですね』
『ただの友だち』って。
あのとき蘭さんに、自分の気持ちを悟られまいと誤魔化した、わたしの言葉だった。
蘭さんはそれを川島君に話して、回り回って今、わたしに刺さってくる。
なにかを吹っ切るように、明るく、川島君は言った。
つづく
あのときの電話では、今日の約束の話はしなかった。
でも…
「あの時さつきちゃんは、『サークル、やめるし、小説講座は続けたいけどわからない』と言ったけど、『もう会いたくない』なんて言ってないだろ。
今日の約束をとり止めるなんて、ぼくは一言も聞いてないから」
「…」
なんだか、喉の奥にものが詰まったようになって、なにも言えなくなる。
無理にしゃべろうとすると、この人の前で泣き出してしまいそう。
「ぼくは間違ったこと、言ってないだろ?」
「…」
「今日、12時に正門前のバス停で、ぼくたちは確かに待ち合わせしてたよな?」
「…」
黙ったまま、小さくうなずく。それが精いっぱい。
川島君のこういった、ばかな程の素直さが、やっぱりたまらなく好き。
ようやく緊張が解けたように、川島君はほっと息をついて、さわやかに微笑んだ。
「そうか。9時間も探したんだぞ。あとでコーヒーくらいおごってもらうからな!」
そう言って川島君は微笑みながら、わたしの隣に腰をおろした。
それきり川島君はなにも言わず、わたしも黙ったまま、ふたりはいっしょに、遠くのフォークダンスの輪を見つめていた。
となりに座る彼を、気づかれないよう、そっと見る。
その頬にはかすかに、ファイヤーストーンの炎の色が揺れている気がする。
あたたかな、だいだい色。
触れてみたい。その色に。その頬に…
感じてみたい。川島くんの肌のぬくもりを…
そんなことばかり考えていて、わたしもなにも言えず、でも、なにかしゃべらなきゃいけないと思い、次の台詞を探していた。
川島君が今、なにを考えていて、これからなにを言おうとしているのか、必死で予想していた。
最後に会った、あの雨の夜…
わたしはものすごい早さで、その時の記憶を巻き戻す。
『好きな人。いるよ』
『同級生』
『完璧にぼくの片想い』
そして…
『もういいよ』
もう、何回も何回も、心のなかで再生を繰り返した、川島君の言葉。
すっかり擦り切れてしまったけど、何度思い返しても痛みがやわらぐことのない、絶望の台詞。
「…………ごめん」
長い長い沈黙のあと、川島君は口を開いた。
「あの時、ぼくがヤケっぱちなこと言ったから、さつきちゃんを怒らせてしまった」
「あの時?」
「こないだの小説講座の帰り道。雨の夜の」
「…わたし、なにも怒ってなんか、ないわ」
「じゃあ、ぼくが怒ってるんだ。自分自身のふがいなさにね」
「どうして?」
真っ黒な空を見上げてひと息つくと、川島君は話しはじめる。
「別れ際、ぼくが『好きな人がいる』って言ったの、覚えてる?」
「…ええ」
わたしは頷いた。
「後悔してる」
そう言って川島君はひと呼吸おき、わたしの顔を見ながら続けた。
「あの時ぼくはさつきちゃんに、苛立ちをぶつけてしまったんだ。さつきちゃんはただの友だちなのに、そんなことしちゃいけないって、わかっているのに、だ」
「…」
『ただの友だち』
心の中で、その台詞を繰り返す。胸の傷が、またひとつ、えぐられる。
重なる喪失感。
そんなことを言うために、川島君はわたしを探しまわったの? 9時間も。
今夜、こうまでしてわたしに会いにきてくれた川島君の優しさは,やっぱり『ただの友だち』としてのもの…
わたしの気持ちに気づきもせず、川島君は話を続けた。
「実は、えみちゃんから告白された時、言われたんだ。
『さつきさんは先輩のこと、ただの友だちとしか思ってないし、むしろ、わたしに協力してくれてる』って」
「えっ?」
いつかのマクドナルドでの、蘭さんとの会話が蘇る。
『川島先輩。優しいし、頭いいし、行動力あるし、ルックスもいいじゃないですか。先輩は、どう思います?』
『わ、わたしは、別に、ただの友達だし…』
『へぇ~。そうなんですか。わたしてっきり、先輩は川島先輩のこと、好きなんだと思ってました』
『えっ。そ、そんなことないけど…』
『じゃあ、わたしが川島先輩のこと、好きでもいいですよね。協力してくれません?』
『協力?』
『わたし、告白しようと思ってるんです。弥生先輩にもそれ、手伝ってほしいんです。ダメですか?』
『いや。ダメってわけじゃないけど…』
『じゃあ、お願いできるんですね』
『ただの友だち』って。
あのとき蘭さんに、自分の気持ちを悟られまいと誤魔化した、わたしの言葉だった。
蘭さんはそれを川島君に話して、回り回って今、わたしに刺さってくる。
なにかを吹っ切るように、明るく、川島君は言った。
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